【マツダ】丸わかり「スカイアクティブ」講座 トランスミッション、シャシー、ボディ編

CX5スカイアクティブの画像
スカイアクティブ技術で開発されたCX-5

マツダは、企業の長期ビジョンとなるサスティナブルZoom-Zoom宣言に基づき、企業平均燃費を飛躍的に向上させることを目標に、あらたな技術革新として「スカイアクティブ」技術をモデルに投入することを行っている。その第一弾がCX-5という新型のSUVである。正確には、デミオのマイナーチェンジモデルに、スカイアクティブの技術を投入したガソリンエンジンが投入されたのが最初になる。そして次のアクセラにもスカイアクティブガソリンエンジン、トランスミッションが搭載された。しかし、いずれもMCであったため、クルマの基本的なベース技術を見直すことで、燃費を向上、CO2削減といったものを目指すには、新技術が投入できないストレスがマツダにはあったことだろう。

そして2012年2月に発売されたCX-5には、そのスカイアクティブ技術すべてが投入されている。言い換えれば、スカイアクティブ技術によって誕生した、これまでとはまったく違った新型車として誕生しているのだ。

さて、そのスカイアクティブだが、前回考察してみたのはガソリンエンジン、ディーゼルエンジンについてである。スカイアクティブはクルマ造りのベース技術を見直したものだから、エンジン以外にもその革新的技術は存在する。そこで、今回はトランスミッションやシャシー、ボディについて考察してみたい。

スカイアクティブドライブ

トランスミッションには大きく分けてATとMTがあるが、マツダはその両方にスカイアクティブ技術を投入している。そこで、まずATタイプから見てみよう。

skyactiv drive1
全ての変速機のいいトコ取りをしたというスカイアクティブドライブATミッション

ATタイプというのはトルクコンバーターを使い、遊星ギヤを主体とした減速機構で減速比を変えるステップATのことで、いわゆる4速ATとか5速ATというカテゴリーだ。そのほかのトランスミッション形式には、無段変速といわれる、一対の可変型プーリーで減速比を変えるCVTと、2系統の変速機構を持ちながらそれぞれにクラッチがあるデュアルクラッチ(DCT)タイプがある。

それぞれのタイプにはメリット、デメリットが存在し、マツダの目指したスカイアクティブドライブは、それぞれのいいとこ取りをする、というものである。その結果ステップATをベースに、燃費向上、ダイレクト感、滑らかな変速を徹底追及することで、全てのタイプのミッションのメリットを集約した理想のATを目指したという。

メリット
各種変速機のメリットとデメリット

ATに求められる性能を振り返ってみると、低速時燃費、高速時燃費、発進のしやすさ、ダイレクト感、滑らかな変速などがあげられる。これらは日本市場、北米市場、欧州市場によってもまた、要求されてくるものには違いがある(別表参照)が、グローバルに展開が可能なATトランスミッションとしている。

ステップ式ATの課題とされるのは、ダイレクト感、燃費項目があげられる。これは構造的にトルクコンバーターという流体を介して動力をミッションに伝える装置であるため、スムーズな発進、変速というメリットはあるものの、いわゆる「すべり」があるため、ロスも生じているわけだ。そこで、このトルクコンバーター内の流体を介さずに機械的に締結してロックアップ状態とするロックアップクラッチを内部に設けている。

もっともこの技術はすでに他のATでもロックアップ機構は搭載されているが、問題はそのロックアップされる領域なのだ。通常は変速比が1.00になるギヤとオーバードライブとなるハイギヤの2速分がロックアップされるのがせいぜいで、最近ではその領域が少し拡大しつつある。

スカイアクティブドライブでは、このロックアップ領域を可能な限り広く設定することに取り組んだものだ。しかし、その領域が広くなると振動、騒音などのNVH(ノイズ、バイブレーション、ハーシュネス)への対策が必須となる。

