2022年10月に現行型フィットに「RS」グレードが追加された。RSはFFのみの設定でパワートレインはガソリンモデルとハイブリッドモデルの2タイプ。それぞれに試乗することができたのでお伝えしよう。
現行型フィットは2020年2月にデビューした4代目で、言わずもがなホンダの中心的なモデルであるが、販売台数においては必ずしも期待どおりということにはなっていない。今回のマイナーチェンジではそうした販売の活性化を目指す意味でも、どんな魅力をもったモデルを投入してきたのか期待は高まる。
2022年のマイナーチェンジではフィット全般でデザインを変更し、それぞれの個性をさらに際立たせるためのデザインとしている。そしてラインアップにあった「ネス」を廃止し、「RS」を追加。ラインアップは5タイプで、「ベーシック」、「ホーム」、「LUXU」、「クロスター」、そして「RS」というラインアップだ。
ガソリン、e:HEVともに出力アップ
新規投入されたRSは走りの質にこだわるモデルとして投入している。ホンダにはピュアスポーツモデルとしてサーキットも視野に入れた「タイプR」があるが、RSはそうしたスポーツモデルではなく、日常の走行領域でのスポーティさ、上質さを狙ったモデルに位置付けている。
RSには4気筒1.5LガソリンNA+CVTモデルとモーター駆動をメインとするe:HEVのFFのみを用意。他のグレードではFF、4WDともに選択できる。ちなみに、5グレードの位置付けはエントリーから上級グレードになるピラミッド型ヒエラルキーではなく、ユーザーのライフスタイルに寄り添うポジショニングでグレード設定しているため、上級、中間といった位置付けはない。
日常の走行をスポーティに引き上げるために駆動モーターの出力を80kWから90kWへと引き上げ、走行中のアクセルレスポンス向上を狙っている。また発電をメインに使うe:HEVのガソリンエンジンもわずかに出力アップし70kWから78kWへと向上させている。
一方のGASモデルは1.3Lから1.5Lへと排気量を上げ、出力は87kW(118ps)/142Nmへと向上。こうしたパワートレインの出力アップによって、スポーティ度を上げているわけだ。
e:HEVの走行パターンをおさらいすると、エンジンはバッテリーを充電することをメインにし、駆動用モーターで発進、加速する。バッテリーに充電が必要になるとエンジンが稼働しもう一つの充電モーターで充電しながら駆動モーターで走行する。そして高速域になるとエンジンとタイヤはクラッチにより直結され、エンジンで走行するというシリーズ式をメインにしたハイブリッドである。
スポーティさがうまく表現されたガソリンモデル
最初にGASモデルから試乗してみた。走り出してすぐに感じるのはスポーティなサスペンションを感じさせる乗り心地だ。小さな段差を乗り越える時やカーブを曲がる時の安定した姿勢など、全体に引き締まっている印象があり、ことさらボディのしっかりとした印象も伝わってくる。
まさにスポーティな印象をダイレクトに訴えてくる。開発で狙った日常領域でのスポーティさはうまく表現され、100km/h巡航や40〜50km/hでの走行では非常に滑らかに上質であり、ボディ剛性の高さも感じさせ、スポーツドライブの印象が植え付けられるのだ。
エンジンは200cc排気量アップしたものの、思ったほどパンチが効いた印象はないが、パワー不足という印象もない。日常使いでの範疇であれば満足できるパワー感とサスペンション、ボディ剛性のバランスというわけだ。ちなみに燃費性能はWLTCモードの平均で17.9km/Lとなっている。
e:HEVモデルは上質な乗り味
一方のe:HEVは駆動モーターの出力をアップさせモーターならではのレスポンスを磨いた印象だ。GAS車で感じたスポーティなサスペンションは、ハイブリッドでは車重が100kg重くなることもあり、マイルドに感じる。しかしながら他のグレードとの比較ではやはりスポーティであることは間違いない。
したがってGAS車のRSより上質といった印象が残る乗り味で、ハイブリッドでかつモーター走行領域が広く高い静粛性を考えると、引き締まったサスペンションより、むしろ上質感を得た方がパワートレインに見合ったセッティングと言えるのだ。
それは日常走行領域である市街地ではさらに強調され、かなりの静粛性を感じ、エンジンが稼働してもそれほど大きな音はせず静かだ。が、ときどきバッテリーマネージメントの影響だろうか、エンジンの回転が高回転にまで回る時があるのは少し気になった。ライバルはエンジンの存在を消すことに注力しているモデルもあり、チェックポイントとして残った。
ハイブリッドにはGAS車にはないパドルシフトが装備されている。これは言うまでもなく回生ブレーキの減速Gをコントロールできるもので、4段階で回生の強さが変更できる。このパドルシフト使うと一気にスポーティ度が増し、郊外路での見える景色が変わってくる。
それと資料にはなかったが、4代目フィットではシートの印象が独特で、低反発ウレタンにも似た、太もも裏側からお尻が沈み込むような座り心地が印象的だった。しかし、このRSモデルではもう少し張りのあるシートに代わり、サスペンションからの入力をシートでも減衰することから、そうした合わせ込みが行なわれていたと想像する。
RSの魅力はマーケットに響くか
e:HEVの燃費性能はWLTCモードで27.2km/LでGAS車とは約10km/Lの差がある。試乗車の車両本体価格はGAS車が195万9610円でe:HEVが234万6300円。その差38万6690円。メーカーオプション、ディーラーオプションを加えた価格はGAS車が225万2210円、e:HEVが260万5900円でその差は35万3690円だった。
さて、新規追加されたRSには専用の装備が搭載されている。エクステリアでは専用のグリル、バンパー、専用16インチアルミホイール、サイドガーニッシュがあり、ヘッドライト周りではヘッドライトリングがブラックへカラー変更され、ドアミラーもブラック塗装している。リヤは専用のリヤバンパーとエキゾーストフィニッシャー、そしてリヤスポイラーがルーフに装備されている。
そのためボディサイズの全長が若干変わり全長4080mm、全幅1695mm、全高1540mm、ホイールベースは2530mmになっている。
インテリアの装備ではグレー基調とした内装で、シートやステアリングにはイエローのステッチが施されアクセントカラーになっている。シート表皮はウルトラスウェードが採用され高級感があるのだ。
新規投入されたRSはフィット販売の起爆剤になるのだろうか。個人的にはGAS車がお気に入りでリッター17km走れば十分省燃費という印象をもった。またボディ剛性の確かさもインナーフレーム構造を持つホンダ車ならではで、技術的ハイライトでは満足度が高いモデルと言えるが、マーケットにそうしたことがどこまで響くのか、今後の市場動向は興味深い。