レクサス 最新のフラッグシップ・エンジン「V35A-FTS」エンジンを徹底考察。だが謎は深まる

2017年10月19日、11年振りのモデルチェンジを受け、5代目となったレクサスLSが発売され、その後1ヶ月の受注が9500台に達したという。月販目標は600台だからなんと15倍の受注だ。もちろんその多くは11年振りの代替え需要と考えられる。

■3.5L V6ツインターボを新開発

レクサスLSの価格はベース仕様の980万円が1機種だけで、それ以外はすべて1000万円以上。最も高価なLS500hエグゼクティブ4WDは1680万円と、輸入プレミアムブランドのクルマと遜色ない価格になっている。ちなみにメルセデス・ベンツS560 4MATICロングの価格は1681万円だ。

LSのライバルは、メルセデス・ベンツSクラス、BMW 7シリーズ、アウディA8で、価格も同レベルならパフォーマンスも同等というポジションとなっている。

新型LSは、そのために性能、先進安全技術、快適性、走りの性能をトップレベルに仕上げるために、コストを惜しまず持てる技術をすべて投入している。

注目すべきはレクサスLCに続いてGA-Lプラットフォームを採用している点と、新たなエンジンラインアップだ。LS500h はLCと同じユニットを採用しているものの、LS500は新開発の3.5L V6ツインターボのV35A-FTS型エンジンを搭載したことだ。

レクサスLC500はRC FやGS Fにも搭載しているヤマハ製のV型8気筒5.0Lの2UR-GSE型エンジンだが、LS500はこのV8の代わりに新開発のダウンサイジング・ターボエンジンを搭載してきたのだ。なぜLCには新エンジンを搭載しなかったのか、あるいは間に合わなかったのかということには謎が残る。

レクサス 3.5L V6ツインターボ V35A-FTS型エンジン
LC500h、LS500hに搭載されている3.5L V6の8GR-FXE型エンジン

さらにLSのハイブリッド・モデル、500hは3.5LのV6エンジン+モーターという組み合わせだが、このV6エンジンは8GR-FXE型で、新ダウンサイジング・エンジンはこの8GR型を使用せず、同じ3.5Lにも関わらずゼロから開発している。

GR系のV6型エンジンは2003年からとスタートしており、今ではかなり古いタイプになっているのも事実だが、FXEの名称通りアトキンソンサイクル専用にしており、これはあえて変更する必要がなかったと考えたのだろうか。

■2UR-GSE型との比較

LC500に搭載されている5.0L V8の2UR-GSE型は、477ps/7100rpm、540Nm/ 4800-5600rpmの出力だ。現在のフラッグシップ・エンジンとしては高回転型で低トルクのため、ライバルに対してパフォーマンス不足だし、日常の走行ゾーンの低負荷ではアトキンソンサイクル運転を行なうため、低速トルクがことさら弱く感じられる。

レクサス 2UR-GSE型エンジン
5.0L V8の2UR-GSE型エンジン

この5.0L V8エンジンを上回るハイパフォーマンス、大トルクを狙ったのが新たなフラッグシップ・エンジンのV35A-FTS型だが、現時点でその技術的なアピールがほとんど行なわれていないのはなんとも奇妙だ。

V35A-FTS型は、トヨタの最新のエンジン群の名称であるダイナミックフォース・エンジンとされ、最高出力422ps/6000rpm、最大トルク600Nm/1600-4800rpmで、低速から最大トルクを発生している。

レクサス 3.5L V6ツインターボ V35A-FTS型エンジン
新開発されたV35A-FTS型エンジン

60度V型エンジンの両バンクにターボを装備し、燃料噴射はD-4STと称される直噴とマニホールド噴射を併用するシステムを採用。また吸気カムは電動式可変バルブタイミング、排気側は油圧式可変バルブタイミング機構を採用。作動がクイックで可変角の大きい電動式を吸気側に採用しているためアトキンソンサイクル運転をすると想像されるが、じつはこのエンジンはアトキンソンサイクルを行なわない。またEGR(排気ガス再循環)もバルブタイミングのオーバーラップによる内部EGRのみで、外部回路を持つ大量EGRシステムは使用していない。

■V35A-FTS型の新しいコンセプト

V35A-FTS型はダイナミックフォース・エンジン共通のテーマである、高出力と高い熱効率の両立を目指して開発されたという。そのため、従来の3.5L V6エンジンの8GR系ではなく、全く新たに設計されているのだ。結果的に世界トップレベルの熱効率を達成したといわれているが、具体的な数値の発表はされていない。恐らく37%以上といったレベルに達しているのだろうと考えられる。

レクサス 3.5L V6ツインターボ V35A-FTS型エンジン 吸気経路
紫色のダクトが過給気を示し、エンジン上の水冷インタークーラーに

ハイブリッド用に採用されている8GR系は94.0×83.0mmというV型エンジンでは常識的なオーバースクエア・タイプで3456ccの排気量となっているが、V35A-FTS型は85.5×100.0mmという超ロングストローク・タイプとしている点がユニークだ。

排気量は3444ccで、スモールボア、ロングストロークでは低速重視のトルクは得られやすいが、出力面では吸気面積が狭まり不利になる。だが、V35A-FTS型はバルブ挟み角を41度に大幅に拡大し、ポート部での絞りのないストレート・ポートを採用し充填効率を高めている。

