日産は2022年5月20日、軽自動車規格のバッテリーEV「サクラ」を発表した。これに先立ち、日産の神奈川県追浜にあるテストコースで事前試乗をしてきたのでお伝えしよう。
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日産は次世代モビリティを「Intelligent Mobilty」のコンセプトで開発を進めているが、EVラインアップでは先に発表しているアリアをフラッグシップに据え、量販モデルのリーフ、そしてEVのエントリー普及モデルに位置付けている「サクラ」を開発した。また、軽規格の中ではこのサクラがフラッグシップになる。
サクラは、ガソリンのデイズ/ルークスとプラットフォームを共通にし、フロア面にバッテリーを搭載している。フロントに駆動モーターを搭載し、FWDで走行する。ボディはデイズ/ルークスとは別開発で、共通する部分はフロントウインドウとサイドミラー程度で、他はすべてサクラ専用のボデパネル、意匠パーツになっている。
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出力は47kWで規制されているものの、トルクには規制がないため195Nmという高トルクを発揮している。搭載するバッテリーは20kWhで、航続距離は180km。ボディサイズは軽規格の全長3.4m以下、全幅1.48m以下、全高2.0m以下に収め、サクラは全長3395mm、全幅1475mm、全高1655mmでホイールベースは2495mmになっている。また最低地上高は145mmでデイズの2WDモデルより-10mm低くなっている。
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広い室内空間
サクラの開発目標は「日常を楽しみに変えるスマートEV」で、それを実現するために上質なプライベート空間を持ち、運転のしやすさをつくり、充実した運転支援機能を装備し、そして十分な実用性をもたせることで実現しているとした。
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具体的には、まず広い室内空間がある。デイズとほぼ同等サイズで全高のみ+15mmだが、他の外寸は同じ。また室内高も1270mmで、これもデイズと同等だ。つまり後席スペースや荷室の広さは床下にバッテリーを搭載しているものの、空間は同じ容量を確保しているわけだ。
その秘密は薄型ラミネートバッテリーを自社開発しており、自在に高さを変えることができるため、薄く床下に敷き詰めることでグリーンルームが確保できたというわけだ。
このバッテリーの自社開発には日産のこだわりでもあり、バッテリーから車両まですべて自社開発していることに高い価値を見出している。例えば初のBEVリーフから数えて1億セル以上のバッテリーを製造してきたが、重大事故ゼロを継続更新している。最近、電気自動車の発火、火災のニュースを見るが日産ではそうした事故はゼロなのだ。
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それも徹底した品質管理にこだわりがあり、バッテリー製造していく中で、もっとも難しく、厳しいのがその品質管理だという。もともと厳しい設計基準で製造しているため、高い品質管理ができているということだ。
また、このバッテリーをフロア下に敷き詰めているためブレースバーを3本追加し、ボディ構造の一部としていることにも特徴がある。そのためボディ剛性の高さを感じることもでき、信頼感と安心感がある。
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高い静粛性と運転のしやすさ
上質なプライベート空間の領域では圧倒的な静粛性の高さが際立つ。ボディを専用設計にしたことで、デイズよりさらに静粛性が高くなり、風切り音も抑えられリビングのような雰囲気も持っている。また試乗車の上級グレードGに装備されるファブリックシートはソファのような座り心地で、乗り心地のよいサスペンションにより快適さがプラスされる。
サスペンションはリヤを3リンク式のリジットアクスルで、しっとりとした滑らかな動きのダンパーを装備している。およそ軽自動車とは思えない滑らかさで、ハーシュネスもすべてが丸く丸められており尖った入力は感じない。こうした乗り心地はバッテリーなどの重量増が良い方向に影響していると想像できる。
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運転のしやすさという点ではモーター制御の良さが際立つ。動き出しのレスポンスの良さを見せつつも踏み込んでいくと暴れるような加速ではなく、均一のトルクで背中を押し続けられているイメージだ。ドライブモードはスポーツ、ノーマル、エコがあり、ワンペダル走行できるe-Pedalも装備し、どのモードでも対応するので6つのドライブモードがあるとも言える。
このe-Pedalは車速に応じた減速Gに変化するので、違和感なく乗りやすい。ハイスピードの時は大きな減速Gはなく、ブレーキペダルに足を乗せた程度の減速Gからはじまり、車速が落ちるに従い減速Gは立ち上がってくるので、自然なブレーキ操作を自動でやってくれているという印象を受ける。
一方加速では、発進時や追い越し加速、合流加速などで力強さの欲しい場面ではグッと強い加速をするので、もたつき感がまったくない。195Nmというスペックなので、その勢いのまま加速していくのかといえば、十分要求トルクに対応したであろう車速になると加速は緩やかになるので、誰もが怖くなくアクセルを思いっきり踏み込むことができると思う。
ステアリングも適度な鷹揚さがあり、好ましい。モーターのレスポンスがいい分、ステア応答まで高レスポンスになりがちだが、そこはユーザーの顔を見る制御になっていると感じる。また50km/hを過ぎた付近からセンターの座りにしっかり感が増すので直進安定性が高まり、安心感が伝わってくる。
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コーナリングではリヤの追従性が高く、常にリヤタイヤのグリップが伝わってくるので安心だ。さらに急な切り込み動作をしても過敏には反応せず、ステアした量だけ回頭する。フロントが高荷重の時にステアし、アクセルを急激にオフするとややイン側へ入り込む挙動は出るものの、巻き込むまではいかないので、十分修正舵で対応できる。反面、アンダーステアが出ている時にアクセルを開けても外には膨らずステア方向へ曲がろうとするナチュラルな挙動なので違和感はない。
ナビまわりやプロパイロットなどの装備、使い勝手などは今回の試乗ではテストできていないので、次回公道で試乗する機会でお伝えしたい。
自宅での充電が基本
さて軽自動車のBEVだが、ターゲットユーザーは自宅で充電できる環境がある人で、セカンドカーとして所有できる人を理想としている。サクラは急速充電にも対応はしているが、30kWまでの出力にしか対応できないため、高出力の急速充電器でも十分な充電ができないからだ。
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バッテリーの50%までは30kWに対応するものの、その先80%まではさらに絞られてしまうため、急速充電はエマージェンシー的なイメージのほうがベターだ。だから自宅で充電できる人が理想というわけ。また電池容量も大きくなく、リージョナルな利用を中心に考えた車両なので、セカンドカーを持てるユーザーが理想ということになる。
とはいえ、日常の利用では軽サイズは使い勝手がよく、ブレーキパッドの消耗やエンジンオイルやラジエター液などのメンテナンスは不要でそうしたコストは軽減される。そして燃料代もガソリンより電気のほうが安価であり、購入価格は高くとも十分普及させるだけの要素は並んでいるという印象だ。購入のための補助金もあり、通勤の足で使っている、買い物、送り迎えで使っているガソリン軽をEVへ切り替える検討ができるモデルだ。<レポート:高橋アキラ/Takahashi Akira>
価格
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