【日産】中期環境行動計画「日産・グリーンプログラム2016」を発表

雑誌に載らない話vol35
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日産自動車は2011年10月24日、横浜市のグローバル本社にて中期環境行動計画「日産・グリーンプログラム2016(NGP2016)」の発表会を開催した。プレゼンターはカルロス・ゴーンCEO自らが務め、2016年度までの6年間にわたる地球環境を守るための取り組みについて、具体的な活動内容や達成すべき目標について明らかにした。

過去2回は排ガスのクリーン化とCO2削減を達成

このNGP2016は、2002年に発表したNGP2005、同じく2006年に発表したNGP2010に続く、日産にとっては数えて3度目となる中期の環境行動計画だ。また今年6月下旬に、株主総会に先立って発表した中期経営計画「日産パワー88(エイティエイト)」とは期間が同じで対をなすものであり、一部の数値目標などは重複して発表されている。
ゴーンCEOは計画発表に先立って、まずは日産自動車のCSR活動(企業の社会的責任)の一環である「ブルーシチズンシップ」を支える柱のひとつにサステナビリティ(持続可能な社会を目指す取り組み)があり、その具体的行動を示す指針が今回で3度目になる“NGP”であると説明。
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2002年に発表したNGP2005では“排出ガスのクリーン化”が重点分野で、この計画を達成できたために、日産の国内市場の総販売台数に占める超低排出ガス車(SULEV)の比率は80%以上となった。また、リサイクルしやすい新たな設計を採用した結果、リサイクル可能率が95%に達したのも成果だったと報告。
次に2006年に発表した第2弾のNGP2010では“CO2排出量削減”を最重要課題に掲げて、アイドリングストップやCVTなどの基幹となる環境技術を投入したことを説明。独自開発のクリーンディーゼルやハイブリッド車、さらに電気自動車のリーフを投入したのもNGP2010の期間中のことになる。さらに新車からのCO2排出量を2010年度には2000年度比で18%削減。生産拠点におけるCO2排出量については、2010年度に2005年度に対して7%削減(生産1台あたり)という当初目標を大幅にブレークスルーし、19%の削減を達成。この結果、期間中に生産台数は増加したものの、2010年度のCO2総排出量は2005年度とほぼ同じ水準を保つことができたと報告。
そして今回のNGP2016では、「低炭素化」「再生可能エネルギーへの転換」「資源の多様化」という3つの分野に焦点を当てて取り組むことを表明。この達成に向けては、毎年の基礎研究及び先行開発予算の約7割を環境技術開発に投資する計画であることも明らかにした。この具体的な数字については、後に担当の山下副社長から「(6年間の総額は)3000億円を上回る」というフォローもあった。

世界の産業界が直面する課題として、人口増にも触れた。国連の予想では、2050年に世界の人口は現在の70億人から90億人に増えて、都市人口はその7割に達する推計を披露。間違いなく天然資源の需要や、工業・農業の生産、エネルギー需要が増加し、2035年には中国とインドの2カ国で世界の総エネルギー需要の3分の1を占めるという有力機関の見込みも明らかにして、NGP2016がそれらの状況を踏まえた上での戦略であると述べた。

 

ブルーシチズンシップの他領域にも触れる

ここから一度、ゴーンCEOはCSR活動についての話に戻る。今では日産が売上高で世界50位以内に入り、世界のブランドランキングトップ100に名を連ねていることから、これまで以上に社会低責任を担うことが求められていると自負。その一環であるブルーシチズンシップでは、サステナビリティの他にモビリティとコミュニティという領域も重点分野に掲げていると説明。

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日産は世界中のユーザーに、安全で信頼性の高い手頃なモビリティを提供することに取り組んでいると述べた。日産車がかかわる死亡・重傷者数を2015年度までに1995年度比で半減することを目指していたが、実はこれを2009年に(6年も前倒しで)達成。現在は2020年度までに、さらに半減させる高い目標に向かって活動中で、最終的には死亡・重傷者数を実質的にゼロにすることが究極の目標だと宣言した。

今年度末までには「オールアラウンド・セーフティ・シールド」と称する、全部で9つの安全技術を商品に投入する予定だともコメント。フロント・コリジョン・ワーニング(前面衝突警報装置)や業界初で話題を呼んだアラウンド・ビュー・モニターについては、さらに進化させるとともに、適宜採用車種を拡大していくと表明。さらにリヤ・カメラ・マルチセンシングシステムを2012年に商品化する予定と述べた。またリーフが電気自動車として初めて、米国高速道路交通安全局の安全評価と欧州衝突安全性能試験評価で5つ星を獲得したことも報告された。

コミュニティの領域での社会貢献活動についても、ゴーンCEOは触れた。東日本大震災について、日産は義援金の拠出に加えて、従業員からの寄付には会社が同額を上乗せするマッチングギフト制度を採用。そして車両提供では4WDのパトロール50台をNGOに寄贈し、ガソリン不足に悩む被災地にはリーフ65台を無償で供与。そして延べ1200人以上の従業員が被災地でボランティア活動を行ったことを誇らしげに報告した。

 

