マニアック評価vol604
2018年7月3日から「ポロGTI」の発売が開始された。新型ポロは3月に発売が開始されたばかりで、GTIモデルの導入は異例と言えるほど早い。そのポロGTIに早速試乗してみた。<レポート:松本晴比古/Haruhiko Matsumoto>
■ついに2.0Lエンジンで200psの大台に
新型ポロGTIのベースはもちろんフルモデルチェンジしたばかりの新型ポロだ。従来型の6R型ポロは前期型が1.4Lのスーパーチャージャー+ターボ・エンジン、後期型は1.8Lターボで192ps/320Nmを発生するTSIエンジンを搭載していたが、新型ポロGTIは2.0LのCZP(EA888)型エンジンを新たに採用している。
その結果、エンジン出力は200ps/320Nmとついに200psの大台に到達した。しかし、この2.0L TSIエンジンは高出力型のエンジンではなく、環境性能にも配慮した新世代エンジンなのが興味深い。このエンジンは超ロングストロークに加え、可変バルブタイミング、可変リフト、デュアル・インジェクター、ミラーサイクルなど現在の最新技術を総動員しており、パワー追求だけではないのだ。
ポロGTIは、この200psのエンジンだけではなく、3種類の表示パターンを選べる液晶式プログラマブル・メーターの「アクティブ・インフォディスプレイ」、Qi規格のスマートフォンワイヤレス充電機能を「テクノロジーパッケージ」として選択できるようになっているなど装備面での進化も注目点だ。
また歩行者検知機能付きの自動緊急ブレーキやアダプティブ・クルーズコントロールが標準装備化され、さらに駐車支援システム「パーク アシスト」、「パーク ディスタンス コントロール」、「リヤトラフィックアラート」などの運転支援システムが「セーフティパッケージ」として選択できる。
さらに、インフォテイメントはスマートフォンと連携でき、ドライブに役立つフォルクスワーゲンの専用アプリも使用できる。試乗車のように、これらをフル装備すると、上級のゴルフGTIと同等となり、ポロGTIはスポーツモデルというだけではなく、Bセグメントという概念を超えたフル装備モデルでもあるわけだ。
■エクステリアは控えめだがインテリアは新鮮
エクステリアは、専用デザインのバンパーを採用し、ラジエーターグリルの中央を走る赤いストライプで、このモデルがGTIであることがわかる。ヘッドライトもラジエーターグリルの赤いストライプとつながる赤いウイング形状によってGTIらしさを演出。
タイヤ/ホイールは17インチサイズで、リヤのデュアル・エキゾーストパイプといった点もGTI専用デザインだが、ゴルフGTIのような派手な演出ではなく控えめな印象で、これくらいが望ましいと思う。
しかし、クルマに乗り込むと。ダッシュパネルのベルベットレッドに驚かされる。ダッシュパネル上部はブラック仕上げで、室内を見回すとブラック、レッド、グレーの配色であることがわかる。だが、やはりダッシュパネル全面のベルベットレッドは斬新で印象的だ。
シート生地はもちろんチェック柄で、セミバケット風のスポーツシートだ。シートの座り心地は硬すぎず、窮屈すぎず、スポーティさと実用性を両立させており、どんなシーンにもフィットする優れたデザインだ。
ステアリングホイールもDシェイプの本皮巻きスポーツステアリングで、握り心地、操作のしやすさなどはベースのポロよりも優れている。
操作スイッチも改良され、センターコンソール上のドライビング・プロファイルモードの切り替えスイッチが、右ハンドルに対応した配置になり、運転中でもドライバーが簡単に切り替えができるようになっている。
モードはノーマル、スポーツ、エコ、インディビジュアル(個別設定)の4モードだ。もちろんこのモードに連動して、ステアリングの操舵力やエンジンのトルク、レスポンス、変速タイミングに加えアクティブ・ダンパーの減衰力設定も変更されるようになっている。このクラスで、可変制御のアプティブ・ダンパーが装備されるのも特筆モノといえる。
■クラスを超えた走り
