滑り出し好調の3代目ホンダ・フィット。とりわけ注目は36.4km/Lという燃費性能と、クルマ好きからも注目されるモーター内蔵7速DCTハイブリッドのi-DCD(インテリジェント・ダブルクラッチ・ドライブ)が話題の中心だ。そしてクラスを超える質感の高さといったところも評判になっている。そこで、あらためて、3代目新型フィットとはどんなモデルなのか考察してみた。
ホンダ・フィットのポジションニングだが、言わずもがなホンダを代表するグローバルカーであり、これまで世界で累計487万台を販売。日本では203万台を売り、アコード、シビック、CR-Vに続くグローバールモデルへと成長してきた。そして、フィットの単独市場では最大販売台数となるのは日本であり、今回の3代目フィットも日本のマーケットを最重要視した開発が行なわれている。
開発コンセプトはThe world best functional compactで直訳すれば「世界で最も機能的なコンパクトカー」となる。目指したものは高効率なスペース、質感の高さ、最高水準の燃費であり、これらを達成することで成立するとしたわけだ。
さて、デザインに目を向けてみると、コンセプトは3つのH、「エキサイティングHデザイン」をキーワードに、先進性のHigh Tech、骨格、構造のHigh Tension、高い質感のHigh Touchがキーとなる。エクステリアは、クロスフェードモノフォルムで先進のワンフォルムデザインとし、タイヤを強調するしっかりした下半身のデザインとしている。インテリアは洗練された未来的なコクピットというのをコンセプトに、クラスを超えた高い質感とフィットならではの優れた実用性を持ったものにしている。
パッケージは全長3955mm×全幅1695mm×全高1525mm、ホイールベース2530mm。先代の2代目フィットより全長で+55mm、ホイールベースで+30mmサイズアップしているものの、最小回転半径など取り回しは先代と同等レベルだ。また、ホイールベースを延ばしたことで、シートの前後ポジションであるタンデムディスタンスが+80mm広くなり、大型のセダンよりも大きくなっている。ホンダではセンタータンクレイアウトだからこそできた成果であり、このレイアウトでなければ達成できない広さだと説明する。
モデルラインアップは13G、15X、RS、ハイブリッドの4モデルで、搭載するパワーユニットは、13Gが1.3LアトキンソンサイクルのDOHC i-VTECにCVTと5MTという設定。15XとRSには1.5Lの直噴DOHC i-VTECを搭載し15XはCVTのみ、RSは6MTとCVTが設定されている。そしてハイブリッドは1.5LのアトキンソンサイクルのDOHC i-VTECに1モーター内蔵7速DCTが組み合わせせる。
13Gに搭載する1.3LエンジンはDOHC化され、アトキンソンサイクルで圧縮比を13.5までアップ。また電動VTCの連続可変バルブタイミングにより、低温始動時や低温時のトルク特性、排出ガスのクリーン化が可能になっている。さらにクールドEGRも採用している。アイドリングストップでは専用の鉛バッテリーを搭載せず、カーライフタイムの寿命をもつキャパシタを装備し、高効率な回生と発電を利用している。13Gの出力と燃費は100ps/119Nm でクラストップの高出力を誇り、26.0km/LのJC08モード燃費も2代目のフィットハイブリッド(IMA)と同等の26.0km/Lとしている。
15XとRSに搭載される1.5Lエンジンは、直噴化し圧縮比も上げ、出力、効率の向上がある。もともとクラストップの出力を持っていたが、さらに全域で性能を高めたエンジンになったわけだ。132ps/155NmでJC08 モード燃費は21.8km/Lというスペックだ。
これらのエンジンに組み合わされるCVTも新設計された新型CVTで、10%に及ぶ大幅な軽量化とレシオレンジの拡大をしている。言うまでもなくフリクション低減も高い次元で見直されているのだ。新型となったCVTには新しい制御となるGデザインシフトと呼ばれる制御が採用されている。これは変速比幅を5.7から6.2へと拡大することに伴い、減速時は素早いレスポンスと気持ちのより加速性能を狙った制御になっている。
