2017年8月31日、ホンダは軽自動車スーパーハイトワゴン「N-BOX」を6年振りにフルモデルチェンジし、9月1日から発売する。ホンダの軽自動車シリーズのモデル刷新のトップバッターとして登場したN-BOXは、本格的な軽自動車ファミリーカーを目指し、ボディ、エンジンなどに最新技術を投入した意欲作だ。
N-BOXはホンダの新世代軽自動車シリーズの第1弾として2011年にデビューし、その後はN-BOX+、N-BOXスラッシュ、Nワゴン、N-ONEなどのラインアップを拡充した。しかしN-BOXはホンダ史上最速で累計100万台を突破するなど軽自動車スーパーハイトワゴンでNo1の座を占めており、モデル末期でもトップセールスを記録する大成功作となった。
今回登場した新型N-BOXは従来モデルを凌駕し、軽自動車の常識を超える性能を実現するため原点に立ち返って開発が行なわれている。
■コンセプト
今回登場した第2世代のN-BOXは、走り、パッケージング、安全性、使い勝手、快適性など全方位でさらなる性能向上を目指し、単なるモデルチェンジではなく、ゼロベースで開発がスタートしている。
開発のキーワードは「N for Life」である。N-BOXのユーザーは子育て世代だけでなく、幅広い年代や多様なライフスタイルの人々も含まれているため、より生活が豊かになるために、アイデアや工夫を盛り込み、軽自動車という枠にとらわれない軽自動車づくりだ。多くの人々に支持されるファーストカーであり、ファミリーカーとしてユーザーの日々の生活をもっと豊かに変えることを目指すということだ。
なおコンセプト作りは開発責任者の白土清成LPL、そしてブランド・メイキングは初代モデル同様にクリエイティブディレクターの佐藤可士和氏が担当している。佐藤可士和氏はユニクロや楽天などのCI、ロゴ・デザインなどで知られている方だ。
開発コンセプトは、次のような内容だ。
洗練されたデザイン:現行モデルのボクシーデザインの良さをさらに磨き上げた上質なスタイルとし、カスタムはセレブリティ、車格感を強調。
安全装備の大幅な進化:ホンダ・センシングを全車に標準装備し、圧倒的な安心感を備える。
パッケージング:現行モデルをさらに上回る圧倒的な広さを確保し、家族がゆとりを感じる生活を目指す。
走行性能:新エンジン採用、新プラットフォームによる軽量化などにより、乗れば分かる走りの進化を実現する。
つまりは、軽自動車スーパーハイトワゴンNo1の広さに満足せず、さらなる居住スペースを追求したパッケージングと走り、安全装備、そしてデザインによりすべての面で1ランク上を行き、軽自動車の常識を超える存在を目指しているのだ。
その結果、プラットフォームやエンジン、トランスミッションを刷新するなど、通常のモデルチェンジ以上の、大規模な開発が行なわれることになった。そのために「鈴鹿・軽・イノベーション」と名付けられた開発、購買、生産、営業部門が鈴鹿製作所で一体化されたプロジェクトとしてクルマづくりが行なわれ、これまででは不可能だった設計や製法が積極的に採り入れられている。
■デザイン
デザインは、現行モデルを前提とせず、新たな模索を行なったが、最終的にはしっかりとしたノーズや上下の寸法が十分確保された左右ドアパネル、そして堂々とした存在感といった、これまでのN-BOXのデザイン骨格は、他の軽自動車スーパーハイトワゴンとは一線を画しており、これを生かしてミニバンのような存在感を生み出すデザインとするという結論に達したという。
つまりN-BOXの魅力や特長を生かしながらデザインを洗練させ、ベルトラインの高さを生かしながら上質感、端正さ、品格を重視。インテリアは、心地よいカフェで時間を過ごしているようなモダンさとシンプルさを兼ね備えたデザインとしている。
カスタムは、「セレブリティ・スタイル」をデザインテーマにしている。標準モデルからの派生デザインではなく、もうひとつのN-BOXとして、先進性やハイエンドな世界観を持つ堂々としたデザインを追求。先進的で、存在感が強く、プレミアム感のあるデザインとしている。
インテリアもカスタム専用のブラック基調で、大人の感性を満足させる上質感のあるデザイン処理で仕上げ、標準モデルとはまったく違う世界観を表現している。
■パッケージングと使い勝手
N-BOXはもともとホンダの提唱するMM思想をベースに開発され、エンジンルーム全長を短縮し、バルクヘッド位置を前進させて軽自動車クラスでトップレベルの室内前後長を実現していた。
新型N-BOXはより広い室内空間を目指し、プラットフォームを一新。全長3395mm、ホイールベースこそ変更はないが、さらなる居住スペースを追求してエンジンルームをコンパクト化し、リヤのテールゲートも薄肉化するなどにより前後のシート間隔を25mm拡大し、ラゲッジルーム前後長も25mm延長するなど大人4人がゆったりくつろげるスペースを確保している。
