マツダから登場したCX-5は、ヨーロッパ的なクラス分けでいうCセグメントのクロスオーバーSUVだ。デミオ、アクセラに続き、環境性能、走行性能向上を狙った新世代技術「SKYACTIV TECHNOLOGY」を投入したモデルとなるが、先の2モデルはマイナーチェンジという制約があった。そのため、エンジンなど一部に新技術の採用が限られ、全面的にこの技術が導入されたモデルとしてはこのCX-5が初となる。さらに、マツダの新しいデザインテーマである「魂動(こどう)」を織り込んだ初のモデルでもある。
↑なお、この模様は4/8放送のザ・モーターウィークリー InterFM76.1 22:30から放送されます。青森放送は23:30〜。FM AZURをお聞きのみなさんは4/9 14:00〜お楽しみに!
そしてもうひとつ、CX-5には大きなトピックがある。ディーゼル・エンジン搭載モデルがラインアップされたことだ。「ディーゼル」と聞くと、いまだ「黒煙を吐きながら走る環境に悪いクルマ」というイメージを抱く人もいるかもしれない。しかしながら、新世代クリーンディーゼルは、名前のとおり、まったく新しい技術により、高い環境性能と走行性能を両立したエンジンとなっている。
ガソリン・エンジンと比較しながら、そのドライバビリティ、環境性能、コストパフォーマンスなど、ディーゼル・エンジンモデルを多角的に検証してみる。
まずは、ガソリン・エンジン搭載モデルである20Sの4WDモデルに乗る。さっそくドアを開け運転席座ろうとすると、スッとシートにお尻を滑り込ませられる乗降性の良さを感じる。座面が高いクロスオーバーカーならではの優位性だ。もちろんアイポイントもセダンより高めなので視界に優れ運転しやすいという、まさに”クロスオーバー”のメリットがパッケージからも伺える。
サテンメッキの施されたダッシュボードをはじめベーシックなトーンの室内は、視覚的に質感の高さがあり、人の触れる部分のマテリアルの質感も良く、操作性にも優れる。
20Sに搭載されるスカイアクティブGはガソリン・エンジンで、直列4気筒2.0Lの最高出力114kW(155ps)/6000rpm。最大トルク196Nmの発生回転数4,000rpmという数字が物語っているが、発進時や加速時は、ややトルクの細さがある。環境エンジンとしては「直噴ターボ」が主流となっており、過給によって低回転域からフラットにトルクのあるエンジンに慣れているせいか、「回すほどにパワーが盛り上がる」エンジンは、スポーティさが感じられる一方で、山道を登る時など実用面では若干もの足りなさを感じるシーンもあった。とはいえ、ひとたび巡行スピードに乗ってしまえばパワー不足を覚えることはなかった。
走行フィールは、SUVというよりは乗用車ライクな印象が強い。つまり、重厚感より”軽さ”が際立つ。SUVイメージで乗り込むとどっしり感は期待値に欠けるが、塊感のあるルックスから予想される以上の軽快さがある。唯一、ボディの動きが大きいのがちょっと気になった。もう少しフラットライドだと、特に同乗者に対しても快適性が高まるだろう。
ワインディングも気持ちよく走れる素直なハンドリングは好印象だ。ただし、ここでも低速トルクの細さが走りの質感にちょっと陰を落とした。特に上りでアクセルを踏み込むとATがビジーにシフトするため、落ち着きがなく、しかも回転が上がるためエンジン音も大きくなってしまう。郊外や高速メインユースなら、ガソリン・エンジンのおいしいところを使ったCX-5の走りを堪能できるだろう。
さて、続いて、ディーゼル・エンジン搭載モデルのXD(クロスディー)に乗る。
タイヤが転がり始めた瞬間から、ガソリン・エンジンのトルク感との違いを体感する。パワースペックを比較するまでもないが、2.2Lの直噴ターボディーゼル・エンジンからは、ガソリン・エンジンの196Nmに対して倍以上の420Nmものトルクを発揮し、しかもその発生回転数も2000rpmと低いため、より実用域での豊かなトルク感が生かされる。
XDは20Sに対して車重が70Kg〜100Kg重いが、それはトルクと相殺されてなお余りある。使用回転域が低いため、結果的に室内の静粛性も高く保たれ、快適性にも反映される。特に、ワインディングではその差が如実に表れた。ガソリン・エンジンに見られたトランスミッションのビジーさがなく、トルクバンドが広いためギヤの変速もあまり見られない。
「軽快」な20Sに対して良い意味で「重厚感」の感じられるXDの走行フィールは、必ずしもエンジン特性のみに因るところではない。たとえば、パワステの操舵力も若干重めに設定されているが、「重い」というネガティブな印象はなく、むしろ、しっとりとしてクルマ自体の安定感すら高まったかのような好印象を受ける。
スペック的には、車重が増した分、スプリングレートもやや高められているが、ハンドリングは基本、20Sと同じ特性。それでも、より落ち着きがあり、ひとクラス上のクルマとも思える上質感があった。ちなみに、試乗モデルXD L Packageは19インチタイヤを装着する。が、タイヤの当たりがゴツゴツしていてロードノイズも大きく、大径である優位性はあまり見られなかった。ルックス重視、スポーティ重視であれば選択もありだが、クルマの性格や使われ方から考えると、走りの質感的にはあまりメリットは感じられず、17インチがオススメ。
ディーゼル・エンジンの話にスポットライトが当たってしまうが、CX-5で注目すべき技術がもうひとつある。最新の安全装備であるスマート・シティ・ブレーキ・サポートとAT誤発進抑制制御がオプションで装備されることだ。(グレードによる)発進時や低速走行時など、日常シーンでの安全性装備は、事故低減にダイレクトに反映される有用性の高い装備といえる。
ディーゼル・エンジンは燃費に優れる一方、製造コストはガソリン・エンジンより高い。購入時のイニシャルコストにおける価格差と、燃費及び燃料代の差によるランニングコストから、どれくらい走ったらディーゼルの元がとれるか、という計算を試みると、年間の平均走行距離が1万Km以下とも言われる日本においては、この数式のみでディーゼルの優位性をアピールするのは難しい。しかし、これは必ずしも真実を証明していない。何故なら、「ドライバビリティの差」が加味されていないからだ。
ところが、CX-5は、たとえば同じFF同士で比較してみると、20Sの220万円に対してディーゼル・エンジンのXDが258万円。38万円の価格差は、そもそもディーゼルとの価格差が少ないと言っていい。さらに、エコカー減税などを反映させていくと、実際に支払う価格差は約20万円となる。これは、XDにはかなりお買い得感がある。さらに、豊かなトルクや質感の高いドライバビリティを鑑みれば、むしろディーゼルモデルの方が断然、コストパフォーマンスに優れると言わざるを得ない。
マツダの本拠地、広島県がクリーンディーゼル車に対して減税するとの発表もあった。CX-5の登場により、ディーゼル・エンジンへのネガティブな誤解が払拭され、環境性能を高めたクルマのひとつの選択肢として、燃費と走りを両立したクリーンディーゼルの普及が進むことだろう。