どうなる日産?

2018年11月に金融商品取引法違反で東京地検・特捜部はカルロス・ゴーンを逮捕し、12月の勾留中に最初の逮捕の容疑とは別期間での不正容疑で再逮捕した。さらに12月末に特別背任の容疑で勾留中の再逮捕となった。そして年が明けた2019年1月11日にすべての起訴が行なわれ、勾留108日に及んだが、2019年3月6日にようやく東京拘置所から保釈された。

3月12日、ポスト・ゴーンの体制「アライアンス オペレーティング ボード」は決定したが…
3月12日、ポスト・ゴーンの体制「アライアンス オペレーティング ボード」は決定したが…

ゴーン裁判の行方

3月12日には日産の取締役会が開催される予定だった。保釈中のゴーンはすでに日産の会長職は解任され、ルノーの会長職も辞任していたが、この時点では日産の取締役の役職は、そのままであったため出席を求めたが、11日の時点で裁判所は出席を認めなかった。そしてゴーンは4月11日に記者会見を開くことを予告した。だが、4月4日に別の特別背任容疑で東京地検・特捜部によって4度目の逮捕となった。

カルロス・ゴーン氏

4月8日に、日産はグランドプリンスホテル新高輪で臨時株主総会を開催し、取締役カルロス・ゴーン、取締役グレッグ・ケリーの2名を解任し、新たにジャンドミニク・スナール氏を取締役に選任した。

そしてカルロス・ゴーンが再保釈されたのは4月25日夜だった。最初の保釈時には保釈保証金10億円、2回目の保釈保証金は5億円となっている。なお東京地方裁判所は、保釈の条件としてこれまでの条件に加えて、妻キャロルさんとの接触を原則禁止とした。

誤算となった司法取引

そもそも、カルロス・ゴーン、グレッグ・ケリーの2名を東京地検・特捜部が逮捕したのは、日産自動車との司法取引によるものだった。日産が社内で調査した2名に関わる問題点を東京地検・特捜部に持ち込み、日産自動車、日産の関係者が捜査に協力をすることと引換えに、日産自動車、日産の関係者の不提起や軽い求刑をすることに合意というものだった。この日本の司法取引制度は2018年6月から施行された新たな法制度で、今回の司法取引は2件目となる。

この司法取引により、日産側はカルロス・ゴーン、グレッグ・ケリーの2名の裁判とは切り離した裁判で、軽微な刑罰を受けることによって幕引きを図る算段であったことは明白だが、ゴーンの保釈と前後して行なわれた裁判所、検察、弁護側の協議の結果、裁判所は1番目の起訴理由の金融商品取引法違反に関して、法人としての日産の公判を分離せず、一緒に審理することを決めた。

起訴内容を認める早期終結を目指す方針の日産に対し、ゴーン前会長とケリー前代表取締役は全面的に争う方針であり、主張が対立する3被告の審理が一緒に進むことになる。地裁は3被告のうちひとつでも証拠採用に同意しないものは、証拠として使わない方針も示した。さらに当初、東京地方裁判所は9月頃に初公判を開く予定であったが、この3者同時の裁判の方針により、初公判の時期は未定となり、どんなに早くても2020年春頃になると見られている。

この決定は、司法取引を前提に、早期に裁判の終了を望んでいた日産側にとっては大きな誤算といわざるを得ない。

日産の現状

4月8日に開催された日産の臨時株主総会で、カルロス・ゴーン、グレッグ・ケリー2名の取締役解任と、ジャンドミニク・スナール氏を取締役として選任するすることが決定した。そして、ジャンドミニク・スナール氏は6月に開催予定の株主総会で日産の取締役会の副会長にも就任することが既定路線である。

大きなカギを握る日産の取締役会に入ったルノーのジャンドミニク・スナール会長
大きなカギを握る日産の取締役会に入ったルノーのジャンドミニク・スナール会長

その一方、日産は「ガバナンス改善特別委員会」を設置し、自社内の企業統治体制の問題点を摘出することをすすめていた。この「ガバナンス改善特別委員会」は、弁護士の西岡清一郎氏と、経団連名誉会長(元東レ会長)の榊原定征氏を共同委員長とした第3者調査チームで、このチームを選定したのは日産の独立社外取締役、豊田正和(経済産業省OB)氏、井原慶子氏(レーシングドライバー)、ジャンバプティステ・ドゥザン氏(ルノー出身)の3名だった。この独立社外取締役3名が、西岡清一郎、榊原定征氏ら外部の専門家4名を選定した。

3月27日に提出された「ガバナンス改善特別委員会」の報告では、これまでゴーンの独裁体制で、あらゆる面で、誰も異議を唱えることができなかった実情が報告され、「ガバナンス改善特別委員会」は、2019年6月をもって指名委員会など設置会社に移行を提言するという結論となっていた。

4月8日に開催された臨時株主総会
4月8日に開催された臨時株主総会

これを受け、4月8日の臨時株主総会では「最善なガバナンス体制の構築は、当社にとって喫緊の課題であり、その実現に向けて、指名委員会等設置会社へ移行する方向でその準備を進めております。その上で、日産、ルノー、三菱自動車のアライアンスを安定化し、アライアンスのベネフィットを積極的に活用していくことで、事業の安定化につなげていく所存です」という日産としてのコメントが発表されている。