さらに、フロントのセパレートシート・タイプの場合は570mmという助手席ロングスライド機構を採用し、その他にフロントベンチシート・タイプも設定して、新しい使い勝手を提案している。
助手席ロングスライドは、助手席を最大限前進させることで、リヤの長尺荷物を搭載でき、スライドを交代させると、リヤシートに設置したチャイルドシートに簡単にアクセスできる。また助手席のシートバックを前倒しすると、リヤシートから運転席へ車外に出ることなく移動できるなど、従来にはない利便性を生み出している。
なお助手席ロングスライトを実現するため、助手席シート下側にある扁平なセンター燃料タンクをさらに70mm薄型化、4WDモデルは超扁平な鞍型タンクを新採用している。さらに助手席を限界まで前進できるようにインスツルメントパネル内のエアコンユニットも小型化させている。
フロントシートはミドルクラス・セダンと同等のサイズとし、クッションの厚みも十分確保し、長距離ドライブでも疲労の少ない形状としている。またリヤシートは3段階リクライニングが可能で、前後スライドは190mmでき、チップアップ、ダイブダウンのいずれも可能の左右独立式としている。
その他ではすべてのウインドウガラスが紫外線、赤外線カットガラスを標準装備。またエアコンはPM2.5対応フィルターを標準装備するなどひとクラス上の装備を実現している。
静粛性の向上も重視され、液封マウントを含むエンジンマウントの改良、ボディ全体をカバーする吸遮音材を装備し、さらにN-BOXカスタムは前後のドア内部にも防音材を採用するなどし、コンパクトクラスの乗用車並みの静粛性を実現している。
視界の面では、フロントピラーを従来型より27mm細くした極細Aピラーを実現し、斜め前方視界を改善。なおこの極細Aピラーは1.2GPa級の超高張力鋼板を使用し、組付け法を工夫することで実現している。
■ホンダ・センシング、安全性能
運転支援システムと含む安全性能を向上させるために、最新型のホンダ・センシングを採用している。従来型に比べ、後退時誤発進抑制機能、オートハイビーム機能を追加し、合計10機能を備え、軽自動車トップレベルの内容となっており、アダプティブクルーズコントロール、路外逸脱抑制機能、レーンキープ機能など、上級車と同等の内容となっている。
衝突安全性能では、クルマ対クルマの衝突性能の向上、キャビンの変形をさらに抑制するために衝突時のエンジンの後退量を増大させ、同時に衝撃がフロントドアを通じて分散できるドアロードパス構造を新採用。同様に後方からの衝突にもリヤフレームの衝撃吸収構造、リヤクロスフレーム、リヤサイドフレームは強固なフレームとしている。
また側面衝突に対してはフロア・クロスメンバーを追加し、衝突エネルギーを幅広く分散してキャビンの変形を抑制している
エアバッグは、軽自動車として初となる運転席・助手席に内圧保持タイプの最新エアバッグを標準装備。もちろんカーテンエアバッグやフロントサイド・エアバッグもオプション設定されている。
■ボディ、シャシー
プラットフォーム、ボディ骨格は、超軽量化、高強度・高剛性を目指し、新設計、新製法を採用するなど大幅に革新されている。なお従来型N-BOXから採用されているインナー骨格フレーム構造はもちろん踏襲されている。インナー骨格構造とは、ボディの骨格を先に組み立て要所に十分なスポット溶接を行なった後でアウターパネルを溶接する、ヨーロッパ式のボディ製造方法だ。
新型N-BOXは軽自動車としてはもちろん、世界でも初となる1.2GPa級の超高張力鋼板をセンターピラーのアウターパネルに採用し、さらにAピラーも超高張力鋼板を採用。ボディ骨格全体では780MPa級以上の超高張力鋼板が従来の15%から47%にまで拡大し、ボディだけで15%の軽量化に成功している。
こうしたボディ骨格の軽量化を始め、各ユニットの軽量化など車両全体での軽量化はなんと150kgになっているという。そして装備の充実化、安全性向上などに70kgの重量を使用し、クルマとしては80kgの軽量化を達成しているのだ。
また新型N-BOXはサイドパネルとルーフパネルの接合に、レーザー溶接を初採用し、継ぎ目とカバーモールのないルーフ仕上げとなっている。この手法は国産車ではレクサスの最新車種に採用されているのみで、軽自動車としてはもちろん、量産乗用車の常識を破る新技術だ。
さらにドア開口部はスポット溶接ではなく電気シーム溶接、フロアのクロスメンバーには接着剤接合を採用しボデイ全体の剛性向上に寄与するなど、上級の乗用車でも実現できていない革新的なボディ製法を採り入れている。
