日産が技術発表したバイオエタノール使用の燃料電池車とは何か?

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日産が技術発表した「e-Bio Fuel-Cell」燃料電池車とは何か?第一報は掲載済みだが、改めてトヨタ、ホンダが発売した水素を使用する燃料電池車とは何が違うのかを考えてみたい。

インテリジェントモビリティ戦略を説明する坂本秀行副社長
インテリジェントモビリティ戦略をプレゼンテーションした坂本秀行副社長
SOFC技術をプレゼンテーションした土井三浩・総合研究所所長
SOFC技術をプレゼンテーションした土井三浩・総合研究所所長

■発電装置=燃料電池スタックの違い

トヨタ、ホンダが発売している燃料電池車の発電を行なう心臓部「燃料スタック」はPEFC(固体高分子型・燃料電池)と呼ばれる。純粋な水素が電解質を透過し水素イオンと酸素が結合して発電し、水を排出する。

これに対し、今回日産が発表した燃料スタックはSOFC(固形酸化物型・燃料電池)と呼ばれる。このタイプは、電解質の内部を酸素イオンが透過し、水素と結合して発電し、水と二酸化炭素を排出する。つまり、同じ水素と酸素を使用するが、電極間のイオン伝導は水素イオンでなく酸化物イオンで、PEFCとは逆なのだ。

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SOFC、PEFCの燃料電池スタックの相違

またイオンを反応させるために、PEFCは80℃程度の雰囲気温度が必要だが、SOFCは700℃以上という高温の雰囲気温度が求められるという点も大きく異なる。SOFCはこうした高温であるため、化学反応が高温で行なわれ白金などの高価な触媒が不要で、水素もPEFCのような純度の高い水素でなくても発電可能・・・という特徴がある。

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PEFC型とは異なり燃料はエタノールで、改質器で水素を発生して燃料電池スタックで使用する

問題となる水素は、PRFCの場合は純粋水素で、超高圧タンク内に蓄えられる。これに対してSOFCは、エタノールと水の混合液を供給し水蒸気改質装置により水素、二酸化炭素を発生させ、二酸化炭素は酸素側に分離し、水素を使用する。

改質器で水素を発生させ、高温の燃料電池スタックの熱を改質器の加熱に使用するという熱のリサイクルを使用
改質器で水素を発生させ、高温の燃料電池スタックの熱を改質器の加熱に使用するという熱のリサイクルを使用

この改質装置を使用することで、PEFCのような高価な超高圧タンクは不要で、エタノール溶液は不燃性で、取り扱いが容易なエタノール水溶液が燃料の代わりになり、ガソリンタンクより簡易な30Lタンクで、600km程度の走行距離が得られるという。さらにエネルギー効率は60%にもなり、内燃エンジンはもちろん、PEFCより効率は高い。

■SOFC(固形酸化物型・燃料電池)登場の経緯とエネファーム

実は燃料電池システムとしては、SOFC(固形酸化物型・燃料電池)はPEFC(固体高分子型・燃料電池)より登場が早く、すでに1980年代には世界各国で研究され、ほかならぬ日産も研究発表を行なっている。

しかし、SOFC(固形酸化物型・燃料電池)の内部の電極部はセラミックが使用され、スタック部は700℃以上の高温で作動するため、固定発電システムではそれほど問題はないが、停止、発進、加速を反復使用する自動車用としては、セラミック製の電極に低温、高温の繰り返しによる負担がかかり熱疲労により破損するという問題があり実用化には至らなかったのだ。

その一方で、SOFC(固形酸化物型・燃料電池)燃料電池スタックは家庭用燃料電池・発電&コジェネレーション装置「エネファーム」としていち早く実用化している。エネファームは都市ガス、LPガスを改質して水素を発生させ、SOFCで発電すると同時に、燃料電池スタック部の高熱を利用して給湯するというシステムだ。つまり、常時稼動という条件ではすでに実用化されているのだ。

日産は、今回技術発表したということは、燃料スタック内部の電極の耐熱・耐久性を大幅に向上させるめどがついたと推測でき、電極材にも新たな材料を使用するという。

■SOFC(固形酸化物型・燃料電池)とバイオエタノール燃料

PEFC(固体高分子型・燃料電池)は、純度の高い水素を燃料として使用し、気体では体積効率が悪いため、超高圧の70MPaで車載タンクに貯蔵される。排出されのは水だけのため「究極のエコカー」とマスコミでは名付けられているが、実は純度の高い水素の精製、輸送、水素補給するための超高圧化により大量の電気エネルギーを使用するという問題を抱えている。

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SOFC(固形酸化物型・燃料電池)では、エタノール100%、または45%エタノール/55%水という水溶液を使用するため、はるかに扱いやすく、輸送性、インフラ負担率、車載性、体積効率に優れている。しかし燃料電池スタックの稼動により水とCO2が発生する。そのため日産は、燃料となるエタノールをバイオ・エタノールにすることで、原料となる植物が吸収したCO2と排出するCO2が同量になる「カーボン・オフセット」により事実上、CO2排出ゼロとしている。

