【ホンダ】クルマの造り方を変えた革新的野心作 Nシリーズ第一弾 N-BOX

軽自動車の市場でホンダのポジションを回復すべく、投入されたNシリーズ第一弾がN-BOXだが、具体的なアクションとして、クルマの造り方を変えることにもトライしていることが分かってきた。

N-BOX

コンセプト
N-BOXに求められるものは「軽自動車だから」という考え方を排除することから始まり、ファーストカーとして利用できる軽自動車として生まれ変わることから始まっている。それはホンダが掲げるM・M思想が改めて強調されたわけだ。メカはミニマムでマンはマキシマム。人間はマキシマム=大きく広く、という思想で、つまりキャビンを広くし、エンジンなどのメカは小さいほうがいいという発想である。

そのM・M思想の上に軽自動車であってもN-BOXは、ファーストカーとして所有でき、街乗りも遠出も苦にならず、運転がしやすく、乗り降り、積み下ろしが容易である、などといった要素を盛り込む必要があったわけだ。そこでホンダが特許を持つ、センタータンクレイアウトを核とした新型のプラットフォームを新たに開発することから始まっている。

フロント乗車位置を70mm前方へ出すことから挑戦はスタートした。ボディサイズに規定のある軽自動車でより大きな居住空間を確保するために、可能な限り乗車位置を前方へ移動する必要がある。つまりキャビンスペースを広げるためにとった手段だ。それはアクセルペダルを現状の軽自動車より70mm前進させることだが、そこにはフロントタイヤがあり、前進できる限界のポジションが70mm前進だった。

70mm前進
これまでより70mmキャビンは前進している

だがそこまで前進させるには、エンジンルームを小さくしなければならない。全長が決められている軽自動車規格が壁になる。さらにクラッシャブルゾーンも確保しなければならない。もともと230mmしかない軽のクラッシャブルゾーンだが、70mmも室内が前進してきてしまうと、どうやってその分を捻出しなければならないのか?が問題となってくる。そこで、衝突した際、エンジンの補器であるコンプレッサーをスイングして下方へ移動し、ウォーターポンププーリーや触媒もつぶれることで、現状より84mmを確保している。もちろんつぶれたときのエンジンサイズを目標に設計したのは今回が初めての経験だという。

こうして確保された室内スペースは軽自動車NO1の広さを持ち、かつてないゆとりあるスペースが誕生している。全長は軽自動車規格いっぱいの3395mmに対して室内長は2180mm、室内高1400mm、室内幅1350mmとなっている。全幅規格は1475mmである。軽自動車でありながら、ステップワゴンに迫る広さを確保し、両側スライドドア開口部は640mmもある。フリードよりも広い開口部をもっているハイトワゴンになったのだ。

荷室両側スライド

また、フロント着座位置センターからリヤシート着座位置センターまでのタンデムディスタンスも1150mmと広く、大柄な男性2人が足を組んで座れる広さも持っている。その際、リヤシート後方には18Lのポリタンク4本を積むスペースも確保されたままである。

ボディ工法
このように大きなスペースを確保するために、革新的なプラットフォームを造り出したのと同様に、ボディ成形にも大きな革新的製造方法が取り入れられている。

まず、モノスペースであるワンボックスは、ボディの剛性確保が難しいのだが、センタータンクレイアウトのため、ガソリンタンク両サイドのフレームを補強することで横剛性は出しやすかったという。そして、第10技術開発室の宮本渉氏の説明によれば、従来工程とは異なる工程でボディを造っているのだという。

従来工程でフレームとパネルは、ある程度組み合わされたアセンブリーとして組み立てられているが、N-BOXでは先にフレームを造り、あとからパネルをあわせていくイメージの工程だという。それは、まず、フレームを形成する鋼材はいくつかの部材として鋼材メーカーから納品される。それをつなぎ合わせるとき、アウターパネルと組まれた状態で、つなぎ合わせることになる。その場合、補強用ボルトでの締結であったりMIG溶接(一般的な溶接)、スポット溶接であったりしていたが、アウターパネルの組みつけが後工程になったため、フレームを形成する鋼材同士を直接結合させることが可能になる。そのため後工程ではアウターパネルの組みつけだけになり、また、補強用のボルト、溶接なども不要になるため、作業工程の削減、ボディの軽量化も同時に可能となっている。N-BOXでは一部、テール開口部下部のみMIG溶接、スポット溶接をするだけとなったのだ。

継ぎ手骨格
製造ラインも改良が必要となるほど、製造方法自体が変化している

ちなみに、この工程とするには、従来の製造ラインでは不可能であったため、ホンダの軽自動車を製造していた八千代工業から鈴鹿製作所に変更し、製造ラインの改造を行っている。

そして繋がれたフレームにアウターパネルを取り付けることになるのだが、ここでも新たな製法が加わっている。それはテーラードブランク製法というもので、従来アウターパネルには剛性や強度にほとんど寄与しない部材である反面、板厚が0.7mmや0.65mmと薄いため、加工しやすくデザインパーツという位置づけであった。しかしその部材にも強度や剛性を持たせることで、これまで必要だった補強部品が不要となり、部材を削減し軽量化にもなるわけだ。その方法がテーラードブランク製法であり、板厚や剛性の異なる鋼板をレーザー溶接で結合させる製法で、この方法をとることで一枚の板に変えてプレスできるようになるわけだ。

