マツダCX-8試乗記 高い静粛性と丸く走るダイナミック性能は欧州プレミアムを脅かす

マニアック評価vol561
マツダCX-8の販売が好調だ。2017年12月14日に発売されたが、発売前3か月で月販目標の1200台を6倍となる7362台の予約を得たという。3列シートのSUVの需要があったということだろうが、もうひとつ、このクルマの魅力には上質の作り方が一皮むけていることを、多くのユーザーが気づいたからではないだろうか。<レポート:高橋明/Akira Takahashi>

マツダ CX−8 試乗 フロントイメージ
新規投入のCX-8は脱ミニバン。7人乗りのSUVで登場

スカイアクティブの商品群になってから発売されるマツダの新型は、いずれも注目ポイントを明確にしたモデルになっていて、CX-8もその役割が明確だ。それは「誰もが移動を楽しめるロングツアラー」モデルであるということだ。そのコンセプトに見合った性能の作り方を理解し、試乗してみれば、きっと多くの人が笑顔になると思う。

マツダ CX−8 試乗 リヤスタイル

詳細はすでに既報しているが、今回は高級に感じる秘訣のような事も説明があったので、まず、そこからお伝えしよう。
*詳細記事 ⇒ マツダCX-8 マツダのフラッグシップ新型CX-8は7人乗りのクロスオーバーSUVでデビュー

■操安性能

CX-8は北米向けに生産されている大型のCX-9のプラットフォームを使った、やや小ぶりのモデル。全長4900mm、全幅1840mm、全高1730mm、ホイールベースは2930mmというサイズは国内では堂々とした7人乗りSUVのサイズだ。この大柄なボディも運転をしてみると、その大きさをあまり感じない。全幅はCX-5と同じサイズということもあるだろうが、操安性能によるサイズ感の変化が影響していると思う。

それはドライバーの意図どおりにクルマが動き、加速、操舵、減速に違和感のないことが影響しているように感じる。

マツダ CX−8 試乗 フロントフェイス

ホイールベースが長いということは操舵もダルな方向になるものだが、CX-8は高剛性ボディとし、CX-5に対して静的ねじり剛性が11%向上しているという。また、ステアリングラックはCX-9と同じで、取付けはブッシュを介すもののブッシュ剛性を40%アップして応答性、手応え感をアップしている。もちろん、サスペンションの取り付け剛性もアップし、リヤの静的キャンバー剛性がCX-5に対して23%アップさせたという。

マツダ CX−8 試乗 試乗風景
こうした良路ではすごく滑らからで、なんの抵抗感も得ないまま静かにクルージングする

こうした技術により大柄で、ホイールベースが長くとも、運転してみるとその大きさを感じないクルマという感覚になるわけだ。また、上質で高級と感じるクルマ造りには、乗り心地や静粛性がある。高級車は必ず、乗り心地がよく静かなものだ。

■乗り心地と操舵応答

CX-8では横力キャンセルコイルスプリングというのを採用している。これはCX-5にも採用しているが、サスペンションに横力がかかるとダンパーの動きに影響が出る。そのためスプリングの力を使って横力をキャンセルし、ダンパーがスムーズに動くように設計している。また、フロントにはリバウンドスプリングを採用し、内輪の浮き、ロールを抑えて安定姿勢になる味付けもしている。

マツダ CX−8 試乗 タイヤのチェック
試乗車のタイヤはとトーヨーのプロクセスを装着

そしてマツダ独自の荷重コントロール技術であるGVC(Gベクタリングコントロール)の最適化も見逃せない。これは横ジャーク(躍度)が発生したときに、エンジントルクを瞬時にダウンし、積極的に荷重をかけていき、ピッチコントロールをすることで、不快な揺れや強い横Gを減らす効果があるという技術だ。
*GVCの詳細 ⇒ マツダ アクセラ大幅改良のとんでもない中味GVCと試乗レポート

こうした技術で、車両応答性があがり、ステアリングギヤ比はCX-5よりスローなのだが、リニアリティは同等に感じる。つまり、操舵力に対してのヨーレートはCX-5と同等で、操舵角に対してはスローという仕上げになっているわけだ。

