2015年6月18日に「アウトランダーPHEV」と「アウトランダー」のビッグマイナーチェンジを発表したが、試乗の機会がありテストドライブをしてみた。すると、このガソリン車とPHEVでは意外な裏事情があることが分かった。<レポート:髙橋 明/Aikira Takahashi>
フロントマスクが大きく変わり、アウトランダーの印象も随分と精悍な印象に変わったというニュースはこちらでお伝えしている。一見フェイスリフトだけにも見えるが、このニュースにもあるようにボディにも手が入り、大幅な変更がされていることが分かる。
どういうことか?といえば「正直なところ環境車であるというポイントに絞って開発した先代は、欧州で予想以上に人気になりました。それで、欧州のユーザーからは『もう少しドライバビリティが…』という声を頂き、環境車であってもクルマとしての魅力をきっちり造らないと、欧州では厳しい評価になってしまうことが分かりました」とミツビシ開発本部の上平真氏が言う。
そのため、さまざまな箇所に手を入れることになり、開発チームとしてはフルモデルチェンジ等しいくらいの改良を加えたということになったわけだ。そのビッグマイナーチェンジしたアウトランダーに試乗してみると、意外にもPHEVとガソリン車とでは違いがあり、コンセプトやライバルの設定も異なっていることがわかったのだ。
試乗レポート
まずは、そのフィーリングだが、ガソリン車は24Gグレード。乗り心地はソフトで、穏やかな印象だが、シートはサイドサポートもしっかりありスポーティな印象を受ける。ハンドリングでは最初の切り始めが穏やか、しかし切り足しの部分では初期応答時より速く回頭する。
ミッションはCVTを搭載し、パドルシフトを装備。パドルを使うとステップATのようにレスポンスがあり気持ちいいが、アクセルの初期反応が早びらきに反応する。エンジン音はアクセルを踏み込んだ時に多少聞こえるが、だいたいは静かな印象だ。ちなみに装着タイヤはトーヨーブランドでサイズは225/55-18。
というのがおおまかなインプレッションなのだが、気になるのは、過敏な反応と穏やかで大人しい印象の両方の顔を持っている点だ。このあたりを前述の上平氏に聞くと、開発はPHEVを中心に行ない、車両の価格からもライバルを欧州プレミアムブランドとして打ち出すために、しっとりした乗り心地、滑らかに走る静粛性など必須要件を満たすために改良を加えたという。一方ガソリンは量産SUVモデルがライバルであり、クラストップレベルを目指す目標になっているという。
その結果車両重量でPHEVとガソリンでは300kgも異なり、PHEV用に改良したものがそのままガソリン車で使えるということにならず、専用にチューニングする必要があったという。ちなみにガソリンの最軽量モデルは1480kg、PHEVの最重量モデルは1880kgありその差は400kgもある。
そのため、ハンドリングはもちろん、乗り心地も操舵フィールもすべて「別なクルマ」として考え改良をすることになるわけだ。したがって、ガソリン車の目標はクラストップレベルを目指すものであり、ライバルは国産SUVになるだろう。しかしながら、できる限り共通部品は多く利用していかなければ、コストばかり跳ね上がってしまうのは言うまでもない。
こうしたことを踏まえると、ガソリン車のインプレッションは理解できる。クラストップレベルの静粛性があり、乗り心地のソフトな印象もよいベクトルだ。ただ、ステアリング特性だけは制御の修正が望ましいが、これもコラムアシストのサプライヤーを変更したことに起因するというコメントもあり、修正対応は追々やってきそうな印象を受けた。またアクセルレスポンスや操舵に対する車両の動き、というポイントでは俊敏さとダイレクト感といったフィーリングの世界で味付けし、それは開発者の意図を汲んだ仕上げになっているとも言える。<次ページへ>
一方のPHEVモデルはメインに改良が加えられたモデルで、ライバルはプレミアムクラスになる。特に欧州では価格面からもBMWやアウディ、メルセデスなど競合する価格帯であり、環境車でありながら、プレミアムな資質を持っている必要性があるというわけだ。
こちらの試乗インプレッションとしては、申し分ない。プレミアムクラスをライバルと公言するだけに、静粛性も高く、なめらかに、しっとりと走る。さらにEV走行時のゴージャス感やクルマの剛性感もあり、レベルの高い、また、前期モデルのクラスを超えた領域へ到達していると思う。
コラムアシストの制御では、ガソリン車と同等なのだそうだが、舵角によって応答速度が変わってしまうという印象は薄い。「その傾向は同じです」とい前出の上平氏は言うが、フィールとしては分かりづらいので特に気にはならなかった。逆にセンターの座りがしっかりあり、これはガソリン車も同様で長距離、高速連続走行でも楽に運転できるだろう。
このフィーリングの表現で紛らわしいのはダイレクト感という表現だ。ステアリング操舵でもアクセル操作でも、間髪いれずに反応するのは「ダイレクト」でいいが、不要な入力は感じさせないよういにすることが「ダイレクト感」だ。
例えば、ステアした状態で凸凹を乗り越えると、ハンドルに直接凸凹の入力が伝わる。これをダイレクト感とは言わない。逆にこの振動はないほうがベストであり、ダイレクトな入力を感じさせない方向にチューニングが必要だ。
アクセルレスポンスでもリニアに反応するほうがダイレクト感はあり、スロットルの早びらきなどは、ダイレクト感を超えた人工的な味付けを感じてしまうものだ。つまり、意思のとおりに動くものがダイレクト感であり、そこには意思とは関係のない入力を省く性能も持っている必要がある。
さて、インテリアではPHEVをプレミアムクラスと勝負させるために、数々の装飾や素材変更などがあり、豪華だ。これは是非ディーラーでご自身の眼で確かめて欲しい。PHEVはスポーティさと豪華さが上手に混在させてあり、きっと好印象を持つだろう。また、ガソリン車はクラストップレベルの仕上がりの良さで、満足度は高い。PHEV用に改良した恩恵がガソリン車に上手く活かされている印象だった。