ゼロ・エミッション車で首位の座を維持

さて、これからはNGP2016の具体的な目標4つについてのゴーンCEOの発言をお伝えしていこう。まず最初は、「日産パワー88」でも表明した「日産とルノーで2015年までに累計150万台のゼロ・エミッション車を販売する」という計画についてだ。すでにリーフは累計1万5000台超と、現時点で電気自動車として最高の販売台数を誇っている。しかしながら日産は今後もリーダーの座を維持するべく、2016年までに少なくとも3車種の新しい電気自動車を発売することを改めて表明した。

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燃料電池車については、新たに戦略的協力関係を築いたダイムラーとともに開発していくと述べるにとどまり、質疑応答でより具体的な内容を記者に問われた際も「現時点で発表できるものはない」と突っぱねた。逆につい先日発表した最新の燃料電池スタックについては、「従来型の半分のサイズであり、画期的な技術です」と語った。

バッテリーの開発、リサイクル、住宅・工業用の蓄電池、電気自動車のエネルギーを他の電力系統に供給する技術については、日産がリーダーシップを発揮できる分野であることを強調。ルノーとのアライアンスで、2015年までに年間50万基のバッテリー生産能力を確保し、業界をリードしていくとコメント。昨年7月に住友商事と設立した合弁会社で太陽光発電とリチウムイオンバッテリーを組み合わせ、その電気をリーフに充電するシステムを開発したことを、100%ゼロ・エミッションの自己完結型と誇らしげに述べた。

 

企業平均燃費の35%改善を目標に

2番目の重点活動としては、日産のラインアップ全体で“業界をリードする燃費”の実現を挙げた。まずは2009年のキャシュカイ(国内ではデュアリス)以降、CO2排出量が140g以下の「PURE DRIVE」モデルの累計販売が87万台に達したことが報告された。

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さらに興味深いのが、ハイブリッド路線の拡大・充実だ。フーガに搭載されたデュアルクラッチコントロール方式を採用した新たなハイブリッド車の投入と、2013年デビュー予定の前輪駆動ハイブリッド車は既定路線。そして2015年に、独自技術を採用するプラグインハイブリッド車を発売することも明らかにされた。

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燃費向上にはCVTが重要なキーワードになる。日産では1992年のCVT投入以来、2016年度までに累計2000万台のCVT搭載車を販売する計画だ。また来年3月からは次世代エクストロニックCVTが実車に搭載されてデビューすることも報告された。

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軽量素材導入による燃費向上効果も見逃せないところだが、日産では現在、世界初となる超高張力鋼板を開発中で、2013年には市販モデルに採用される予定だ。これにより最大15kgの軽量化が実現し、環境負荷の低減だけでなく、運動性能の向上にも大きく寄与する見込みだ。

こうした一連のピュア・ドライブ技術の導入で、NGP2010の基点となる2005年度に対して、日本・中国・欧州・北米で販売する日産車の企業平均燃費(CAFE)を、2016年度までに35%改善することが目標だとゴーンCEOは述べた。

 

大手の中では最少の炭素排出量が最終目標

3つ目の目標は企業の事業全体における炭素排出量(カーボンフットプリント)の最少化の促進だ。エネルギー消費の継続的な改善の積み重ねに加えて、再生可能エネルギー活用の拡大が求められることは必至で、日産でもすでに導入済みのスペインでの太陽光発電、イギリスでの風力発電に続く、新たなステップを踏み出す可能性を示唆した。

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もうひとつ、コンパクトな塗装工程をこれから新設する世界中の工場で順次採用していくことも表明。これらの努力により、2016年度には2005年度に対して、1台あたりで平均20%のCO2排出量削減が新たな目標として設定された。この対象範囲は生産拠点に限らず、物流やオフィス、販売会社までが含まれているとのことだ。

 

新車における再生材料の利用率を25%にロックオン

最後の重点項目は、なかなかに冒険的だ。おそらく自動車メーカーとしては初めてのグローバル規模の目標設定で、再生材料の利用率を25%に押し上げることを宣言。NGP2005で達成した95%という数値はあくまで可能率に過ぎないが、この“利用率”となると俄然シビアになってくる。

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日産では独自の“クローズド・ループ・サイクル”の仕組みを推進することで、素材の寿命を延ばし、同じ材料を繰り返し使えることを目指す。鋼材、アルミ、樹脂などの再生・選別の技術を推進することはもちろん、レアアースの使用量削減なども目標のひとつになる。

日産の追浜工場ではすでに昨年4月から、バンパーの回収とリサイクルに着手。工場と販売会社から回収した使用済みバンパーから樹脂を再生している。加工した樹脂はすでに13万本ものバンパーに生まれ変わって、リーフを含む新車に使われているとのことだ。

 

質疑応答では円高への危機感を表明

最後に「NGP2016は日産パワー88と補完し合うアプローチ」と、環境への取り組みの重要性を強調した上で、「優秀で勤勉で、やる気にあふれる世界中の日産従業員の力で必ず達成できる」と述べて、ゴーンCEOのワンマンショーは終了した。

 

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↑フォトセッションではリーフに充電のポーズを

その後の質疑応答の模様は、すでにいくつかは記事中でのご報告したが、ハイブリッド車の開発で後手に回っているのではという問いには、「決してそうは思っていない」という強気の姿勢を見せた。しかしながら、昨今の円高については「本当に危機感を感じている」と、近い将来の空洞化(生産の海外移転)の可能性もにじませていたのが印象に残った。

 

文:編集部 石田 徹

 

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日産自動車公式Webサイト

 

 

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