フォルクスワーゲンの初代ティグアン登場から丸8年を経て、第2世代のティグアンが登場した。新型ティグアンはMQBプラットフォームを採用し、ボディサイズをアップ。一クラス上に格上げされたフォルクスワーゲンのグローバル戦略を担うSUVだ。どのように進化しているのか、お伝えしよう。<レポート:松本晴比古/Haruhiko Matsumoto>
■ SUVとして初のMQBプラットフォーム
新型ティグアンのボディサイズは、全長4500mm(従来型比+70mm)、全幅1840mm(Rラインは1860mm)で+30mm、全高は1675mm(-35mm)と、従来モデルに比べて長く、よりワイドで低くなり、ホイールベースは70mm延長されて2675mmとなっている。
ボディサイズはCセグメント・プラスのサイズで、同じMQB(横置きエンジン用モジュラー)プラットフォームのゴルフよりひと回り大きい。MQBのプラットフォームやパワーユニットが共通ということもあって、ゴルフのSUV版とみなされがちだが、車格的にはティグアンの方が上で、例えばアウディQ3より僅かに大きく、BMWでいえばX1とX3の中間あたりのポジションといってもよい。
じつはヨーロッパや日本向けはショートホイールベース版で、アメリカ、中国などにはロングホイールベース版が導入されている。このロングホイールベース仕様は全長4712mmとDセグメントに近いサイズなのだ。
パワーユニットは、ヨーロッパでは2.0Lのディーゼルがメインとなるが、日本には1.4L TSIガソリンエンジンで6速DSGのみという設定だ。また現時点ではFFモデルのみで、4WDモデルは遅れて導入されると予想される。FFモデルということでクロスオーバーSUVともいえるが、従来型の4WDモデルは本格的SUV並みの走破性能も兼ね備えたモデルだったので、新型ティグアンの血筋はSUVそのものだ。
■デザインと質感
エクステリアは見るからソリッド感のある佇まいで、フロントエンドからリヤまで通る彫りの深いシャープなプレスライン、水平基調でまとめられた前後のデザインは独特の存在感があり、プレスの精度や、パネルの合せ目などの精緻さは、プレミアムクラスのクルマのそれを上回るレベルにある。
水平基調の端正さ、シンプルさは、現在のフォルクスワーゲンのデザイン・ポリシーをダイレクトに表している。
インテリアの作り込みのきめ細やかさ、仕上げの良さもゴルフを遥かに上回るレベルにあるが、興味深いのはインテリアがダークトーン一色で暗く、華やかさもデザイン性にも乏しく、ディテールにこだわった精緻な作り込みであることを気付かせないことだ。ただハイラインはオプションの電動レザーシートでブラック以外にサフランオレンジ色を選択できるのだが。
一見するとビジネスカー的で、無味無臭といった印象を受けるが、これもメーカーの一種のアイデンティティだと考えるべきだろうか。
■インテリア、装備
装備面では大幅に革新されている。すでにゴルフにも採用されている「フォルクスワーゲンCarネット」を全車に標準装備している。これはスマートフォンとのテザリングを使用したインターネット常時接続で、Googlマップ、ナビから各種情報の検索、ラジオ番組から音楽、動画までインターネットで得られる情報はすべて車上で手にすることができるわけだ。さらに操作も音声により可能になっている。
ストリートビュー、駐車場検索、ガソリンスタンド検索や価格順表示なども自在だ。じつは本国仕様などにはティグアンにスマートフォンと接続しなくても常時ネット接続できる通信モジュール装備仕様もあるのだが、日本向けはスマートフォンによる接続方式のみとしている。気になるパケット通信量は、動画のダウンロードなどを多用しない限り1ヶ月の利用で、1GB程度で収まるという。
インスツルメントパネルではセンターコンソール上部のカラーディスプレイ以外に、運転席のメーターパネルもハイライン以上には「アクティブ・インフォディスプレイ」、つまりフルカラー液晶パネルが装備され、メーター類や地図、ナビ情報などが表示される。だからスピードメーターもタコメーターもバーチャル表示なのだ。さらにオプションでヘッドアップディスプレイも装備できるようになっている。
ラゲッジスペースは、ボディの拡大に合わせてボリュームアップされ615Lあり、リヤシートをたためば1655Lと文句なしの容量になっている。
レザーシートに座っての印象は、例によって硬いクッションで座面のサイズ、足元のスペースもたっぷりある。リヤシートも十分な足元スペースがあり、シートのクッションは分厚いが座面は固く、背筋を伸ばして座るといったイメージだ。
しかし面白いことに、走り出すと体はシートバックにきちんと固定され、加減速やコーナリングで体がずれたりしないから不思議だ。
ドライバー支援システムはフル装備で、カメラとミリ波レーダーを組み合わせたセンサーを使用し、ACC、パークアシストから自動ブレーキまで装備され、ハイライン以上にはレーンキープアシスト、渋滞時追従支援システムも組み込まれ、自動操舵機能が付加されるなど、最新のスペックとなっている。
■走り出して
エンジンは1.4L TSIで、気筒休止、アイドリングストップ+減速回生を備えた仕様で、出力は150ps/250Nmだ。車両重量は見た目よりは軽量で、ボディサイズが大きくなっているのに重くなっていない。が、それでも1500kg超えだ。そのため動力性能が気になるところだ。しかし、そうした心配は杞憂で、力強く加速する。またDSGらしく全く滑りのないダイレクト感のある変速もこのクルマの持ち味だ。
低速トルクが強力で、エンジンの滑らかさとレスポンスの良さも加わり、その走りは2.0Lクラスのディーゼルターボ、自然吸気ガソリンエンジンの2.5Lクラスのイメージだ。ドライビング・プロファイル(走行モード選択)で「スポーツ」を選べば文字通り気持ち良いスポーツ・ドライビングも楽しむことができる。その一方でJC08モード燃費は16.3km/Lで、気筒休止システムや減速回生+アイドリングストップの効果で、実用燃費も高いレベルにある。
タイヤサイズはコンフォートラインが215/65R17、試乗したハイラインは235/55R18、Rラインは255/45R19と、外径715mmという大径サイズで、そのため地上高は180mmが確保されている。試乗車はピレリ・スコーピオン・ヴェルデを装着していたが、このごついサイズにもかかわらず、乗り心地は絶妙だ。路面の凹凸に対する当たりの柔らかさが抜群なのだ。
またピッチングやロールを抑えたフラット感のある乗り心地も絶妙でドライバーだけでなく、すべての乗員が疲れにくいはずだ。
操舵フィーリングは俊敏ではないが、ステアリングの切り始めは軽く穏やかで、車速が上がり、切り込む量が増えるとリニアに手応えがじわっと伝わってくる。この操舵フィーリングはこれこそベンチマークと言える仕上がりで、大柄で、着座位置の高いSUVに乗っているにもかかわらず、ロードホールディングの良いセダンに乗っているような錯覚を感じたほどだった。
新型ティグアンのクルマとしての作り込み、仕上げの良さは事前の予想をはるかに上回っていた。今回発売されたFFの3グレードは販売面ではメインモデルとなることは言うまでもないが、やはり4WDモデルにはもっと大きな期待を持ってしまう。