そのための主要技術では、小型のトーラスを新規に開発することで、全速域ロックアップ領域を拡大しながら振動、騒音問題をクリアしている。つまり、ロックアップ領域を広げるには、ロックアップクラッチと振動減衰ダンパーの性能を向上させる必要がある。そのためにはクラッチとダンパーのスペースを確保する必要があり、トーラスを小型化することで達成している。

小型トーラス

一方制御ECUを油圧制御する機械モジュールをECUと一体化してATユニット内に配置している。これは小型一体化されたことによって作動油圧の精度を飛躍的に高めることができ、信頼性もあがるということだ。そして実際に作動させるための油圧自体も油圧精度とともに、応答性も重要なポイントとなる。そのためにアクチュエーターに応答速度の速いダイレクトリニアソレノイドを採用し、トップレベルの変速応答性とシフトクオリティを両立したと説明している。実際のフィーリングは、こちらでレポートしているので参照して欲しい。

【マツダ】アクセラ事前試乗会で2Lエンジンと6速ATの新SKYACTIVコンビの実力を初体験
【マツダ】アクセラ 2.0 SKYACTIVは、国内敵なしの存在に!
もっとも広く世界中で採用されているステップ式ATを進化させることによって、スカイアクティブドライブはDCTなみの変速速度を持ちCVTなみのシームレスな変速が行えるATとしているわけだ。そして4%〜7%低燃費への貢献がされているという。このATと同時にMT版のスカイアクティブも存在するので、次にMTを考察してみたい。だが残念なことにMT搭載モデルが国内に導入されておらず、実際の試乗レポートはできていない。

スカイアクティブMT

さて、スカイアクティブMTの狙いは軽量・コンパクトなFF用のMTであり、シフトフィールは軽快で節度感があり、燃費性能を高めることを目指している。もちろん開発の背景には、MTが主流をしめる欧州からのニーズに応えるためであり、そのため高トルクに対応するMT(Large)と中トルクに対応するMT(Mid)の2機種を新規に開発している。

skyactiv MT
新規に開発されたマニュアルのスカイアクティブMT

軽快なシフトフィールを実現するには、ショートストロークと軽い操作力という相反特性を両立させることであり、従来の構造にとらわれず、イチから構造を見直すおことで実現されている。その操作力を軽くするためにはレバー比を拡大する必要がある。操作力Fをシフトストローク45mmとしたときレバー比を1/3とすれば15mmのストロークとすることができる。

ただし、レバー比を拡大すれば、内部ストロークも小さくなるわけで、その小さな内部ストロークでも正確なシンクロ機能、トルク伝達が成立するシンクロ装置をスプラインの小モジュール化で達成しているという。さらに、シフト開始時には適度な重さを与え、その後は自らギヤインしていくような吸い込み感を造りこんでいるという。

ショートストローク

ロックボールタイプのシンクロにより滑らかな節度感を演出し、シフトロードキャンセラーによって、ギヤセレクト時にシフトロックボール荷重の影響を受けない構造をとっている。スライドボールベアリングはシャフトの回転、摺動部(こすれる部分)の低抵抗化とするなどが行われている。

変速機構内部

内部のギヤ構成に関しては、軽量コンパクト、低操作力、高効率を鑑み、ワイドギヤ比レンジの視点から2速/3速インプットギヤ共用3軸タイプを選定している。次に、このギヤ構成を基本として、1万通り以上の詳細構造を検討し最軽量スペックと決定されている。

特徴的な部分としては1速用とリバース用ギヤを兼用する新たな構造を採用している点が挙げられる。1速とリバースアイドル軸を共用することで、リバースギヤ用の専用アイドル軸を必要としなくっている。そのため、セカンダリー軸長も現行比約20%短縮することができるなど、ギヤや軸の共用を積極的に行うことで部品点数を減少させ、ギヤトレーン単体重量で現行比約3kgの軽量化を達成している。

リバースアイドル軸の廃止

総合的軽量化を目指すボディ

前回のスカイアクティブGとDという革新的エンジンと、ここまで考察したトランスミッションというパワートレーンの性能をフルに引き出し、走る、曲がる、止まるという基本性能を向上させるには、ボディ、シャシーという領域にも当然、変更点は数多くある。