サスペンションはフロントがストラット式、リヤはトーションビーム式で従来と形式の変更はない。ただフロント・ストラットはロッド径を18mmから20mmにアップし、さらに中空ロッド構造として剛性を向上させつつ軽量化もしている。またハブキャリアは鋳鉄製からアルミ製に変更し軽量化を行なっている。
リヤのトーションビームはボディとの結合ブッシュを大径のコンプライアンスブッシュに変更し、微振動に対する吸収性能を向上。またFF用のトーションビーム内部にスタビライザーを追加し、この結果前後ともスタビライザーを装備することになった。このためスプリングレートを低め、同時にロールを抑制する効果を高めている。
ダンパーは、低フリクション化と微低速域での減衰力の立ち上がり特性を改善し、低速でも素早く減衰力が立ち上がり、大きな入力に対しては減衰力を抑える性能向上型を新採用し、乗り心地の向上、なめらかなボディの動きを実現している。
ステアリングは、コラムシャフトを22mmから30mmにアップし、ラック支持剛性の向上などステアリング系全体の剛性を高め、ECUのアシスト特性の改良も行なっている。またステアリングホイールは縦長楕円形状にして操作性を向上させている。ギヤ比は、ややクイック化し、車体の自然な動きと操作性の良さを両立を目指している。
ステアリングの操作に合わせ、4輪独立のブレーキを利用してトルクベクタリングを行なう「アジャイル・ハンドリングアシスト」も標準装備とし、スムーズでドライバーの意図通りのハンドリングになっている。
ブレーキは、新たにハイドロリック・ブレーキブーストを採用。走行状態とペダルの踏力に応じてESP油圧ポンプを利用してリニアなブレーキ油圧が得られるシステムだ。軽自動車では初採用となる。
タイヤは、155/65R14が標準装備で、ターボモデルのカスタムG・L、カスタムG EXは165/55R15を装着している。
■パワートレーン
新型N-BOXは、エンジンも新規に開発され、型式名も従来型のS07A型からS07B型に変わっている。従来型のボア×ストロークは64.0mm×68.2mmだったが、新型は60.0mm×77.6mmとロングストローク化され、スモールボアにすることで冷却損失を低減させ、高圧縮を可能にしている。
そして、吸気系には従来からの可変バルブタイミング機構に加え、可変バルブリフト機構のVTECを追加。さらに吸気ポートで高タンブル(縦渦)形とし、燃焼室の形状をコンパクトにし、圧縮比は11.8から12.0へと高められ、より高速の燃焼を実現している。スモールボア化による吸気量の低下をカバーするためにVTECを採用し、この結果、燃費の向上とレスポンスの良い加速性能を両立させている。
なおバルブは燃焼室面を鏡面加工した世界初となる鏡面バルブを採用している。バルブの面をツルツルにすることで実際の表面面積を小さくでき、高温のバルブと吸入気との接触面積を低減することで早期着火現象を抑制し、耐ノック性能を向上させている。
またターボエンジンは軽自動車初となる電動ウエストゲートバルブ式を採用。レスポンスに優れた過給圧制御を実現している。
新開発エンジンは、高圧縮、高タンブル流によりエンジンレスポンスを向上させ、ボディの軽量化との組み合わせで、加速性能を向上。ターボモデルは小型ミニバンレベルの加速性能を実現している。その一方で燃費は、自然吸気エンジンは25.6km/Lから27.0km/Lに、ターボエンジンは23.8km/Lから25.6km/Lへと改善され、走りと燃費の両立を図っている。
トランスミッションはCVTのみだ。新型N-BOXのためにCVTも大幅に刷新され、金属ベルト制御用の高圧オイルポンプに加え、潤滑専用の低圧オイルポンプを追加した2系統オイルポンプを新採用。油圧を最適に管理できるようになっている。
またCVTプーリーも大径化され、制御油圧を低め、より効率的に変速できるようになっている。結果的にオイルポンプの仕事量は従来より約33%低減でき、これが燃費の向上につながっている。
このように、新型N-BOXは軽自動車スーパーハイトワゴンNo1の座に安住せず、軽自動車の常識を破るために新たなチェレンジを行なった意欲作だ。このN−BOXが第1弾となり、今後はNワゴン、N-ONEなどのシリーズが登場するはずで、これらシリーズ車種に対する期待も高まる。
■ホンダ・アクセス/ファン・レーシー・スタイル
ホンダ・アクセスが設定したN-BOX G・Lをベースにした「ファン・レーシー・スタイル」。走り、楽しさをセンスよく仕上げたエクステリア/インテリアのキットだ。