2010年12月3日、ゼロエミッションのEVであり大人5名乗車が可能で200kmの航続距離を持つ、日産リーフが正式発表、発売された。
リーフは2009年8月にベールを脱ぎ、その後は東京モーターショーや世界各国のモーターショーに出展され、また体験試乗を含むプロモーション活動も行われてきた。そして、2010年年4月からは予約注文も受け付けられるなど、正式発売日を迎えるまでに着々と多くのプログラムが展開されたのも異例である。その成果から、予約注文受付に対して5月末までに年内の販売目標6000台を受注し、かなりの人気となっているのだ。実際の納期につていて、リーフは追浜工場で10月から生産が立ち上がっており、12月下旬から順次納車が開始される予定だという。
リーフはEVの本命か
日本のEVは2009年6月にスバル・プラグインステラ、7月に三菱i-MiEVがデビューしているが、いずれもリース契約による限定的な市販からスタートした。プラグインステラの生産台数は170台、i-MiEVは2010年4月から通常市販に移行しているが、11月末の時点で累計5000台の生産台数に達成している。
i-MiEVは、日本を始め世界各国で実証試験や、充電インフラ整備、プジョー/シトロエン社へのOEM(iOn)供給などの他、EVのパイオニアとして車両発売だけでなくEVの環境整備にも力を注いできた。しかし、生産規模は三菱自動車水島工場の商用車ラインの一部で限定的に生産されていたのが実状で、価格も当初は459.9万円、2010年4月から398万円である。生産規模から見て量産体制ではなく、当然ながら収益を期待できない状態であった。一方のスバル・プラグインステラも472.5万円で、生産台数からみてもEVに関わる部品はすべて試作品ベースのコストである。しかしながら、i-MiEVの今後は、同工場の乗用車ラインに移管され、ワイドボディを持つアメリカ向けの生産も立ち上がり、より本格的な量産レベルになると予想され、アメリカ向けi-MiEVは価格低減を実現するとされている。
日産リーフが注目され本命EVとされている理由については、生産当初から年産5万台という量産ベースで計画されていることだ。この点は、国内外の他のメーカーのEVと比べてまったく異なる点である。つまり大きな経営的な決断が行われていることを意味し、EVのリーダーシップを手にすることを目指している。2011年初頭にはヨーロッパ輸出を開始し、12年にはアメリカのスマーナ工場で、13年にはイギリスのサンダーランド工場でも生産が開始される計画となっている。
また採用しているリチウムイオン電池は、現在、日本のオートモーティブエナジーサプライ(日産とNEC共同出資)のみで製造されるが、12年後半までにアメリカ、ポルトガル、フランス、イギリスで生産を開始し、13年までに日産、ルノーへの供給能力を年間50万台レベルにまで整える計画としている。日産リーフの価格は376万4250円。価格に占めるリチウムイオン電池の比率が高いことは周知の事実だが、オートモーティブエナジーサプライ製の電池は、i-MiEVの電池(GSユアサ)より30%以上コストダウンしているのではないだろうか。
リーフのライバルなのか? シボレー・ボルト
↑シボレー・ボルトのバッテリーは韓国LG化学から供給
一方、アメリカでもGMが12月からシボレー・ボルトを発売した。DOHC4気筒1398ccエンジン(63hp)を搭載していることから、EVではなくハイブリッドカーではないか? などと話題が多いが、韓国LG社のアメリカ子会社製のリチウムイオン電池を搭載したレンジエクステンダー(航続距離伸延式2モーターEV)で、価格は約340万円。つまり価格面でもリーフに対して競争力を持っているのだ。ちなみに電池パックはフロアの前後を縦通するセンタートンネル部とセンターピラー部に配置した逆T型。対衝撃に対しては理想的なレイアウトとなっている。
シボレー・ボルトの電池パッケージ重量は198kgといわれる。電池の冷却は水冷式で、モーター部も水冷化しているのがユニークだ。性能はモーター最大出力111kW、発電ジェネレーター54kW、最大トルク370Nmを発生し、最高速度は160km/hに到達する。2次電池は電力容量16kwhで、電力容量以外の性能はリーフを上まわっている。電池によるモーター走行時の航続距離は60〜80kmで、発電用のエンジンを稼動させることでさらに、480kmの航続距離を持つことが可能だ。車両重量は約1720kgとされている。
ボルトは当初、年産1万台の生産規模とされているが、これでは量産効果は限定的で、GMも製造コストが販売価格と同等レベルであることを認めており、開発費を回収できないため、1台あたりの販売で赤字となるのが実状でとなってしまう。したがって、当面は97年に発売した初代プリウスと同じようなポジションといえる。ただし、12年末までには年産4万5000台以上の規模を目指すとしており、本格的量産化の計画がなされていることをGMは強調している。またオペルブランドでヨーロッパでも発売する計画だという。
リーフ詳解
リーフはEV専用に開発されたボディ、プラットフォームを持っている。プラットフォームはティーダ相当だが、フロア下面に電池を収納するため大幅に手が加えられている。エクステリアは「スマートな流体」というテーマのもとでデザインされ、EVのメリットである低いボンネット高さと、ルーフがフラットなビッグキャビンの組み合わせになっているが、全体のフォルムは先進性、斬新さが希薄でインパクトは弱めだ。
コンポーネンツのレイアウトは、電池を床下水平配置とし、エンジンルームにはモーターと、その上にインバーターを配置している。サスペンションはフロントがストラット、リヤがトーションビーム式とオーソドックスなレイアウトといえる。インテリア、特にインスツルメントパネルは、ツインデジタルメーターで新奇な趣向がある。またインテリア全体のカラーは地味だが質感は期待以上の仕上がりになっている。
