さまざまなタイプの4WDを持つミツビシの基本的な考え方は、ミューの低い状況で最適な走りができること、オールホイール・コントロール理論をベースにしている。それは四輪の接地荷重、駆動配分、スリップ配分などを精巧に制御するという意味で、そのため、クルマのキャラクターや大きさなどの違いにより、搭載する4WDシステムを変えることや制御箇所の最適化をしている。その制御は全部で9パターンもあり、例えばセンターデフ付きの機械式4WDと電子制御のオンデマンド式4WD。システムそのものも違うし、それぞれにLOCKモードはあるが制御するポイントも異なる。今回はそのミツビシのSUV系ラインアップを雪上試乗する機会があり、制御の代表的なシステム、制御を体験してきた。
◆アウトランダー・ガソリンモデル S-AWC(電子制御4WD)
アウトランダーのガソリンモデル。これはオンデマンド式4WDで、トルクの必要な場面で必要な駆動力が配分されるというタイプの4WDだ。他の自動車メーカーも含めFFベースのモデルで多く採用されている最近のトレンドだ。
システムとしては前後の駆動配分を電子制御カップリングで行ない、フロントは電子制御クラッチ(Active Front Differencial)で左右の差動が制御される。カップリングはTia1のJTEKT(ジェイテクト)のITCCシステムやGKN製などがあり、ミツビシでもこれらのサプライヤーから部品を購入し、制御をミツビシで行なうというやり方をしている。
前後のトルク配分は100:0、0:100まで可能だが、実際の配分はメーカーの考え方によってさまざまな配分になる。さらに横滑り防止のASCがあり、4輪の独立ブレーキ制御とエンジン出力の制御によってコントロールしている。またASCをオフにすると同時にトラクションコントロール制御もオフになる。走行モードとしては4WD-Eco、Normal、Snow、Lockの4つのモードがある。
4WD-Ecoはフロント100:リヤ0の駆動配分で、摺動抵抗などできるだけフリクションを避けた、いわゆるFF走行をするエコモードだ。だがS-AWCの能力として、常に4輪の状態をセンシングし、ドライバーの操作やクルマの挙動を見て、必要な場合はリヤに駆動力を掛けるモードとしているため、純粋にFF走行をしているのとは少し違う。実はアウトランダーの前期モデルでは100%FF走行モードだったが、マイナーチェンジ後、このように変更されている。さらに、エコモードでは、ブレーキのつまみ具合なども常に稼働している。そのため、コーナーへの入りやすさや、そのあとのアクセルを開けたときのトラクションなどでもモード違いによる差が出るということになる。
NORMAL、SNOW、LOCKはセンシングしている箇所の介入のタイミングが異なる、という理解でLOCKを選ぶとトラクションが最大になるセッティングだ。ただ、機械的なロックモードではなく、あくまでも電子制御している状況に変わりはない。メインはリヤへのトルクを最大に流す設定になり、エコモードとは反対のイメージだ。雪上では当然リヤの駆動力が増すので、曲がりにくく滑りやすいという症状がでる。
モードの違いは、ターンインの入り易さや滑った時のグリップが戻るまでの時間の差であったりする。これはASCをオフにした場合のケースで、オンの状態だとクルマを思った通りに動くという期待値に近いのがやはりSnowモードで、Normalだとドライバーの意図に対するレスポンスが遅くなるイメージだった。
これはガソリンと同じ名称のS-AWCだがシステムはまるで異なる。ガソリンモデルのS-AWCではフロントデフが電子制御クラッチ式差動制御。前後の駆動配分には電子制御カップリングを利用している。PHEVでは前後の駆動配分は、それぞれ専用のモーターが担っている。つまりフロント、リヤにそれぞれ駆動用モーターがあり、フロント駆動用モーター、リヤ駆動用モーターがそれぞれの駆動を担当しECUで制御する。そして、左右の差動はブレーキ制御という仕組みになっている。
エンジン制御のECU、ASC/ABSユニット、フロントモーター/ジェネレーターを制御するパワードライブユニット、リヤのモーターコントロールユニットのそれぞれをまとめて制御しているのがPHEVのECUで、それぞれの制御ユニットのデータから最適な走行シーンとなるように制御されているわけだ。ちなみにセンサー情報としてはハンドル角、ヨーレート、前後加速度、横加速度、四輪車輪速など30個のセンサー情報を得ている。
前後のデフはいずれもオープンデフを装備。走行モードは、NormalとLOCKの2モードで、常時4WD走行をしている。滑った時にリヤへのトルクを多めに掛けているのがLOCKモードで、ドライビングスキルがあればコントローラブルに感じる。Normalはどんなスキルレベルでも安定方向の制御で、制御の介入が早めにそして多く介入するので、安心・安全ということになる。
◆アウトランダーPHEV先行開発車
