2013年10月17日、日産と日産・モータースポーツ・インターナショナル(ニスモ)は、革新的な電動レーシングカー「ZEOD RC (Zero Emission On Demand Racing Car:ズィーオッド アールシー)を日本で初めて公開した。ニスモ本社でニスモ社長の宮谷正一氏、日産グローバルモータースポーツ責任者のダレン・コックス氏、そして日産モータースポーツイ・ノベーション責任者であるベン・ボウルビーによってアンベールされた。
「ZEOD RC」は今年6月のル・マン24時間レースの会場でワールドプレミアを行ない、9月にはイギリスでシェイクダウンテストを実施。その後2週間にわたって開発テストを行なってきたという。WEC第6戦「富士6時間レース」では予選日から決勝当日の3日間、デモ走行を行う予定になっていたが、残念ながら開発が追いつかず、展示のみとなったことがニスモ宮谷社長から発表された。
この「ZEOD RC」は、今後も開発を進めル・マン24時間レースの主催者ACO(西部自動車クラブ)から、革新的な技術を披露するマシンのための特別エントリー枠「ガレージ56」で2014年の24時間レースへ参戦する予定になっている。
今回発表された「ZEOD RC」は今年のル・マン24時間レース時に発表された展示用のプロトタイプに比べ、新型の冷却インテーク、エアロダイナミクスの改良など、テストを通じて大幅に改良されている。マシンの概要は、これまでは「EVオンデマンド」という表現に留められていたが、今回、EV走行用に12kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載し、400Vの電圧によりモーターで300psを発生させ、4分間にわたりEV全力走行ができることが目標とされていることが明らかにされた。つまりEVモードでル・マンのコース(13.6km)を1周できる能力を持つということだ。
もちろん「ZEOD RC」はエンジンも搭載する。現時点でエンジンの概要は明らかにされなかったが300ps以上を発生する1.5Lターボエンジンで、リヤに横置きに搭載。横置きトランスミッションのもう一方に駆動/発電モーターが結合されるという。したがってドライバーはEVモードとエンジン駆動モードを切り替えて走行する。エンジン走行中にブレーキ時に減速エネルギー回生を行なってバッテリーを充電する。その回生による充電は、ル・マンのコースを12周走ることで満充電になる予定だという。
日産は2011年のル・マンレース時にテストでリーフRC(リーフをカーボンボディで軽量化したプロトタイプ)を走らせたが、この時は車両重量900kgで、最高速は150km/hだったが、「ZEOD RC」は600kgの車両重量で300ps、最高速300km/hを目指すことになる。
なお「ZEOD RC」のベースになっているのは2012年のル・マン24時間レースにガレージ56枠として出場した日産デルタウイングだ。デルタウイングは、アメリカのハイクロフトレーシングが企画し、レースカー設計者のベン・ホウルビー(現在は日産モータースポーツ・イノベーション担当部長)設計したフロント・ナロートレッド、リヤ・ワイドとレッドの3角翼型レーシングカーで、日産製の1.6Lターボ(MR16DDT型)で300psを発生。Cd値は0.24、車両重量475kg。デルタウイングはオープン・レーシングカーだったが、「ZEOD RC」はクロードボディになっている。また容量12kWhのバッテリーを搭載するため、車両重量は前述のように600kgとなっている。
3角翼の開発コンセプトは、軽量コンパクトなこと、圧倒的に小さな空気抵抗と最適なダウンフォースの両立、転がり抵抗の大幅な低減と優れたコーナリング性能を両立させるというもので、前輪の1輪のタイヤ幅は10cm程度。デルタウイングのタイヤはミシュランが専用開発し、日産「ZEOD RC」のタイヤ開発もミシュランが担当している。
「このZEOD RCは、電気自動車リーフをベースとした初めてのEVレーシングカーであるリーフ・ニスモRCの開発を通じて蓄積した技術を活用しています。例えば、リーフ・ニスモRCのエネルギーマネジメントや高効率な回生システムなどは、EV技術をモータースポーツに活用していく重要なステップになるものと考えています」と宮谷正一ニスモ社長は語っている。
「ZEOD RC」は2014年のル・マン24時間レースに出場した後は、将来的には電動化を伴った車両規則のLMP1クラスへの参戦を視野に開発を続ける計画とされている。