フォルクスワーゲン グループ ジャパンは、2018年2月にパサートのセダン/ヴァリアントの追加モデルとしてディーゼルターボのパサート TDI」を発売した。現行の8代目パサートは、ヨーロッパでは2014年11月に発売され、日本には2015年7月から導入されている。もちろんヨーロッパでは発売時からディーゼル・モデルも設定されていたが、日本には約3年遅れでの導入となり、試乗をしてきた。<レポート:松本晴比古/Haruhiko Matsumoto>
■フォルクスワーゲンのディーゼル不正事件の影響
フォルクスワーゲン グループ ジャパンは、2015年内にはディーゼル・エンジンの導入を計画していたが、2015年秋にアメリカにおける排気ガス処理のディフィート・デバイス(不正システム)事件が発覚し、その後はヨーロッパにもこの事件が拡大したため、延期せざるを得なかった。フォルクスワーゲン本社は、日本の「ポスト新長期」ディーゼル規制に適合確認するどころではなく、アメリカ、ヨーロッパにおける膨大な数のエンジンのリコールを最優先に対応せざるを得なかったのだ。
この事件は、第2世代のTDIディーゼル「EA189」型で引き起こされた。日本未導入のEA189型はもともとユーロ5規制の時代に登場したディーゼルエンジンで、これをユーロ6規制や、ユーロ6規制より遥かに厳しいアメリカのディーゼル排ガス規制「Tier2 Bin5」に適合させるために、規制適合テストの時だけ適正に排ガス処理システムを作動させる違法なECU制御プログラム(ディフィート・デバイス)を搭載していたのだ。
現行のパサートはMQBプラットフォームを採用し、それに合わせてエンジンは一新されている。MQB用に開発されたTDIディーゼルは「EA288」型シリーズと呼ばれ、問題となった「EA189 」型シリーズの後継エンジンで、リコール対象外のエンジンで、新世代のクリーン・ディーゼルだ。
その特徴は最新のユーロ6の排ガス規制はもちろん、より厳しい日本の「ポスト新長期」排ガス規制、アメリカのディーゼル排ガス規制「Tier2 Bin5」に適合し、さらに近年注目されているRDE(実走行での排ガス)テストをも意識して開発されている。
日本には違法ECUプログラム事件、大規模リコールの影響をまともに受けて、「EA288」は3年近く導入が遅れたわけだが、その間に国産車のマツダ以外に、輸入車ではクリーン・ディーゼルエンジン搭載車は全販売台数の20%以上に達するシェアを占めるようになるなど急成長を遂げている。特にC〜DセグメントのSUVモデルは販売台数の大半が、モデルによっては70%がクリーン・ディーゼル車になっているなど、輸入車購買層を中心にクリーン・ディーゼルは大人気なのだ。
そういう意味で、今回のパサート TDIは出遅れではあるが、この輸入車のディーゼル比率拡大の流れに乗ろうという狙いがある。
■EA288型 TDIエンジンの特長
EA288型ディーゼルエンジンは、排気量は1.6L〜2.0Lをカバーする最新のモジュラー設計を採用し、ガソリンエンジンとも共有するエンジンとなっている。パサートはヨーロッパでは1.6L TDI、2.0L TDIがラインアップされ、2.0L TDIは150ps、190ps、240psの3仕様がある。日本に導入されるのは190ps/400Nmの仕様だ。
このエンジンは、吸気マニホールド一体型インタークーラー、バランサーシャフト装備、高低2系統EGR、可変ジオメトリーターボ、尿素還元(SCR)式の排ガス処理システムを備えている。
NOxの発生を抑制するEGRは、ターボより上流、つまりエキゾースト・マニホールドから排気ガスを取り出す高圧EGR系と、ターボ下流から排気ガスを取り出す低圧EGR系を運転状態に合わせて使用するシステムだ。
具体的には冷間始動時で低負荷の場合は触媒を早期に活性化させるために高圧EGRを使用し、温間・低負荷の場合は高圧+低圧EGRの両方を使った大量EGR運転となり、温間・高負荷時には低圧EGRのみを使用する。
また、より正確に燃焼をコントロールするため筒内圧力センサーを使用し、燃料噴射をフィードバック制御するシステムを採用している。
