ホンダとソニーは2022年3月4日、新しい時代のモビリティとモビリティサービスの創造に向け、戦略的な提携に向けた協議・検討を進めることを合意したと発表し、ソニーの吉田憲一郎社長、ホンダの三部敏宏社長が出席した緊急の記者会見も開催された。
この合意は、具体的には両社で新たに合弁会社を設立し、この新会社を通じてこれまでにはない高付加価値のBEV(電気自動車)を共同開発・販売し、モビリティ向けサービスの提供と併せて事業化していく意向を確認した基本合意書を締結したのだ。なおこの新合弁会社は2022年中に設立する計画だ。
今回の提携では、ホンダのクルマの開発力、車体製造の技術やアフターサービス運営の実績と、ソニーが保有するCMOSなどのイメージング・センシング、通信、ネットワーク、各種エンタテインメント技術の開発・運営の実績を持ち寄り、利用者や環境に寄り添い進化を続ける新しい時代のモビリティとサービスの実現を目指すとしている。
新会社からのEV車両の初期モデルの販売開始は、2025年を想定している。新会社はBEV車両の企画、設計、開発、販売などを行なう想定で、製造設備は合弁会社としては保有せず、製造の初期モデルはホンダの車両製造工場が担当することが想定されている。
また、モビリティ向けサービスプラットフォームについては、ソニーが開発し、新会社に提供することを想定してる。
ホンダ、ソニーの提携、合弁事業というニュースはグローバルに大きなインパクトを与えるニュースとなった。なぜなら、以前から自動運転システムを搭載した電気自動車をアップル社が発売するという話題は世界から注目されており、製造工場を所有しないアップル社はどこでアップルカーを生産するかが焦点となっているのだ。
ソニーはアップル社と同様に自動車生産設備や工場を所有していないが、2022年1月のCES(アメリカ・ラスベガスで開催)で、ソニーの吉田憲一郎社長は「電気自動車(BEV)事業を担当するソニーモビリティ株式会社を設立し、自動車事業に本格参入する」と公表していた。そして、今回のホンダとの提携・合弁会社の設立により、未だに生産体制が決定できないアップル社を出し抜いたともいうことができる。
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ソニーは、これまでのメガトレンドはスマートフォンなどのモバイルであり、これからはモビリティの世界がメガトレンドとなり、それはクルマにおけるIT、通信技術、そしてネットワークを軸としたサービスというビジネスモデルにフォーカスし、独自にBEVプロトタイプを開発してきた。プロトタイプとはいえ、保安基準、現行法規、安全基準をクリアした、公道走行が可能な車両として完成している。
これまでに「ビジョンS 01 」(2020年)、「ビジョンS 02」(2022年)という2種類のプロトタイプを、マグナ・シュタイヤー社(オーストリア)と共同で開発し、公道での走行テストや5G通信を使用したテレマティックスの実証実験も進めている。
これらのプロトタイプは、新開発のBEV専用プラットフォームを持つ電気自動車であり、ソニー製のセンサーをはじめ多数のセンサーを搭載してレベル2の高度運転支援システム(レベル4自動運転にアップグレード可能)も採用している。
ソニーは、それら近未来の自動車のハードウエアだけではなく、ソニーの従来の蓄積を活用した車載オーディオシステム、オーディオ、ビジュアルを統合したインフォテイメントも搭載されており、これらの分野でのサービスを想定していることをうかがわせている。
ソニーとホンダとのこの新開発BEVの関係は、2021年夏頃に両社のエンジニアが顔を合わせてワークショップがスタートしており、2021年年末には両社の社長が会談し、ほぼその時点でプロジェクトに関して合意されたと推測できる。
したがって2020年1月のCESにおけるソニーの自動車事業参入の宣言はこの合意を前提にしたものであり、エレクトロニクス企業からモビリティ事業の新規開拓に向け、大きく舵を切ったのである。
なお、新たな合弁会社で開発する量産BEVは、ホンダ・ブランドではなく、2社のノウハウを結集した新しいブランドとしてスタートすることになる。その生産をホンダが担当するわけだ。新会社では新しい量産BEVを開発すると同時に、新世代のクルマにふさわしい革新的なインフォテイメント、モビリティサービスも開発され、これらは将来的には他の自動車メーカへ供給することも想定されている。