求められる開発ロードマップ

雑誌に載らない話vol225

求められる次世代車とは何か 第3回(最終回)

これまで、第1回では人口シフトによるメガシティ化が起こり、その時起きる環境への影響を、技術でどうやって解決していくのか、ということをお伝えした。そして第2回では低炭素社会へシフトするために求められる次世代車とは何か?という課題に対して自動車メーカーが行なっている技術革新、それはEV化とICE(内燃機関)の進化という二刀流だという話をした。そして、最終回の今回は、各社のEV化、そして足元を見ると・・・ということをお伝えしよう。<レポート:高橋明/Akira Takahashi>

求められる次世代車とは何か 第3回(最終回) トヨタ イーパレット

低炭素社会に向けての技術革新のひとつとしてEV化があり、その勢いは増すばかりだ。その潮流の原点はやはりアメリカ大気環境保護局(CARB)が掲げるゼロ・エミッション・ビークル(ZEV)規制だろう。一方、欧州では地球温暖化対策としてのCO2削減が主なテーマで、車両からの排出ガス規制はもちろん、企業平均燃費(CAFE)規制が推進されている。

アメリカ大気環境保護局 CARB 環境ロードマップ
CARBが目指すZEVプログラム

そうした中、メガシティ化していく未来の街づくりにおいては、その国のエネルギー戦略、特に化石燃料に対する長期ビジョンが重要だ。だが、この国家的なエネルギー政策はいち自動車メーカーが対応できるものでもない。メーカーは、目の前にあるCAFEやZEVといった規制に対応しなければクルマの販売ができない、あるいはEVメーカーが持つクレジットを購入したり、罰金を払う、といったことが重要となり、その対策は急務だ。

すでに欧州ではそのCAFE規制は動いており、2015年を目標とした130g/kmの企業平均燃費は2014年の時点ですべての自動車メーカーがクリアしている。しかし、2021年の規制は遥かに厳しく問題は山積している。従って、現在欧州勢はCO2削減の手段として、プラグインハイブリッド車、マイルドハイブリッド車を増やしているというわけだ。つまり、高効率なICEにモーターを加えて電動化し、CO2削減を狙うという戦略だ。

アメリカのZEVは、CO2だけでなく大気汚染に対する規制が重視され、排ガスゼロのZEV規制を導入している。それはメーカーが販売する台数の一定の割合の台数をこのZEV対応車、つまり、EVかFCVか、プラグインハイブリッドを販売しなければならないのだ。不足すれば罰金か、クレジットを購入してZEV規制に適合させる権利を買うという、どちらにしてもアメリカの主な18州でクルマを販売するのに、高額な罰金を払いながらというあり得ない状況になっているのだ。その罰金額は一概に言えないが、車両価格の2/3程というから、販売としては現実的ではないことになる。

具体的にも2017年まではハイブリッド車、天然ガス車、低排出ガス車はZEV対応と認められていたが、今年2018年からはEV、FCV、プラグインハイブリッドのみに規制が厳しくなる。つまりハイブリッドは規制対応車とは認められないということなので、ハイブリッドを得意とするトヨタをはじめ多くのメーカーが厳しい状況に追い込まれているわけだ。

ルノー ゾエ
ルノーのEV ZOE

さらに世界最大のマーケットとなった中国までもがZEV規制に似たNEV(New Energy Vehicle)政策を謳い、国家戦略として電動化を推進している。

こうした背景の中、2016年にフォルクスワーゲンのディーゼルゲート事件が発覚した。まさにZEV規制への追い風と思えるようなことだ。この事件をきっかけに、世界は一気にEV化へ加速を始めた。

■EV電気自動車の問題

加速するEV化だが、注目はやはりテスラだろう。各社へのCO2クレジット販売で巨額の利益を上げ、イーロン・マスクの野望は今や宇宙へまで目を向けている。そのイーロン・マスクはEV車の弱点とも言える電源とバッテリーに対して、車両は高級車であり、民生用バッテリーを使うという手法で成功している。さらに、テスラは子会社として電気エネルギー・プロバイダーのソーラーシステム社やバッテリー製造に特化したギガ・ファクトリーなどを展開し、太陽光発電、風力発電というサスティナブルな再生可能エネルギーで発電した電力を蓄電する「パワーパッケージ」と、電気自動車に充給電できる「スマートグリッド・ハウス」などの構想を打ち上げ未来のEVをリードしようとしている。

