2013年にフルモデルチェンジをした9代目アコードが、2016年5月26日にビッグマイナーチェンジを実施した。フロントフェイス回りのデザインを一新し、ホンダ独自の2モーターハイブリッドも進化させている。「愉しさ、環境技術、先進技術」の3つの軸を進化させ、「超越進化」を遂げている。
■ポジショニング
アコードは世界9ヵ国で生産し、160ヵ国で販売されているホンダの基幹車種。歴代の累計販売台数は世界2201万台、国内258万台の実績があり、この9代目も2013年の発売当初1万4540台の販売をしている。1976年の初代は「ゆとりと環境への調和」がコンセプトだったが、9代目のアコードも一貫してそのコンセプトで開発されている。ホンダとしても思い入れの強いブランドのひとつと言える。
現在のメインのユーザー層は50代、60代の男性であり、他社同様、正統派セダンを評価できる世代が顧客となっている。今回のマイナーチェンジでは9代目購入ユーザーからの不満点をしっかりと把握し、改善に取り組んだという。具体的には、特にハイブリッド化による荷室容量の少なさや、モーター音などの静粛性に関する課題が挙ったという。また、ボディサイズのコンパクト化を希望する声もあるというが、北米をメインマーケットとするアコードでは、現在のミドルサイズがちょうどいいのかもしれない。ボディサイズは全長4945mmで+30mm、それ以外の全幅1850mm、全高1465mm、ホイールベース2775mmに変更はない。リヤシートは基準身長185cmで大柄な身長を基準とすることでたっぷり、ゆとりのある後席空間がある。
今回のビッグマイナーチェンジは、内外装の質感や大幅な部材変更にも及んでおり、フルモデルチェンジに匹敵する内容となっている。特にフロントマスクは大幅に刷新したことで、印象も異なってくるだろう。また、荷室の広さ、静粛性の課題にも取り組んでいる。また、燃費でもLXグレードは従来の30.0km/Lから31.5km/Lへと向上している。では、詳細に各部を見てみよう。
■先進技術
グレード展開は従来と同様、ベースグレードのLXと上級のEXの2グレードで、いずれもハイブリッド・システムを搭載し、ホンダセンシングを全車標準装備とした。さらに、ITSのひとつである信号情報活用運転支援システムを搭載している。こちらは道路インフラとつながるもので、進行方向の先にある信号情報を取得し表示することで、信号通過支援、赤信号減速、発進遅れ防止支援をする。
高度化光ビーコンの信号情報を活用し、燃費向上と安全で円滑な運転をサポートすることを目的としており、実証実験では加減速分布が低加減速度よりになり、つまり黄色信号での交差点進入が15%減ったという。この結果、安全に寄与するとともに、急加減速が減少し、燃費も5%向上する結果になったとしている。また、ホンダセンシングは全方位で運転支援、事故回避をサポートする。
定評のあるホンダのインターナビでは、独自のサーバー情報をより有効に利用できるようになった。車載地図にない地点への案内もサーバーに格納された最新の情報でルート案内が可能となり、サーバーと通信することで、渋滞予測と鮮度の高いルート案内が可能となるわけだ。さらにドアtoドアデータを取得することで、施設や住所の入り口まで経路案内が可能となった。また、Apple Carplayにも対応した。
■デザイン
インテリアで最も目を惹くのはシフトレバーがボタン式に代わったことだ。先代は通常のシフトレバーがセンターコンソールにあったが、このマイナーチェンジではレジェンドに採用しているエレクトリックギヤセレクターへ変更。先進性が強調され、また全体に新しい時代を感じさせるようなインテリアとしつつも、使いやすいインターフェイスへとアップデートされている。加えて、上級のEXグレードには専用のスポーツコンビシートも新たに設定している。
エクステリアでは、ダイナミックな塊感や力強さ、上質かつ胸躍る爽快なデザインと説明している。特にヘッドライトは特徴的な変化を遂げ、LEDを採用し薄く、鋭くそして光を屈折させて放射させるデザインとなっており、独特かつ個性的な表情に変わっている。
