【日産】新型スカイライン試乗記 世界のプレミアムセダンがライバル レポート:髙橋 明

マニアック評価vol266

スカイラインスタイル
フルモデルチェンジを受けたスカイライン。グリルにはインフィニティのエンブレムがつく

スカイラインがフルモデルチェンジを遂げ、試乗する機会があったのでレポートしよう。

◆ポジショニング
国内では13代目となるスカイラインがフルモデルチェンジし、V37型としてデビューした。13代目スカイラインはインフィニティのエンブレムをまとい、Q50(型式名はV37型)としてデビューしたのだ。クルマ好きの方であればスカイラインは国内ではV36型が先代モデルで、海外ではインフィニティG35/37型という呼称で呼ばれていたことは周知だろう。しかし、今回は正式の型式名はV37型だが、実質はインフィニティQ50、そして日本での名称は「スカイライン」で、トランクリッドにはスカイラインのバッジが付いている。「Q」と言う車名はインフィニティに使用される名称でグローバル展開する上で、従来の「G」ではなく「Q」に統一された結果だ。ボディサイズは全長4790㎜(SPグレードは4800㎜)×全幅1820㎜×全高1440㎜(4WDは1450㎜)、ホイールベース2850㎜となっている。

また、現行のV36型の2.5Lエンジン車も継続して販売される。つまり新型スカイラインQ50は3.5Lエンジン(VQ35型)を搭載するハイブリッドモデルだけで、他のエンジンを搭載するモデルはV36型モデルの併売ということになる。さらに、ここにきてメルセデス・ベンツが開発した2.0Lエンジンと想像できるエンジンを、Q50に搭載することが発表されたが、そのモデルは現在までのところ国内導入されない。つまり、北米などではQ50にハイブリッドやNA搭載車もあり、さらにダウンサイジングのメルセデス・ベンツ製のエンジンを搭載したモデルまで存在することになる。

新型スカイラインはインフィニティブランドに変貌することで、プレミアムセグメントへとシフトし、ライバルも欧州の、とくにドイツプレミアム御三家となるわけだ。しかし、国内ではインフィニティブランドの販売は行なっていないことや、スカイラインという車名は日産にとって長い歴史を持ち、多くのファンが存在する重要なブランドとなっているため、この車名で販売されることとなった。とはいえ、内容からすればQ50はプレミアムモデルであり、価格帯も500万円前後まで高騰し、ユーザーや販売の現場でも多少の戸惑いはあるかもしれない。結果、国内で販売される新型スカイラインは、3.5Lガソリンハイブリッドだけということになる。もっとも2WDと4WDがあり合わせて6グレードからは選択できることになる。

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国内では日産式のセグメントではLクラスセダン、つまり欧州のD/Eセグメントあたりのサイズに相当するが、セダンの販売状況は芳しくなく減少傾向にある。ところがプレミアムクラスの輸入車セダンは2万台付近の安定した市場を形成することで推移し、固定の客層がいることが明確である、とルノー/日産のマーケティングはみている。そのため、新型スカイラインが目指したものは洗練されたプレミアムセダンカテゴリーでの勝負となるわけで、車両に求められるものは、プレミアムな価値を持ち、走りの良さ、作りこみの良さを重視するということになる。

商品コンセプトは「走るたびに胸躍る 新時代のプレミアムアスリートセダン」であり、ずばりBMW3シリーズ5シリーズアウディA6などと比較してどれだけ魅力を持っているのかに興味がいく。スカイラインを日産の高級車ブランド「インフィニティ」で販売していくために、スカイラインはプレミアムセダンのカテゴリーへ足を踏み入れ、インテリアの質感はアウディを、そしてハンドリングではBMWをベンチマークとして開発されたのが新型スカイラインということだ。

さて、この新型スカイラインだが、先進技術を惜しげもなく投入したモデルとなっているのだ。新型スカイラインでは全方向の安全性も高いレベルであることに注目だ。後側方車両検知(BSW)や後側方衝突防止支援システム(BSI)を装備し、死角になりやすい後側方の車両を検知し、サイドミラー横のインジケーターで知らせる。仮に、後方に車両がいた場合にドライバーが車線変更をはじめると、車両をレーン内に戻す方向の力が発生し、隣のレーンの車両との接触回避をするよう運転支援する。

スカイラインサイドミラー
周囲の接近車両を警告で知らせるなど、全方向の安全性を高いレベルで提供する

 

他にも車線逸脱警報(LDW)で側方安全支援機能があり、それでも車線を逸脱するような動きをすると、車線逸脱防止支援システム(LDP)が作動し、車両が車線逸脱しないように操舵される。一方後方安全では、後退時に接近する車両を検知して衝突のリスクを低減する後退時衝突防止支援システム(BCI)も装備する。

詳細な技術解説はこちらにも掲載しているので、ご一読頂きたい。

◆インプレッション
早速試乗してみると、インテリアの質感は高い。プレミアムクラスに相応しい高級感のあるインテリアだ。シートに座るとドライバーオリエンテッドな印象を受け、走りを意識したプレミアムアスリートセダンというイメージが伝わる。だが、ブレーキペダルとアクセルペダルの位置関係がしっくりせず、特にブレーキペダルは手前に感じてしまい、個人的にはポジションをアジャストしきれないのが少し残念だった。パーソナルアシスタント機能によって、ドライバーの好みに合わせられるようにさまざまな工夫や可動範囲をもっているのだが…。