ベース技術の刷新というスカイアクティブは、ボディの領域でも基本的なパワートレーンのレイアウトの見直し、材料技術、新工法などにも及び、最終的には衝突安全性や剛性をより高めつつ、軽量化も追及したものとなっている。

その結果、従来比30%の剛性アップの高剛性ボディは従来比8%(約100kg)の軽量化を達成し、各国の衝突安全評価では最高レベルをクリアする性能を確保しているという。(US-NCAP、Euro-NCAP、IIHS、JNCAP等)

ボディ構造

ポイントとしては、まず、基本骨格を可能な限り直線で構成する「ストレート化」とし、各フレームと協調して機能させる「連続フレームワーク」をコンセプトとしている点だ。入力を特定の部位だけで受けるのではなく、骨格全体に広く分散させながら受けていくことができ、軽量で強い骨格を造ることが可能だということだ。

基本骨格のストレート化
基本骨格のストレート化

アンダーボディでは、ストレート形状のフレームがフロントからリヤまで連続する構成とし、曲げが入らざるを得ない部分では、横方向のフレームとも連続結合させ剛性をアップ。また可能な限り閉断面構造としている。一方アッパーボディでは、連続フレームワークの構成部材として機能し、前後サスペンション取り付け位置をアンダーボディの骨格にダイレクトに結合した「デュアルブレース」を採用している。また、ルーフレール、Bピラーなどアッパーボディとアンダーボディのリーンホースメント全体で4つの「環状構造」を形成し、ボディ全体の剛性を向上させている。

アッパーボディ

さらに、クロスメンバー(サスペンションメンバー)も構造を一新し、単体の剛性向上とともに、ボディ側取り付け位置の最適化を図ることで全体剛性向上に寄与している。また、ホイールハウス内部のあわせ部など細部に渡り、連続構造を徹底している。

マルチロードパス

安全面でもマルチロードパス構造を採用し、新たな取り組みが行われている。これは衝突時の荷重を複数の方向に分散させることで衝撃を吸収する構造のことで、例えば、フロントフレームからの入力に対し、Aピラー、Bフレーム、ボディ側面へと3つの経路に分散しながら吸収される。その経路分散を成立させるために、これまで衝撃吸収にはまったく寄与していなかったドアヒンジなどの部品も有効に機能する設計としている。

また、パーツ単位でもマルチロードパスの考え方を適用している。例えば、フロントフレーム。衝突エネルギーがフレームの稜線部分を通って伝わることに着目し、Fフレーム先端部を十字型に成型しているという。これは従来の四角断面であれば稜線は4本だが、十字型にすると稜線が12本に増え、マルチパーパスが成立するというわけだ。このことは、エンジンルーム内のスペース効率の向上やエクステリアデザインの自由度にも貢献しているという。

工法においては、リーンホースメントを環状構造とするために、ルーフレール部にウエルボンド接合を採用している。従来、ボディ組み立て行程の都合でリヤフレームとは切り離された構造だったが、この接着工法を取ることで、連続接合化を実現し、より高剛性に寄与するわけだ。さらに、フロア面でのスポット溶接も大幅に増加させている。

工法ウエルボンドハイテン材ボディ

材料においては、軽量で強度・剛性にすぐれるハイテン鋼板の占める割合を大幅に拡大している。現行車の約40%に対して約60%にまで割合を増やしている。このハイテン材を多用すればボディの剛性を著しく向上させること、軽量化できることは知られているが、反面、材料費コストがかかることと、曲げ加工がしにくいなどの問題も抱えている。そのため、ハイテン材と同等レベルの剛性を持ちながら、加工可能な新たな工法なども今後研究・開発されるだろう。

使用ハイテン材

 

シャシー

さて、最終章はスカイアクティブシャシーである。ロードスターやRX-7などスポーツカーメーカーもヒットさせ、そのハンドリングには強い拘りがあるメーカーだと思う。とりわけ、2011年にマイナーチェンジしたプレマシーはミニバンカテゴリーでありながら、気持ちの良いハンドリングで運転操作一連につながりがあると、高評価されたことは記憶に新しい。