また、装備ではサイドシルガーニッシュやリヤトランクスポイラー、18インチアルミホイール(EXグレード)などが加わっている。外板色ではディープオーラ・メタリック(ブルー)、プレミアムロッソ・パール(レッド)の2色の新色が追加になった。
静粛性の向上では、走行性能にも好影響のあるピラー内発泡ウレタンを、A、Bピラー、サイドガーニッシュ付近に採用。インナーフェンダーにも前後に吸音タイプのインナーフェンダーを採用している。さらにフードインシュレーターに吸音材の追加、フロントドアガラスを合わせガラス化、ダッシュボードインシュレーターに吸音材を追加、遮音性能の向上している。また、軽量吸音カーペットを車内に敷き、ハイブリッド効果をより体感しやすくするために、静粛性を高めている。
■パワートレーン
2モーターハイブリッドのi-MMDは、2.0L・アトキンソンサイクル・DOHCのi-VTECのガソリンエンジンに電気式CVTと組み合わされている。エンジンは出力を2kW、10Nmアップさせ、ホンダ初となる排気熱回収ヒーティングシステムを採用した。
排気熱を回収して、冷却水の昇温性能を向上させることでEV開始を早めるこのシステムは、エンジン始動時の冷間時に効果が高く、フリクション低下を促すことで、チョイ乗りを繰り返す使い方には実用燃費おいて非常に効果的だ。
モーターはオデッセイハイブリッドから導入したものと同じで、従来の丸形銅線から角型銅線を採用している。さらに銅線の成形など製造工程を最適化したホンダ独自の高密度巻線技術により、従来モーターより小型軽量化しながら、高出力、高トルクを実現している。
また、PCU(パワーコントロールユニット)はECU(エンジンコントロールユニット)の高集積化などにより小型化し、さらにトラクションモーター、バッテリースペックにも磨きをかけている。走行用モーター出力は11kWアップの135kW、エンジン出力アップ分と合わせたシステム最高出力は158kW(215ps)で、従来より12kWアップしている。また、バッテリーもクラリティFCで研究したエネルギー密度を改善した新開発のバッテリーセルへと変更している。
IPU(インテリジェントパワーユニット)パッケージはトランク内に収められ、バッテリーセルの改良と合わせてバッテリー冷却効率の向上、ECUの機能統合、そしてDC-DCコンバーター、リチウムイオンバッテリーなどの補器類の小型軽量化を行ない、IPUの従来比33%の小型化と12.8%の軽量化を実現している。その結果荷室の広さ、使い勝手向上へとつなげている。ちなみにサイズによるが、ゴルフバッグ4個をトランクに積載可能としている。
■走りの楽しさ
走るための新機能として、スポーツモードと減速セレクターを新たに採用している。スポーツモードはアクセルに対するトルクの割り付けだけでなく、エネルギーマネージメントを変更し、バッテリーからのアシスト量が常に増えるような制御となるモードだ。従ってスポーティな加速は、従来とは質の違った加速が味わえるわけだ。
減速セレクターはアクセルオフ時に減速度を4段階で変更が可能で、ステアリングセレクター(パドルシフト)でその変更が可能となっている。
またシャシーにも変更が行なわれ、ダンパー、ステアリング(EPS制御)、ブレーキを改良し、走る、曲がる、止まるという性能を洗練させている。EPS制御の見直しではω(オメガ)フィードバック、つまり入力に対する制御をより精密に制御することで、高速走行での直進の座り、ワインディングでの安定した手応えとなる。
ブレーキの改良ではフィールの向上を狙っている。進化型電動サーボブレーキでペダル起動荷重低減、制御変更でより自然なフィールへとつなげている。ハイブリッドであるため回生ブレーキの影響がブレーキタッチを悪くする原因だったが、そのあたりを改善しているというわけだ。さらに回生量の向上により燃費改善にも貢献している。ダンパーは改良型の振幅感応型ダンパーで、減衰応答性の向上、旋回性能の前後バランス最適化を行なっている。