このGデザインシフトはGの立ち上がりを速め、盛り上げ、長く維持するように制御し気持ち良い加速感を味わえるようにしている。アクセル開度ごとのGのデザインであり、車速との関係をリニアに割付け、エンジン回転と車速の関係をよりリニア感を大切にした制御としているわけだ。実際のフィールはこちらの記事を読んでいただきたい。
ハイブリッド用のエンジンは1.5Lを採用している。15X、RS用の1.5Lと同じ1496ccの排気量、共通の73.0×89.4mmというボア・ストロークだが、エンジン型式名は前者がL15B型、ハイブリッド用はLEB型と区別されている。このハイブリッド用LEB型エンジンは、1.3Lエンジンと同様にアトキンソンサイクル、VTEC、電動・連続可変バルブタイミング機構、クールドEGRを採用。このエンジンは単純な高膨張比(アトキンソン)ではなく、極低負荷時には吸気側の片側バルブを休止させ、同時にオーバーラップの狭いバルブタイミングを組み合わせ、吸気スワール流を強化して燃焼速度を早めている。
通常運転域ではオーバーラップの大きなバルブタイミングとし、アトキンソンサイクル運転となり、さらにクールドEGRを使用してポンピング損失を最小化している。エンジン負荷が増大するとVTECをハイリフトにするところが他社のアトキンソンサイクルとは異なり、それにより高回転側の出力も稼ぎ出す。このため圧縮比13.5のアトキンソンサイクルエンジンにもかかわらずバルブ径も大きく、最高出力は110ps/6600rpmと6000rpmを超える高回転型となり、最大トルクも155Nm/4600rpmと高めであることが特徴だ。
新型フィット・ハイブリッドは、従来の直結1モーター型i-MAとは異なり、クラッチを備えた1モーター式が採用されている。そして組み合わされるトランスミッションは従来のようなCVTではなくDCT(デュアルクラッチトランスミッション)としている。企画段階では様々なタイプのトランスミッションが検討されたが、サイズ的に全長を最も短縮でき軽量・コンパクトなDCTが選択されたのだ。このトランスミッションのサイズは、今回のフィットだけではなく他モデルへの転用も考慮してのことと想像できる。なお内蔵されるモーターは電圧が従来の100Vから175Vにアップされ、22kW/160Nmと従来より倍増されている。
最終的にi-DCD(インテリジェント ダブルクラッチ ドライブ)と名付けられたこのトランスミッションは、1.5Lのアトキンソンサイクルのエンジンに1モーター内蔵のハイブリッドシステム専用の7速DCTが組み合わされている。モーターを内蔵したDCTの開発はティア1企業であるドイツのシェフラー社との共同開発となり、ホンダとしては画期的な展開となった。というのはこれまではエンジンやトランスミッションなどの基幹部品はホンダ技術研究所のメインストリームとして扱われ、サプライヤーによる共同開発の領域は比較的小さいものだったからだ。
シェフラー社はLuk、INA、FAGという3ブランドを持つが、Lukは乾式クラッチのDCTでは世界で最も長い経験を持ち、これまでにVW、フォード、アルファロメオ、ルノー、ヒュンダイなどのDCT開発を行なってきた。この経験を元にしてフィット用のハイブリッド専用DCTの開発が2008年から開始された。ただし、この開発はシェフラーにとってもハイブリッド専用DCTを開発するという新しいチャレンジのため、ドイツ本社も全力で取り組み、シェフラージャパンがこれをサポートする形になった。
機構的には7速ギヤにモーターを組み込み、できるだけコンパクトにするためモーターの内部に同軸の遊星ギヤ式の1速ギヤを配置。このため、1-3-5-7速の奇数ギヤ軸に駆動モーターが直結される形になる。もちろん、もう1軸はエンジン出力を伝達する2-4-6速ギヤがある。そして、それぞれの軸は独立した電動油圧制御の乾式クラッチが備えられる。なお、新開発された電動油圧クラッチ制御、ギヤシフトに要する電力消費は従来のDCTに比べ大幅に低減され、これも燃費向上に貢献している。
