2013年の東京モーターショーでコンセプトカーとしてワールドプレミアしたS660。発表、発売に先立って説明会、量産試作車の試乗会があり、そこで市販バージョンの全貌が見えてきたのでお伝えしよう。またサーキットでの試乗インプレッション(ドライバー:桂伸一)はこちらに掲載している。
◆一線入魂のボディ
価格やサイズなどのスペックは正式発表を待たなければならないが、ここでは一足先に実際に発売されるS660の詳細を見てみよう。基本は2シーターミッドシップレイアウト+キャンバスルーフ、ターボエンジン搭載の6速MT仕様と7速CVT仕様がある。ボディサイズは軽規格に収まるサイズであることは言うまでもない。
世界で一番「笑顔の似合うスポーツカー」というキーワードで、徹底的に楽しさを追求した2シーターオープンモデルの軽自動車だ。見る楽しさ、見られる楽しさ、曲がる楽しさ、操る楽しさ、そして走る楽しさを求め、開発されている。コーナーを曲がるイメージを言葉で表現すれば、スッとノーズが回頭し、ピタッと路面に吸いつき、グッと踏ん張って、ガツンと加速してコーナーを脱出、と開発主査の椋本氏は話す。
それには、各部の作りこみを満足できるレベルまで高める必要があり、妥協のないクルマ造りを目指したことが分かる。では、そのキーとなるボディからまず、見ていこう。エンジンやサスペンションなどに比べると地味だが、走りを作りだすすべてのキモとなるのがボディであることは間違いない。S660でも「一線入魂」を合言葉に徹底的に基本に忠実に、そして、コンベンショナルだが高性能なボディとしている。
特徴としてはNシリーズとは全く異なったボディで流用箇所はない。しかし、共通技術としてインナーフレーム骨格を採用している。写真の濃いブルーが乗り味に影響する部分で、骨格部材としては肝いりで作った箇所だという。特に環状形状を採用し、サスペンション取り付け部位の剛性アップを図っている。
そして一線入魂とは、エンジンの搭載、サスペンションの取り付け、タイヤの装着などボディに取りつけられる部品の都合に合わせてしまうと、ボディデザイン、構造はガタガタの線でつなぐことになる。そこをできるだけストレートな構造を取り、板厚や断面を太くする、つなぎを良くすることで全体の最適化、レベルアップを図っている。
構造材では60%以上でハイテン材を採用し、通常アウター材は270材がもっとも柔らかく0.6mm程度の板厚でカバーしていくところ、S660では1.6mmでカバーしている。そして、つなぎを良くしたことで、中に入る補強部材が不要となり、強度、剛性を保ちながら軽量化もしている。また、オープンカーであるため、センタートンネルとサイドシルがポイントとなり、曲げに対して2重に断面を作って剛性を出している。その結果、S2000を超えるねじれ剛性をもつ軽自動車に仕上がっている。センタートンネルでは3か所でブレース補強しているが、固めすぎてもサスペンションが突っ張った乗り味になり、だから、ボディで吸収することもできなければならない。
◆シャシー
こうしたレベルの高いボディに取りつけられるシャシーでは、リヤサブフレームをアルミで製作しており、またボディにマッチングするサスペンションも必要であるため、4輪ストラットを選択している。また、ステアリングギヤボックスを前引きに設置し、ハンドルを切った時のスタビリティを上げている。前引きとは、ステアすることでトーインの影響が出やすく、巻き込みやすくなることを抑えるメリットがあるからで、非常に伝統的な技術だという。それもミッドシップだからこそ可能なわけでフロントエンジンでは、前輪中心よりも後ろ側になるのが一般的。そしてステアリングギヤボックス自体もリジット止めとし、ダイレクト感のあるハンドリングに拘っている。
装着するタイヤは横浜ゴムと共同開発によって、なんとアドバン・ネオバを標準装着としている。サイズは前後異径サイズでフロントが165/55-16、リヤが195/45-16となっている。ブレーキも前後ディスクを装着し軽唯一の装備だ。
軽自動車初の装備といえばAHA(アジャイル・ハンドリング・アシスト)という装備がある。これはS字のようなシーンではイン側のブレーキを軽くつまむことで狙ったとおりのラインが描けるといものだ。パッシブな制御で言えば4輪コーナリングブレーキがこれに相当するだろうが、S660ではアクティブに制御し軽快な走りにつなげている。
◆エンジン&トランスミッション