テスラ ギガファクトリー
テスラが手掛けるギガ・ファクトリーの構想

ちなみに、このギガ・ファクトリーでは、2018年中に年間35GWhの電池生産を行なうと発表している。この総量は全世界で生産されるバッテリー総量と同等レベルというから驚きだ。とは言え、工場は現在も建設途中であり、現在の約45万2500m2の建屋で稼働を始めている。これはギガ・ファクトリー構想の総面積の30%程度ということなので、まさに世界最大規模のバッテリー製造工場になる、かもしれない。

テスラ 2017年現在のギガファクトリー
2017年のギガ・ファクトリー

また、パナソニックはテスラに円筒形リチウムイオン電池を供給しているが、トヨタとの合弁会社プライムアースEVエナジーも含め、2020年以降を視野に、より高性能な角型リチウムイオン・バッテリーを開発し、大量生産していくという発表があった。そのため、やはりバッテリーの抱える進化の過程というのは、常につきまとう問題と言っていいだろう。

EVにおけるバッテリーシェア

■48Vマイルドハイブリッド

さて、一方で欧州の潮流にはCAFEがあり、CO2削減を進める必要がある。もっとも最近ではCO2だけでなく、NOx、PM対策も重要となり、日本よりはるかに緩かったNOxに対する規制も強化されつつある。それがRDEやWLTCという燃費基準だ。

マイルドハイブリッド システム概念イラスト
モーターの置く場所で表現が異なるが、サプライヤー間ではこの表記で統一されている。

そうした中、高級車にはバッテリーを搭載するプラグインハイブリッドが主流の技術であるが、コスト面や重量の問題などからも小型車には導入しにくい。そこでマイルドハイブリッドという技術がトレンドになってきている。これはオルタネーターで発電、回生できるようにしたものから、エンジンとクラッチの間に薄型のモーターを搭載するタイプや、リヤアクスルに内蔵するタイプなど、モーターを置く位置によってP0からP4まで数パターンのマイルドハイブリッドがある。

扱う電圧も12Vから48Vが主流で、スズキのように100Vを使うタイプもある。通常のフル・ハイブリッドは300Vから500Vという高電圧であり、整備士の資格も含め専用の高電圧対策も要求されている。だが、マイルドハイブリッドは低電圧のため、特別な対応は不要とされていることも製造メーカーにとってはメリットがある仕組みだ。

シェフラー マイルドハイブリッドシステム
シェフラーが提供するマイルドハイブリッドシステム

こうしたマイルドハイブリッドのシステムはTier1が積極的に開発しており、シェフラーやZF、ボッシュ、コンチネンタルをはじめ、ヴァレオ、ボルグワーナーなども提供している。また、トヨタ、スズキ、日産はすでにマイルドハイブリッド車を販売している。が、国内ではフル・ハイブリッド人気が高く、販売しづらい状況だという話も聞く。

■NEVとZEV、そしてICEの進化

こうして俯瞰して考えてみると、欧州はCAFE規制に対応する技術は、クリーンディーゼル、プラグインハイブリッド、そして48Vのマイルドハイブリッドで対策をすすめ、その背景には高効率なICEの存在がある。一方で電気自動車はZEV、NEVへの対策という流れだ。

そのNEV(新エネルギー車)政策を打ち出した中国は、これまで電源確保のための石炭火力発電の発電量が75%を占めており、本来のEV=ゼロ・エミッションという構図は成り立ちにくかった。そこで、原子力発電と太陽光発電への切り替えが急速に進んでいる。特に太陽光発電の発達には目を見張るものがあるほど進展しているのだ。

中国 山東省 時風
山東省の大手の低速電動車メーカー「時風」。親会社は鉄鋼、石油、塗料、酒、ホテル、ショッピングモール、ガスなどの財閥グループ。自動車関係の年産は、農業車130万台、軽トラック8万台、EV20万台、トラクター30万台

そうした中国のEV化へのシフトの背景は、NEVの存在なのだが、その意味するものは、中国国内生産の車両であり、中国国内で製造されたバッテリーを搭載しなければならない制約がある。したがって、中国国内の自動車メーカーはこぞってEV車を開発している、というのが現在の事情だ。

