2012年10月に発売された三菱アウトランダーの追加モデルとして、2013年1月24日に登場したアウトランダーPHEV。すでにこのクルマのインプレッションはお伝えしているが、クローズドのショートサーキット試乗であったため、一般道での試乗は今回が初めてとなる。試乗会場は神奈川県横須賀市周辺で、高速道路と一般道を使ってのテストドライブとなった。
これまでのプラグインハイブリッドといえばトヨタ・プリウスPHVが頭に浮かぶが、アウトランダーPHEVのイメージはハイブリッドというよりもレンジエクステンダー。EVカーの航続距離を伸ばすためにエンジンを搭載するのがレンジエクステンダーだが、アウトランダーPHEVはその要素が強いことを再確認させられた試乗だった。
試乗を前にしてまずは、アウトランダーPHEVの走行モードを改めて頭に入れておくことにした。このクルマには「EVモード」「シリーズ・ハイブリッドモード」「パラレル・ハイブリッドモード」の3つの走行パターンがあり、EVモードはいわゆる電気自動車と同じ走行モードで、電気モーターだけで走る。シリーズ・ハイブリッドモードはエンジンを充電用に使用し、駆動は電気モーターが行なう。つまりバッテリー残量が減ると、充電するためにエンジンを利用するということだ。そしてパラレル・ハイブリッドモードが、エンジンと電気モーターの両方で駆動するのだが、このパラレルモードがこれまでの概念と少し異なる。
プリウスPHVのパラレルモードは、エンジンがメインで走行し、モーターがアシストという仕組みだが、アウトランダーはその逆となる。つまり電気モーター主導で走行し、エンジンが駆動をアシストする仕組みなのだ。さらにエンジンは駆動をアシストしながら、ジェネレーターも稼動させ充電もしているのだ。
なおアウトランダーPHEVでパラレルモードになる条件は限定的だが、今回の試乗ではこの3つのモードを体験することができた。
EV&ガソリンで航続可能距離は約900km
まず市街地走行。常にEVモードで走行していたが、バッテリーの残量が減り、あるレベルまで低下するとエンジンが始動し充電を開始する。しかしながらエンジンは駆動はせず、あくまでも役目は充電だ。走行自体は電気モーターのパワーだけである。
ではエンジン駆動がアシストとして働くのはどのような条件なのか? バッテリーが満充電の際には120km/hまでエンジンのアシストはない。従って高速道路走行時でも、エンジン駆動によるアシストは行われないのだ。またバッテリー残量がある一定レベルまで下がるとエンジンが始動し充電と駆動を行うが、それも約65km/h以上の車速でないと駆動のアシストは行われない。試乗会ではエンジン駆動を含めた上記の3つのモードを体験するため、あえて満充電とせず1/3程度の充電状態で試乗が開始された。それでもセンターコンソールのモニターでエネルギーフローが確認できるが、エンジンが始動する場面はあっても、フロントタイヤを駆動する瞬間はなかなか訪れない。結局、一般道の走行では確認できず、バッテリー容量が少なくなった高速道路での走行で、ようやくそれを確認することができた。
とはいえモニター上で「エンジンで駆動している」と確認できても、ドライバーの体感的には何も変化がない。エンジンの始動と停止は走行中に頻繁に繰り返されていたが、かなり注意していてもまったく気づかないレベルだ。今回はテストということで、アクセルを全開に踏み込んだ場合には、エンジンのアシストが入るということなのでトライし確認してみた。しかし通常の走行でそんなシーンはまずあり得ないので、EV走行を続けるアウトランダーPHEVは、通常運行ではEVに限りなく近いモデルであることがはっきりと理解できた。
さて、こうしてアウトランダーPHEVのEV走行とレンジエクステンダーとしての走行を体験していると、妙なことに気がついた。アウトランダーPHEVのメーターには「航続可能距離」という表示がある。ガソリン車の場合は燃料が減って航続距離が短くなり、EVでもバッテリー残量が減るにつれて航続可能距離が短くなるのが当たり前だ。ところがアウトランダーPHEVでは、ガソリンを使いながらも、航続距離が伸びるという現象を目にするのだ。
距離を走っているのに、航続可能距離が増加する。これがどうにも妙な感じで、これまでの常識、概念とは異なるので、頭の中は軽い混乱をきたす。「走りながらも充電している」ということを柔軟に考えないと理解できない。少し未来のPHEVというクルマは、ドライバーの考え方にも新しい概念を要求する、というのは大げさすぎるか。
さて話を試乗テストへと戻そう。アウトランダーPHEVの航続距離は、EVでの走行可能距離は60.2km。プリウスPHVの26.4kmの実に2.2倍以上の走行可能距離だ。また、エンジンを使用したハイブリッド燃料消費率は18.6km/Lで、これは使い方次第でガソリンの消費は抑えられる。つまり、充電をこまめに行なえばエンジンの稼働率が下がり、燃料消費は抑えられるのだ。その場合のプラグインハイブリッド複合燃料消費率だが、67.0km/Lという数値になる。満充電&ガソリン満タンでの航続可能距離は897kmとなっている(いずれもJC08モード)。