リーフの車量は1520kgと非常に軽量に仕上がっており、その点は大いに評価できる。EVであるため電池の分だけ重量増となるのが常識だが、リーフは2.0Lクラスのガソリン車に対して約120kg重いことになる。より電力容量の小さいGMボルトの電池が198kgとされているから、かなり軽いのがわかる。しかし電池パッケージにより100kgを超える重量増となるのはハイブリッドカーより大幅で、EV共通の大きな、そして本質的な問題点となっている。いいかえれば次世代の軽量化技術が求められていると思う。
↑モーターとコンバーター
リーフのモーター出力は80kw、最大トルク280Nm、最高回転数1万390回転で、減速比7.9377の1段減速。発進加速や中間加速は3.0Lガソリン車に匹敵という運動性能だ。EV車の制御で難しい点とれされる発進加速のフィーリングについて、モーター駆動の場合、瞬時に最大トルクが発生し、ぎくしゃく感や振動が出やすいため、どのよう駆動力を制御するかがポイントとなる。そのため、リーフでは優れた発進加速のレスポンスと滑らかな加速感を両立させる制御ソフトを実現したという。レスポンスのよい加速感と、途切れのない伸びのある加速をするという。そのためにモーター内部には角度センサーを装備している。
静粛性に関しては、Dセグメントのセダンやハイブリッドカーより、圧倒的に静粛になっており、EVならではといえる。また静粛なために、風切り音や車外音の影響が大きくなり、遮音フロントガラス、低騒音ワイパーモーターの採用、サイドミラーの風切り音を低減させるなどの工夫がはかられている。床下には電池をフラットに配置しており、完全フラットとなっている。そのため空力特性にも有利であり、なにより低重心となり、小さなヨー慣性モーメントを生かしたスムーズな走りを生み出すことができている。さらにコーナリング時には、操舵初期に駆動トルクを増大させ、操舵の戻し段階でわずかに駆動トルクを抑えるという、駆動トルク制御を行うことでハンドリングを滑らかにしているというのも隠し技だろう。
使用されるリチウムイオン電池は、オートモーティブエナジーサプライ社製のマンガン系正極材を使用したラミネート式セルをモジュール化したパッケージを採用し、総電圧360V、最高出力90kWで24kWhの容量を持っている。この電池は現時点(2010年)でコスト、エネルギー密度などで世界最高水準を持っている。なお、リーフはメイン電池以外に電装品を稼動させる12Vのサブ電池を搭載している。
↑リーフに搭載されるバッテリーモジュール
エアコンは電動コンプレッサー式で、ヒーターは熱源となる温水を作るために発熱素子に電流を流すことで発熱させるPTC式を装備している。寒冷地を想定すると低温部と高温部で熱の移送を行うヒートポンプ式よりPTCヒーターとせざるを得ないわけだ。なおEVにおけるエアコンに要するエネルギーは、全エネルギーの1/4に相当するという。
その他にユニークな点は電制シフト、スタートアップサウンド(システム起動時)、車両接近通報サウンドシステムを備えている。車両コントロールでは、VDC(横滑り防止)、EBD(電子制御制動力分配装置)付きABSを標準装備としている。
充電はどうする?
リーフは、ゼロエミッション、トップレベルのEV性能、ITシステム(スマートフォン)によるドライバーサポート&車両サポートといった点が大きな特徴をもっている。電池による走行であるからゼロエミッションは当然だが、EVとしての性能では、まず航続距離としてJV08モードで200km、アメリカのLA4シティモードで160kmだ。もちろん、エアコン使用などを考慮すると実航続距離はモード走行の約50%と見るべきだろう。
EcoLife – Electric and Hybrid Cars
このため、日常的な近郊のドライブでは十分な実用性があるが、ロングドライブの場合は充電が不可欠になる。この問題に対し、日産自動車では、すでに日産販売店の全店に充電器を設置し、主要200店には急速充電器も備え、全国をカバーしている。また、三菱自動車との協力で、同社系列販売店の充電設備も相互利用できるようになり、両社併せて全国2900店での充電が可能となった。また、メーターパネルには、走行可能距離を表示し、エアコン・オフでの追加走行可能距離や、標準装備の日産カーウングスを使用したナビ画面との協調で、充電ステーション位置の表示もできるようになっている。なお自宅での充電は深夜電力を使用して行うのが合理的だが、集合住宅の住人は駐車スペースに電源を持つことが難しいため、現時点ではEVの所有は現実的ではない。
スマートフォン、PCによるサポートは、リモート充電、タイマー充電、充電中のリモートエアコン作動、電池状態チェックや航続可能距離などを行うことができる。もちろん車両側からもタイマー充電、タイマーエアコン設定ができ、ナビ画面で到達予想エリア表示や充電ステーション表示を行うことができる。
日産は今後、リーフ以外にもEVを投入し、EV普及拡大を行う戦略だが、航続距離の問題から言えば普及は限定的であり、ユーザーを選ぶクルマといえる。仮に、航続距離の問題がクリアできたとしても、今度は道路整備や交通インフラ、都市づくりにも影響は必至であり、ガソリン車に取って代わる乗り物と考えるのはまだ早いだろう。しかし、プラグインハイブリッドやGMボルトのようなレンジエクステンダーEVはこの限りではないのだが。したがって、EVは都市内走行に限定されるコミューターや、配送車などのほうが乗用車より有用性が高いと考えるべきではないだろうか。
駆動方式:2WD
原動機:EM61
価格:X:376万4250円(税込)、G:406万350円(税込)
文:編集部 松本晴比古
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