これまでアテンザはプロトタイプ試乗会、ガソリン車限定試乗会、公道試乗会とあり、それぞれでインプレッションをレポートしている。今回は約300kmの長距離試乗会に参加できたので、改めてアテンザの印象を確認してみた。場所は鹿児島県の霧島周辺の高速道、一般道、指宿スカイラインといったワインディングと走行ステージはさまざま用意されていた。しかも走行距離は300km、期間も2日間という設定であるため、存分にアテンザを体験できるメニューを満喫した。
アテンザ、このクルマは乗れば乗るほど自分の中で、比較対象のレベルが上がっていくことに気づく。もともとこのC/Dセグメントのセダンというマーケットは国内では言葉は悪いがジリ貧カテゴリーであり、他社を含めてもモデル数は少ない。しかし、世界に目を向けると大きなマーケットであるため、マツダはグローバル展開する上でこのカテゴリーにアテンザを投入した。そして、アテンザを設計する上で課せられた命題は、マツダのフラッグシップモデルを造ることだった。したがって比較対象となるのは必然的にプレミアムモデルとの比較となりがちで、国内マーケット用のカテゴリーよりレベルの高いモデルとの比較ということになってしまうのだ。
アテンザの試乗ではいつも、国産のC/Dセグメント、セダンやワゴンとの比較が最初は脳裏をよぎる。特にベンチマークとするモデルも特定せず印象を頭に刻むのだが、試乗するたびに「ベンツと比べて…」「BMWよりも…」など、ドイツプレミアムモデルとの比較に自然と切り替わっている。だからアテンザに要求するハードルはどんどんと上がり、評価も厳しくなっていくが、ふっと現実を考えれば、価格帯の違うモデルと比較していることに気づくのだ。
ところが、実際の開発のベンチマークとしたモデルは、BMW3シリーズ、アウディA4、フォルクスワーゲン・パサート(CC)で、これらはプレミアムモデルだ。価格帯を考えると直接的なライバルではない。300万円台が中心のアテンザに対し、これらのモデルは500万円台が中心のモデルで、価格差も大きい。ワンランク上のモデルを目標に開発は進められていたわけだから、本来のカテゴリーではトップクラスの仕上がりと言えるだろう。
開発主査の梶山氏によれば、このドイツの3モデルとアテンザに共通しているものがあるという。それはBMWを代表するクルマ、あるいはポリシーを表現しているのが3シリーズであり、同じようにアウディのイメージを代表するのがA4、そしてVWパサートも、そのモデルがそのメーカーを代表するモデルということだ。アテンザはマツダを代表するモデルという意味では共通の宿命を持っているというわけだ。
となると、マツダって何なのか? 大事にしているものは何か? ということから開発がスタートし、それは人とクルマが一体化することから生まれる走る歓び。それがマツダのDNAだ、ということだった。多くのモデルはクルマが主役で、クルマがドライバーに喜びを与えている。あるいは顧客の年齢を重ね、その年齢に合わせてクルマ造りをする、これらはひとつのマーケティング手法ではあるが、マツダはそうではなく、人とクルマの一体化を目指す、と志は高い。
そのためには、クルマが意のままに、ドライバーの予測どおりに、期待値どおりに動くということが目標であり、そこから走る歓びにつなげるという構想だ。その構想を支える礎となる技術がスカイアクティブで、ボディ、シャシー、エンジン、ドライブ(ミッション)というパーツを採用している。
そして重要なポイントはダイヤゴナルロール姿勢だ。それは、みずすましのようにスイスイと方向転換をすることではなく、ロールを恐れず、ロールとヨーモーメントのダイヤゴナルロール姿勢が王道であるということだ。
さてそんなことを踏まえつつ、鹿児島試乗会で改めて感じたことをレポートしよう。
まず、横浜で行われた一般公道での試乗会の際に感じた、ダンパーの突き上げ感が強く、乗り心地に影響しているというレポートだったが、今回、まったく同じ試乗車だったが、走行距離が5000km前後走行しているモデルが多く、その突き上げ感がなくなっていた。これはダンパーのナラシができていない状態での試乗と、ナラシが終わりダンパーが馴染んでからの試乗との差だと思われる。
もともと前席での乗り心地が悪いという印象はない。後席での乗り心地でその入力の固さを感じることが多かった。また、17インチと19インチという影響もあり、19インチではどうしても固さが気になったのだが、今回は19インチでもそういった印象はなかった。
また、長時間試乗、乗り比べという好条件によって、これまで気づかなかったことまで感じられたのでレポートすると、シートポジションがレザーとファブリックでは異なることが分かった。レザーシートは電動パワーシートを採用しているため、モーターがシート下にあり、そのためハイト調整してもレザーシートはファブリックのシートの低さまで下がらないのだ。また、ランバーサポートの出っ張りも気になる。レザーシートよりもファブリックの方がいろいろと良くできているのだが、そのファブリックには座面の後傾斜角を調整する機能がなく、レザーにはある、という痛し痒しの部分があった。
朝から日没まで試乗していると他にも気づいてしまうものがある。パワーステアリングの重さだ。以前の試乗会ではナチュラルな制御と正確なハンドリングと感じていたが、その部分には変わりがないが、駐車場などで切り返しをするとき重さが変わることに気づいた。ハンドルがロックする直前になると重くなり切り戻しが重いのだ。そこを過ぎると軽くなるという重さの変化が気になった。
試乗を終え、改めて新型アテンザを思い返すと一般的な常用、乗用域では、開発目標であるマツダのDNAは十分に投入されているモデルだ。しかし、もうワンランク上の走行状況になると、改善を求めたい点があった。それはステアリングに入力してくるインフォメーションの選択だ。今は多くのインフォメーションがダイレクトに伝わる。一見良さそうだが、実は、インフォメーションの中にはドライバーにとって不要な情報もある。そのあたりの味付けがうまくできるといいのではないだろうか。そしてATの変速スピードでも高回転側になると、常用域での変速速度より落ちてしまう点だ。ここは、どこの回転域でも同じように変速して欲しい。
と、まぁいずれにしても重箱の隅をつつくようなレポートになってしまったが、参考になればと思いあえてレポートを書いてみたが、トータルでの感想は、同じ国産と比較すれば、やはりクラスを超えた欧州車的なクルマ造りがされていて、ハンドリングでは突出した気持ちよさを持っていると思う。マツダがこだわる一体感、つながり、といったものが感じられ、ライバルは欧州車という国産車だった。