搭載エンジンはNシリーズに搭載するエンジンを専用にチューニングして搭載している。もちろん、排気量は660ccで出力も軽自動車の自主規制上限で設定されている。その専用チューンは、CVT比で、バルブスプリングを強化して700rpm上乗せし7700rpmまで回るように高回転化している。また、アクセルレスポンスを向上させるためにタービンを新設計している。とくにパーシャルからのレスポンスを向上させている。
組み合わせるミッションは6速MTと7速CVTの2種類。6速MTは新設計で、6速搭載は軽自動車初となる。1速から5速までをクロスレシオとして、常にトルクバンド内にキープしやすい設定だ。特に2速ではビートの1速とほぼ同等の加速性能を持ちながら75km/h、7700rpmまで引っ張れる。6速は100km/h巡航時に3000rpm+α程度になるギヤレシオとし、高速巡航も静かで楽に走れるようになっている。さらにシフトフィールやカチッとシフトする剛性感にも拘った全くの新規開発MTとしている。
CVTではデフォルトモードとスポーツモードの切り替えが可能で、またパドルシフトを標準装備としてステップATと変わらない変速テイストを持たせている。スポーツモードを選択すれば、リニアでダイレクトな走りが楽しめる。また、停車時にはアイドリングストップも行ない、燃費性能にも配慮したセッティングになっている。
こうしたチューニングに合わせてエンジン音、排気音にも拘っている。ターボ車特有のブローオフバルブの音を敢えて聞こえるようにチューンをしている。またエアクリーナーは加速時の吸気音が聞こえるようにキャビン近くに配し、ファンネルもドライバー側に向けてより聞こえるようにしている。専用のサイレンサーからの排気音に加え、ターボチャージャーの音が気持ち良さを加速させる。さらにリヤセンターウインドウを下げるとより一層、スポーティなサウンドが楽しめるようにもしている。
◆ドライビングポジション
ドライビングポジションはゴーカートフィーリングを得るためにも、可能な限り低く設置している。ホンダの十八番であるセンタータンクレイアウトを今回は採用しないほど、ローポジションには拘りがある。通常シートの固定にはボルトでフロアパネルと固定するが、S660ではフロアからスタッドを出して固定するなどで、ほんのわずかでも低くすることに拘っている。
低められたシートポジションからフロントウインドウのルーフレールと目線の距離を慎重に見極め、S2000と同等の距離があるという。常に空が見える位置に頭があり、解放感と気持ち良さを感じられるドライビングポジションとしている。ルーフトップはロール式で、フロントボンネット内のユーティリティボックスに収納できる。
ステアリングはホンダ車最小径となるφ350㎜サイズで、握り心地なども繰り返し作り込みを繰り返した逸品としている。デザインはハンドル下部がストレートのDカットタイプデザインになっている。ペダル配置では徹底的にヒール&トゥがやりやすいことをミリ単位で研究し、レイアウトしている。
◆エクステリア&インテリア
エクステリアデザインでは、ソリッドウイング・フェイスをデザインモチーフとしてワイド感を強調。短いオーバーハングや彫の深いフロントマスクでより個性的なルックスとしている。サイドビューではミッドシップであるメリットを活かし、キャビンがボディ中央にある個性的なビューとしている。フロントウインドウからロールバーへとつながるラインではオープン、クローズ、どちらも美しく見えるデザインとしている。
リヤビューは絞り込まれたアッパーボディをさらに強調するようにリヤフェンダーが大きく張り出し、実際のサイズを感じさせない迫力あるワイド感のあるリヤビューになっている。さらにボディ中央部にレイアウトした一本出しのマフラーでリヤデザインを引き締めている。また、左右の盛り上がりはV型エンジンを搭載するスーパーカーをイメージさせるルックスで、初めて見た瞬間にドキッとときめく格好をしている。
安全では軽自動車のオープンカーであるがために、万全を期している。側面、全面、後面衝突への対策はもちろん、効果的に保護性能を発揮する内圧保持式エアバックの装備、法規にないロールオーバー(転倒)対策もしており、リアルワールドでの全方位安全性能であると自信を見せていた。また、事故を未然に防ぐアクティブセーフティとして30km/h以下での衝突被害軽減、衝突回避を支援する「シティブレーキアクティブシステム(メーカーオプション)」の設定やエマージェンシーストップシグナルを全車標準装備としている。