レクサスに2ドアクーペスタイルのスポーティモデルが加わった。さらに競技車両をも視野にいれたスーパースポーツクーペ、RC Fも試乗できたのでレポートしよう。
RCのモデルラインアップはV型6気筒3.5Lの自然吸気エンジンを搭載するRC350と4気筒・2.5Lエンジンを搭載するRC300hのハイブリッドに大別される。さらにこのRCとは全く別開発されたRC Fの3モデルがある。試乗はそのいずれにも乗れたので順にレポートしよう。
◆ポジショニング
RCの開発目標はエモーショナルを追求し、レクサスのイメージを変えるという使命を持って開発されたクーペ専用モデルだ。それはひと目見た瞬間から「運転してみたい、乗ってみたい」と思わせるようなセクシーなデザインで訴えかけるモデルを造りあげることで、それをImpassioned and Captivatingと表現していた。
もちろんポジショニングはラグジュアリープレミアムブランドであり、欧州、米国のブランドと直接対決する位置で、価格も565万円からという価格帯からスタートする。RC Fは953万円からとなっている。ボディサイズは全長4695mm×全幅1840mm×全高1395mm、ホイールベースは2730mmとショートホイールベースで俊敏な走りを狙ったモデルであることがスペックから想像できる。
◆インプレション
最初に試乗したのはRC350のバージョンLで、V6型3.5L(2GR-FSE)に8速ATを搭載するFRモデル。315ps/380Nmという出力でJC08モードは9.8km/Lとなっている。グレードとしてはバージョンLとFスポーツの2グレード構成でその違いとして、Fスポーツ専用の内外装とLDH(レクサスダイナミックハンドリング)の装備がある。一方バージョンLは電子デバイスをフルに装備していないモデルだ。
ハンドリングの素性としては弱アンダー。一定舵角からスロットルを開けると外へ膨らむ動きをする。その理由としてリヤタイヤに強い横力が加わったときに、スピンモードに絶対ならないようにするため、リヤタイヤをトーインとし、直進性を保つようにしているとシャシー設計の竹内賢一氏の説明だ。
乗り心地では19インチの大径サイズとは思えないもので瞬間的な固い入力もソフトにいなし、クーペらしいものとなっている。ちなみにプレミアムブランドで流行中のランフラットタイヤは装備せず、通常のエアタイヤを使用している。サイズはフロントが235/40-19、リヤ265/35-19という超扁平の異型サイズとなっている。
一方の、RC350 Fスポーツの基本性格、ジオメトリーはバージョンL同様弱アンダーだ。搭載するパワートレーンは同じ。しかしFスポーツにはLDHが装備されているので、リヤのトー変化が可能な、つまり後輪操舵するので旋回性は高い。低速域では逆位相、高速域では同位相にステアし、低速域でゆっくり舵を切ると旋回性が高く、クルッと回る印象の新しいコーナリングフィールがある。装着タイヤサイズはバージョンLと同サイズで、レクサスGSシリーズと同様のブリヂストン・ポテンザを履いていた。ちなみにダンパーは日立オートモーティブ製を装着している。
一般的に、コーナーをジワッとステアし、そのまま舵角保持してコーナリングさせられるドライバーは少なく、切り足しや切り戻しの修正舵をしながら曲がるのが普通だ。つまりわずかにソーイングをしており、リヤはそのステア操作に反応し操舵してしまう。そのフィールはリヤが動く落ち着きのないフィールとして伝わる。
また高速域でのソーイングではグニャっとした動きは感じにくい。それは同位相に切れるためで、トーインとなり直進が確保されるからだろう。しかし結果は弱アンダーとなるか、あるいはニュートラル付近で収まるということになる。
直進状態でもドライバーは無意識にハンドルを切っているのが一般的で、その操作がコーナリングを開始しているのか?あるいは直進性維持のための修正なのか?LDHは判断ができないため、直進性の修正舵でもリヤが動いてしまう。そのため、すわりのしっかりした直進ではなくなる。とはいえ、ステアリングを動かさない状態であれば、座りの良い直進性はある。
このLDHとはギヤ比可変ステアリングのVGRS、後輪操舵のDRS、そして車両横滑りを制御するESPを統合制御するシステムの名称で、RC350 Fスポーツに装備されるデバイスだ。後にレポートするRC300hハイブリッド FスポーツにはDRSは装備されない。後輪操舵は新しいコーナリングフィールをもたらすデバイスだが、フィーリングとしては従来と異なるため、違和感と捉える人もいるだろう。
そしてハイブリッドモデルは2.5Lアトキンソンサイクルエンジン(2AR-FSE)を搭載するハイブリッドで、このエンジンは高効率なクラウンハイブリッドと共通のユニットだ。JC08モードは23.2km/L、エンジン出力178ps/221Nm、モーター出力143ps/300Nmで、システム合計の馬力は220psというスペックだ。装着するタイヤはRC350シリーズと同サイズでフロント235/45-19、リヤ265/35-19だった。
