ホンダと日産自動車は2024年12月23日、メディア向け会見を行ない、2社の経営統合に向けた協議・検討を開始することについて合意し、共同持株会社設立による経営統合に向けた検討に関する基本合意書を締結したと発表した。
そしてホンダが統合新会社の社長や取締役の過半数を選ぶなど、主導権を握り、日産が筆頭株主の三菱自動車も経営統合への合流を検討するための覚書に合意した。
この2社の統合案はすでに1週間前からリーク情報が大手メディアで報道されてきたが、ついに正式な協議・検討の段階に入ることになったわけだ。
2社統合案の意味するもの
そして早くも、2社と三菱自動車の連合により、売上高30兆円、営業利益3兆円を超える世界第3位のモビリティカンパニーに…というバラ色の予想がメディアで流されている。
ホンダと日産は2024年3月に、クルマの電動化・知能化に向け、戦略的パートナーシップの検討を開始する覚書を締結しており、その後、8月には2社のエンジニアによるワーキング・グループが活動を開始している。
しかし、この提携は次世代車両の電子プラットフォーム、車両OS、そしてこれらに搭載するソフトウエアの開発に関しての提携であり、言うまでもなく、開発には膨大な開発コストと時間を要するため、2社で分担することで開発の速度アップ、コストの低減を狙ったものだ。
だが、今回の2社の統合に向かう協議は、それらとはまったく次元が異なるテーマとなる。なぜ、2社の統合なのか? その背景には日産の経営危機があることは明白だ。日産はグローバルで生産体制を稼働させながら、販売不振が続いている。特にアメリカ市場、中国市場という2大マーケットが不振で、在庫が積み上がっている。アメリカ市場はさらに深刻で、過大な生産、過大な在庫となり、販売のために販売奨励金が増大し、収益を得るどころか赤字体制になっている。
日産の危機的状況
円安という為替差益が生じる時期であるにも関わらず、日産の経営危機は2024年第1四半期ですでに明確になった。この時点で売上高3%増の2兆9984億円の一方、営業利益99%減のわずか10億円、純利益73%減の286億円という衝撃的な減益となっていた。
こうした状況の中で、事業の舵取り役を担っていたアシュワニ・グプタCOOが追放される社内の混乱も生じた。だが、10月末の上期の決算では、売上高は前年並みの一方、 営業利益は前年比90%減となっており、営業利益率は0.5%となり危機は深刻化した。
このため日産は緊急の経営対策として、世界で9000人の人員削減と生産能力の20%縮小を決定。9000人という数字は全従業員の7%にあたり、当面は従業員の削減と同時に、工場の操業を2直稼働から1直稼働としたり、生産ラインのスピードを落とし、生産台数を抑制することになるが、今後は生産ラインの削減も必須と想定された。
つまり生産台数を絞り、過剰在庫をなくし、人員削減により固定人件費や工場の稼働コストを抑制し、縮小均衡により、なんとか収益を確保しようという対策だ。
しかし、アナリストの予測では、現状でリストラを行なったとしても、売上減や収益減と工場稼働などによる固定費の支出のバランスから、1年以内に収入より支払いが上回り、有利子負債の返済も困難になることから、深刻な経営危機に直面する予想している。
まさに、1999年にルノーの支援を受けた状況と同じ状況になっているのだ。
ホンハイの戦略
このような状況下で、EV技術とソフトウエア・ディファインド・ビークル技術で自動車会社に進出する戦略を持つ台湾の鴻海精密工業(ホンハイ:フォックスコン)が日産の買収に動くという情報が駆け巡っている
ホンハイは、ルノーとフランスの信託銀行が持つ日産の株式を買い取り、さらに日産の株式を取得することで日産の経営権を握る作戦と言われている。
ホンハイは、自動車メーカーとして自立するため準備を進めており2024年にはZF社の子会社であるZFシャシーモジュール社に50%出資、高性能シャシーの開発/生産能力も取得している。
そしてホンハイはすでにEVを発表している他、日本では2024年9月に、子会社シャープ発のEVでありAI技術も搭載するミニバン「LDK+」コンセプトを発表。自動車事業は着々と進行しているのだ。
皮肉なことにホンハイの自動車事業を統括する責任者は、現在の内田CEO体制の時点でCOOに選ばれた関潤氏である。関氏は程なく日産を辞職し、日本電産を経てホンハイの自動車事業責任者となっている。
https://www.youtube.com/embed/DBSx0qmNftA?si=4-nGUyertwXJ1e2c
ホンハイにとって日産の魅力は、グローバルに展開する生産工場の製造能力、そして日産のEV技術やシャシー技術などである。
ホンハイがルノー、フランス信託銀行が所有する日産の株式をすべて譲渡されればホンハイの日産買収は一挙に実現に近づくことになる。
https://www.youtube.com/embed/jdEkVIT9iqU?si=Md1tNLqqFrj32Iw4
そして2社統合案が浮上
ホンダの三部敏宏社長は2024年12月23日の記者会見で統合を目指す理由として「特定分野の協業ではなく、もっと大胆に踏み込んだ変革が必要ではないかと両社の間で共有するに至った」と語っている。
しかし、統合新会社の社長や取締役の過半数を選ぶなどの判断からも、単なる戦略的な統合ではなく、ホンダによる日産の救済という側面は明確である。
とはいえ、ホンダも自動車事業の収益率の改善、電動化の拡大、ソフトウエア・ディファインド・ビークル技術の推進、中国市場でのEV開発、製造拡大という現在の課題に立ち向かっており、ホンダの時価総額は日産より遥かに大きいとはいえ、日産を救済する余力はそれほど大きいとは思われないのである。
日産の救済、2社統合をリードしたのは経済産業省だと噂されている。奇しくも同じ12月23日にインタビューを受けた在レバノンのカルロス・ゴーン氏は、「日産とホンダに補完性がなく、両社は同じ分野で強く、同じ分野で弱いので事業計画として無理がある」と語っている。
確かにホンダ、日産の車種ラインアップは重複しており、重視している市場もアメリカ、中国と共通しており、どのようにブランドの棲み分けを行なっていくか先行きは見通しにくい。
また、2社+三菱自動車の統合が実現したとしても、EVのバッテリーや部品の統一化や共同購入、物流コスト低減、グローバルの金融会社の統合などのメリットは想定できるが、大きなシナジー効果とされるグローバルに展開している生産工場の再構築、プラットフォームの共通化、車両の開発体制の簡素化、開発コストの低減などを実現するためには相当な時間が必要となる。
今後のスケジュールは、基本合意内容をベースに、2025年6月の正式契約締結を目標に協議を進めて行く。その後、当局への申請、承認などの取得や、両社の株主総会での決議などを経た上で、2026年8月をめどに東証プライム市場の上場会社として共同持株会社を設立する予定としている。
新設される共同持株会社のもとで、日産、ホンダの両社は持株会社の完全子会社となり、その後上場廃止となる予定になっている。また、また、三菱自動車は日産、ホンダが進める経営統合検討に関与するか否かの判断を2025年1月末をめどに行なうとしている。
賽は投げられた。