しかし、こうした政治主導の国家戦略が世界最大のマーケットのルールとなっているわけで、ZEV規制も含め政治的規制が先行している状態はいずれ見直しを受けると思う。

各国の発電電力量に占める再生可能エネルギー比率比較グラフ

こうしてある種特殊な規制が北米と中国という2大マーケットに存在すために急速なEV化が進んでいると言ってもいいだろう。しかし、足元を見れば、如何に巨大なマーケットであっても独占的なやり方は、いずれ世界市場からの見直しが迫られるはずだ。いや力技で押し切られるのだろうか・・・。そうなれば、今重要なことは、第2回でお伝えした、高効率なICEの開発が重要ということが見えてくる。

■マツダの先見の明

驚いたことに、こうした長期展望も含め、マツダが2007年の、いまから11年も前にサスティナブルズームズーム宣言とともに、未来の環境車、次世代車に対する指針を発表しており、振り返ると2007年に見据えたとおりに世界が動いていることに気づく。

もちろん、トヨタも日産もこうした未来に向けた戦略を踏まえ、開発に取り組んできていたものの、マツダのように戦略を公表してそのロードマップどおりに進めてきているというのは、マツダだけだ。まさに先見の明と言えるだろう。そこで、当時、マツダは何を発表したのか振り返ってみよう。

マツダ 2007年に発表した環境技術の拡大展望

まず、目標年として2010年、2015年、2020年という年までに達成すべき目標を掲げ、達成するために必要な技術の取り組みを発表している。その代表的な技術がSKYACTIVの名称で数々の新技術を我々は体験してきている。まさにICEの革新的進化を実現している。

そのSKYACTIVはこの先も続き、ベース技術の改善としてパワートレーンや軽量化などから始まり、バッテリーマネージメント、エネルギー回生と積み上げ、モーター駆動技術へとつなげていくビルディングブロック戦略という枠組みで技術革新を続けてきているのだ。

SKYACTIVのガソリンエンジンやディーゼルエンジンの革新性は、多くの人が知る事実だと思う。ましてAUTO PROVEの読者であればSKYACTIV-XのSPCCIエンジンについては、まだ未知の部分もあるものの、技術的先進性は十分伝わっていると思う。

マツダ エネルギー地球温暖化対策ロードマップ

また、バイオ燃料や合成燃料などの代替燃料対応技術の開発推進も2020年としている。この代替燃料が実現すれば、EV化とは別の新たな潮流が誕生するわけで、すでに南米ではバイオエタノール由来の混合燃料を使用するマツダ車はたくさん走行している。これは食物由来ではない燃料で、CO2削減に貢献し、この先はより化石燃料の割合を減らし、さらに100%合成燃料が可能となれば、ICEの新しい世界観が誕生するかもしれない。

IEA 2035年までのパワーユニット変化予測

いずれもICEを使った革新性の高いものだが、その背景には2035年時点でも約85%の車両がICEを搭載しているというデータに基づいたものだ。先日トヨタからも新環境パワートレーンの発表があったが、トヨタは2030年時点で90%の車両がICEを搭載しているという予測を発表した。こうしたことからもICEの研究開発は最重要課題だと考えていいだろう。

■大排気量自然吸気が環境にやさしい

そして2017年8月にサスティナブルズームズーム宣言を行ないSKYACIV-Xの概要を発表している。つまりICEの最先端の進化型だ。開発はマツダのパワートレーン開発のキーマン人見光男氏だ。人見氏は2015年にオーストリアのエンジン学会で、ガソリン車の環境性能向上には、「大排気量自然吸気」だと発言し、専門家の間でも大きな話題となったものだ。

当時はダウンサイジング・コンセプトが主流で、排気量を下げ過給器で走るICEだ。2018年の現在も主流ではあるが、ダウンサイジング・コンセプトを唱えたフォルクスワーゲン・グループは、その後ライトサイジング(適正な排気量)と修正し、やや排気量アップしたエンジンに戻りつつある。また、トヨタの次世代環境エンジンは「ダイナミックフォースエンジン」と命名されているが、まさに自然吸気の大排気量エンジンなのだ。

マツダが与える影響は少なからず大メーカーにも響いているようで、クルマに詳しいマニアの間ではモデルベース開発を駆使することがマツダの力量的な発言も耳にする。だが、それはもちろん事実ではあるが、真髄は先見の明、先を見通す目があるからこそだと思えてくる。リーダーにより引かれたローマップに従い、次から次へと新技術で道を切り開き、落ち着いて今やるべきことを着実に歩んでいるように見えてならない。

したがって、この先はマツダのEV化についても必ず発表があるはずで、その根拠としてトヨタ、デンソーとの新会社であるEV C.A.SpiritはEV開発のための新組織だ。どんなEV構想が出てくるのか、非常に楽しみである。

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