指名委員会等設置会社とは、指名委員会、監査委員会、報酬委員会を置く株式会社で、従来の株式会社とは異なる企業の統治制度だ。取締役会の中に社外取締役が過半数を占める委員会を設置し、取締役会が経営を監督する一方、業務執行については執行役にゆだねる方式だ。従来、日産はヨーロッパ流の取締役会設置会社であったが、指名委員会等設置会社では社外の取締役が多数派で、社外取締役が議長となる合議制だ。つまり企業の舵取り役の責任者が社外取締役という体制なのだ。

もちろん2019年6月に開催される株主総会では、監査委員会の議長に誰が就任するかはまだ明らかではないが、副議長は既定路線でルノー会長のジャンドミニク・スナール氏が就任することになっている。

しかし、社外取締役が多数を占める指名委員会等設置会社制度で、自動車メーカーとして戦略的な決断や施策が実行できるのだろうか?

もうひとつ注目すべきは、日産の中枢メンバーの退任だ。西川CEOの直属の部下であり、日産の戦略と業績全体の統括責任であったチーフ・パフォーマンス・オフィサー(CPO)を務めていたホセ・ムニョス氏が2019年1月に辞任した。その後、ムニョス氏は韓国の現代自動車のグローバル最高執行責任者(COO)兼アメリカ部門社長に就任している。

ダニエル・スキラッチ副社長
ダニエル・スキラッチ副社長

さらに4月のオート上海でプレゼンテーションを行なったダニエレ・スキラッチ副社長も、その直後の4月末で辞任を表明した。スキラッチ副社長はグローバルマーケティング&セールス、ゼロエミッションビークル、バッテリービジネス、日本、アジア、オセアニア地域を統括するなど、幅広い重要部門の責任者であったが5月15日付で退任する予定だ。

そのため、日産は新たに最高執行責任者(COO)に山内康裕氏、副最高執行責任者(ViceCOO)にクリスチャン・ヴァンデンヘンデ氏を選任。執行役員の星野朝子氏、川口均氏、中畔邦雄氏が副社長に昇格し就任するなど体制は大幅に変わっている。

新たに最高執行責任者(COO)に就任した山内康裕氏
新たに最高執行責任者(COO)に就任した山内康裕氏

また、日産の業績は2月に米国や中国など販売不調が続くことを理由に、連結営業利益の予想を当初見込みから900億円引き下げていたが、4月24日に2019年3月期の連結業績予想を下方修正した。営業利益は前期比45%減の3180億円で、米国を中心にした販売不振とCVT関連の品質保証費用の負担が要因で、従来予想(4500億円)を1320億円引き下げている。このうち660億円は販売不振によるものだという。

また2018年度の販売台数も560万台から551万台に下方修正した。業績に影響が大きいのは、営業利益の約4割を稼ぐアメリカ市場での不振だ。台数重視の営業戦略、過大な販売奨励金により、販売奨励金を減らすと販売台数も落ち込んでしまう悪循環だ。この傾向は以前から続いていたが、特にセダン系の車種の不振により深刻化している。ゴーン問題の渦中で業績の低下は現経営陣にとって頭の痛い状態となっている。

ルノーは経営統合を目指す

4月27日に、外紙の報道によりルノーは持ち株会社を設立する形で日産に経営統合を提案する計画が報道された。ルノーの経営統合案はルノーと日産がそれぞれ持ち株会社の株式50%を保有し、両社とも同数の取締役会メンバーを置くという案だと報じられている。持ち株会社の本社は日本とフランスを避けてシンガポールに置く可能性があるという。

持ち株会社を設立することでアライアンスを強化し、アライアンスとしてのグローバル戦略の確立とコスト削減を確実にする狙いが、経営統合案の協議中の複数案のひとつであり、ルノーは日産から同意が得られる道を模索しているという。

ルノーのジャンドミニク・スナール会長とティエリー・ボロレCEO
ルノーのジャンドミニク・スナール会長とティエリー・ボロレCEO

実はこの持株会社によるルノー、日産の経営統合案は以前から噂に上っている。これまではルノー・日産B.V.(RNBV)、日産・三菱B.V.(NMBV)というふたつのアライアンス統治会社が存在し、いずれもカルロス・ゴーンが会長を努めていたが、こうした体制はゴーン前提で成立しており、よりアライアンスを統一的に統制できる持株会社方式のほうが合理的といわれていた。

どうなる日産?

さらに、ルノーはティエリー・ボロレCEOを日産の取締役に選任することを求めていると報道されている。従来ルノーから出向している取締役はいずれも高齢で、今期限りでの退任は確実だ。そのためルノーはボロレCEOや、強力な取締役の送り込みを目指すのは当然だ。もちろん、経営統合案や日産の取締役人事、さらに現時点で日産が目指している指名委員会等設置会社制度などは、すべて6月に開催される株主総会で決定されることになる。

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