ホンダは2023年4月26日、三部敏宏社長、青山真二副社長が出席し、「2023 ビジネスアップデート」と呼ぶ2023年・新年度の経営戦略説明会を開催した。
そして、今回のビジネス戦略の発表と同時に、今後はブランド・スローガンの「The Power of Dreams」を再定義し、新たに「How we move you.」「CREATE」「TRANSCEND」「 AUGMENT」を付け加えている。How we move youは”あなたの心を突き動かす”という意味で、それを支えるのが「夢見る新しいモビリティの創造」、「多くの制約からの解放」、「人の能力と可能性を拡張する価値」ということを宣言している。
三部社長は、ホンダが目指すモビリティとして、大テーマに交通死亡事故ゼロ、環境負荷ゼロを定め、キーファクターとしてパワーユニットのカーボンニュートラル化、リソースリサーキュレーション(資源の循環化)、エネルギー・マネージメント(EVを中心にしたエネルギーの効率的な使用)、自動運転/高度運転支援システム化、クルマのIoT/コネクテッド化の5分野を重点的に取り組むとしており、その実現のためにこれまでのエンジン車、ハイブリッド車で得られる収益を積極的に投資していくとしている。
またホンダが直面する課題である営業利益率の向上は、継続的に進めている固定費の削減効果を始めとする構造改革により、2025年度には利益率7%の目標を達成する見込みだ。
もう一つの課題である半導体の調達に関しては、短期的な対策を取るとともに、長期的な視点でティア1サプライヤーとともに半導体メーカーとの関係の強化を図ることにしている。具体的には世界最大の半導体メーカーのTMSC(台湾)との戦略的協業に合意している。
電動化戦略に関しては、その基盤となるバッテリーにおいて日本の他社に先駆けグローバルでバッテリーメーカーとの供給体制がほぼ実現しており、さらにバッテリーの原材料となる資源の確保やリサイクル面でのバリューチェーン構築の取り組みも進みつつある。
さらにバッテリーそのものでは、GSユアサとより高性能なリチウムイオン・バッテリーの共同開発を進めており、さらに次のステージとなる半個体バッテリーはアメリカのベンチャーのSES AI社との共同開発を行ない、さらに次世代バッテリーとして期待される全固体バッテリーはホンダの独自開発を行なうなど重層的な体制で高容量、高出力なバッテリーを追求している。なお全固体バッテリーは2024年にさくら研究所で実証パイロットラインを稼働させる予定となっている。
電動化の加速と軌を一にしているのが、日本勢が立ち遅れているソフトウエア・ディファインド・ビークル(SDV)の開発だ。その基盤になるのが車両のOS(オペレーティング・システム・ソフトウエア)だが、ホンダは2025年に新開発のホンダ独自のビークルOSを投入するという。
この新OSが新たな電子プラットフォームとなり、自動運転や高度運転支援システムはもちろん、通信によるコネクテッド・サービスやソフトウエアアップデート(OTA)、サードパーティによるインフォテイメント・アプリの追加などはフレキシブルに搭載・装備可能になるのだ。このOSの開発を加速させるために、ホンダはITエンジニアを大量に採用しつつあるという。
また電動化技術、制御ソフトウエアに関しては日立アステモ社と連携を強化し、開発スピードを向上。さらにインテリアのインフォテイメントや各種アプリを統括するグローバルUXオフィサーを新設し、シリコンバレーのソフトウエア・スタートアップ企業「Drivemode」社を買収、そのCEOが統括責任オフィサーに就任している。つまり、カリフォルニアを起点にしてシリコンバレー流の迅速な開発体制を目指しているのだ。
そしてEVの市場投入計画は、アメリカ市場では2024年にホンダ、アキュアラ各ブランドでGMのEVアークテクチャーを採用する大型SUVと投入し、2025年からはホンダ独自開発の新EVプラットフォームをを採用する中型・大型EVを市場に送り出す計画だ。
中国ではすでに2車種、今年中に2車種のEVを導入しているが、2027年までに10車種のEVをラインアップし、2035年にはラインアップ100%がEVとする計画だ。
また日本は2024年にN-VANベースの軽商用EV,2025年にはN-ONEベースの軽EVを発売する。そして2026年には新プラットフォームを採用する日本市場向け小型EVを2機種投入するとしている。
こうしたEVのラインアップ拡大に合わせ、従来のエンジン車、ハイブリッド車の生産とは全く異なるEV専用生産ラインが構想されており、まずグローバルのマザー工場である寄居工場に導入が計画されている。
ホンダは2040年に販売モデルの100%がEV/FCEVとなることを目指しており、2030年にはEV/FCEVが年間200万台を超える規模になると想定している。既にトヨタは、新体制のもとで2026年にEVを160万台販売するというチャレンジングな目標に掲げているが、トヨタもホンダも本格的かつ競争力の高いEVプラットフォームの開発と、ホンダはビークスOS,トヨタは「アリーン」と呼ぶ電子プラットフォームの開発が目下の最大のテーマとなっている。
2023年上海モーターショー・ショックで明らかなように、中国地元資本がすでにEVプラットフォーム、ソフトウエア・ディファインド・ビークル用の電子プラットフォームを実現しており、約2年の遅れをリカバーできるかどうかが焦点になっている。