アクセルを軽く踏み込むだけで加速は力強い。1500rpmから320Nmを発生する低中速トルク型のエンジンのため、普通の市街地のドライブなら回転を上げる必要もない。もちろん強く踏み込めば、圧倒的な加速力が得られるが、エンジンの回転も滑らかで振動感が抑えられているので、メーターに表示されるスピードより体感車速はかなり低く感じられる。
気持ち良い加速にプラスする調味料として、エンジン回転が3000rpmを超えたあたりから排気音がスポーティで力強いサウンドに変化する。その音色はゴルフGTIほど強くなく、控えめといえる。
トランスミッションは大トルクに対応する湿式6速DSGで、変速も素早くショックも全く感じられない。もちろんスポーツモードでは、より高い回転までエンジンを引っ張り、減速時には的確に自動シフトダウンしてくれる。DSGならではのダイレクト感と、アップシフト、ダウンシフトの素早さは気持ち良い。公式データでは最高速235km/h、0-100km/h加速は6.7秒。JC08モード燃費は16.1km/Lだ。
シャシーのできもひとクラス上という感じだ。17インチサイズのタイヤを装着しているが、乗り心地もしまったフィーリングで、かなり荒れた舗装路面でも角の丸い、減衰感の強い乗り心地だ。
もちろんドライビングプリファイル機能を使ってスポーツ・モードに切り替えると、ステアリングの保舵力も重めになり、エンジンのレスポンスが高まり、ダンパーもより固めになる。ワインディングを気持ちよく走るシーンなどにマッチするが、ノーマルモードでストローク感のあるサスペンションでの走りでも十分スポーティだ。
さらに電子制御LSDのXDSも標準装備で、きついカーブでもフロント・ホイールが逃げる兆候もなく、トラクションがしっかり確保される。
ボディ全体はもちろん、ステアリング系の剛性感の高さや正確さなど走りの質感、可変アクティブ・ダンパーやXDSの装備など、走りを支えるシャシーもクラスの常識を超えている。
このポロGTIも富士スピードウェイのショートサーキットで試乗することができた。ポロGTIは6速DSGなので、Dモードでもパドルを使ったマニュアルモードでも楽しく走れる。シフトダウンのタイミングが早すぎてもオーバーレブさせる心配がないので、雑になってしまいそうなので丁寧にドライブする。エンジンの音はそれほど勇ましいものではなく、GTIといっても強烈なインパクトはない。
感心したのは「スポーツESC」の介入だ。スピンなどを防ぐための姿勢コントロールは、スポーツESCというモードがあり、制御介入が遅めで、テクニックがあれば自在にコントロールできるだろう。リヤをやや滑らせることまで可能で、そこから姿勢が乱れてしまうと、グリップ方向に制御されるものの、意に反するようなESCの介入を感じないまま走ることができる。
そして縁石を乗り上げたりしたときに特に感じる、ボディ剛性の高さとシャシー剛性のしっかり感は秀逸だ。特にステアリングは暴れることなく、保舵しやすく、そこからアクセルを踏み込んでもしっかりとしたグリップ感が伝わってくるので、安心して走れる。こうした全体のしっかり感が安心へとつながっていることを実感する。
面白かったのは、ポロGTIには純正装着されるタイヤがコンチネンタル「コンチ・スポーツ・コンタクト5」とミシュラン「プライマシー3」の両ブランドがあり、乗り比べができたことだ。特性に大きな違いはもちろんないが、横剛性の高さはコンチネンタルのほうがやや高く感じ、そして滑り出しがバッとでてくる。ミシュランは常に安定したしなやかさを持ちながら、滑り出しも穏やかに動くので、ドライバーには分かりやすいという違いがあったが、サーキットのような場所を連続的に走行した場合のみ、感じられる違いだ。
現在では、ゴルフGTIは装備や価格などで、もはやDセグメントのスポーティモデルの領域に入っており、フル装備が標準のゴルフGTIは装備面でオプション設定が多いDセグメント・モデルに十分太刀打ちできるポジションにある。したがって、フォルクスワーゲンのコンパクトな高性能スポーツモデルという役割はこのポロGTIが担っているわけだ。
ポロGTIは実際、TCRレース、ラリークロスなどの競技では、ベースモデルがすべてポロGTIだ。また市販状態のポロGTIは通常はフロントに置かれているバッテリーがリヤのラゲッジスペース床下に搭載されているなど、スポーツモデルとしての資質は随一だと感じられた。