そのRC300hの操安は、ニュートラルでRC350と大きく異なった。その理由としてエンジンがV6型と直4の違いがあり、その重量差がフロントにあり、さらにリヤにHEV用バッテリーも搭載しているため、結果的に50:50の重量バランスに近くなっている。そのため、前後のスプリングもRC350よりソフトタイプを採用し(シャシー設計竹内氏)、ダイアゴナルロールが作りやすいという結果がある。
それは一定舵角時にアクセルを開けてもステア方向に加速するので安心感が高く、スロットルを開けるタイミングも早いタイミングで開けられる。多くの欧州車のようにコーナーのアペックス関係なく、ステア方向に加速するモデルは気持ちよく、素直なジオメトリーに仕上がっていた。
ただし、ノーマルモードではステアリングレスポンスはゆっくり目のため、ジオメトリーの素直さとフィーリング的に一致しない。SPORT+モードをチョイスすればしっくりくるのだが、パワーユニットがCVTに似た電気式無断階変速機であって、スポーティなレスポンスというよりパワーユニットに対してはノーマルのステアリングギヤ比でリンクするように設定しているのだろう。意のままにステアレスポンスするハンドリングとパワートレーンとのギャップがあるということか。
個人的にはハイブリッドモデルのジオメトリーにV6型エンジンを組み合わせたものがあればベストだが・・・レスポンスのよい8速ATの変速は気持ちよく、エンジン音もサウンドジェネレーター、サウンドマフラーからの音はエモーショナルだ。
いずれのモデルもレクサスIS-CのプラットフォームにGSのシャシーを組み合わせ、RCシリーズを展開している。がしかしRCは専用に設計されていると捉えるのが正しい。フロントはWウイッシュボーン、リヤはトーコントロール式マルチリンクというレイアウトとしている。
RCシリーズはそのルックスから想像されるアグレッシブさとは逆に、プレミアムモデルにふさわしい乗り心地だと思う。セダンほどのラグジュアリーさはないもののスポーティなクーペで19インチという大径サイズを考えれば、乗り心地のよいモデルと言っていいだろう。しかし、ロードノイズが車内に入り込み、ここは改善を期待したい。筆者の勝手なイメージだが、レクサスには静粛性は必須の性能ではないだろうか。風切り音は見事に抑え込んでいるものの、タイヤからのノイズはもう少し抑えたい。
エクステリアデザインでは迫力のあるスピンドルグリルとワイド&ローのルックスは走りをイメージさせ、乗ってみたい、運転してみたいとエモーショナルに訴えてくる。開発の狙いどおりのルックスではないだろうか。そしてFスポーツにはメッシュタイプの専用グリルも用意され、差別化もしっかりある。随所にレクサスのアイコンとなる「L」が散りばめられ、デザインやLEDライトを駆使して存在感をアピールしブランドを強調する。
インテリアはレクサスに共通する水平基調のインテリアデザインに、コックピット感をたっぷりと感じさせるコンパートメントになっている。バケットタイプのシートや電動のアジャスト機能などプレミアムモデルにふさわしい装備が充実し、アンビエントライトなども雰囲気があり、豪華なナイトドライブを演出する装備は満足度も高い。
メーターもバージョンLは2眼式で中央に液晶パネルがあり、様々な情報を表示する。一方Fスポーツは中央に大き目のタコメーターが表示され、8インチのTFT液晶となっている違いがある。
◆世界初の本物トルクベクタリングを装備
RC FはIS Fに次ぐモデルで、レクサスのサブブランドの位置付けを目指すモデルだ。RCシリーズとは開発段階から別企画としてスタートするスポーツカーだ。ブランドトップにはLFAがあり、走行性能を極めたプレミアムスポーツモデルとなる。「Fモデル」というポジションを示す記号は「F」であり、富士スピードウエイを意味している。
初代Fモデルは2007年に登場したIS Fで2010年にLFAが誕生している。今回のRC FはIS Fの後継モデルという位置付けではなく、新たにレクサスのスポーツイメージを牽引していく戦略的なモデルという位置付けとしている。開発キーワードはFモデル全体に共通する「走りを楽しみたい人なら誰でも運転スキルに関係なく笑顔になれるスポーツカー」だ。
ベンチマークは誰でも扱えるレーシングカーIS CCSRとしている。IS Fのエンジン、ATミッションを搭載しながらニュルの耐久シリーズVLNでのシリーズチャンピオン獲得など本格的レーシングカーを目標として開発されている。
