新型シビック試乗記 7年ぶりに国内復帰したシビックは「ホンダらしい」を追求

マニアック評価vol526
ホンダ・シビックというモデルをすでに知らない世代もいるだろう。だが、シビックはホンダの屋台骨を支えるモデルとして最も長い歴史を持つモデルでもある。そのシビックが7年ぶりに国内販売されることとなり、千葉県の袖ヶ浦フォレストレースウエイでプレゼンテーションと短時間ではあるが、試乗もできた。なお、正式発表は2017年7月下旬ということで、価格など詳細はもう少し待つ必要がある。<レポート:高橋明/Akira Takahashi>

新型シビックの5ドアハッチバック
新型シビックの5ドアハッチバック

■開発テーマとポジショニング

累計1億台を販売するホンダ車の中の1/4を占めるシビックがなぜ、7年間もの長い間、国内販売されていなかったのか、普通に抱く疑問だ。近年のシビックのメインマーケットは北米や、中国で、これらのマーケットでは、クルマのサイズが大きいという特徴がある。そこで販売されるシビックは、北米の「Mサイズ」に匹敵し、欧州で言うDセグメントに近いサイズだった。だが2016年北米でセグメントNO1の販売台数を記録していることからも、その人気は理解できる。

セダンのフロントビュー
セダンのフロントビュー

一方で、シビックは、もともと国内ではコンパクトな量販モデルとして人気を得たモデルだったが、気づけばスカイラインやメルセデス・ベンツCクラスといったサイズと並ぶサイズになり、国内ではサイズ的に違和感があったのも事実だ。

しかし、10代目となる今回の新型シビックは、北米だけを意識したモデルではなく、グローバルで通用するモデルとして新規開発されている。「グローバルで売れるモデルは国内でも売れるだろう」という思いもあり、言い換えれば、国内需要を特殊なマーケットという見方をすることなく、世界基準のモデルであれば、受け入れてもらえる市場だという思いがあるわけだ。

ハッチバックのリヤビュー
ハッチバックのリヤビュー

とは言え、ボディサイズは全幅が1800mm、全長は4500mmを超える大きさで、ホンダとしてはCセグメントど真ん中という表現をするが、実際にはDセグメントに近くCプラスというサイズで登場した。Cセグメントの代表格であるフォルクスワーゲンゴルフは全幅1800mm、全長4265mm、欧州でゴルフと販売台数を争うもう一台のCセグメントの代表格フォード・フォーカスは全幅1810mm、全長4385mmだ。一方DセグメントのベンツCクラスは全幅1810mm、全長4690mm。BMW3シリーズは全幅1800mm、全長4645mmでシビックはその中間というあたりになる。

新型シビックの開発ベンチマークは、ドイツプレミアムモデルだ。メルセデス・ベンツのAクラス(全幅1780mm、全長4300mm)アウディA3(1785mm、4325mm)BMW1シリーズ(1765mm、4340mm)あたりであり、中でもAクラスをベンチマークとしているに違いない。こうした背景には、クルマの基本性能はやはり欧州が中心であり、かつてホンダは欧州を目指していた。が、台数による利益構造もあり、次第に北米中心に変わっていった。しかし、今回、クルマの基本、原点に立ち返り、基本性能の見直すことにした、と四輪R&Dセンター長の三部敏宏氏が言う。

新型シビックのコックピット
新型シビックのコックピット。ハンドルは太目でスポーティな印象を受ける

開発テーマは世界のCセグメントリードする目標と「操る喜び」だ。優れたダイナミック性能、デザイン性、室内空間の3つに注力し、そのために軽量、高剛性、低重心という特徴を持つ、新プラットフォームが開発されている。この新プラットフォームは従来のフィットベースであったグローバル・スモールプラットフォームから、コンパクト・グローバルプラットフォームへと替わり、これからのホンダ車の中型クラスのモデルに採用される。例えば、CR-Vやアコードあたりだろう。

ホンダシビック セダンのリヤビュー
セダンのリヤビュー。セダンのデザインという概念を覆すクーペライクなデザイン

また、このプラットフォームは、前モデルと比較してセダンは-22kgと+25%の高剛性で、ハッチバックは-16kgで+52%の高剛性という特徴を持っている。ちなみに、ホイールベースは2700mmでセダン、ハッチともに共通だ。

モデルラインアップはセダン、ハッチバック、そしてタイプRという3タイプが国内で販売される。北米では2ドアタイプもあるが、国内には導入されない。また生産においてセダンは埼玉県の寄居工場で、ハッチバックとタイプRはイギリスでの生産となる。そしてカナダでも北米向けにセダンと2ドアが生産されるということだ。またタイプRに関しては、カタログモデルとなり、台数限定という制限はなくなり、選択肢のひとつとしてラインアップする。