また、乾式DCTにみられる発進などの半クラッチ時に起こるギクシャク感は、フィットHVの場合、モーターで発進するため、そのような現象は起こらない。ただし、車重が重くなったり、トルクが大きいエンジンなどと組み合わされる場合は湿式になると予想できる。
このi-DCDの制御ソフトは、奇数ギヤ軸=駆動モーターの断続、偶数ギヤ軸=エンジン出力の断続と走行状況に最適なギヤシフト、モーター出力とエンジン出力の合成という要素を駆動輪の要求トルクに合わせエネルギー効率の最も良い領域を使用するというものだ。ダイレクト感のある走りと燃費をともに満足させる必要があり、この制御ソフトの開発が最も難しかったという。走行モードは、EV、ハイブリッド、エンジン、回生の4モードで、始動、発進はEVモードのみで行なう。走行中は、ハイブリッド、エンジン、回生を走行状況に合わせて切り替わっている。なおエンジンのみのモードは高速巡航走行の場合で、アトキンソンサイクルエンジンの最も高効率の時に用いられる。
バッテリーは、2009年にホンダとGSユアサが合弁で設立したブルーエナジー社製のリチウムイオン電池で、容量は5.0Ah。このバッテリーとパワーコントロールモジュールはリヤの床下に設置されている。従来のニッケル水素電池ではなくリチウムイオン電池を採用したことで回生効率も大幅に向上している。蓄電容量はこれまでのニッケル水素電池の1.5倍になっているという。
なおハイブリッドモデルのシステム総合出力は137ps/170Nm。JC08モード燃費はハイブリッドの最軽量のベースモデル(燃料タンク容量が標準の40L→32L、内装・ボディの軽量化、空力対策の追加)が36.4Km/Lで、量販グレードとなるF/Lパッケージは33.6km/L、Sパッケージは31.4km/Lとなる。これら燃費の差は車重の差(車両重量は標準モデルが軽量モデルより50~60kg重い)が原因である。
ハイブリッドモデルのブレーキにもブレーキバイワイヤーという新技術が投入されている。その仕組みは、通常、インテークマニホールドの負圧を利用したマスターバックで倍力され、マスターシリンダーにより油圧を高めてブレーキを効かせるが、フィット用はブレーキ油圧を得るためにモーターを使用する完全なブレーキバイワイヤーなのだ。そのため、ブレーキペダルを踏み込んだ時のフィーリングは人為的に作られたものになっている。さらに、このブレーキでは駆動モーターによる回生ブレーキも作動し油圧ブレーキとの協調制御も行なわれている。
実際のブレーキングの場面では、ある一定の踏力でブレーキングしている最中でも、油圧用モーターは油圧を可変コントロールしており、モーターで回生を取るように制御している。つまり、大きな制動力が必要なときにドライバーは強くペダルを踏み込むが、その際、モーターの回生力が十分であれば、油圧はそれほど立ち上がらず、モーターの回生で減速しようとする。当然、その逆も起こり、踏力以上の液圧に上げているケースもある。
新型フィットの開発テーマは「Smooth&Agile」。先代とは走って感じるフィーリングに大きな違いを掲げ、スムースさと俊敏さに磨きをかけた3代目となっている。目指したものは操舵一体感、リニアで爽快な走りを実現させる新設計シャシーである。
シャシーはフロントストラット、リヤをトーションビームというこれまでと同じレイアウトとしているが、設計を刷新している。フロントのストラットはジオメトリーを一新し、キャスター角を増やしキャスタートレール量を10mm延長して直進時、および旋回時の安定性を高めている。ダンパー特性も大きく見直し、スタビライザーの大径化、中空スタビライザーの採用、軽量サブフレームの採用などが行なわれている。