インテリアスカイライン
プレミアムクラスらしくインテリアの質感は高い

エンジンは3.5LのV型6気筒VQ35型エンジンにモーターを組み合わせたハイブリッドモデル。レイアウトはエンジン⇒クラッチ⇒モーター⇒クラッチ⇒トランスミッションという順番で7速ATが組み合わされている。ハンドルにはパドルシフトも装備し、スポーティな走りにも対応する。

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出足は20km/h付近までEV走行し、そのあとエンジンが始動する。市街地の流れに乗るように加速させると加速途中でもエンジンは停止しEVだけで加速する。タコメーターの針が上昇しながら突然0rpmを示す。ハイブリッドモデルはこのような状況は珍しくないのだろうが、多くのハイブリッドモデルにタコメーターがなく、新鮮な印象だ。これもパワーユニットのレイアウトのメリットを積極的に利用しているからだろう。

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というのはエンジンとモーターとの間にあるクラッチを切るだけでEVモードにできるからだ。ちなみにエンジン単体の出力は、306ps/350Nmというスペックで、モーターを含めたシステム総合出力は364psと強力だ。

新型スカイラインへ投入された新技術としてステアバイワイヤ、ブレーキバイワイヤが新たに加わり、つまりブレーキ、アクセル、ハンドルが電子制御となり機械的なつながりがなく、電気信号で作動することになった。その違和感というのは特に大きく感じることもなく、普通のこれまでのモデルと同じように操作できる。細かくは違いが存在するものの、取り立てて騒ぐものはない。細かな違いのひとつとしてステアバイワイヤでは、操舵したときにハンドルが重く感じるのだが、それがタイヤの転がり抵抗による重さというより電気的な反力による重さであり、おなじように重くは感じるがその重さの質みたいなものが違うように感じた。

しかしながら、例えば轍が深い路面を走行した場合、ドライバー自身がステアリング補正をしなくても自動で車両側がタイヤを動かし、クルマは直進し続けるという場面や傾いた路面でもステアリング操作なしで直進するなど、現在ではこうした場面がステアリングバイワイヤのメリットを感じるときだ。

乗り心地は19インチのランフラットタイヤを履き、硬めの印象。BMW 3シリーズがこのところラグジュアリー方向なので、スカイラインのほうがアジリティを追及したベクトルだと感じる。しかし、ランフラットタイヤではなく通常のエアタイヤであればもっとマイルドな乗り心地となるだろうが、狙いはそこにはないということだ。

タイヤ
タイヤは19インチのランフラットタイヤが装着される

 

特筆はボディ剛性だ。走り出してすぐに感じる剛性感の高さは安心感につながる。鋼材自体も世界初となる1.2GPaというウルトラ高張力鋼板を主要骨7か所に採用したり、ホットプレス、そして440Mpa級から980MPa級の鋼板を使い高い剛性をもっている。そのため衝突安全性も高く総合的な安全性評価では各国の最高評価の獲得を目標に開発されている。走り出した瞬間に欧州車のように高剛性のしっかりした印象を持つのはそのためだろう。

さらに組立て技術にも注目した。たとえばフェンダーとドアの隙間、エンジンフードとフェンダーの隙間などがかなり攻めた組立てを行なっているのがわかる。これはアウディのレベルを超えた精度ではないだろうか。そしてフロントドアとリヤドアの間にラバーを入れ、見た目、空力、両方の観点から細かな処理もキチンとされている。高い生産技術を持つと言われる、日産の栃木工場で生産される効果がわかる部分でもある。

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ドライブモードセレクトでは5つのモードがあり、standard/sport/eco/snow/personalから選択。スポーツは当然レスポンスもよく元気に走るセッティングに変化しecoは省燃費となる。パーソナルというのは個別設定ができ、好みのセッティングが可能。選択できるカテゴリーとして、エンジン・トランスミッション/ナビ協調アダプティブシフトコントロール、ステアリングでは操舵力&操舵応答性、アクティブレーンコントロール、コーナリングスタビリティアシストなどがあり、全部で96特性から好みに合わせることができる。今回の試乗ではスタンダード、スポーツ、エコを試すのが精一杯で、パーソナルはオーナーとなってからのお楽しみということだろう。

こうして新型スカイラインの試乗を終えると、車両は欧州プレミアムサルーンと真正面から勝負できるレベルのモデルであると感じ、それは複雑化した制御技術によってこのクルマの味を作り出しているとも感じた。また、ブランドやラインアップなども同時に複雑になってしまったという印象もある。国内での販売目標は月販200台であり、到底スカイラインの目指す台数とはいいがたい。にもかかわらず、ディーラーでの初期受注では5000台近い数字も聞く。それだけスカイラインファンが多くいるということも間違いのないことだ。

■スカイライン主要諸元

■スカイライン価格表

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日産公式サイト

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