安心してください「入ってますよ」マツダCX-60にカーボンニュートラル燃料を給油して400km走ってみた

ここ最近カーボンニュートラル燃料(CNF)がガソリンや軽油の代替燃料になるとして注目されているが、すでに市販がされているCN燃料があるということで、早速給油してみた。

今回のテスト車両はマツダCX-60のe-SKYACTIV D 3.3L マイルドハイブリッドモデル

カーボンニュートラル燃料についておさらいすると、燃焼段階ではCO2(二酸化炭素)を排出するが、「サステオ」の原料であるバイオマス(生物資源)が成長過程で光合成をする際にCO2を吸収するため、排出するCO2の量が実質的にはプラスマイナスゼロになるという考え方で「カーボンニュートラル」という位置付けになっている燃料のことだ。

市販されているのは「サステオ」でディーゼル用燃料として販売されている。ただし、100%CN燃料ということではなく、石油由来の軽油80%と次世代バイオディーゼル燃料20%を混ぜたものだ。その理由を販売元の中川物産グループ・中日リース(株)の松岡憲司所長に伺うと

「一般のお客様にお試しいただく際には、価格設定も重要。100%では高価な燃料となってしまうため、20%混合燃料で300円/Lという価格でまず販売していくという判断をしました」とのこと。

FMヨコハマ「THE MOTOR WEEKLY」DJの山下麗奈さん

また、この次世代バイオディーゼル燃料の提供元であるユーグレナ社によると「欧州の一部では次世代バイオディーゼル燃料100%で販売している地域もございますが、混合燃料での販売が主流となっています。弊社では、各自動車メーカーの見解や、欧州でのバイオ燃料の販売状況を参考にし、現時点では混合燃料の販売を進めております」という回答があった。

燃料にはさまざまな税金がかけられているため、そうした税金対策なのかと想像していたが、じつは売価や欧州事情からの判断もあっての混合燃料というわけだ。そして取材した名古屋港にある「名港潮見給油所」には一般ユーザーのマツダ車、メルセデス・ベンツ、ボルボなどが給油に来ているという。

「サステオ」の正体とは?

では、そこで販売される「サステオ」とはどんな燃料なのか。

「サステオは」はユーグレナ社が販売する次世代バイオ燃料のブランド名で、食料との競合や森林破壊といった問題を起こさない持続可能性に優れたバイオマス原料からつくられている。カーボンニュートラルの実現に貢献すると期待されているだけでなく、現行車両にそのまま利用可能なことが特徴。

ユーグレナ社という名前なので、微細藻類ユーグレナ(和名ミドリムシ)100%でできている燃料と思われがちだが、今回給油したサステオの原料の大部分は使用済食用油であり、微細藻類由来分はごくわずか。

給油所には解説パネルが設置されていた

ユーグレナ社は神奈川県に次世代バイオ燃料を製造する設備を持っているが、実証プラントのため製造量が少なく、現在は海外の協力会社からも次世代バイオ燃料を輸入し、さらなる次世代バイオ燃料の普及を目指している。中川物産グループでは、海外の協力会社から輸入したバイオ燃料(HVO)を軽油と混合し取り扱っているということだ。

次世代バイオ燃料は、フィンランドのネステ社など、海外では多くの会社が製造に着手しており、石油大手も製造を始めている。つまり軽油に代わる燃料としてすでに動いている製品なのだ。

また欧州ではこの次世代バイオディーゼル燃料が100%で販売している会社もあるものの、ユーグレナ社によると、軽油との混合燃料がまだまだ主流だという。ユーグレナ社は100%の次世代バイオ燃料を輸入し、その後中川物産グループで軽油と混合して販売している。

中川物産の敷地内にある名港潮見給油所(名古屋市港区潮見町)

実際に販売する中川物産グループは、自社でタンカーを所有し、輸送し貯蔵もする。そしてタンクローリーも自社で運用して自社のガソリンスタンド「N-OIL」で販売するという、全て自社でCN燃料に取り組んでいる会社なのだ。ちなみに、中川物産は2011年度より、環境省のエコ燃料利用推進補助事業に採択された企業で、他にもE3ガソリンの販売など環境意識の高い企業だ。