スカイアクティブシャシーでは、サスペンション、ステアリングの機能を徹底的に見直し、「人馬一体のドライビングプレジャー」を目標としている。そして、快適性、安心感など走りの質を向上させることも言及されている。さらに、新開発のフロントストラット、リヤのマルチリンクサスペンションなどの軽量化もおこない、シャシー全体で従来比14%軽くできているという。

主な注目ポイントは、中低速域でのステアリング操作に対する軽快感があるが、高速域での安定性と相反しがちである。中低速域での反応の良さ、軽快感を追求するとヨーモーメントを強くする。反面高速域ではそのヨー慣性が必要以上に大きくなり、クルマは過敏に反応し不安感や疲労感に繋がってしまう。

ヨーゲインの増減

この課題を解決するためにスカイアクティブシャシーでは、リヤサスペンションのジオメトリーを再検討している。高速域でのクルマの動きを穏やかにするために、リンク類のレイアウトやブッシュ硬度を最適化し、入力に対する(主にハンドル操作)後輪のグリップ力を増加させている。つまりヨーゲインを低減させているわけだ。そのうえで、中低速域でのクルマの反応を機敏にするために、ステアリングギヤレシオを高速化させ、ヨーゲインを増加させるという方法をとっている。その結果、中低速域でのヨーゲイン増加と高速域のヨーゲイン低減を両立し、中低速域での軽快感、高速域での安定感を実現したとしている。

キャスタートレールシャシーのブレークスルー

そして、次の課題として上記の設定がステアリングを通して感じられるか?という課題だ。つまり、車速に応じたステアリングの手応えの適正化ということだ。その解決策として、高速域でしっかりした操舵力を確保するために、フロンサスペンションのキャスター角及び、キャスタートレールを拡大し、セルフアライニングトルクを大きく設定している。そうなると、中低速域での操舵が重くなるため、電動パワーアシスト量を増やし、操舵力を軽減している。こうして車速を問わず、操作の手応えとクルマの動きの一体感、安心感が得られたとしている。

乗り心地と軽快感の両立

次の課題は軽快感と乗り心地の両立である。バネ、ダンパーを固めることなく、ハンドリングを向上させるサスペンションを見なおしている。ダンパーの作業効率をたかめるためにレバー比を大きくし、そのための取り付け位置を変更している。その結果、ダンパー減衰力とトップマウントラバーの剛性が低減でき、乗り心地への影響を低減しているという。また、リヤサスペンションのトレーリングアーム取り付け位置を上方へ移動し、トレーリングアームの上下軌跡が路面からの前後入力を吸収しやすくなり、乗り心地の改善につなげているという。同時に車体リヤが持ち上がることも防げるので、制動時の姿勢安定にも効果があり、制動距離短縮に貢献している。

インパクトショック

これらの機能を実現した上で、部材、部位の軽量化も目指している。そのために、クロスメンバー(サスペンションメンバー)構造と工法の最適化を図っている。フロントでは、センターメンバーの断面を拡大し、ロアアーム取り付け位置の前後オフセット量を縮小。リヤではクロスバーの前後スパンを拡大し、ラテラルリンク取り付け位置の前後オフセット量を縮小している。さらに、フロント、リヤとも溶接フランジを廃止し、溶接部の接合剛性を高めている。これらの構造を採用することで、軽量化と高剛性の両立を図り、シャシー全体で14%の軽量化を実現している。

クロスメンバー新旧比較
クロスメンバー新旧比較

なお、このあたりの考察に関しては、インプレッション記事も参考にして欲しい。

【マツダ】フルスカイ第1弾のCX-5欧州仕様試乗で、新世代ディーゼルの実力に脱帽!!

【マツダ】CX-5試乗レポート 環境性能を高めたディーゼルの魅力 レポート:佐藤久実 動画

【マツダ】CX-5を長距離ドライブ 走り、燃費を改めて検証

 

 

 

 

 

 

ページのトップに戻る