今回のRC Fの開発キーワードはLFAを想起できるリアルスポーツとしての世界観・技術の継承、Fの楽しさ、「サウンド」、「レスポンス」、「伸び感」の継承と進化、モータースポーツへの参戦でFサブブランドの認知向上としている。そしてサーキットはレースをする特別な場所ではなく、公道の延長であり高性能を安心、安全に楽しむ場所として考え、Fモデルは公道からサーキットまで楽しく走れるモデルということになる。
こうしてRC350とは別企画でスタートしたRC FにはV8型5.0L自然吸気エンジン(2UR-GSE)に8速ATをパワートレーンとして搭載している。出力は477ps/530Nmとなっている。オプションとしてトルクベクタリングデファレンシャル(TVD)を装備している。ちなみに標準はトルセンLSDとなっている。エンジンはIS Fからの流用ではなくシリンダーブロックは共通なものの、約70%は新規設計された専用エンジンとなっている。
中でも特徴的なのは市街地走行など低負荷域ではアトキンソンサイクル運転になり、燃費性能にも配慮されている点だ。さらに500rpm高回転までまわるようにし、7100rpmまでをパワーバンドとしている。しかし、その影響からか、4000rpm以下や低負荷時はトルクが細い。もちろん4000rpm以上7100rpmまではパワフルでV8型自然吸気エンジンを楽しむことができるのだが、低速でのトルクが細いため477ps/530Nmという高出力でもそれほどパワー感を感じない。逆に高回転側で走行したときのいい意味でのギャップがあるという言い方もできる。
新規搭載のTVD(トルクベクタリングデファレンシャル)は、いわゆるコーナリングブレーキではなく、キチンと駆動トルクを左右に配分する装置で、左右輪の駆動力に差をつけることでヨーモーメントを発生させるシステムだ。これまでは他メーカーでは4WDと組み合わせて採用されており、FRに採用したのは世界初ということだ。パーツはドイツ・GKNから提供されているが、動作プログラムはレクサス内部で開発されている。GKNとはドライブシャフトなどではレクサスで採用してきているサプライヤーだが、ギヤ関連でのサプライは初めての採用ということだ。
作動原理はモーターで圧力調整のできるクラッチを介し、サンギヤが2個組み込まれたプラネタリーギヤでトルク配分を行なう。サンギヤはドライブシャフトとデフケースに繫がり、サンギヤの歯数はタイヤの回転より速い回転を作りだすためだけに作ってある。そして力の大きさ(トルク配分)自体はクラッチ板の押し付ける強弱によって決まるという仕組みだ。
タイヤサイズはエンジン出力に見合ったものとするため、ミシュランと共同開発をした専用タイヤでパイロットスーパースポーツだ。ブランド名が同じでも市販モデルとは異なるという専用タイヤを装着している。サイズはフロントが255/35-19、リヤは275/35-19という極太設定となっている。そのため低速域でのセルフアライニングトルクが発生しない。つまりタイヤの接地幅が広く接地長が短い。キングピン軸に対してニューマチックトレールがタイヤ単体に対して短いためこうしたことが起こっている。(シャシー設計竹内氏)もっとも実際は車庫入れのときに気づくというレベルの話だ。ちなみにダンパーはIS Fのときと同様ZFグループのSACHS(ザックス)製を採用している。
エクステリアはスピンドルグリルをF専用漆黒メッキグリルモールとしたり、ブレーキ冷却ダクトをフロントバンパー左右に設けたりとRCシリーズとの差別化がある。リヤでも4連エキゾーストマフラーやL字シェイプのサイドエアアウトレット、アクティブリヤウイングなどでFのアイデンティティを継承している。また、カーボンエクステリアモデルも用意され、一昔前であれば検問で止められるような過激に写るRC Fもある。
インテリアはRCシリーズ同様水平基調のインテリアでシートなどが、バケットタイプになるなどスポーティ度を増した内容だ。試乗車は赤のレザーシート仕様であったがFのアイデンティティというブルーのステッチがステアリング、シフトノブに使われている。そのためアンバランスに映るが、このあたりの印象は個人のセンスの中で捉えるものだ。
メーターは液晶のタコメーターが中央に配置され、右側にやや小さく速度計がある。スピードメーターは340km/hまで刻まれており、ただものではないと語っている。右側はTVDの作動状況をリアルに見せるデジタルインジケーターが装備されているが、コーナリング中にインパネ内で作動状況を確認することはできない。でも最先端のスポーツカー装備であることが確認できる要素でもある。
これだけのスポーツカー要素を持ちながら市街地での走行では、エンジン音も静かで極太タイヤを履きながら乗り心地もそれほど悪くない。まさに誰でもが日常的に乗れるモデルであることは間違いない。ひとたびアクセルを踏み込めば、V8型エンジンはパワーを吐き出し、エキゾーストノートも車内に響き渡りアグレッシブな顔を出すというギャップを持ったモデルだった。(高橋 明)