2007年にキックオフした新世代技術「スカイアクティブ」(エンジン環境技術だけではなく、プラットフォームやボディ、シャシーを含む新技術)の開発の成果を盛り込んだマツダの新世代ヴィークルは、CX-5に続いてアテンザが登場した。CX-5がそうであったように、3代目となる新型アテンザもマツダのグローバル戦略車である。新型アテンザは2008年8月から開発がスタートし、2012年のモスクワ・オートショーでセダン、パリショーでワゴンのワールドプレミアが行われている。
2012年11月20日に日本での発売が開始されたが、初期受注は販売計画台数を大きく上回り、デリバリーが遅れる事態になったほどだ。しかも2.2Lディーゼル・モデルが76%を占めた。ボディタイプでは54%、ワゴン46%でこれはほぼ想定した比率だ。
そんな事情もあって、量産仕様のメディア試乗会もガソリンエンジン車が12月末、ディーゼルエンジン車を含むフルラインアップは1月半ばとなった。
新型アテンザは従来モデルと同様に、グローバル戦略車であり、メインのマーケットは日本、ヨーロッパ、中国、オセアニア、北米で、日本のマーケットの優先度はそれほど高くない。しかしながら、最小回転半径や、取り回し、視界などを十分考慮し日本での扱いやすさを盛り込んだという。
ボディサイズはC/Dセグメントと称されるように準Dセグメントで、セダンが全長4860mm、全幅1840mm、全高1450mm、ワゴンの全幅はセダンと同じで全長が4800mmとわずかに短く、全高は1480mmとわずかに高い。ちなみに最近発売されたトヨタ・クラウンと全長、全高はほぼ同じで、全幅はアテンザの方が40mm上回っているのだ。
アテンザはマツダ車のフラッグシップという位置付けとされ、フラッグシップというわりに特徴や印象が薄かった2代目を反省し、スカイアクティブの新技術を盛り込むとともにデザイン、ドライビングプレジャーなどを強調することでマツダらしい存在感を主張している。開発コンセプトは「人生を豊かにするモチベーター」とされ、性能が優れているだけではなく、人馬一体、意のままの走りを体現することを目指したという。
開発の段階で参考にされたのはVWパサート、アウディA4、BMW 3シリーズなどだという。一方で、他の日本車はまったく参考にしていないという。
また「人生を豊かにするモチベーター」であるためにデザインにもこだわっている。
マツダの新デザインテーマである「魂動(こどう)」のコンセプトのもとで開発されたコンセプトカー「雄(たけり)」を量産化。フラッグシップにふさわしい知性や品格とエモーショナルさ、ダイナミックさが融合されている。
セダンもワゴンもクーペルックで、フロントからリヤに向けてボディサイドの動きのある曲面構成とし、Cピラーの下側にまで立体的な造形が行われている。デザインの大きな特徴は通常とは逆にAピラーの位置を後退させていることだ。これは斜め前方視界の向上と、ペダル配置の最適化、ロングノーズのデザインの実現を図るためだ。
インテリアはオーソドックスながら質感を高めている。また操作系のレイアウトに配慮し、ペダル類はホイールハウスの出っ張りを少なくすることで、理想的な配置とするなど細かなこだわりも見て取れる。しかし、デザインを重視したためセダンのリヤシートの両サイドはやや絞り込まれた感があり、ワゴンはサイドウインドウの面積が狭められているため、少し閉塞感があるのは止むを得ないところか。とはいえ、輸入車に流行のスタイル重視デザインである4ドアクーペ と呼ばれるモデルよりは、後席のヘッドスペースは確保されている。
ちなみにセダンとワゴンでは、セダンの方がホイールベースが80mm長く、それはリヤシートの膝周りのスペースに当てられ、セダンの足元は十分に広い。セダンでリヤの居住スペースを重視するマーケットを重視した結果だ。
エンジンはスカイアクティブガソリンの2.0Lと2.5L、2ステージターボを装備する2.2Lディーゼルが1種類、トランスミッションは6速ATがメインで、ディーゼルにのみ6速MTが選択できる。この6速MTはスカイアクティブ技術の一つとして開発された新世代のユニットで海外仕様ではポピュラーなユニットだ。