マツダ CX−8 試乗 3列目からの視界
3列目からの眺め。車室内では広さ、大きさを感じる

さらに、ステア操作や加減速において上質であるとか、高級である、意のままに動かせるということに関しては、この後、別の記事でレポートしたい。マツダらしく「ジャーク(躍度)」という言葉を使い、加速度の変化率をコントロールすることで、人は感じるものの違いがあるという話だ。

また乗り心地がいいと感じる理由のひとつに、シートが影響している。ドイツ車は硬質な方向で、フランス車はソフトな方向という大雑把な認識はみなさんもあるだろう。マツダのシート開発では、やはり、疲れないシートであることと同時にサスペンションの一部であるという考え方があり、ドイツとフランスを融合させた思考で開発されている。

マツダ CX−8 試乗 フロントシート
高減衰ウレタンを使ったシートはこれまでにない座り心地

正しい着座姿勢を研究し、血流が滞ることによる疲れを軽減、神経を刺激することによる痛みを軽減している。さらに疲れの原因となる振動を和らげることにも注力している。それは高周波領域の振動を和らげることで、高減衰ウレタンを開発して対応している。

マツダ CX−8 試乗 セカンドシート
2列目のシートにも新設計のウレタンを採用している

この新開発された高減衰シートは1列目と2列目に設置している。特徴としては、座った時に座面が柔らかく、フィット感もあるのが特徴だ。確かにこれまでに体験したことのない座り心地に感じる。枕やベッドにある身体が包まれ込むような印象に似ている。ただし、2列目はシートサイズが全体的に小さいため、大柄な人には不満があるかもしれない。

マツダ CX−8 試乗 サードシート
3列目はすっぽりと収まる形状のケースにウレタンを乗せている

また3列目はウレタンケースの形状をお尻の形にした基本骨格を持つシートとして、均一面圧になるように工夫している。そのため、乗員すべてが快適な乗り心地を得られるという説明だ。実際、3列目の広さはボルボXC90やBMW X5の3列目より広いという説明なので、居住空間としては十分。乗り心地も悪くない。が、その分2列目がサイズ的に削られている印象だ。

■NVH

さて、車両技術で上質、高級を感じる秘訣で、静粛性がある。その静粛性にも徹底的に研究してきたのがCX-8だ。マツダの国内最上位にポジションするだけに、力の入った開発をしたと言えるだろう。ロードノイズの大きいクルマや会話がしにくいほどうるさい車内は疲れる原因になる。そのため、ロードノイズ、風切り音を低減し、ストレスなく会話ができる車室内空間を目指しているわけだ。

マツダ CX−8 試乗 ワイパー
ワイパーの取り付け位置を下げ、ボンネット上の風の流れに当たらないように工夫

その対策として、路面がきれいな場合は、高速走行時に発生するタイヤノイズ、風切り音を低減する。また路面が荒れた粗粒路では、タイヤやサスペンションなど各部が発生するノイズを低減するという試みをしている。そして音源となる部位のデザインや対策では、例えばワイパー位置をボンネットからの空気の流れを受けないように、下方へ移動させ、ワイパーブレードからの音源を出さない。また、ボディとドアとの段差にはゴムのパーティングシールを設定し、空気の乱れを抑える工夫などだ。

マツダ CX−8 試乗 ルーフ後端
ルーフからリヤハッチにかけて風の流れが乱れないようなデザインに

また、車室内に侵入する音に対しては徹底的に穴、隙をふさぎ侵入を防ぐ。またフロアパネル自体もCX-5より板厚を上げ静粛性を確保している。このフロアパネルの板厚アップ効果は非常に大きいと感じ、すべての静粛性と上質感のキーになる改良だと思う。3列目付近では天井の吸音材をしっかり後列まで貼り、Dピラー付近にも吸音材を設定するなどの対策をしている。