現在、ブラジルではサトウキビがら精製したバイオエタノール「E100 」が内燃エンジン用として使用されており、日産の「e-Bio Fuel-Cell」燃料電池車はすぐにでも導入できる環境にあるといえる。

しかし、その一方で、ブラジルでもエタノール原料用のサトウキビ栽培のためアマゾンの森林が大規模に伐採され、アメリカのようにとうもろこしをエタノールの原料とすることで、とうもろこしの価格が高騰し、開発途上国の食糧事情を悪化させるなど、グローバルで見ると様々な問題が起きている。

しかし日産によれば、食物を原料とせず、サトウキビ滓など廃材料を発酵させる、木材のセルローズからエタノールを産出するなど、新しい技術によりバイオ・エタノールが得られることを前提とするとしている。

また、言うまでもなく日産の基本戦略は、電動駆動+バッテリーが基軸とされ、内燃エンジンで発電機を駆動する「eパワー」(シリーズ・ハイブリッド)、純水素を使用するPEFC(固体高分子型・燃料電池)による燃料電池車、バイオエタノール燃料を使用するSOFC(固形酸化物型・燃料電池)燃料電池車などを必要に応じて展開する構想だ。

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バイオエタノール燃料を使用するSOFC(固形酸化物型・燃料電池)燃料電池車のメリット

言い換えれば、それぞれのシステムは用途、地域、国により適材適所で展開するということだ。その意味ではEVは短中距離で小型車が中心、水素を使用するPEFC(固体高分子型・燃料電池)による燃料電池車は先進国、SOFC(固形酸化物型・燃料電池)燃料電池車はバイオ・エタノールのインフラが整備された地域で、配送車、小型トラックなど低速で稼働時間が長い用途に適しているのだ。

■SOFC(固形酸化物型・燃料電池)の現状

日産によれば、総合研究所で試作車が作られ、走行を開始したという。燃料電池スタックの出力は5kWで80kWのモーターを使用しているという。今後の開発目標はSOFC(固形酸化物型・燃料電池)の出力を30kW程度まで引き上げるとしている。

またSOFC(固形酸化物型・燃料電池)の燃料電池スタックは、700℃以上という高温が必要なため、以前はシステムが始動してから燃料スタックが作動するまで30分以上を要していたが、現在の開発段階では数分で作動できるようになっているという。もちろん電力はバッテリーに蓄えられているので、燃料電池スタックの作動を待たずに走行は可能だ。

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純電気自動車と「e-Bio Fuel-Cell」燃料電池車との棲み分け

日産はSOFC(固形酸化物型・燃料電池)を搭載した燃料電池車は、あくまでも発電システム付きEV、つまりレンジエクステンダーという位置付けは明確であり、想定しているマーケットもグローバルではなく、適性のある地域に限定していると考えてよいだろう。

日産・アーカイブ

日産公式サイト

■発電装置=燃料電池スタックの違い

トヨタ、ホンダが発売している燃料電池車の発電を行なう心臓部「燃料スタック」はPEFC(固体高分子型・燃料電池)と呼ばれる。純粋な水素が電解質を透過し水素イオンと酸素が結合して発電し、水を排出する。

これに対し、今回日産が発表した燃料スタックはSOFC(固形酸化物型・燃料電池)と呼ばれる。このタイプは、電解質の内部を酸素イオンが透過し、水素と結合して発電し、水と二酸化炭素を排出する。つまり、同じ水素と酸素を使用するが、電極間のイオン伝導は水素イオンでなく酸化物イオンで、PEFCとは逆なのだ。

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SOFC、PEFCの燃料電池スタックの相違

またイオンを反応させるために、PEFCは80℃程度の雰囲気温度が必要だが、SOFCは700℃以上という高温の雰囲気温度が求められるという点も大きく異なる。SOFCはこうした高温であるため、化学反応が高温で行なわれ白金などの高価な触媒が不要で、水素もPEFCのような純度の高い水素でなくても発電可能・・・という特徴がある。

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PEFC型とは異なり燃料はエタノールで、改質器で水素を発生して燃料電池スタックで使用する

問題となる水素は、PRFCの場合は純粋水素で、超高圧タンク内に蓄えられる。これに対してSOFCは、エタノールと水の混合液を供給し水蒸気改質装置により水素、二酸化炭素を発生させ、二酸化炭素は酸素側に分離し、水素を使用する。

改質器で水素を発生させ、高温の燃料電池スタックの熱を改質器の加熱に使用するという熱のリサイクルを使用
改質器で水素を発生させ、高温の燃料電池スタックの熱を改質器の加熱に使用するという熱のリサイクルを使用

この改質装置を使用することで、PEFCのような高価な超高圧タンクは不要で、エタノール溶液は不燃性で、取り扱いが容易なエタノール水溶液が燃料の代わりになり、ガソリンタンクより簡易な30Lタンクで、600km程度の走行距離が得られるという。さらにエネルギー効率は60%にもなり、内燃エンジンはもちろん、PEFCより効率は高い。

