【三菱ふそうトラック・バス】世界初、大型トラック用ハイブリッドシステム搭載 スーパーグレート エコ ハイブリッド誕生

三菱ふそうから2011年10月22日大型トラック用ハイブリッドシステムが発表された。長距離輸送用の大型トラック用としては世界初であり、同社のテストコースがある栃木県喜連川研究所で試乗も行われた。

三菱ふそうは、1937年(昭和7年)三菱造船からスタートしたトラック・バス専門のメーカーであるが、現在株式の約90%をダイムラー社が保有しており、現在は、グローバルに展開するダイムラー・トラック部門の一員である。今回発表されたハイブリッド車は、試験車両段階での発表であり、製品化される直前ということで、撮影が許可されず、また細かなスペックも公表はされなかった。やや発表を急いだ感じがあるが、冒頭にも書いたように、長距離輸送用の産業エンジンにハイブリッドシステムが投入されたのは世界初であるのは間違いない。欧州ではゴミ収集車のような、大型でも近距離で利用されるタイプではすでにハイブリッド化されたモデルもあるということだが、長距離輸送という点においてテクノロジーのブレークスルーが行われた部分でもある。

さて、その大型トラック用ハイブリッドだが、システムは同社キャンター エコ ハイブリッドに搭載されているパラレル式が同様に採用されている。ハイブリッドには大まかに3つの種類があり、シリーズ式、パラレル式、シリーズ+パラレル式があり、そのパラレル式が採用されているわけだ。

hybrid type

シリーズ式はモーターで駆動し、充電用の発電機エンジンを搭載しているタイプだが、この方式では大型トラックの場合、出力の問題などがある。また、シリーズ+パラレル式はデュアル方式とも呼ばれ、シリーズ、パラレルのいいとこ取りをしたもので、プリウスなどトヨタや高級モデルのBMWハイブリッドX6、メルセデス・ベンツMLハイブリッドなどがこの方式を採用している。しかし、部品点数の多さや制御の複雑さ、コスト面の問題もあることから選択するのは厳しいだろう。

パラレル式はエンジンとモーター兼発電機の両方で車両を駆動し、ベース車両の駆動系への変更が少なくて済むメリットがある。レイアウトはエンジン、モーター、変速機という順でエンジンとモーターの間にはクラッチを持つ。システムの制御は同社が開発した機械式自動変速機(INOMAT-Ⅱ)を制御するECUを兼用している。搭載されるバッテリーはリチウムイオンバッテリーである。

構造図

レイアウト

搭載されるエンジンはポスト新長期規制(国交省による2009年排出ガス規制。世界で最も厳しい排ガス規制)に適合している4M42T型ディーゼルエンジン(13L)に、極薄型のモーター兼発電機を専用に開発しているという。また、リチウムイオンバッテリーは可能な限り縮小し、当然ながら短尺車にも搭載されることを視野に入れているわけだ。そのため、ベース車に対する変更を最小限にとどめることが可能となり、コスト面での優位性もあるという。

近年の乗用車の燃費改善率では30%前後の数字が踊るので、10%という数字には驚きが少ないかもしれないが、全体の消費量を考えると、10%の燃費向上はとても大きな数字だとわかる。それは、燃料を50L消費するガソリン乗用車の燃費が30%されると、節約されるガソリンの量は15Lであるが、1000L消費する大型輸送トラックの燃費が10%向上すると100L節約できるという理屈である。この考え方は、100km走行するのに何L必要とするかという効率という面での捉え方ではなく、実際の消費量が削減できるという観点からの考えで、化石燃料の消費削減に大きく貢献していることがわかる。さらに、CO2削減問題にもこの考え方を当てはめてみると、大型輸送トラックは稼働率が極めて高く、年間平均15万kmも走行するのだから、現状の大型トラックより10%向上すれば大変大きな量の燃料とCO2削減につながることがわかる。

具体的には、車両総重量5tの小型キャンターハイブリッドのシミュレートでは年間走行距離が3万km程度で、年間CO2削減量は2tとなる。一方の車両総重量25tの大型トラックでは年間CO2排出量削減効果は11tにも及び、この長距離輸送トラックのハイブリッド化によるCO2削減効果は小型トラックの5倍以上ということだ。

効率という考え方というより、実際の削減量という考え方に基づいたものであるが、大型トラックの燃費やCO2削減を考えたとき、現時点の最も有効な手段は、やはりハイブリッド化と言えるだろう。しかし、一定速走行が多い長距離輸送用のトラックではエネルギー回生のチャンスが少ないなどの理由から、難しいとされている。
ハイブリッドシステムのポテンシャルとして考えた場合、小型トラックは発進・停止頻度が高いために、回生エネルギーを得られる機会が多い。一方大型トラックは高速走行が多く、車両総重量が大きいことから回生エネルギーが大きいと考えることができるというわけだ。走行条件を考慮し、乱暴な言い方をすれば、小型は小さな制動エネルギーが頻繁に繰り返された場合の捨てられたエネルギーと、大型は一回の捨てられる制動エネルギーがとても大きく、回生効率を変更さえすれば、双方似たような量のエネルギーを回収することが可能になるということだ。

