ライバルなのか? スズキ・スイフトと日産マーチを乗り比べ

マニアック評価vol14
比較することで、より個性が際だつ2台

カラミ

日産マーチとスズキ・スイフト。どちらも世界中で人気を得ている日本製の数少ないワールドカーだ。奇しくもこの2台は、そろって2010年8月にフルモデルチェンジを行った。エンジンはどちらも1.2リッター、ミッションはジャトコ製の同タイプのCVTを積む。

そんな似たパッケージの2台ではあるが、現車を乗り比べてみると、どのような違いがあるのだろうか? 9月中旬に開催された新型スイフトの試乗会に新型マーチ(最上グレードの12G)を持ち込み、比較試乗をしてみた。新型スイフトも最上グレードのXSで、2台とも新車価格は140万円台後半とほぼ同じである。そこでわかったのは、この2台の持つキャラクターが、まったく異なるというものであった。

スポーティな走りのスイフトとエコなマーチ

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↑マーチはアイドルストップがついてエコがキーワード。(右)はスイフトのエンジン。スポーティさがポイント。

スイフトの試乗会で用意されたステージはワインディングだ。3気筒エンジンのマーチは低速が予想以上に力強いのは低速重視の狙い通りで、回転をあげていくほどに振動が減っていく。4気筒エンジンのスイフトは、静粛性がマーチよりも高く、フィールもスムーズだ。スイフト67kW(91PS)、マーチ58kW(79PS)という12馬力のカタログ値の差は感じる。

また、スイフトのCVTは、アクセル操作に対してリニアに加速するようにチューニングされていた。つまり最初にエンジン回転をあげて、その後に車速をあげる、いわゆるCVTならではのワンテンポ遅れた加速の方が加速タイムは良いのだが、スイフトはフィールを優先したという。逆にマーチは、いかにもCVTという加速フィール。これは効率を優先するマーチらしさの一面なのだろう。

そのCVTを採用している2台の燃費だが、マーチにはアイドリングストップ機能があり、10・15モードはスイフト23.0km/L、マーチ26.0km/Lと、マーチのほうがいい。また、ついつい飛ばしたくなるスイフトとアイドリングストップがあるマーチでは、リアルワールドの燃費の差はもう少し大きくなるだろう。今回、スイフトは試乗会のため実燃費をチェックできなかったが、マーチはこれまでのデータによれば、一般道や高速、渋滞を交えてもコンスタントに18〜20km/Lの実燃費で走り、ハイブリッド車と同等の実力を持つ。

ワインディングでのスイフトのハンドリングは、コーナーに飛び込んでステアリングを切り込めば、機敏にノーズをイン側に向ける。ヨー応答に早く対応するために、可変ギアレシオ・ステアリングを新たに採用したというのも納得の俊敏さだ。

装着されるブリヂストンのTURANZA ER300 185/55R16は、安心感充分に応えてくれる。しかも、路面の凹凸をいなす当たりのよさも悪くない。さすがレグノ・シリーズの一員。ある意味、このクラスのクルマに履かせるタイヤとしては、非常におごったものだ。

マーチに与えられたタイヤは、ファルケンSINCERA SN831 165/70R14。エコなスタンダード・タイヤであり、レグノ・シリーズと比べればグリップレベルは一段低い。またステアリング操作に対するクルマの動きはスイフトに比べて穏やかである。路面の荒れた場面などを走るときも、存外にフラットな姿勢を保ってくれたのが好印象だ。従来型よりもショックアブソーバーの作動領域を広げ、大人向けのセッティングにしたのが効いているのだろう。つまり、誰もが安心して運転できるような優しい配慮をクルマがしている…そんなキャラクターだと感じた。

見た目品質への考えが垣間見えた

新型マーチを前にすると気付くのは、いわゆる見た目品質が従来とは異なりいまちだ。フロントバンパーとボンネット、フェンダーとドアのパネルなどの隙間が日産車としてはやや大きい。それが意味するものはワールドカーとしての重要なプライオリティは、そこにないと判断し、かわりにコストを優先したのではないだろうかということ。

一方、スイフトのボディ・パネル間の隙間は非常に狭い。エントリーカーというよりも、ワンランク上のクルマを思わせる。「ハンガリーで生産しても、日本と遜色ないクオリティのものができる」と、スズキの関係者は胸をはる。つまり、こちらのワールドカーは、日本と同品質という部分を大切にしようと考えているのだ。

ちなみに、スイフトのエクステリアは一新されているが、一瞬、「本当に変わったの?」と思うほど、旧型と似ている。これはニューミニなどでも利用する手法で、面構成を変化させることで、フレッシュさを維持する狙いがある。

テーマに沿って異なる個性を見せる室内

スイフトは黒一面の室内に、シルバーのパネルの装飾が入るインパネだ。ステアリングはレザーであり、パドルシフトが装着されている(最上グレードのXSのみの装備)。小さな窓から外を覗き見るというウインドウからの眺めはスポーツカー・ライクなもの。どこか“走りの良さ”を予感させる。

フレンドリーを謳うマーチのインテリアは、曲線を多用したもで、カチカチと気持ちよく回わるエアコンのルーバーや、装飾の入ったメーターまわり、メッキされたインナードアハンドルなど、ドライバーが直接触る部分の品質感は高かった。つまり、力を入れるのはユーザーが気にするであろうポイントに絞ったという見方もできる。運転席からの眺めはフロントウインドウが上下に大きく、サイドの窓も大きいため、斜め後方の視界も良好。外光もたくさん入ってきて開放感に溢れている。フラットかつ後下がりのルーフのスイフトと比べ、アーチを描きつつもルーフ後端が跳ね上がるシルエットを持つマーチは、室内のヘッドクリアランスは広かった。

エクステリアからインテリア、そして走りまでを比べてみると、マーチとスイフトは異なった方向性を目指していることがよくわかった。コンパクトカーとしては広い室内を備え、使いやすさと高い環境性能を調和させるマーチ。先代の“走りの良さ”という特徴をトコトン磨きこんだスイフト。どちらも全方位的な優等生を目指すのではなく、良いところを伸ばし、割り切るところは割り切るというスタンスが見える。

BRICs諸国の著しい経済成長をバックに拡大するコンパクトカー市場には、日欧韓だけでなく、中国メーカーの存在もあなどれないものになっている。そんな熾烈なワールドカーのシェア争いでは、ライバルたちに埋没しない強い個性(=ユニークセールスポイント)が必要だ。そういう意味で、新型マーチとスイフトは、存在感を放っていると言っていいだろう。

文:鈴木ケンイチ(AJAJ日本自動車ジャーナリスト協会)

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