なお圧縮比は10.5とターボエンジンとしてはかなり高い。アウディが新開発した3.0L V6ターボのCWG型エンジンはV35A-FTS型と同じRON95(日本ではハイオクタン・ガソリン仕様)でありながら11.2という高圧縮比だが、このエンジンはミラーサイクル運転(アウディはBサイクルと呼ぶ)を行なうので、実圧縮比はほぼ同等だろう。

レクサス 3.5L V6ツインターボ V35A-FTS型エンジン タービンからインタークーラーへの流れ

バルブ挟み角の拡大は、これまでトヨタが守ってきた狭いバルブ挟み角によるコンパクト・ペントルーフ型燃焼室による急速燃焼という手法を改め、直線形状の吸気ポート、吸気バルブの大径化により、高出力型のエンジンを目指していることが分かる。

もちろんそれだけでは燃費の向上は難しいため、強力なタンブル流による急速燃焼、熱効率の向上によりパワーと燃費性能を両立させているわけだ。

トヨタは、幅位広い運転領域で高速の燃焼を実現するために、高タンブル流を作り出すためのポート端部のデザインとレーザークラッド・バルブシートを組み合わせて採用。このバルブシート部で吸気流を剥離させ、燃焼室内で高タンブル流を発生させ、急速燃焼を行なう。

このあたりはダイナミックフォース・エンジン第1号の2.5L 直4のA25A型(カムリに搭載した自然吸気エンジン)のコンセプトを継承していることがわかる。

レクサス 3.5L V6ツインターボ V35A-FTS型エンジン 特徴

直噴インジェクターは6穴式を新採用し、霧化性能を向上。また低回転・低負荷時にはポート噴射のみ、高負荷時には直噴+ポート噴射を使用することでより均一な燃焼を行なう。また冷却損失を低減するために電子制御式の冷却水コントロールを採用し、冷間時には冷却水を循環させないようにするなど、冷却損失を抑えエンジンのウォームアップ性能を高めている。

動弁系はチェーン式カム駆動で、バルブ駆動はローラーロッカーアームと、小型ハイドロリック・ラッシュアジャスターを組み合わせて採用している。

ターボはトヨタ内製で、タービン翼形状の湾曲化と翼長を増加させるなど最新のターボ技術を導入。コンプレッサーのハウジングはダイキャスト製造することで面精度を高め、コンプレッサー翼との隙間を縮小し排気エネルギーの回収効率を向上。この新開発のターボチャージャーは世界トップレベルのタービン機械効率を実現しているという。

またウエストゲートバルブは電動式で、軽負荷時はウエストゲートバルブを開くことで、ポンピングロスや残留ガスを低減し、低燃費に寄与する。また加速時、高負荷時は、ウエストゲートバルブの開閉を緻密に制御することで加速レスポンスを向上させている。

過給気は、エンジン上部にあるコンパクトな水冷インタークーラーを経て吸気ポートに送られ、インタークーラーと吸気ポートの距離が最短になっているのがこのエンジンの特長だ。

ヨーロッパの最新V6ターボ・エンジンはVバンクの内側を排気、Vバンク外側を吸気とし、Vバンク内側にターボを置くレイアウトが多いが、この場合は排気ポート直後にターボを置くことで排気エネルギーを有効に利用できるメリットがある。従ってこのレイアウトは90度V6が必須で、V8エンジンと系列化するモジュラー設計により生まれている。

V35A-FTS型は60度V型のためこのレイアウトは採用できない。しかしトヨタのエンジニアによればできるだけターボをVバンク外側の排気ポートに近づけ、水冷インタークーラーから吸気ポートの距離を縮めたことで、特に性能的には劣っていないと考えているという。

■10速ATとの組み合わせ

V35A-FTS型は10速ATと組み合わせて搭載されている。この10速ATと500hのマルチステージ・ハイブリッド(モーター+ギヤ式4段変速。擬似的に10速ステップ変速も可能)ユニットはLCで初めて採用され、LSにも流用されている。

レクサス 10速ATミッション
10速ATユニット

もちろんV35A-FTS型エンジンと10速ATとの組み合わせはLS500が初めてだ。10速ATの変速比幅は8.23と、10速から想像されるほどワイド・スプレッドレシオではないが、2速から6速までを徹底したクロスレシオとすることで、変速時のトルク変動を抑え、ドライバーの感性にマッチしたリズミカルな変速が実現している。またDレンジでもマニュアル操作でもATの変速応答速度は世界ナンバーワンだという。

レクサス 10速ATの特徴

V35A-FTS型エンジンはこのクロスレシオの10速ATにより低中速での強力なトルクをうまく使用することで、エンジンを引っ張ることなく気持ち良い加速が実現している。また9速、10速のオーバードライブ・ギヤを使用することで、100km/h巡航は1250rpmという低回転での走行が可能で、エンジンのダウンスピード化を実現している。

レクサス 10速AT 8速ATとの比較

動力性能は0-100km/h加速は4.6秒、最高速は220km/h(電子リミッターによる設定)となっており、加速性能はライバルと比べても勝っている。

なおこのV35A-FTS型エンジンは、現状ではLS専用の極めて少量の生産数のため特別なエンジンとなっているが、レクサスの他車種、またトヨタの車種に搭載するなどにより量産化が予想される。

LS 諸元表

レクサス アーカイブ
レクサス 公式サイト

ページのトップに戻る