■デザインとラインアップ

搭載するエンジンは1.5Lガソリンの直噴ターボVTECエンジンで、タイプRは2.0Lターボが搭載される。セダン、ハッチバックはこの1.5Lターボだけの選択肢となるが、トランスミッションはCVTと6速のマニュアルトランスミッション(ハッチバックのみ)が販売される。CVTには大容量のツインダンパー式トルクコンバーターを採用しているので、ラバーバンドフィールと揶揄されたフィールに対応しているという。そして、国内での販売はこの先ハイブリッドやさらに小さい排気量のガソリンユニット、ディーゼルなどの導入予定はない、ということだ。

1.5LガソリンのVTECターボエンジン
1.5LガソリンのVTECターボエンジンはハイオクとレギュラーがある

1.5LのVTECエンジンは高回転まで伸びのある加速力をもち、ホンダエンジンらしく、高回転の気持ちよさも追及しているという。出力はセダンがレギュラーガソリン仕様で173ps(127kW)/5500rpm、220Nm/1700rpmでハッチバックのCVTがハイオク仕様で182ps(134kW)/6000rpm、6MTが134kW(182ps)、240Nmという高出力を発揮している。

ホンダ シビック ハッチバック&セダン
左がハッチバック、右がセダン。よく似ている

エクステリアデザインではセダンとハッチバックがよく似ているというのも特徴だろう。ただし、ボディサイズは異なり、セダンはハッチバックよりオーバーハングが140mm長い。

全体の印象としては派手目の印象で、北米や中国の意見を抑えつつも反映していると思う。そしてワイド&ローが基本のエクステリアデザインで、若々しく、先進性も感じさせるネオセダンとしている。また、ホンダらしい硬質な彫刻的デザインでもあり、力強さの表現としている。一方のハッチバックは、大径タイヤの影響もあり、アグレッシブな印象と、フロント、リヤバンパーともにセダンとの差別化が明確であり、走りを予感させるデザインに仕上げている。

低めのドライビングポジションが取れる新型シビック
低めのドライビングポジションが取れる新型シビック
ホンダ シビック リヤシート
新型シビック リヤシート

今回の最大のポイントともいえるのがドラポジだ。これまでのホンダ車にはMM思想を背景に、センタータンクレイアウトを採用してきている。エンジンスペースは小さく、室内空間をできるだけ大きくとるための工夫だ。ガソリンタンクの位置を運転席の下に配置し、そのため、フィットはライバルのヴィッツやデミオとは比較にならないほどの室内スペースを得ていた。だが、反面アップライトなドライビングポジションにならざるを得なかった。今回のシビックはそのセンタータンクレイアウトを採用していない。

この中型用新プラットフォームは通常のタンクレイアウトで、ドライビングポジションではガソリンタンクの影響を受けていない。そのため9代目と比較してヒップポイントを20mm低くすることが可能になっている。つまり、スポーティに走るために必須のドライビングポジションになったと言えるだろう。

■シャシー

こうしたドラポジを得た新型シビックの目指したダイナミック性能は、機敏な走りと安心感の高次元な領域だ。フロントサスペンションはマクファーソン・ストラットでリヤはマルチリンク。高級素材とされる液封コンプライアンス・ブッシュを採用するなど、上質な走りを目指したものとなっている。

装着するタイヤサイズはセダンが215/55R16と215/5R17の2種類。ハッチバックは235/40R18というDセグメント御用達ともいえるサイズを履く。

余談になるが、タイプRはドイツ・ニュルブルクリンクのFF最速記録をルノーメガーヌRSが持つ記録を破り、7分43秒80という最速記録を打ち立てている。そしてセダンやハッチバックもシャシー開発のプロセスにおいて、このニュルを走行し熟成してきたという。新型シビック全般におけるダイナミック性能の開発の中心はドイツであり、ここで良ければ世界で通用するという発想の元、開発されている。

こうした基本のポテンシャルを上げ、欧州のCセグメントとまともに戦って勝てるレベルを目指して開発されたのが新型シビックでもある。

■ターゲットユーザー

こうした熱い思いがある新型シビックのターゲットユーザーはどこになるのか?谷本日本本部長によれば、全体にユーザーの若返りは期待したいし、ホンダファン、待っていたユーザー、今はホンダから離れてしまったユーザー、そして仕方なく、このクルマに乗っているといったユーザーにぜひ戻ってきてほしいと正直な気持ちを吐露する。

シビックを知っているユーザーにも、知らないユーザーへもブランニューシビックとして、再提案していくという。45年ものブランドヘリテイジを持つシビックだけに、そこを武器にアピールする戦略もあるが、敢えて、ブランドの出直しというスタンスで再構築してくのだという。ホンダブランドを訴求し、それを象徴するのがこのシビックだという意気込みなのだ。

