雑誌に載らない話vol33
2011年のニューヨークショーで発表されたリーフRC。リーフをモチーフにしたレーシングコンセプトモデルである。今回そのリーフRCに試乗できるチャンスに恵まれた。場所は、横須賀市の日産追浜工場にあるGRANDRIVE(グランドライブ)。一体どんなマシンなのか、また、その走りっぷりも気になるところだ。
↑袖ヶ浦フォレストレースウエイ ニスモのテスト風景 ドライバーは松田次生選手
このリーフRCは、日産自動車がニスモに依頼してハンドメイドされたもの。ただしその手法は、リーフのプラットフォームを使用するという方法ではなく、純粋なレーシングカーを造る時の手法であるカーボンモノコック・ボディとチューブラーパイプフレームという構造が基本骨格になる。
しかしながらその一方で、パワーユニットは市販車のリーフに搭載されているモーター、バッテリー、ギヤボックスをそのままミッドシップに搭載。最大出力/最大トルクとも80kW/280Nmというスペックも変わらないが、唯一、前輪駆動から後輪駆動に変更したマシンというのがパワートレインの全体像になる。
ボディサイズは全長4465(+20/市販車のリーフとの比較、以下同)×全幅1942(+172)×全高1212mm(-333)であり、超ワイドトレッド&ローダウンされたレーシングカーらしいスタイルとなっている。
これにカーボンモノコック・パイプフレームの採用、市販車用の装備類を省くなど、ボディは大幅に軽量に造られている。その結果市販車リーフの1520kgに対し、RCは925kgと595kgも軽量化されている。したがって、同じ出力であってもパワーウエイトレシオは大幅に向上し、リーフの20.00kg/kWが11.56kg/kWとなり、加速性能などがアップしていることがスペックからも一目瞭然だ。
主なメカニカルコンポーネンツだが、カーボンモノコックはニスモの設計で2座席まで装着可能。インパネやロールゲージはレーシングカーそのもの。ユニークなのは変速機を持たないため、前進と後進スイッチがインパネに設置されているだけというつくりで、当然2ペダルでの操作となる。
パワーユニットはリヤのチューブラーサブフレームパイプに搭載され、ミッドシップレイアウトになる。ギヤボックスはノーマルのままなので、オープンデフという仕様となる。バッテリーの搭載位置も市販車とは異なり、市販車はフロア下に平たく搭載しているのに対し、シートとモーターとの間に肉厚15mmの直方体のケースで搭載している。このバッテリー収納部はカーボンモノコックと一体化された形状で、東レからカーボンマテリアルに関する支援があるということだ。そして、ニューヨークショーの時はラジエターがフロントに設置されていたが、試乗車ではリヤ・サブフレームに搭載位置が変更されていた。
外装はCFRPで成型され、リーフの特徴的なデザインである、ヘッドラップまわりやテールレンズなどのデザインアイデンティティが引き継がれたデザインとされている。タイヤはブリヂストンのポテンザRE-11Sという、いわゆるSタイヤが装着されている。サイズは225/40R18だ。
強烈な加速は想像の域を超えるほど
コクピットに収まり、走りだしてみるとステアリング操舵に対するマシンの反応はまさにレーシングカーであり、あまりに素直に反応してくれるので、それだけで楽しくなってしまう。カーボンモノコックのマシンは軽いだけでなく、剛性感が高く路面のうねりをサスペンションが吸収していくのを感じる。そして、コーナリングでもノーズの入りが非常にシャープで、このドライブフィールはクセになる。
スロットルを開けると同時に最大トルクが出力され、加速感は市販車など比較にならないほど、強烈に加速する。全速度域でのスロットルの反応がよく、ガソリン車にはない反応の良さを改めて感じてしまう。さらに、エンジンのパワーバンドをはずさないように変速機を操るという操作がないため、アクセル開度とブレーキに集中してドライブできるというのも、楽しさの秘密だったのかもしれない。