■SOFC(固形酸化物型・燃料電池)登場の経緯とエネファーム

実は燃料電池システムとしては、SOFC(固形酸化物型・燃料電池)はPEFC(固体高分子型・燃料電池)より登場が早く、すでに1980年代には世界各国で研究され、ほかならぬ日産も研究発表を行なっている。

しかし、SOFC(固形酸化物型・燃料電池)の内部の電極部はセラミックが使用され、スタック部は700℃以上の高温で作動するため、固定発電システムではそれほど問題はないが、停止、発進、加速を反復使用する自動車用としては、セラミック製の電極に低温、高温の繰り返しによる負担がかかり熱疲労により破損するという問題があり実用化には至らなかったのだ。

その一方で、SOFC(固形酸化物型・燃料電池)燃料電池スタックは家庭用燃料電池・発電&コジェネレーション装置「エネファーム」としていち早く実用化している。エネファームは都市ガス、LPガスを改質して水素を発生させ、SOFCで発電すると同時に、燃料電池スタック部の高熱を利用して給湯するというシステムだ。つまり、常時稼動という条件ではすでに実用化されているのだ。

日産は、今回技術発表したということは、燃料スタック内部の電極の耐熱・耐久性を大幅に向上させるめどがついたと推測でき、電極材にも新たな材料を使用するという。

■SOFC(固形酸化物型・燃料電池)とバイオエタノール燃料

PEFC(固体高分子型・燃料電池)は、純度の高い水素を燃料として使用し、気体では体積効率が悪いため、超高圧の70MPaで車載タンクに貯蔵される。排出されのは水だけのため「究極のエコカー」とマスコミでは名付けられているが、実は純度の高い水素の精製、輸送、水素補給するための超高圧化により大量の電気エネルギーを使用するという問題を抱えている。

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SOFC(固形酸化物型・燃料電池)では、エタノール100%、または45%エタノール/55%水という水溶液を使用するため、はるかに扱いやすく、輸送性、インフラ負担率、車載性、体積効率に優れている。しかし燃料電池スタックの稼動により水とCO2が発生する。そのため日産は、燃料となるエタノールをバイオ・エタノールにすることで、原料となる植物が吸収したCO2と排出するCO2が同量になる「カーボン・オフセット」により事実上、CO2排出ゼロとしている。

現在、ブラジルではサトウキビがら精製したバイオエタノール「E100 」が内燃エンジン用として使用されており、日産の「e-Bio Fuel-Cell」燃料電池車はすぐにでも導入できる環境にあるといえる。

しかし、その一方で、ブラジルでもエタノール原料用のサトウキビ栽培のためアマゾンの森林が大規模に伐採され、アメリカのようにとうもろこしをエタノールの原料とすることで、とうもろこしの価格が高騰し、開発途上国の食糧事情を悪化させるなど、グローバルで見ると様々な問題が起きている。

しかし日産によれば、食物を原料とせず、サトウキビ滓など廃材料を発酵させる、木材のセルローズからエタノールを産出するなど、新しい技術によりバイオ・エタノールが得られることを前提とするとしている。

また、言うまでもなく日産の基本戦略は、電動駆動+バッテリーが基軸とされ、内燃エンジンで発電機を駆動する「eパワー」(シリーズ・ハイブリッド)、純水素を使用するPEFC(固体高分子型・燃料電池)による燃料電池車、バイオエタノール燃料を使用するSOFC(固形酸化物型・燃料電池)燃料電池車などを必要に応じて展開する構想だ。

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バイオエタノール燃料を使用するSOFC(固形酸化物型・燃料電池)燃料電池車のメリット

言い換えれば、それぞれのシステムは用途、地域、国により適材適所で展開するということだ。その意味ではEVは短中距離で小型車が中心、水素を使用するPEFC(固体高分子型・燃料電池)による燃料電池車は先進国、SOFC(固形酸化物型・燃料電池)燃料電池車はバイオ・エタノールのインフラが整備された地域で、配送車、小型トラックなど低速で稼働時間が長い用途に適しているのだ。

■SOFC(固形酸化物型・燃料電池)の現状

日産によれば、総合研究所で試作車が作られ、走行を開始したという。燃料電池スタックの出力は5kWで80kWのモーターを使用しているという。今後の開発目標はSOFC(固形酸化物型・燃料電池)の出力を30kW程度まで引き上げるとしている。

またSOFC(固形酸化物型・燃料電池)の燃料電池スタックは、700℃以上という高温が必要なため、以前はシステムが始動してから燃料スタックが作動するまで30分以上を要していたが、現在の開発段階では数分で作動できるようになっているという。もちろん電力はバッテリーに蓄えられているので、燃料電池スタックの作動を待たずに走行は可能だ。

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純電気自動車と「e-Bio Fuel-Cell」燃料電池車との棲み分け

日産はSOFC(固形酸化物型・燃料電池)を搭載した燃料電池車は、あくまでも発電システム付きEV、つまりレンジエクステンダーという位置付けは明確であり、想定しているマーケットもグローバルではなく、適性のある地域に限定していると考えてよいだろう。

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