排ガス処理システムは、酸化触媒、DPF(黒鉛煤除去フィルター)に加え尿素水(アドブルー)噴射によるSCR(尿素還元触媒)システムを採用している。従来タイプは、エンジン直下の酸化触媒+DPFの後方にSCR触媒を配置して尿素を噴射するシステムが主流だったが、このエンジンはDPFとSCR触媒を一体化させ、DPF内で尿素還元を行なうようになっており、きわめてコンパクトにまとめられている。
EA288型エンジンの特長は、2系統のEGRを使用して燃焼温度を下げ、NOxの発生量を抑え、さらにアドブルー噴射によりNOxを窒素と水に無害化するシステムになっていることだ。
この結果、モード計測での低排ガスというだけではなく、ドイツ(テスト実施はADAC:ドイツ自動車連盟)におけるRDEテスト(実走行での排気ガス排出テスト)でも各メーカーのディーゼルエンジンの中で最も良好な排ガスレベルを実現している。
■試乗インプレッション
今回試乗したのは、セダンのパサート TDI ハイラインだった。当然ながらフル装備モデルで、オプションのテクノロジーパッケージも装備されていた。パサートの2.0Lのガソリンエンジン車「2.0 TSI R-Line」と比べると、TDIの車両重量は50kg重い。
価格面では、2.0 TDI ハイラインは、1.4 TSI ハイラインより35万円高く、2.0 TSI R-Lineより20万円安いというポジションにある。だが実際には「クリーンエネルギー車補助金」、地方自治体のクリーンディーゼル免税などを受けることができるという特典はある。
TDIは、ボディ全体を見回しても「TDI」、あるいはディーゼルを示すエンブレムなどは全くなく、ガソリン・モデルとの識別は困難だが、エンジンがかっていれば車外からはディーゼルらしいアイドリング音が聞こえる。
しかし、一旦走り出してしまえば、滑らかな回転フィーリング、静粛な室内のため、ディーゼルであることがわかるのは、よほど敏感な人でないとわからないはずだ。最新のクリーンディーゼルはどのメーカーのエンジンも滑らかな回転フィーリングで、振動も抑え込まれているが、このTDIのEA288の滑らかさはトップレベルだ。
むろん、エンジン騒音や振動はエンジン本体だけでなく車両側でのチューニングも重要だが、その点でもパサートは抜かりがないといえる。
このEA288は、圧縮比15.5で、最高出力190ps/3500-4000rpm、最大トルク400Nm/1900-3300rpmで、パワー、トルクの数値は例えばボルボのD4エンジン、BMWのB47D20A型など2.0Lディーゼルとまったく同じだ。メルセデスの2.0L 4気筒ディーゼルは194ps/400Nm、ジャガーのインジニウム・ディーゼルは180ps/430Nmだが、出力性能的にはいずれも同等と見てよいだろう。
つまり、最新の2.0L 4気筒ディーゼルは、どのメーカーのパフォーマンスも同一レベルで横一線なのだ。だから、違いはエンジンの滑らかさや、振動感、走行中のキャビンの静粛性で、そういう意味でパサート TDIはかなりよいレベルにある。
いうまでもなく、分厚いトルクによる強力な加速感、巡航時の低い回転のエンジンから生まれる余裕はディーゼルならではだ。6速の湿式DCTと組み合わされており、発進時などもトルコンATに遜色ないフィーリングだ。
100km/h巡航の時のエンジン回転数は1700rpmほどで、この点は他車のステップATの8速、9速に比べ少し回転数が高めだが、2019年モデルでは7速の湿式DCTにアップグレードされるのだろう。
オールインセーフティと呼ばれるドライバー支援システムや、安全システム、充実したインフォテイメントなどを備え、さらにDセグメントのFFとあって、室内スペース、特にリヤ席の居住スペースの広さや、586Lという大きな容量を持つトランクなど、同クラスのFRモデルより、スペースの面では優位に立っているといえる。
このパサート TDIのJC08モード燃費は20.6km/Lで、1回の満タンで1000km近くは走行できるのでロングドライブの機会が多い人や、年間走行距離の多い人にとっては打って付けのクルマといえるだろう。