今回試乗できたモデルに、アウトランダーPHEVのプログラムだけを書き換えている先行試作車に試乗できた。ASCはオンとオフの両方+LOCKモードで試乗できた。
制御プログラムの書き換えとは、前述のPHEVのECUを変更するもので、前後駆動力配分の見直し、各制御のフィードバック制御と基本配分のバランスの見直しを行なうことで、モーターの持つ応答性の良さを最大限に活かせるような制御プログラムに変更している。基本配分バランスを見直すとクルマの素の状態がよくわかるので、見直すことでレベルアップできるとパワートレーン設計部の加藤智氏は説明する。
走行モードの中での違いとして、NormalのほうがLOCKモードよりリヤ寄りのトルク配分をしているという。それは、直進時はリヤモーターのほうが効率はいいので、リヤ寄りのトルク配分とすることで燃費がよくなるという理由もあるという。また、この先行試作車はターンインの入り易さは感じられるはずで、配分比をブラッシュアップしている結果だという。また、クリップに付くにしたがってアンダー傾向になるが、そこでのブレーキ制御も変更している。そして最後ターンアウトするときに配分比を適正化してコントロール性を上げていると説明する。
実際の試乗インプレッションでは、ターンインに関しては、路面のミューが低くなり過ぎて、氷板状に雪面が変化しているため、もはやタイヤのグリップ限界でのターンインとなるため、現行モデルとの違いをはっきり感じる取ることができなかった。逆にコーナー立ち上がりでは、ミューが低いためASCをオフ状態にすると、スロットルコントロールはしやすくなることは体験できた。ただし、これも2ラップ程度の試乗だったので、果たして現行アウトランダーPHEVより、明らかにコントローラブルになったとは断言しにくい。
◆パジェロ・スポーツ SS4-Ⅱ(スーパーセレクト4WD–Ⅱ)
国内未導入の新興国向け高級SUVで、タイ国などの富裕層に人気の車種だ。試乗車はディーゼル搭載車でガソリン仕様もラインアップしている。ドアを開けシートに座った瞬間に高級車であることを感じるほど、クロスカントリーのパジェロとはかけ離れた価値観を持っているモデルだった。
その高級車パジェロ・スポーツに装備される4WD システムはセンターデフを持ったパートタイム式で、2HモードではFR走行する。ミツビシでは「スーパーセレクト4WDⅡ(SS4-Ⅱ)」と呼んでいる。4WDを選ぶと4Hと4HLc、それとローギヤの4LLcの3モードがある。四輪駆動の切り替え電磁クラッチとトルセン・センターデフの切り替えで4Hではフロント40:リヤ60の比率で走行する。4HLcは、センターデフロックのことで、直結すると車両重量配分にほぼ比例する前後トルク配分になる。またリヤデフにはLSDではなくデフロック機構も持っている。ちなみに、フロントはフリーホイールハブ式となっている。
そしてミツビシ初の「オフロードモード」を搭載しているのもポイントだ。これは4WDモードの時、「GRAVEL」「MUD&SNOW」「SAND」の3モードで、スリップの許容範囲をコントロールしているモードだ。例えばSANDモードは空転させながら走行するような砂漠をイメージすると分かりやすいが、今回の雪上でSANDを選択しても、空転が多く、走行モードとしては適切ではない、という判断ができるほど明確にモード違いが分かりやすい。
◆パジェロSS4-Ⅱ(スーパーセレクト4WD–Ⅱ)
名称はパジェロ・スポーツと同様のSS4-Ⅱなのだが、異なるのはオフロードモードを持たないことと、センターデフがトルセンではなくビスカスカップリングであることだ。前後トルク配分としてはフロント33:リヤ67という配分で、センターデフを直結にすると、パジェロ・スポーツ同様、前後重量配分に比例した配分になる。したがって4WDモードではセンターデフを使った4WDは「4H」、センターデフロックをした「4HLc」の2モードとなる。
ミツビシは他にもランエボで代表されるAYCというアクティブ・ヨーコントロールシステムもあり、4WDではさまざまな方式を持ち、都合9パターンもシステムがある。クロスカントリー/SUV系と乗用車/クロスオーバー系、そしてスポーツ系と系統でシステムを使い分けているわけだ。
ミツビシは古くから4WD機構を導入しており、ノウハウも蓄積されている。それらをモデルごとに最適なシステム、最適な制御をすることで安心・安全な走りを約束するという姿勢だ。SUV系のラインアップが充実していく予定のミツビシの今後だが、都会での使い勝手を考慮したRVRの後継クロスオーバーモデルやコンパクトSUVのアッパーサイズSUVもリリース予定だという。そこには、モーターを使ったグレードも予想できるわけで、より低燃費でありながら、走破力も併せ持ったモデルがリリースされるということだろう。
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