自宅ガレージや駐車場など保管場所に充電設備があり、1回の走行距離が60km以下であればガソリンはまったく使わないことになる。ロングドライブの場合には、高速道路のSAなどに設置されている充電施設を利用し、制限速度内で走行していれば(当たり前か)、上り坂などの場合を除きエンジンは稼動しない。さらに減速回生もするので、実に効率的に電気エネルギーを利用できることになる。
なお高速道路などに設置される急速充電器を利用するには、アウトランダーPHEVに急速充電機能をオプションで追加する必要がある。これは世界中でEVはリージョナルヴィークル、シティコミューターとして捉えられ、充電は自宅や会社の駐車場など長時間保管する場所で行なうのが常識化している。出先で充電場所を探し、急いで充電するという発想はまったくない。従って、グローバルに販売するアウトランダーPHEVには、急速充電機能はオプションとなっているわけだ。
すでに国内で販売されたアウトランダーPHEVで、この急速充電機能を装着した割合は79%もある。街乗りなどの近距離ではなく、長距離ユースを目的に購入、つまりガソリン車の代わりに購入した層が多いことが分かる。こう書くと「また日本だけが…」とガラパゴス的な印象になるが、EV先進国の日本がある意味オピニオンリーダーでもあり、今後、EVはシティビークルという、現在の認識も変化する可能性もある。ただし今は補助金との兼ね合いもあり、急速充電機能が不要だとしても装備したほうがお得という面も影響しているのだろう。
ちなみにその他のオプション装備では、家庭用電気器具が使用できる100VのACアウトレット(1500W)は、64%が購入。アウトドアはもちろんのこと、万が一の災害時での利用も視野に入れているのだろう。人気のカラーはホワイトパール34%、次にテクニカルシルバー24%、ブラックマイカ22%、チタニウムグレー21%という順になっている。受注状況は2013年2月17日現在で5300台だ。
4輪の高度な制御技術はクルマの未来を変える第一歩
さて、アウトランダーPHEVの特長や特性は理解できたが、それ以外のクルマそのものの評価も行ってみよう。
アウトランダーPHEVの車両重量は1.8tで、重量物であるバッテリーは床下に収納されている。そのためラゲッジスペースは犠牲になっておらず、十分な容量を確保。またロールやヨーモーメントに対する悪影響を極力減らす工夫がされ、さらにEV走行が主体であるため、NVH対策も十分行われているようだ。
車内の静粛性は高く、始動したときでもエンジンの音は聞こえてこない。SUVという性格上M+Sのタイヤを履くがロードノイズも小さなものだ。またドライバー向けのインフォメーション機能では、現在の充電や走行状況を示すエネルギーフローが、センターのナビ画面とメーター中央の2ヶ所に表示される。ナビ画面の表示はチャージ方向の流れがアニメーションで表示されるが、一瞬での判断がつきにくい場面もある。これには慣れが必要かもしれないが、メータ中央の表示は簡略化されたイラスト動画なので、こちらは分かりやすい表示だった。
ハンドリングは、車高の高いクルマらしくゆったりとした動きをする。クイックないわゆるスポーティなハンドリングとは対照的なもので、クルーザー的とでも言えばいいのだろうか。EV走行主体という性格上、こうした味付けは上質、ゆったり、穏やか、などの形容詞が似合う。アジリティ、キビキビ、スパッと曲がる、などとは正反対の位置にいる。まるで高級車のようなフィーリングを味わうことができるが、使用速度域が高い欧州市場を考慮すると、もう少し座りのいいフィーリングがあった方がベターかとも思う。
パジェロやランサーエボリューションなどによって4WDの高い制御技術が蓄積されている三菱らしく、アウトランダーPHEVも高度な制御技術が投入されている。いわゆるフルタイム4WDなのだが、後輪へ駆動を伝えるプロペラシャフトがないためフルタイムという表現が正しいのかどうかと疑問に思うこともある。アウトランダーPHEVは常に前後のモーターで駆動して、条件によってエンジンがフロントタイヤの駆動をアシストする。そして前後のモーターは別々に独立して制御され、前後輪を駆動している。
さらに左右輪もブレーキを使って制御している。4輪のブレーキと前後モーター出力、エンジントルク制御を同時制御し横滑りを防止したり、各タイヤへかかる荷重をコントロールしている。このシステムをS-AWCと呼び、ABSとともに安全性を高めて、より安心で快適な走りを実現している。
ここまで細かく制御ができるのであれば、将来的にクルマのジオメトリー自体の考え方も変わってくるだろう。サスペンション形状も従来の形式にとらわれる必要もなくなり、さらにタイヤへの荷重コントロールも可能となる。最終的にはタイヤのグリップ限界もあるが、これまで以上にスポーティなモデルを開発することも可能だし、新しいコーナリングの概念が登場する可能性もある。
アウトランダーPHEVはこれまでにない近未来カーの具現化であり、単に化石燃料やEVなどの燃料技術にとどまらず、コーナリングなどクルマの未来を変えるその第一歩のモデルなのかもしれない。