テーラードブランク工法テーラードブランク製法

↑テーラードブランク製法とすることで、作業工程の削減や軽量化までも効果を得ることができるという

さらに、Bピラーなど剛性が要求される部位には高張力鋼板など、コストのかかる材料が使われてきているが、N-BOXではホットスタンプ工法を取り入れて高剛性に対応している。従来の材料での要求剛性は980MPaの場合、1.6mm厚の超高張力鋼板が必要だったが、ホットスタンプ工法の鋼板にすることで、1500MPa級の剛性を1.0mm厚の鋼板でその要求をクリアしている。薄い板厚で剛性が確保できるために、軽量化、コストダウンというメリットを生んでいるわけだ。

ホットスタンプ
Bピラーはホットスタンプ工法で剛性アップ

これらの工法はボディだけにとどまらず、リヤサスペンションのトレーリングアームとトーションビームの接合にもテーラードブランク製法が採用され、剛性アップと軽量化が図られている。フロントサスペンションはストラット式で、ハブベアリングには軽量・高剛性で転がり抵抗の少ない最新型を採用している。また、装着されるタイヤも低転がりのエコタイヤが専用に開発されている。
もちろんボディ自体もホンダのGコントロール技術により、自己保護性能の向上と相手車両への攻撃性低減を両立するコンパビリティ対応のボディにはなっている。正面からの衝突に効果を発揮するボディに加え、側面衝突時の荷重を受け止めるシートロードパスを採用。また。後面衝突ではリヤフレームのストレート化で衝撃吸収を効率化している。

エンジン
エンジンにも革新的な技術が使われている。それはつぶれるエンジンであるということだ。N-BOXは従来の軽自動車より70mmエンジンルームが小さいので、衝突時の衝撃吸収ストロークを確保するため「消えるエンジン」を合言葉に開発されている。衝突時、コンプレッサーやプーリーがエンジンの隙間にもぐりこみ、また、インテークやキャタライザーはつぶれる構造とすることで、衝撃の吸収ストロークを確保している。その結果追突後のエンジン前後長は衝突前と比較し78mmも短くなるエンジンになっているのだ。

エンジンそのものものには、日常の街乗り、週末の遠乗りでもストレスのないパワーとトルクは要求される。エンジンは2種類用意され、NAとターボエンジンである。ともに新開発の3気筒660ccDOHCエンジンで、NAの出力は43kw(58ps)/7300rpm、65Nm/3500rpmで、ターボエンジンは47kw(64ps)/6000rpm、104Nm/2600rpmとなっている。

N-BOX

これまでのホンダの軽用エンジンと比較し、ボアピッチを短縮しロングストロークに変更している。低回転域でのトルクを大きくし街乗りでの使い勝手に貢献している。そしてヘッドまわりでは、VTC(連続可変バルブタイミング・コントロール)を採用し、吸気効率、燃焼効率を向上させ、さらにラッシュアジャスター機構を採用することで、タペット調整が自動になりメンテナンス機構の削減もできている。エンジン単体として約15%以上の軽量化を行いミニマムエンジンを実現している。

搭載されるCVTも新設計されている。CVTはエンジンからの入力トルクが大きく、回転数が低いほうが伝達効率がよいという特性を利用し、プーリー手前に1次減速機構を設けて入力回転数を下げることで相対的にトルクを増大させる方式を採用している。この1次減速機構にはプラネタリーギヤを使わず、平行軸式1次減速機構を採用している点はホンダ・エンジニアの拘りを感じる部分でもある。

衝突安全

そしてアイドリングストップ機構をターボ車を除き、全車に装備している。ECOモードに連動し、スイッチオンの状態で作動する設定になっている。作動のタイミングは車両停止後、約1秒で停止する設定だ。環境性能としては全タイプで「平成17年排出ガス基準75%低減レベル」認定を取得し、「平成22年度燃費基準+25%」を達成している。達成された燃費については、NAエンジンのJC08モードは22.2km/Lで、ターボ車は18.8km/Lであり、モード燃費より実用燃費追求型になっているといえる。

シャシー
スーパーハイトワゴンは全高が高いためにロールが大きくなりやすい特徴があるが、N-BOXはロングホイールベース化や新設計のサスペンションで、走行安定性、乗り心地の向上をバランスさせている。そして低転がり抵抗のタイヤを採用することで、低燃費化も追及している。

そのサスペンションの基本はフロントはストラット式で、リヤはH型とーションビームというレイアウトをとっている。リヤのトレーリングアームとトーションビームの接合には、世界で初めて前述のテーラードブランク製法を採用している。また、4WD車のリヤサスペンションは、従来はガソリンタンクとの干渉を避けるためにド・ディオン式を採用していたが、センタータンクとなったことでH型トーションビームが採用可能となっている。これにより、4WDシステム全体で35%の軽量化を可能にしている。また、トーションビームを前方に配置することで、ストローク量を少なくし、荷室の低床化を可能にしている。

VSAとHASを標準装備
特筆すべきはVSAとHASが全車に標準装備されたことだ。軽自動車としては初めて横滑りなどクルマの挙動変化を抑えるVSA(車両挙動安定化制御システム)と坂道発進時の後退を抑制するHAS(ヒルスタートアシスト)が装備されている。もっとも車両安定装置は2014年10月には装着が義務付けされることから、先行して装備・開発されているわけだ。

■N-BOX主要諸元
●価格124万〜178万円 ●全長3395mm×全幅1475mm×全高1770mm・カスタム1780mm(4WDは1790mm・カスタム1800mm) WB2520mm ●車両重量930kg・カスタム950kg(4WDは990kg・カスタム1000kg〜1030kg) ●最大出力43kw(58ps)/7300rpm 最大トルク65Nm/3500rpm ターボ47kw(64ps)/6000rpm 最大トルク104Nm・2600rpm ●JC08タイプG FF 22.2km/L ターボ4WD18.2km/L

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