リヤのH型トーションビーム型サスペンションでは、断面が従来の開断面ではなくクラッシュドパイプという形状を持つビームに変更されている。これはドイツのベンテラー社製のビームで、欧州コンパクト車に広く採用されているタイプで、ビームはねじれに対してスタビライザー効果を従来より強く発生させることができる。また、ダンパー搭載角も変更して、レバー比を改善。アッパーマウントは入力分離タイプとしたことで、ダンパー性能の設計自由度が高まり、小さい入力時でも大きな入力時でも綺麗にいなす性能を生み出している。さらにトレーリングアームの剛性も高め、リヤの応答遅れを回避させ、リニアな車体旋回フィールと、しなやかで上質な乗り心地となるようにしている。
プラットフォームも完全新設計で開発している。フォルクスワーゲンのMQBやルノー日産のモジュール戦略のように、今の時代に求められるプラットフォームの多様性に対し、ホンダでもフレキシビリティの進化は行なわれている。軽量化をしながらさまざまなパワートレーンに対応し、パッケージングの自由度の向上が図れるようにしたという。
一般的に通常のクルマはシリーズの最重量グレード用で設計が行なわれるため、軽量モデルは設計の段階で重量ハンデを持っている場合が多い。ところが、今回のフィットでは軽量用の設計とし、重量用はあとから必要部材をアドオンして対応する方式に変更しているのだ。そのため軽量用であっても後の部材補強を考慮すればベースレベルが高くなければ実現できないため、780Mpa以上のハイテン材をボディ全体の23%に使用している。
980Mpa級は8%、ホットスタンプは2%、そして780Mpa級が13%という割合で構成し、ドアもサッシュタイプからフルドアタイプにするなどして剛性を確保している。これらの軽量かつ高剛性の材料により約9kgの軽量化が成功している。また、インナーフレーム構造としているため構造部材のみ結合し、高効率な骨格を実現。これで約4kgの軽量化をしている。
これらの軽量・高剛性ボディを採用すると同時に、ボディ剛性の解析手法も新たに着手している。ボディ剛性は動剛性、静剛性というこれまでの解析方法に加えてサスペンション、ハンドリング性能を重視した解析方法である。つまり、軽量化を図るとともに操縦安定性が高まるボディが造れるというもので、コーナリング中にボディへの入力と変形に注目した解析だ。言い換えれば、シャシーとボディとの結合剛性=局部剛性とサスペンション自体の剛性に着目したことを意味している。
横力入力時のタイヤ接地剛性とねじり剛性を中心に、サスペンションの挙動までを含めて評価するというもので、その結果LWI(ライトウエイトインデックス)での比較では、LWI=m/A×Ct(mはボディ重量kg、Aはホイールベース×トレッド(m2)、Ctはねじり剛性KNm/deg)で計算すると、先代フィットより24%LWIが向上しているという結果になった。ホンダの資料によれば、コンパクトハッチバッククラスでは欧州車も含めトップクラスの剛性を持っているということだ。
これらの高剛性のボディに加えて静粛性も特筆に価する。ホンダではクラストップの静粛性と説明するが、試乗したフィールではHV、15Xはクラスを超える静粛性と言っていいだろう。試乗レポートはコチラ。
防音材を適所に配し、走り出しの静粛性や急な追い越し時の静粛性などもクラスを超えるレベルの静粛性を持っている。また乗り心地と連動するが、ハンドルに伝わる振動も減らしている。これは13Gを除くモデルに採用されたものだが、SRSエアバッグのモジュール取り付け構造を見直し、コラムシャフトも大径化するなどして振動の伝達特性を改善している。
最後に、シティブレーキアクティブシステムについて触れておくと、CTBAは5km/hから30km/hの範囲で作動する低速域衝突被害軽減ブレーキ機能である。フロントガラスに設置されたレーザーレーダーにより障害物7m手前で警告、5mでブレーキ制御、0.5m手前で停止する。ドライ、平坦など、また障害物の状況などさまざまな条件が揃えば、この自動ブレーキにより回避、軽減できる。
同時にMT車以外は誤発進抑制機能も併せ持っているため、踏み間違い事故などの抑制となる。(オプション設定)そのほかのアクティブセーフティとしては、急ブレーキ時にハザードランプが点滅するエマージェンシーストップシグナルや横滑り防止のモーションアダプティブEPS、VSA、ヒルアシスト機能などが前車に標準装備されている。