ちなみにブレーキはブースターなしのレーシングブレーキであるため、踏力はそれなりに必要とされる。ただし20km/hや40km/hでのブレーキングというより、全開速度域や高速域からのブレーキが中心と考えれば、ブースターのフィール調整よりシンプルに乗ることができると思う。
無音ではないが、臭いや熱を感じない室内
意外だったのは室内の音。外で聞いているとやはり静かであり、EV車であることを感じていたが、コクピットではスロットル開度に応じて、モーター音やインバーター音などの音が反応しているので、それなりにうるさいのだ。もちろん、ガソリンエンジンとは比較にならないほど静かではあり、イヤープラグはまったく不要だ。
そしてもうひとつは、室内が油臭くない。というかガソリン臭やオイルの臭いなどの臭いがまったくなかった。乗り込んで最初に感じたのは、ファイバーの匂いがしたことだったのだ。これもEVレーサーならではだろう。そして熱くない。エンジンのように熱を大量に発しないため、コクピット内の温度が高くならない。もっともモーターやインバーターはすぐに熱を持つので、冷却には苦労しているらしいのだが…。
さて、これほど楽しいリーフRCであるが、そもそも、なんのために造ったのか?現在のこの仕様で出場できるレースなど存在しないわけで、モーターショーのコンセプトモデルと言われるとそれまでだが、このリーフRCは現在8台もあるのだ。この台数からして、近い将来を見越して何かを企画していると考えるのが普通だろう。
環境自動車にもパッションをという取り組み
ニスモによれば、EVのドライビングプレジャーを訴求する、というのがコンセプトということだ。昨今EVやハイブリッド車に求められているものは、省燃費であり、CO2排出量の削減だったり、また、ゼロエミッションであったりするわけで、環境に良いのは理解できてもクルマ好きにとっては、それらのクルマにパッションがないというのが多くの意見。これら環境車の開発主眼には、ともかく環境性能に注力して開発が進められてきた。
つまり、日産自動車はこの環境自動車というカテゴリーにおいても次のステップに踏み出し、クルマがそもそも持つ魅力を再確認し、魅力ある製品造りを具現化したひとつがリーフRCということだろう。だから、純粋なレーシングカーに乗りなれた人であれば、市販パワーユニットだけにシャシーが勝り、パワー不足と感じてしまうかもしれないが、逆に誰でもレーシングカーで走ることができ、楽しめるという意味では、レースカーの敷居を相当下げてくれたマシンではないだろうか。
具体的には、このマシンを使って、ワンメイクレースであるとか、室内でのレース、あるいは市街地でのレースなど、燃料、音、臭いなど、ネガな部分とされてきたものがないことを強調できる環境でのレース活動を始めたいとしている。
健常者との共用も容易なバイ・ワイヤーのリーフ
さて、この日の試乗会にはオーテックが製造するもう1台のリーフがあった。ドライビングヘルパーと呼ばれるシステムを備えた「オーテックドライブギア タイプe装着車」で、下肢(両足)が不自由な方でも、自分自身でリーフのドライブが楽しめるというモデルだ。
アクセルとブレーキは左手のレバーで操作し、ステアリングは右手のノブを握って操作するというオーソドックスなもの。他社にない特徴として、世界で唯一、アクセルがジョイスティック式バイ・ワイヤーとなっていることだ。これにより滑らかで、軽い操作での運転が可能になるということだ。また、スイッチの切り替えでペダルも使う操作系に戻すこともできるので、健常者との共用も容易ということだ。
そして、もうひとつユニークな点として、運転席にあるサポートグリップに全体重をかけても大丈夫なように補強してあることだ。通常は木ネジでとめている、あるいはサポートグリップがない…というのが一般的なのだが、このグリップが補強されたことにより、車椅子からの乗り換えがよりスムーズに行えるということだ。このドライビングヘルパー装備仕様車についての問い合わせは、以下の日産ライフケアビークルまで。
文:編集部 髙橋 明
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