三菱の1トン積みトラック「トライトン」に乗ることができた。12年ぶりに国内導入が決まった新型トライトンは発表と同時に注文が殺到したということで、その期待値の大きさが伝わってくる。
関連記事:三菱 1トントラック「トライトン」の国内販売を開始。ブランドアンバサダーにタレントのヒロミを起用
登録は1ナンバーの普通貨物という商用のトラックなのだが、見たとおりカッコいい。このデザインに惹かれたユーザーも多く、働くトラックとしてというユーザーもいれば、ライフスタイルからのアプローチで惹かれたという人も多いと思う。受注の88%が「GSR」の上級グレードを選択していることからも、ライフスタイル系に人気なのではないかと想像する。
さて、試乗できたのは富士ヶ嶺オフロードコースとその周辺の一般道というシチュエーション。オフロードコースは急斜面や岩場、そしてモーグルエリアなども揃っているので、テストコースのイメージで走行できる。つまり、非日常のロケーションであり、トライトンの走破力を実体験できる場所というわけ。
一般道は富士の樹海を走るルートで、40〜50km/hで走行する一般道だ。ただし舗装状況は必ずしも綺麗な舗装ばかりではなかったので、実用としてどうかという判断はしやすいルートだった。
モデル概要
まずはトライトンのアウトラインを確認したい。グレードは2タイプでエントリーの「GLS」と上級グレードの「GSR」。GSRという名前に反応する人はランサーGSRなど三菱の世界観が蘇ったのではないだろうか。ボディサイズは全長5360mm(GLS:5320mm)、全幅1930mm(GLS:1865mm)、全高1815mm(GLS:1795mm)となっていて、大型SUVをさらにひと回り以上大きくしたサイズになる。ボディタイプはダブルキャブの4ドア5名乗車というラインアップだ。
エンジンは2.4Lのディーゼルターボ(4N16型)で、150kW/470Nmという大トルクを持っている。国内ではディーゼルのみだが、海外ではガソリンエンジン搭載モデルもある。ちなみに150カ国の国と地域で販売しているモデルだ。そのエンジンに6速ATを搭載し2WD/4WDの切り替えが可能のトラックだ。
ドライブモードは7つのモードがあり路面状況によって切り替えることができる。また、スーパーセレクト4WD-Ⅱ(SS4WD-Ⅱ)は4WD性能を変更するモードで、合わせて搭載している。そのSS4WD-Ⅱは、4つ制御変更があり、2Hはリヤ駆動、4Hはハイスピードの高速道路等や雨などの時に。4HLcは砂地や泥濘地、深雪などで。そして4LLcは急勾配や岩場などで使うモードになる。
ドライブモードはNormal、Eco(2H)に加えて、Gravel(4H)、Snow(4H)、Mud(4HLc)、Sand(4HLc)、Rock(4LLc)といった組み合わせで、あらゆる路面に対応できるモードを備えているわけだ。もちろんヒルディセント機能も搭載している。
オーフロードコースでの走破力
富士ヶ嶺オフロードコースでは、ドライブモードやSS4WD-Ⅱの切り替えを行ない、走破力を試すことができた。最大で23度の急勾配がある試乗コースでは、すべて4Hで走り切ることができるほどハイレベルなものだった。この4Hはセンターデフがフリーの状態なので、タイトコーナーブレーキング現象は起きない。そして2Hと4Hの切り替えは80km/hまでであれば走行中でも切り替えることができ、急な豪雨になっても停車せずに対応できる。このセンターデフがフリーになる構造は三菱独自の技術ということだ。
また4HLcはセンターデフをロックするモードで、こちらは一旦停止してニュートラルにしてから切り替えをする儀式が必要だ。もちろん、センターデフがロックされることで悪路での走破力が高まることは言うまでもない。そして4LLcでは岩場の登りやモーグルで試したが、いとも簡単にクリアしていく。
ヒルディセントは5km/hから対応し、アクセル、ブレーキの操作が自動になりステアリング操作に集中することができる。途中ブレーキを踏んでも解除されることなく安心して使える。またアクセルを踏めばその車速に自動で変更されるので、ストレスがない。そして多くのオフロードモデルのヒルディセントは10km/hからの対応というモデルが多いので、トライトンのアドバンテージとなる機能だ。例えばスーパーの緩いスロープに雪が乗っているような状況でも安心というわけだ。
アプローチアングルはGSRが29.0度でGLSは30.4度。デパーチャーアングルは共に22.8度で、腹打ちしない、亀にならないためのランプブレークオーバーアングルは23.4度という角度をそれぞれ持っている。特にアプローチアングルではフロントバンパーが当たってしまうとタイヤの接地ができなくなるため、せっかくの4WD性能が発揮できないため、注意して開発したという。