また燃料の元売りとして、貯蔵タンクを持つ大手運送会社などには、この「サステオ」を既に販売しているということで、じつはCN燃料は実用領域に入っていたのだ。

CX-60にたっぷり給油

そこで、マツダの最新ディーゼルであるe-SKYACTIV D 3.3L MHEVに乗って、名古屋港潮見給油所まで行ってきた。

テスト車はマイルドハイブリッド仕様のCX-60。ご存知のようにマツダが新規開発した直列6気筒のディーゼルエンジンを搭載し、そのエンジンに「サステオ」を給油してきた。CX-60の燃料タンク容量は58Lで、そこにサステオを約40Lとたっぷり給油してみた。

現地ではセルフではなくスタッフの方が給油してくれる

「名港潮見給油所」で販売している「サステオ」は日本の規格上すべて「軽油」に合致する。そのため、ディーゼル車であればエンジンに変更を加えることなくそのまま使うことができる。

マツダの新世代ディーゼルエンジンである直列6気筒ディーゼルももちろん「サステオ」をそのまま使用することができ、よりエコな乗り物として使用することが可能だ。

給油後のエンジン始動も軽油となんら変わらず、また走行時になにか違いを感じるかといえばノーだ。まったく燃料の違いは感じられない。当たり前の話になるが欧州では流通している燃料であり、その欧州で販売しているCX-60が普通に使用できるのは当然のことなのだ。

給油所から伊勢湾岸道や名古屋高速、そして新東名高速を走行。新東名では120km/h巡行をしながら、ときどき80km/hからの追い越し加速や合流での加速を試す。エンジン音が大きくなるとか、トルク感が減るといった気配すらなく、普通に走行する。一般道に出るとアイドルストップが稼働し、モーターを介して再始動するが、その時のかかり具合も通常の軽油と変わりはなく、「サステオ」を使用していることすら忘れてしまうほどだ。

今後の展望

そのユーグレナ社は「日本をバイオ燃料先進国にする『GREEN OIL JAPAN』を宣言し、次世代バイオディーゼル燃料「サステオ」の普及拡大を目指している。ユーグレナ社はすでに75社以上の企業や団体に「サステオ」を提供しており、中川物産も関西、関東、中部エリアの企業へ出荷を始めているという。東京都などの自治体の力も借りながら、より身近な燃料として感じてもらうような取り組みにも力を入れているようだ。

このように、CN燃料の普及は思っていた以上に商業利用では普及が始まっている現実があることがわかった。だがその一方で、マツダとしてはクルマをつくる側の責任として、既存のSkyactiv-Dでも問題がないかは、検証中ということなのだが、名港潮見給油所にはすでにCX-5やCX-3のディーゼル車は給油に来ているという。

もちろん、中日リースは行政からの許認可を受けて販売しているわけで、ディーゼル車に給油して問題はない。言うまでもないが、「サステオ」は軽油のJIS規格に適合した燃料なのである。

マツダの次世代燃料開発の現場

マツダはスーパー耐久レースに次世代燃料の開発を兼ねてレースに参戦している。2022年の参戦当初はデミオの1.5Lディーゼルで参戦し、燃料は100%微細藻類と廃棄植物油から生成された「サステオ」で参戦していた。

シーズン終盤には車両をマツダ3に変更し、エンジンも2.2Lディーゼルに変更した。そして2023年はユーグレナ社が海外の協力会社から輸入した、主に廃棄植物油から生成された次世代バイオディーゼル燃料「サステオ」(HVO)をマツダ3に使用して参戦している。また今シーズンの中盤以降にはロードスターでガソリンの代替燃料となるCN燃料(P1レーシングからの提供)での参戦も予定しており、積極的にカーボンニュートラルに向けて研究しているわけだ。

2023年スーパー耐久シリーズに参戦しているMAZDA SPIRIT RACING MAZDA3 Bio concept

現在EU政府では2035年にエンジン車の販売禁止合意を変更し、e-Fuelを使用するエンジン車は認める方向にシフトチェンジした。ただ、e-Fuelに限定しており、あまたある合成燃料はまだ認めていないのだ。

やや辻褄合わせになってきている印象も受けるEU政府とは別に、マツダは合成燃料に適合の確認、検証をすすめており、普及も始まっているというのが現実だ。

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