この他に、アテンザならではの装備として、キャパシターを利用した減速エネルギー回生システムのi-ELOOP、オプションのセーフティパッケージ(2)としてスマートシティブレーキ+レーダークルーズコントロールが15万2500円、ハイビームコントロール+車線逸脱警報システムが5万2500円で設定されている。
試乗はまず2.0Lと2.5Lのガソリンエンジン車から。この2種のガソリンエンジン車の間には車重が20kgの差があり、パワーは33ps、トルクは54Nmという違いがある。いずれも滑らかで軽快感のある加速で低速でのトルク感も妥当なところだ。もちろん2.5Lエンジン車の方がよりトルク感があるが、排気量の差を考えると2.5Lエンジンにはハイオク仕様とした方がより上級感が強調されるのではと思った。
アクセルを踏み込むと加速の音質もエモーショナルで、アテンザの特徴の一つとなっており、こうした加速音のチューニングにもこだわりが感じられる。また加速時にはオプションのBOSEサウンドシステムを装備している場合はアクティブ・サウンドコントロールが自動的に作動し、素のエンジン音に加えスピーカーから発生する一定の周波数音がミックスされ、よりエキサイティングなサウンドになるようにチューニングされている。
従来からあるアクティブノイズコントロールは、エンジンやロード音と逆位相の周波数の音をスピーカーから発生させ、騒音を打ち消すという手法があるが、発想を逆転してエキサイティングな音作りを行っているのが面白い。
2.2Lディーゼルは、2.5Lガソリンエンジンよりパワーは13ps低いが、トルクはより低い回転から1.7倍も発生するため、扱いやすさ、フレキシビリティでは圧倒的に有利だ。アイドリングやごく低回転域ではディーゼル特有の音が聞こえるが、少し回すとガソリンエンジン的な音質になる。ただし、レスポンスはやはりガソリンエンジンよりはおっとりしている。ディーゼル車であれば日常での走行は加速を含め2000pmあたりまでで、意のままに走ることができる。また高速走行では100km/hで約1700rpmなので静粛性や燃費でも有利だ。
ディーゼルと組み合わされる6速MTにも試乗したが、この新世代MTは現在の国産車のMTの中でもトップレベルのフィーリングだった。シフトレバーの動きは古典的な渋いショートストロークではなく軽く、スムーズで節度感もあって小気味良い。開発エンジニアも自覚しているように、クラッチのストロークの中で半クラッチのフィードバックがもう少しはっきりしていれば言うことはないと思う。ちなみに初期受注ではMT比率は最近では異例の10%達しているそうだ。また、6速ATもアクセラ、CX-5に搭載されて登場した時より洗練され、変速レスポンスもさらに向上したと感じられた。
ハンドリングは狙い通り、軽快感がある。パワーステアリングはCX-5のものより改良され、少ない舵角でも正確さが増している。欲を言えば直進時の据わり感、しまり感がもっと明確にあればと思う。ハンドリングの狙いは、常用域でも操舵に対応してわずかにロールしながらコーナーを曲がるというイメージで、開発の最後の最後で踏ん張りすぎるリヤを少し手直ししたという。
ステアリングを握ったフィーリングでは中速カーブや首都高速といった場面ではまさに操舵とクルマの動きの一体感が濃くなる。アテンザはフロントのキャスター角が約6度とハイキャスターにして直進性とコーナリング性能の両立を狙っているが、クルマの性格を考えると60km/h以下ではもう少しステアリングにフィードバックが欲しいと思う。
タイヤは海外向けと共通の仕様らしい。ベースグレードは17インチ、上級グレードは19インチが標準装備となるがオプションで選択できるようにもなっている。乗り心地などを比べるとさすがに19インチサイズでは常用域で路面とのコンタクトがきつく、身体に結構ダイレクトに響くが17インチはマイルドで操舵フィールも上だと感じられた。乗り心地で一番気になったのはリヤシートの乗り心地で、フロントシートより細かなピッチングが加わり、乗り心地も固く感じられた。
アテンザはヨーロッパでの走りを相当意識して開発されており、ドライビングプレジャーやスポーティ感を重視しているが、中心価格帯が300万円台であることを考えると、質感という点ではボディ全体のしっかり感を、乗り心地と快適性といった点ではもう一ランク上のしっとり感が感じられれば文句なしだと思われる。