三菱ふそうはこの問題に対し、より大きな質量を持つ大型トラックだからこそ、効率化が進めば、CO2の削減、燃料の節約にもつながり、その効果は大きい故に開発を進めている。実際、東名高速での実証実験では、市販車両のスーパーグレートと試験車両のスーパーグレート エコ ハイブリッドでは10%の燃費改善という結果が出ている。ちなみにエンジン本体は同じもので、試験区域は東名高速の東京から小牧の区間である。

エンジンベンチ
報道陣に公開されたエンジン・ベンチルーム。シートがかけられている部分はモーター部で、モーターの大きさが隠されている

この日行われた発表会では、スーパーグレート エコ ハイブリッドに同乗ができ、PCにつながれたモニターを見ながらテストコースを試走した。残念ながら試験車両ということで、運転はテストドライバーによるものだったが、フラットなテストコース内でも回生率が高くなるケースもあり、実用範囲にあることが分かった。

スーパーグレート エコ ハイブリッド
三菱ふそう・グローバルハイブリッドセンター長の石井源一郎氏

ハイブリッド化に対し、欧州と国内の相違

大型トラックにもハイブリッドの波が押し寄せていることは理解できた。かつて国内の乗用車でハイブリッドが出現し始めた頃、ハイブリッド化することで省燃費となり、化石燃料の消費を抑えることができることが叫ばれ、さらにCO2の排出量が減り、環境にもやさしい。ということが言われ始めた。デメリットとしては、システムが複雑であり、新たな部品を搭載しなければならないので、コストが上がってしまうということがある。もちろん、バッテリーの大きさや価格も、現在に至っても完全に解決しているわけではない。

そのような状況の中、トヨタからはプリウスが発売され、ホンダからもインサイトが発売され、いわゆる量販モデルへのハイブリッド投入という潮流が定着した。一方、日本よりやや遅れて欧州でもハイブリッドが出始める。それは国内とは異なり、BMW7シリーズや、メルセデス・ベンツのSクラスに搭載する手法がとられたのは記憶に新しい。

この展開の違いは、効率の捉え方の違いによると考えられる。欧州では新規のユニットを搭載することで高騰する車両価格を、比較的高級車であれば、そのシステムの価格を吸収しやすいと考え、さらに高級車には大型の排気量のエンジンを搭載しているために、同じパーセンテージの省エネが成立するとすれば、削減量としては大排気量のほうが、節約できる燃料の量は多くなるという理屈だ。これは前述した大型トラックのハイブリッド化の理屈と同じである。

だから欧州車では大型の高級車から新技術であるハイブリッドが投入され、節約する効率を高める狙いがあるわけだ。一方、国内メーカーは市場に出まわる車両の台数が多いのは高級車ではなく大衆車であり、その大衆グレードこそ効率よくすれば燃料もCO2もトータルでは高級車の節約量よりも多くなるという考え方が見えてくる。どちらが正しいということではなく、どこから手を付けていくのか?という点において考え方の相違が見え、興味深い。

さて、こうして、大型輸送トラックに求められるCO2の削減(2015年までに7.5%削減目標)や化石燃料消費の抑制、そして一定速度走行には不向きとされている大型車のハイブリッド化という問題に対し、三菱ふそうはブレークスルーをしたモデルを誕生させたと言える。

三菱ふそう・グローバルハイブリッドセンター(研究部門)では、今回発表したハイブリッドシステムをダイムラーグループのすべてのブランドのトラック・バスに共通なハイブリッドモジュールを搭載するきっかけとしている。そのため、このスーパーグレート エコ ハイブリッドをグループの新技術のプラットホームと位置づけ、さらに今後はエンジンダウンサイジング、空気抵抗、転がり抵抗など燃費削減相乗効果をも統合して行くことになる。そして、メルセデス・ベンツトラック、フレートライナーで開発されている大型トラックにもこのシステムを標準化し、またバス用としても搭載するとしている。

さらに今後は、環境に対する技術調和という観点で、ダイムラーグループ内(メルセデス・ベンツ、三菱ふそう、フレートライナー、ウエスタン・スター、トーマス・ビルド・バス、バラット・ベンツ他)での共同開発をすすめ、全世界でハイブリッドトラックを量産することを目指している。

外観
エンジン・ラボの外観。10ヶ所以上のベンチルームが整っている

ポスト新長期規制

三菱ふそうトラック・バス株式会社

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