マツダのフラッグシップCX-80に試乗してきた。マツダはこのところラージ商品群と呼ぶ、大型のSUVの開発、販売に力を入れているが、国内ではCX-8の後継モデルで3列シートのSUVモデルCX-80を導入した。
通常国産メーカーの試乗会では、個体の性能やアピールポイントを詳しく説明する場を設けている。パワーユニットエンジニア、車両運動性能のエンジニア、内外装のデザイナー、コネクテッド系、ADAS系の専門家などがズラッと勢揃いし、記者への説明と質問に対応するということを行なっている。
しかし、CX-80の最初のアプローチはそうした技術説明のボリュームは小さく、車両が提供できる新しい価値の体験に軸足をおいたイベントが今回企画されていたのだ。つまりCX-80というマツダのフラッグシップモデルでドライブをすると、こんな素敵なことができる、体験できる、そしてそのためにこんな機能があるんだ、というライフスタイルから技術に紐づける内容だったのだ。
案内のアプローチは「あなたの大切な人と過ごすCX-80での旅」というお誘い。ドラスティックに変化する社会、権力者による支配的社会、民主主義の危機感、そして電動化、インターネットによるクルマ社会の変化など「昔は良かった」という人には難しく、辛い時代なのかもしれない。
マツダは前向きに今日を生きる人の輪を広げる、いきいきとする体験をお届けするといったワードでCX-80の提供価値をアピールし、乗れば乗るほど元気になる、走る喜びが生きる慶びに繋がっていく、そういた体験を通じてクルマっていいよね、という気持ちになれるカーライフを提供するとしているのだ。
だからCX-8で築いた価値を発展させ、フラッグシップに相応しい独自のポジションを強化しているのがCX-80というわけだ。それが機能的価値、体験価値、そして社会的価値といったものへの回答をもっているモデルだとアピールする。
例えば車内を快適に過ごすためには?という課題に対し、2列目ではスライド機能とリクライニング機能があり、窓にはサンシェードがある。そしてパノラマサンシェードはチルト機構も盛り込み、開放感の演出ができる。3列目は180cmのタカハシでも利用できる広さがあり、おまけの3列ではなく実用の3列にしていること。さらに車内の遮音性、静粛性を多高くすることで、会話が楽しめることなど、見えない性能アップが裏支えしている。
もちろんドライビングダイナミクスにはこだわりの強いマツダなので、さまざまな技術を投入している。ラージプラットフォームはエンジン縦置き型で、FRがベースのAWDになっており(2WDもあり)、ワインディングでの高速旋回時の車体の浮き上がりを抑制するKPC=キネマティック・ポスチャー・コントロールの効果で高い接地感が得られる。
またサスペンションも車体の振動を減衰し、路面からの突き上げを抑えながらフラットライドを目指すセッティングにしている。そして高速直進性やライントレース性などの高い次元に引き上げるセッティングとしているのだ。
実際の試乗でも気持ちの良い旋回をし、車両の大きさやインテリアの豪華さもあってゆったりとした気持ちで景色を楽しみながら旋回も楽しめる。少し突き上げ感が残り、車体の揺れもあるものの許容できるレベルだと感じる。
ドライバーにはコネクテッドの恩恵が広がり、オンラインナビとなり、アレクサの搭載もされた。ナビ機能ではオンデマンドとなったことで常に最新の道路地図が表示され、これまで1年に1度の更新という煩わしさがなくなった。もちろん、音声あいまい検索も可能になり、また主要幹線道路以外の渋滞情報がリアルタイムに表示され、渋滞回避も提案され利便性が上がっている。
こうしてCX-80で走ってみると、クルマに求める曲がる、止まる、走る性能の向上とともに、付加価値の充実が重要になってきていることが感じられる。とくに所有する満足感や豊かさといった心の中に響く何かを提供するには、そうした便利グッズやハードだけでなく、マルチモーダルに訴えかける何かが必要なのだと。
そうした視点でCX-80をみると、やはりデザイン力ではないだろうか。エクステリアはBピラーより前はCX-60と同じで、Dピラー周辺は北米向けのCX-50、CX-70のデザイン要素が投入されているという。その大柄な車体の特にサイドビューは美しいと感じる。言葉では難しい表現になるが、ドアパネルと後輪上部に映り込む光の変化は美しく、優雅だ。そしてキャビンの真っ直ぐ後端まで伸びるスタイリングもかっこいい。
フロントフェイスはストンと切り落としたような真っ直ぐなグリルに、向かって右肩にアクセントが入り、おしゃれ度をアップさせている。デザイナーによれば、ワンポイントでスーツの左胸のポケットチーフのイメージだという。こうしたワンポイントをクルマという工業製品に入れ込むことで、柔らかく優雅に、そして豊かなモデルへと変化していくのだと感じる。
インテリアでもプレミアムモデルと並ぶレベルの高級感があり、特に極太のセンターコンソールの存在感がそうしたプレミアム感を強めていると感じる。マツダはFRの構造でトランスミッションを意識させることで構造的な強さを表現したとしているが、確かにプレミアムモデルでFFの存在感は薄く、FRで力強さが溢れているモデルが多いことを研究している成果かもしれない。
素材も複数の素材を調和させることに注力している。それは調和と破調という2つの思想だと説明し、空間全体を日本の「調の美」を巧みに表現したといいう。独特な照り感を持つメープルウッドがこの「調の美」を最も端的に伝えているという。
こうした感性や感覚など、数値化できない感覚に訴えかけてくる商品づくり。それが人間中心の開発の一部であると感じる。そうした所有する喜びや満足感、爽快感といった気持ちが持てることは心が豊かになっていくことも多くの人が体験していることと感じた。
さて、ここでスペックについてもお伝えしておこう。ボディサイズは全長4990mm、全幅1890mm、全高1705〜1710mm、ホイールベース3120mmとCX-60のプラットフォームを延長したタイプのラージプラットフォームで、マツダのフラッグシップに位置付けている。ちなみに欧州と国内はCX-60とCX-80の展開で、北米、中国ではCX-50、CX-70、CX-90の展開になっている。
搭載するパワーユニットは3.3Lのスカイアクティブ-D直列6気筒+8速ATのディーゼルエンジンで、170kW/500Nmの出力を持ち、FR2WDと4WDが選択できる。マイルドハイブリッドはこのスカイアクティブ-Dに12kW/153Nmのモーターを組み込み、187kW/550Nmの出力で、4WDのみの設定になっている。
そしてPHEVモデルがある。こちらは2.5Lの4気筒ガソリンエンジン138kW/250Nmに129kW/270Nmのモーターを組み合わせている。搭載バッテリー容量は17.8kWhでEV走行距離は67km。4WDだけの設定となっている。