■試乗インプレッション

これだけの静粛性に対する対応は、見事に効果を発揮している。クルマに乗り込みドアを閉めた瞬間静粛性の高さが分かる。それ以前にドアを閉める音の高級感で驚くのだが、閉めた後、外の音が遮断されるので、高級車感を味わうのだ。

マツダ CX−8 試乗 エンジンルーム 2.2Lディーゼルターボ
さらに静粛さを増した2.2Lディーゼル・ツインターボ

エンジンはskyactiv Dの2.2Lのディーゼル・ツインターボとディテールは変わらないが、多くの改良をしたこのエンジンは静粛さを増している。当然遮音効果もあるが、エンジン自体も静かになっている。出力はCX-5よりアップされ190ps/450Nmとトルクフルだ。ディーゼルの特徴だが、低速からトルクがあり市街地でも扱いやすい。もちろん、高速でも低回転で走行するため、静粛性にも貢献している。
*エンジンの改良について ⇒ マツダCX-8 2.2Lのディーゼルターボのパワートレーン

マツダ CX−8 試乗 ホワイトレザーシート
Lパッケージのホワイトレザーは高級感がある。キャプテンシートレイアウトもある

シートは前述の技術が投入された新開発の高減衰ウレタンシートだ。表皮がソフトでシートバックも含め、体にフィットしていく感じがある。ドライポジは言うまでもなく、正対しペダル配置も文句なしだ。シートが程よく振動を吸収もしているのだろう、乗り心地がいい。

直進の安定感が高く、そして何よりも静かでしっとりした乗り味が魅力だ。その乗り心地は高級車のまさにそれで、走行性能においても一皮むけたダイナミック性能だと感じる。

マツダ CX−8 試乗 コックピット
操舵の自然な感じがマツダの特徴でもあり、高級な操舵感を味わえる

ステア操舵もじつにナチュラル。切りはじめは適度に反応し、少ないロールでヨーを出しながら曲がる。その際に横Gの少なさにも気づく。丸いタイヤが真円で転がっているとでも言うのか、抵抗感のない滑らかさで道路を滑るように走る。

加減速や操舵は電子制御されている世界だけに、ドイツのプレミアムモデルすら制御にデジタルな部分を感じることがままある。が、CX-8はそのあたりが素晴らしい。なぜ、そう感じるのか?別の機会に記事にしてみたいと思う。

マツダ CX−8 試乗 操作系
マツダ車に共通するデザインコンセプトがあり、ひと目でマツダとわかる

インテリアデザインは、各モデルに共通する部分が多い。例えばアウディA1、A3、A4、A8と乗った時に、同じメーカーの同じシリーズであることが感じるように、デミオからCX-8まで同じマツダ車であることが明確にわかる。もちろん、国内ではフラッグシップにポジションするので、レザーやピアノブラックの使い方など、トップグレードに相応しいインテリアになっている。

マツダ CX−8 試乗 メーター
オーソドックスなメーターレイアウトは見やすい

メーターは3眼式でセンターが速度計。左にタコメーターが配される。5500rpmでレッドゾーンというディーゼルとは思えないほど高回転まで回る。右側のメーターは燃料計の他、デジタル表示でさまざまな情報を表示。

マツダ CX−8 試乗 センターコンソール
コネクテッドにはさらなる期待が膨らむ

インターフェイスは可もなく不可もない感じで、アナログな部分も残してあり、好印象だ。ただ、ナビを含めたインフォテイメントに関しては、それほど進化を感じさせる部分がないのが残念でもある。欧州車の多くがコネクテッドに力が入っているだけに、このあたりのアピールも欲しいところだ。

マツダ CX−8 試乗 サードシート ホワイトレザー
170cmの身長でも楽に過ごせる3列目シート

というように、ライバルは欧州の高級車になるかもしれない。3列目のスペースだけの話ではX5やXC90と比較するようなユーザーも出てきているというから、進化のほどがうかがえる。もちろん、車格は違うし価格も倍以上違うので通常であれば比較の土俵には上がらないが、そのあたりもCX-8の魅力と言えるだろう。

価格:319万6800円~419万400円(税込み)

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