トラックに初搭載したAYC
トラックだけどSUV並みの乗り心地と運転のしやすさ、静粛性をもつモデルを目指して開発されたのが6代目のトライトンだ。ボディはフレーム構造でリヤサスペンションにはリーフを採用しており、このあたりは商用トラックとしての必然になるが、それをSUVレベルに引き上げている。
一般道の試乗では舗装が綺麗な場所であればSUVと遜色ない乗り心地になっている。しかし舗装の悪い場所ではトラック独特の揺れ方をする。SUVに慣れた人であればその揺れ方は新鮮であり、トラックを長く乗っている人には乗用車的に感じる乗り心地だと思う。
独特の揺れ方というのはフレームとボディの間はブッシュを介しているため、入力からの減衰がモノコックのSUVとは異なるわけで、感じ方はどのクルマと比較するかによって印象は異なるだろう。ただ、一般的なトラックのイメージではなく、SUVの乗り心地に近いイメージになるはずだ。
そしてハンドリングではEPSを採用し、車速感応型制御なので、低速では軽く、高速では手応えのあるフィールに仕上げてある。そしてセンタリングもしっかりと出してあり、こうした点でもSUVライクなステアフィールと言える。一方操舵フィールは鷹揚でゆったりとしたレスポンスに仕上げている。これは悪路走行でのキックバックや荷台が重くなった時を想定しているためで、ここはトラック向け仕様としているのだ。
トラックに初搭載したAYCにも注目。ランサーで培ったAYCをトライトンに搭載した。アクティブ・ヨー・コントロールは車両の旋回性能を上げる機能で、左右の車輪速と操舵角のデータをセンシングして旋回ヨーを発生させている。そのためμの低い路面でもアンダーステアが出づらく、スポーツドライブも可能になるのだ。近年はADASを搭載しているため、ブレーキ制御で車線逸脱をコントロールしているため、その領域で背反があり、制御プログラムを作る上で苦労したということだ。
SUVレベルのエクステリア&インテリア
トライトンの外観は魅力的だ。分厚いフェイスに水平基調のエクステリアデザイン。そしてボディの大きさも相まって力強さやタフさを感じさせ、乗ってみたい衝動にかられる。GSRには黒のオーバーフェンダーが装備され、GLSとは見た目で大きく異なっている。このあたりは好みもあるが働くクルマとしてのポジションもしっかり意識したラインアップというわけだ。
インテリアにも驚く。まさにSUVと同等と言えるレベルの内装であり、ソフトパッドが惜しみなく使われており、「商用」、「トラック」、「安っぽい」といった用語が脳裏に浮かばない。コクピットはまさに飛行機をイメージさせ、整然と並ぶスイッチ類にも懐かしさがプラスされて惹きつけられる。
スイッチの大きさも手袋をしたままでも操作ができる配慮からサイズ決定されており、SUVライクでありながらトラックであることを忘れていない。
キャビンスペースは大人5人が乗れる広さがあり、運転席のシートスライドも大きく取れる設計になっている。高いシート・ポジションからの眺めもよく、視界良好だ。細かいところではドリンクホルダーやUSBのAタイプ、Cタイプが用意されていたりと、乗用車ライクな装備は長距離移動には嬉しい装備だ。
トラックの機能
そして最大の特徴でもあるのが荷台だ。本来の姿は1トンの車載ができる商用トラック。そのカーゴスペースも実用性を重視した設計で、約1.5m四方の荷台にはJIS規格のパレットがそのまま載せることができるので、フォークリフトからダイレクトに車載できる。
荷台は商用としての実用性を高めた扱いやすい工夫がたくさんある
荷台にはインナーフックを低い場所に設置したり、カーゴスペースを自在に分割できるように溝が切られていたり、GLSでは水抜き構造で作られている。もちろん、汚れにも強く簡単に水洗いできるように加工されているのだ。
このように商用としての実用性はしっかり担保しつつ、アウトドアな用品を搭載して出かけるという使い方にもオシャレに対応するというわけ。
このように、トラックとしての実用性を備えながら、長距離移動、長時間移動も快適に過ごすことができるキャビンと乗り心地が提供され、とてもトラックとは思えない。また乗用利用できることからもライフスタイルからのアプローチで人気になることに頷ける。そして、あり得ない非日常の環境であっても高い4WD性能によって走破し、どんな僻地にも辿り着ける安心感を持たせ、頼もしさも感じる。これがトライトンの魅力なのだ。
価格