マニアック評価vol559
10代目となる新型ホンダ・シビックが発表された。じつは先代の9代目は、リーマンショックなどの理由により日本では発売されなかったため、8代目の販売終了以来、7年ぶりの登場となる。ホンダといえば以前は国産メーカーの中でももっともスボーツイメージの強いメーカーであったが、昨今、軽自動車とミニバンが販売の大多数を占める現状に、寂しさを覚えるホンダファンも多かっただろう。一方、ここ数年は主流のセグメントではないが、S660やNSXなどのスポーツカーも登場している。<レポート:佐藤久実/Kumi Sato>
かつて「シビック」といえば、ホンダのど真ん中に位置する存在と言っても過言ではなかった。実用車でありながら、スポーツマインド溢れるクルマだった。私事で恐縮だが、レース人生の前半はシビックとともに歩んだこともあり、個人的にも思い入れのある車種だ。さて、久しぶりに登場したシビックの実力はいかに。早速試乗してみた。
■セダン、ハッチバックもニュルで開発
今回のシビック、4ドアセダンと5ドアハッチバック、2つのボディタイプがある。Cセグメントではあるが、その中ではやや大きめのボディサイズとなっている。やはり、国産ブランドではあるが、販売の主流となるアメリカや中国マーケットを睨んでグローバルなサイズとしたのだろう。さすがに室内空間はゆとりがある。
搭載されるエンジンは、1.5L V-TECターボで、CVTと6速マニュアルトランスミッションが組み合わされる。面白いことに、ホンダは他のモデルでは積極的にハイブリッドを出しているが、シビックはガソリンエンジン1本のラインアップとなっている。パワフルなエンジンでスポーティイメージを強調したいということらしい。
一見、セダンかハッチバック、どちらか見分けがつきにくい。というのも、セダンもクーペのように流麗なルーフラインを描いているからだ。私がリヤシートに座る限り、ヘッドクリアランスは確保されていたが、ここは室内空間よりデザインを優先したという。
試乗したのは、5ドアハッチバックの6速マニュアルトランスミッションモデル。245/40R18サイズのタイヤを装着していたが、キレイに履きこなしている感がある。路面の細かなアンジュレーションや荒れた路面、高速では、もう少しボディのフラット感を保って欲しいところだが、足元のしっかり感があり、それでいてタイヤの当たりはマイルドで乗り心地も快適だ。
プラットフォームから刷新され、アウトバーンやニュルブルクリンクでも開発を行なってきただけあり、洗練された乗り味だ。
操作系もきわめて自然。ステアリングは操舵力、補舵力ともに適度に軽く、それでいて接地感はある。バリアブルギヤレシオを採用するが、これも違和感なく、微舵領域からしっかり反応しつつ大舵角までちゃんと効く。
マニュアルシフトやクラッチ、CVTのパドルなどの操作系も軽く、快適にドライブできる。
高速クルージングでは、100Km/h巡行でエンジン回転が2,000rpmを超えており、ローギヤードな設定となっていることが伺える。とはいえ、音は気にならない。ロングドライブはしていないので正確なところはわからないが、カタログ値も含め、燃費も悪くなさそうだ。
■素直なステア特性のハッチバック
しかし、ワインディングに行くと、エンジンの印象が変わった。2,000rpmを切るとトルクバンドから外れて加速が鈍り、ライトノッキングを起こし始める。一方、2,300〜2,400rpm辺りでシフトアップのインジケーターが点灯する。ターボエンジンの割に、トルクバンドが狭いのだ。
これ、ある意味確信犯でもあるのだろう。ホンダのV-TECといえば、昔から高回転・高出力型。NAエンジンの頃は、4,000rpm辺りでちょっとしたトルクの谷があり、そこを境にカムが切り替わってご機嫌なサウンドと共にパワーが炸裂していった。が、しかし、懐かしくはあるが、エンジン排気量は1.5lだし、せっかくターボも付いているのだから、もう少し実用性も鑑み、低回転域からトルクがある方が扱いやすいし、パワフルなフィーリングも得られると思う。
ハンドリングも好印象。シビックは世代によりリヤサスペンションがストラットだったりマルチリンクだったり、またストラットに戻ったりしたが、今回の新型はマルチリンクが奢られている。形式に拘るつもりはないが、やはりシビックの変遷においては剛性感や安定性はマルチリンクに軍配が挙がる。そして新型も期待を裏切ることなく、リヤの安定感を保ちつつ、素直なステア特性でコーナーを気持ち良く曲がれた。
4ドアセダンにも試乗したが、5ドアハッチバックの方が「操る楽しさ」があり完成度は俄然高いと感じた。本来、セダンはリヤにバルクヘッドがありボディ剛性も高いはず。実際、このシビックでも数値そのものはセダンの方が高いというが、前後バランスの問題だろうか、走った印象ではハッチバックの方がリヤの安定感が高い。さらに、ロードノイズや乗り心地もハッチバックの方が洗練されていると感じた。
グローバルモデルとして久しぶりに登場したシビック。ホンダのスポーティイメージを復活できるか、そして日本でセダン人気が低迷する中、故郷に錦を飾ることができるか、大きな意味を持つモデルとなる。
そして今回は試乗のチャンスがなかったが、「シビックタイプR」がカタログモデルとして復活したのも、ホンダのスポーツカーファンにとっては朗報。ニュルブルクリンクで7分43秒80のタイムをマークした、市販FF最速マシンという。近いうちに、その実力も是非、試してみたい。