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■試乗インプレッション

ホンダ シビック サーキット試乗
試乗はサーキットの限られた範囲で行なわれた

さて、プレゼンテーションではこのように熱く語られ、思いも伝えられた。今回の試乗は発売前ということもあり、ナンバー登録されていないため、サーキット試乗が用意されたが、わずか4周だった。また、試乗車はいずれも量産試作車であり、セダン、ハッチバックともに製造ナンバーはひと桁あるいは10番台というものだった。そのため、組み立て精度などまだ完了できていない部分もあり、細部におけるチェックポイントは、この先行なわれるであろう公道試乗会等の機会を待つことになる。

ホンダ シビック 車体番号
ハッチバックにはMADE IN UKの文字が。いずれも車体番号は二ケタ台の量産試作車

さて、サーキット試乗ではCVTモデルだけのテストでMTはなかった。コース上にはパイロンを設置しWレーンチェンジ、スラロームを試すことができた。またセダン、ハッチバックの両方に乗れたもののタイプRは展示のみのお披露目だった。そして、シャシーは両モデルとも共通であるものの、装着タイヤが異なるため、多少のチューニングレベルが異なっているという説明だった。

ホンダ シビック ハッチとルーフのヒンジ
ハッチとルーフのヒンジ部は指が入るほどの隙間があるが、市販時には調整してくると思われる

セダンからコースイン。エンジン音はそれほど大きくなく、滑らかに、そして上質に走っていると感じるのだが、この袖ヶ浦フォレストレースウエイは路面が非常にきれいでアンジュレーションも小さい。そのため、滑らかで、上質だと感じることが多いので乗り心地や質感などは言及しにくい。また、高回転まで回すとエンジ音は大きくなり、セダンであれば、もう少し遮音したい。あるいは、サウンドチューニングがあってもいい。

ハンドリングの応答は、特に機敏とは感じなく受け入れやすい。一般的なユーザーが普通にハンドル操作をしたときにも期待通りに反応するという印象を持つだろう。大きな横Gや切り替えしでは、それなりにロールはするが、ピッチングは小さくフラットな乗り心地になっている。ちなみにタイヤはブリヂストンのトゥランザを装着している。

ハッチバックはタイヤサイズがセダンとなは異なるためか、走り出した瞬間にしっかり感の違いを感じる。タイヤサイズ以外は同じだというが、フィーリング的には剛性感の違いとして感じる。そのため、なのかセダンとは異なる症状があった。

大きな旋回Gで走るとリヤの追従性の限界が来て、リヤがぐにゃっとなる瞬間がある。俗にいうコンプライアンス・ステア的なものだろう。タイヤのグリップ限界と、サスペンションとのマッチングがしっくりこない。

試乗後にサスペンションのエンジニアに聞けば、承知しているものだが、一般的なユーザーであればその領域までは持っていけないという。確かに、サーキットという限界性能が見れる環境であるため、公道のワインディングでは体験しないかもしれないが、対策は欲しい。

セダン、ハッチバックともに共通した印象では、CVTのレスポンスが気になる。アクセルのオン・オフに対するレスポンスが鈍いのだ。ミッションとエンジンの関係性が穏やか過ぎる印象で、スポーツモードを選択すれば、それなりに改善するものの、プレゼンテーションで走る喜びやホンダらしさ、など走ることが好きな人には刺激的な言葉が多かっただけに、期待値も膨らんでしまう。だが、見方を変えればCカテゴリーの量販モデルとしては一般的なレベルかもしれない。

また、多段フィーリングもサーキットという特殊な場所では感じにくく、スポーティなフィールは薄い。そしてシートはゆったりした作りの、どちらかと言えば、リラックスできるシートという印象で、サイドサポートは弱くアジリティ系のシートではなかった。

セダンはリヤの追従性が良く、安心感がある
セダンはリヤの追従性が良く、安心感がある

コーナリング中の操舵で切り足しや切り戻しをした場合、セダンはリヤの追従性が高く、旋回ヨーを感じやすく安心感があり、性格としては弱アンダーからニュートラルだ。不思議なのは同じホイールベース長なのにハッチバックでは少しニュートラルからオーバー側への印象になる。前述のようにリヤの追従性に途切れるところがあり、ダンパーとのマッチングがもうひとつといった印象だからだろう。

ちなみに、ダンパーはデルファイのBWI製のダンパーを採用している。初期ロールはあるものの、おさまりはいいが、サーキット走行というフィールドでは、ソフトに感じてしまう。

ホンダシビック試乗テスト 高橋 明
試乗テストは編集長の高橋 明

まだプロトタイプということで言及しにくいが、触感や乗り心地、サウンド、Gの感じ方、征服感など感性に響くものが部位により違うベクトルが存在している印象だった。端的に言えば、シートはホールド性が弱い、ハンドリングは正確な応答、サスペンションは乗り心地とスポーティの両立、パワートレーンはパワー、トルクがあるもののダイレクト感が弱く、量販モデル的な印象となってしまう。という大衆量販車の特徴とスポーティ車とが混在していて、感性性能への追求がもっとまとまれば、もっと操る喜びを感じられるだろう。

■新型シビックTYPE-Rギャラリー

COTY
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