2014年6月9日、日産は初のEV商用車となる「e-NV200」を10月から発売すると発表した。
国内発売が10月にも関わらずこのタイミングで発表されたのは、6月からいち早くヨーロッパで発売が開始されるからである。つまり、この新型e-NV200はグローバルモデルとして販売されるわけだ。
多目的商用バンの「NV200バネット」をベースに、リーフに採用されているEV用パワートレーンを組み合わせたe-NV200のプロトタイプは、すでに2012年10月に紹介している。しかし、今回発表されたe-NV200は、このプロトタイプとは似て非なるモデルだ。
先行して開発されたモデルは日本、海外での実証実験で使用されていたが、今回発表された量産型e-NV200は、e-2012年11月のリーフのマイナーチェンジよりやや遅れて改めて新開発されたモデルなのだ。
その理由だが、リーフのマイナーチェンジでは、それまでリヤシートの背後に置かれていた車載充電器を小型化してフロントに移動させている。その結果、エンジンルーム内は上から充電器、インバーター、DC-DCコンバーター、モーターという積み重ねたユニットレイアウトになり、結果的にEVのモーターとパワーコントローラーユニット類がひとつのパッケージにまとめることができた。したがって、多目的商用バンe-NV200のラゲッジスペースは完全にガソリンエンジン車と同等に確保できるという目処がついたため、開発がスタートしたのだ。
それと、先行開発車両が公表されてから、市販されるまでに時間がかかった理由として、e-NV200はグローバルモデルとしてスペインのバルセロナ工場で生産し、ヨーロッパをメイン市場と位置付けるという商品ポジショニングの再定義が行なわれている。したがって、ヨーロッパ向けを最初に発売するという戦略構築の影響もあって、市販化がやや遅れたと考えられる。
新型e-NV200は、多目的商用バンとしての機能は従来のNV200の室内の広さや、多用途性をそのまま備えながら、EVならではの加速性と静粛性を持つモデルであり、屋外での電源供給ができるなど走る蓄電池としての特徴も備えている。ビジネスシーンでの価値と、5人乗り/7人乗りのワゴンタイプも設定することで乗用ワゴンとしても使用することができる、という機能がある。
開発コンセプトは「人・モノ・電気を運ぶ商用車EV」だとリージョナルプロダクトマネージャーの東美津江氏は語る。ターゲットカスタマーは、商用バンとしては営業車、集荷配送車、航空貨物集荷配送車、文書配送車、農作物集荷配送車などで、EV商用バンならではのアピールポイントは、ビジネスユースと環境性能を両立させるゼロ・エミッション、走る蓄電池としての機能、ガソリン車を上回る動力性能や静粛性などストレスの少ない走り、燃料費が不要でメンテナンス経費もきわめて安い圧倒的なランニングコストの安さだとしている。
e-NV200の車種構成は、バンがルートバン(リヤ周りのウインドウなし)、2人乗り、5人乗りの3種類でグレードはVXとGX。ワゴンタイプはGグレードのみで5人乗りと3列シート・7人乗りとなっている。価格はガソリン車の同グレードとの比較で約200万円高いが、減税分とクリーンエネルギー自動車導入補助金の85万円を差し引くとプラス100万円ということになる。
e-NV200は、NV200をベースとし、積載スペースは2名乗車状態で3600L、積載重量は600kgと共通だ。つまりEVとなってもスペースや積載重量に変更はない。デザインは、フロント、リヤがe-NV200専用となり、特にフロントマスクは充電口カバー、ロアグリルと左右のフォグランプのディテールをリーフと共通のデザインテイストにすることで、EVファミリーであることをアピールしている。またボディカラーも、リーフで設定しているブルーと同じ「リキッドブルー」を専用設定している。
インテリアは、商用がメインであることを考慮し、使いやすさ、ストレスフリーであることを重視。その代表がシフトセレクターで、リーフは先進性を強調したマウスタイプだが、e-NV200は他車から乗り換えても違和感がないように一般的なグリップレバー式となっている。メーターパネルも、シンプルで見やすい単眼式だ。また、バン、ワゴンともにEV専用ナビゲーションシステムを標準装備している。
EVパワートレーンは、マイナーチェンジされたリーフと共通で、モーター出力、最大トルクも全く同じ。リチウムイオンバッテリーも、最大容量24kWh、電圧360V、バッテリーモジュール数48個も同じだが、e-NV200はフロア形状に合わせたバッテリーパッケージにするため、モジュールの配置が変更されていることが相違点だ。また、商用でシビアな使い方やヨーロッパでの使用を考慮し、e-NV200のバッテリーパッケージ内部はエアコンの冷媒で冷却された冷風を強制循環させる空冷式としている点もリーフと異なる点だ。
e-NV200の車両重量は、ガソリンエンジン搭載のNV200と比べ約230kgほど重くなっているが、加速性能、加速レスポンスなどはガソリン車をはるかに上回る。また静粛性や、乗り心地の良さ、ロールやピッチングなども大幅に向上しており、業務で乗る乗員にとっては一般的な商用車と比べストレスが少ない点もアピールポイントとなっている。
e-NV200の航続距離はJC08モードで180~190km。リーフの228kmより短いが、ゴーストップの多い市街地での集荷配送業務などを想定すると十分に余裕のある航続距離だ。e-NV200はフル積載での使用を考慮し、最終減速比は低めてあるが、同時にバッテリー残量警告灯が点灯するとエネジーセーフモードとなり、最高速は100kmに抑えられる。
走行モードは、「D」と「ECO」、「ノーマル」と「B」という2種類を組み合わせることで4種類のモードとなる。もちろん「B」は減速エネルギー回生が強化され、エンジンブレーキが良く効く状態を意味する。
e-NV200は、大容量のバッテリーを搭載しているのを利用し、「走る蓄電池:電源」としても機能することも訴求点だ。バンGX、ワゴンGに標準装備される2ヵ所の100V電源ソケットで最大1500Wの電力を使用することができる。満充電状態から1000Wを使用すると最長8時間使用できる能力を持つ。このため車内でPCやプリンターなどの使用、野外での電源としても利用できる。
e-NV200のシャシーはフロントがストラット式、リヤはリーフスプリング式リジッドでNV200と同形式だが、フロント・ロアアームはリーフ用にアップグレードし、リヤはアクスルビームを拡幅し、前後ともトレッドを拡大、横剛性も向上させている。またブレーキは最新の電動油圧式・回生協調ブレーキを新採用している。このブレーキは回生量の増大と自然なブレーキフィールを両立させるためにペダルフィールシミュレーター機能を内蔵。結果的にブレーキ回生率は現時点でトップレベルになっているという。
業務で使用する商用バンとして大きな要素である、ランニングコストの小ささもe-NV200の大きな魅力だ。日常では夜間充電による安価なコストに加え、回生ブレーキを多用するためブレーキパッドの磨耗が少なく、エンジンオイル交換が不要、補機ベルト交換不要など長期的に見たメンテナンスコストの低さも特筆される。
e-NV200は、都市部のゴーストップが多い小口貨物の集配や商店の配送業務など、もともとEVが持っている資質・特性に最適であり、メガシティビークルというにふさわしい存在と考えていいし、日本でもヨーロッパでも適合性は高いといえるだろう。