ホンダは2024年4月25日、カナダにおけるEV用リチウム・バッテリー生産に関して、旭化成とバッテリー用セパレーターの生産に関する協業に基本合意し、カナダでEVの包括的バリューチェーン構築に向けた検討を開始した。
また同時に世界的大手の韓国のポスコ・ケミカル(ポスコ・フュチャーM)社とEV用バッテリーの正極材の生産に関する協業に基本合意するなど、カナダでの車載リチウムイオン・バッテリーの生産に関し、盤石なサプライチェーンの構築を推進していることを発表した。
北米対策として
ホンダはアメリカ市場専用のEVに関してはGMとの協業でアルティウム・プラットフォーム、アルティウム・バッテリーを使用しているが、ホンダのグローバル市場向けのEVは、ホンダの独自開発によるEVプラットフォームとし、それに搭載するバッテリーも自社独自で確保する必要がある。
アメリカでは民主党のバイデン政権においても反インフレ法(IRA法)により、EV+バッテリーは北米生産でなければEV補助金を付与されない。だが、2024年秋に仮にトランプ政権が復活すれば、輸入車、輸入バッテリーに高額な関税がかけられる可能性が高まり、外国メーカーのEV事業は大きなダメージを負うことが懸念されている。
そのため、ホンダは日本の自動車メーカーで他社より一足先に、EV、車載バッテリーの現地生産体制の構築、強化に着手したのだ。特に車載バッテリーに関しては、北米で製造した場合でも中国製のバッテリー材料・素材・成分を使用していると大きな足かせが付けられる可能性が高い。
今回の発表はいずれも車載用リチウムイオン・バッテリーの現地(カナダ)生産の布石となるものだ。
旭化成は多孔質膜の世界有数企業
旭化成との協業では、車載バッテリー用セパレーター生産に関する協業について、2024年中の合弁会社設立を目指し、具体的な協議を開始している。両社は、中長期的な成長が見込まれる北米の電動車市場向けに、高性能なバッテリーを安定的に供給するサプライチェーンの確立が重要であるとの共通認識を持ち、ホンダの北米市場向けEVに搭載されるバッテリーや、他のOEM用バッテリーに向けて、セパレーターを生産する合弁会社を設立しようとしている。
旭化成はバッテリー内部のリチウムイオンを透過しながら正極材と負極材の接触を遮断しショートを防ぐ役割を果たす多孔質膜に関しては世界有数のメーカーだ。
ポスコとは正極材に関し、中長期的成長を見込む
ホンダはポスコ・フュチャーマテリアル社とも、カナダにおいて車載バッテリー用の正極材の生産を行なう合弁会社を2024年内に設立することで合意した。
正極材は、EVのキーコンポーネントであるバッテリーの主要材料の一つであり、高品質な正極材の安定確保はバッテリー生産のために不可欠だ。両社は、中長期的な成長が見込まれる北米の電動車市場において、高性能なバッテリーを安定的に調達し、電動化戦略を着実に実行することを目的に、基本合意した。
今後、主にホンダの北米市場向けEVに搭載されるバッテリーへの正極材の供給を目的として合弁会社が設立される。
ポスコ・フューチャーM社は韓国のポスコ・グループ傘下で、リチウムイオン・バッテリーの正極、負極材料の開発・生産の大手企業である。
ホンダは、EVの包括的バリューチェーンをカナダに構築することを目指しており、EV専用の完成車工場、EV用バッテリー工場の建設に加え、パートナー企業との合弁会社設立による、セパレーターや正極材といったバッテリーの主要部材のカナダ国内での生産体制の確立を目指している。いずれもサプライヤーをパートナーとする協業は不可欠なのだ。
カナダで4輪完成車を生産するHonda of Canada Manufacturing(カナダ・オンタリオ州)の従業員数は現在4200人だが、既存工場に隣接して建設されるEV組み立て、バッテリー組み立て工場の稼働により、新たに約1000人を雇用していく予定だという。
建設を検討中のEV工場は、環境負荷を最小化するとともに、革新的な生産技術、おそらくギガキャスト、CTB(セルtoボディ組立工法)などを導入予定で、年間最大生産能力は24万台規模を想定。稼働開始は2028年を目指している。また、バッテリー工場の年間最大生産能力は36GWh規模を想定しているという。
なお、現在検討しているEVの包括的バリューチェーン構築に関わる総投資額は、合弁パートナー企業からの出資額も合わせて、現時点で約150億カナダドルを想定している。
一方で、こうしたEVやバッテリー生産に関しては、カナダ連邦政府の「インベストメント・タックスクレジット」制度による補助金に加え、オンタリオ州からも補助金を受ける予定となっている。
ロードマップの第2弾がカナダ
ホンダの三部敏宏社長
「ホンダは2050年カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みをグローバルで進めています。北米においては、米国でのEV生産体制の構築に続き、今回ここカナダで、カナダ連邦政府やオンタリオ州政府の支援もいただきながら、包括的なEVのバリューチェーン構築の検討を開始しました。北米での将来的なEV需要の増加に向け、EVの供給体制を強化していきます」
ホンダは、大市場である北米でのカーボンニュートラル、20240年にゼロ・エミッションを実現するため、取り組みの第1弾として、アメリカ・オハイオ州の工場をEV生産のハブ拠点と位置づけ、生産設備の改修や、LGエナジーソリューションとの合弁によるバッテリー工場の建設など、北米におけるEV生産体制の基盤作りを推進している。
そしてカナダでの生産体制構築が第2弾となり、オハイオ州の拠点でのEV生産のノウハウをベースに、カナダの豊富な資源やクリーンエネルギーを活用し、バッテリーを中心とした原材料の調達から完成車生産までの包括的なバリューチェーンの構築を目指し、コスト競争力を高めていくとしている。