ホンダは2022年4月12日、三部敏宏社長、竹内弘平副社長(財務責任者)、青山真二執行役員(開発責任者)の3氏が出席し、4輪車の電動ビジネスの取り組みの進捗と将来への事業展開をメディア向けに説明した。
構造改革とカーボンニュートラルへの方向性
この説明会は、三部敏宏社長の就任1周年という節目で、自動車メーカーに課せられている電動化の現状と2030年に向けた展望を改めて行なう場となったが、同時にホンダがここ数年で進めている事業改革、経営の構造改革の進み具合も改めて強調している。
ホンダは、グローバルでの過剰な4輪車の生産体制を販売力に見合うレベルまで縮小し、同時に開発体制も大きく変革し、危険水準に近づいていたきわめて低い営業利益率を引き上げ、着実な成長を目指せるような施策を進めてきた。このため、イギリス工場の閉鎖を始め、海外の生産工場の製造ラインの縮小、さらに日本では狭山工場の閉鎖などを行ない、開発体制では従来の研究所体制から4輪事業本部ものづくりセンター体制へと組織変更を行ない、コストの削減も進行させるなど大規模な構造改革を実行している。
そしてグローバルモデルの派生数を2018年比で半分以下まで削減(目標:2025年に3分の1)も行なうことで着実に利益率を高める方向を定着させている。
こうした経営の磐石化を進めながら、自動車メーカーとしてのカーボンニュートラルに向けての取り組みをどのように進めるかが今回アピールされている。もちろんホンダは、乗用車だけでなく、2輪、汎用エンジン、マリン、航空機の各部門を擁しており、世界最大の内燃エンジン生産数を誇るが、これらすべての事業分野で環境負荷ゼロの循環型社会、つまりカーボンニュートラルを目指すことになる。
もちろん、その実現に向けて、2輪車の電動化では交換式バッテリー方式、大型車では燃料電池、MaaS型電動乗り合いバス・システム、そして4輪車はバッテリー駆動化、また内燃エンジンの次世代技術としてはカーボンユートラル燃料の実現など、多角的な対応が求められている。
そのため、これまでの2輪、4輪、パワープロダクツ(汎用エンジン)などの製品別に分かれた組織から、今後の競争力のコアとなる「電動商品とサービス、バッテリー、エネルギー、モバイルパワーパック、水素」、そしてそれらを繋げる「ソフトウェア、コネクテッド領域」を取り出して1つに束ねた新組織「事業開発本部」を新設し、より機動的な開発体制に再編している。
日本向けBEVにはエンビジョンAESC製バッテリーを調達
4輪乗用車の電気自動車化については1年前の三部社長の就任時から明言してたが、今回はより具体的なバッテリー調達戦略も明らかにされた。世界の各自動車メーカーが一斉に電気自動車化を推進している結果、バッテリーは売り手市場になっている現状を踏まえ、いかにバッテリーを確保できるかが重要なポイントだ。
ホンダは2030年にグローバルでBEVを200万台生産する計画で、そのために必要なバッテリーの総容量は160GWhに達する。そしてホンダはこれまでに、アメリカ市場ではGMと提携し、GMが韓国LGと合弁して大量生産するアルティウム・バッテリーを採用し、ホンダにとってNo1市場の中国では現地企業であり世界最大規模のCATLと提携することを決定。
そして注目の日本で生産するBEVで日本市場向けはエンビジョンAESCから調達することを発表した。エンジビジョンAESCは、もともと日産とNECが合弁し、リーフ用にラミネート式バッテリーを開発、生産していたバッテリーメーカー「AESC」が母体で、その後に日産、NECが中国の遠景集団(エンビジョン・グループ)に売却し、エンビジョンAESCと生まれ変わっている。
そして、日産は依然としてエンビジョンAESCのバッテリーを採用し、さらにはルノー・グループもエンビジョンAESCのバッテリーの採用を決定し、一躍グローバル規模のバッテリーメーカーになり、日本では従来の座間工場に加え、新たに新工場を建設中だ。ホンダはこのエンビジョンAESCのバッテリーを、日本で2024年に投入する軽商用車BEVにまず採用する計画としているのだ。
またホンダはすでに明らかにしているように次世代バッテリーとして全固体電池の開発にも力を注いでいる。現在は研究所内での試作段階で、2024年春にはパイロット・プラント(量産向けの実証生産ライン)を栃木県さくら市で立ち上げるとしており、従来より2年ほどずれ込んでいる。しかし、すでに日産が2024年パイロット・プラントを稼動させると発表しており、研究・開発のペースはまさに互角だ。
BEVの車両計画
BEVは、現在から2020年代後半にかけて主要地域ごとの市場特性に合わせた車両の投入を計画している。すでに発表しているようにアメリカ市場向けのミッドサイズ以上のBEVは、GMのアルティウム・プラットフォームを採用し、共同開発で中大型クラスEVを2024年に2機種投入する。2車種は、ホンダ・ブランドは新型「プロローグ」、アキュラ・ブランドのSUVが予定されている。
一方、中国ではBEVの投入は急ピッチで、2027年までになんと10車種のEVを投入するという。そのため、ホンダの合弁現地企業は武漢にBEV専用の工場建設している。
注目の日本では、2024年前半にまず商用の軽BEVを100万円台で投入すると発表した。BEVは、一定のルートを配送したりする軽商用車がBEV普及の起爆剤になるという判断だ。その後、パーソナル向けの軽BEV、SUVタイプのBEVを適時投入予定としている。なお先頃発表したソニーとの合弁会社では、高付加価値の上級クラスのBEVを想定しており、ホンダ・ブランドとは一線を画している。
そして2020年代後半以降はBEVの本格的な普及期としてグローバル視点でベストなBEVを展開することになる。また、ホンダらしいBEVとしてスポーツカー、スポーツクーペの投入も企画されている。
そうした本格普及期に合わせて、BEVのハードウェアと電子プラットフォーム、ソフトウェアの各プラットフォームを組み合わせたEV向けプラットフォーム「Honda e:アーキテクチャー」を採用した商品を2026年から投入することになる。
この時点では、すでに発表しているようにGMとのアライアンスを通じて、コストや航続距離などで従来のガソリン車と同等レベルの競争力を持つ量販価格帯のEVを、2027年以降に北米から投入し、グローバルに展開して行く戦略だ。
このようにBEVは、2030年までに軽商用からフラッグシップクラスまで、グローバルで30機種を展開し、年間生産は200万台を超える計画としている。
こうした電動化戦略と合わせ、BEVという製品単体ではなく、さまざまな製品が連鎖し、領域を超えて繋がることで、より大きな価値を提供すること、つまりBEVの世界を前提としたサービスの展開も目指している。
そのためには、電動モビリティや製品を端末と位置づけ、各製品に蓄えられたエネルギーや情報を、ユーザーや社会と繋げる技術と枠組みが重要なキーとなることから、コネクテッド・プラットフォーム構築に取り組み、そのためには異業種間の連携や、アライアンス、そしてベンチャー投資も、積極的に行なうという。
2030年を目指すこうした幅広い戦略を実現するために今後10年の研究開発費として累計約8兆円を投入。その内、電動化・ソフトウェア領域には約5兆円(研究開発費 約3.5兆円、投資 約1.5兆円)を投入予定とし、さらに新領域や資源循環などを含む新たな成長の仕込みに、今後10年で約1兆円を投入予定としている。
ホンダの2030年に向けた電動化戦略は、現実的で着実な青写真と考えることができ、そのためにななすべきことをなすという方針を色濃く感じることができる。