フォルクスワーゲン・ゴルフの上の車格となるパサート&パサートヴァリアントが2015年7月16日にデビューした。フォルクスワーゲンが進めるMQB戦略の第2弾として新型パサートは、質感、使い勝手、出力、そして価格も戦略的に登場した。<レポート:髙橋 明/Akira Takahashi>
今回で8代目となったパサートは、1974年デビューし、ミッドサイズのセダン、ステーションワゴンとして愛されてきたモデルだ。ラインアップは、セダン、ヴァリアントともにトレンドライン、コンフォートライン、ハイラインの2モデル3グレード展開となる。これ以外にR-Lineも上級&スポーツモデルのポジションでそれぞれのモデルに加わる。
今回パサートに初めてトレンドラインを設定し、ゴルフ ハイラインよりも安い価格設定をしつつも、ゴルフを超える充実の安全装備を持つという戦略に打って出た。間違いなくお買い得なのだ。価格は、セダンが329万円から414万円、ヴァリアントは348万9900円から433万9900円で、R-Lineはそれぞれ460万9800円、480万9700円となっている(すべて税込)。ボディカラーは全9色でハーバードブルーメタリックとクリムゾンレッドメタリックの2色が新色として加わっている。
プラットフォームはゴルフ7と同様でフォルクスワーゲンが進める効率化手法MQBで造られ、エクステリア、インテリア、パワートレーンも一新されている。先代モデルの7代目の国内導入が2011年5月だったので、わずか4年でフルモデルチェンジしたことになる。
ボディサイズは先代に対し-10mmの4775mm、×全幅+10mmの1830mm、全高は-20mmから-45mmで1465mmから1510mmとわずかに全長が短く、全高が下がっている。サイズ的にはDセグメントのど真ん中だ。そして何よりもホイールベースは+80mmの2790mmとなり、そのサイズアップにより大室内空間や収納容量が増えている。もともとトランク容量の大きいパサートだが、トランクは+21Lの586Lでちょっとしたステーションワゴンと同等のトランク容量。ヴァリアントは+47Lの650Lでシートを倒せば最大1780Lと大容量だ。
エクステリアデザインは「彫刻を意識した」というように、サイドには特徴的な目立つラインがある。フロントは水平基調のデザインがより明確化し、ワイド&ローが強調されている。全体のフォルムとして先代よりも薄くなり、特に、リヤまわりが丸みを帯びた印象だったものが、流れるようなクーペ風のルックスとなり、洗練されている。また、コンフォートライン以上のグレードにLEDライトを装備し、夜間でも特徴的な表情を見せる。リヤデザインも同様に水平基調で、全グレードにLEDのテールランプが装備される。ちなみに、空気抵抗はセダンが先代の0.291から0.277へ向上。ヴァリアントも0.298から0.280へと良くなっている。
インテリアも水平基調とし、上質な印象でドライバーズシートに座った時に、目に飛び込む目の前のバーが室内幅いっぱいに広がり、広々とした印象を受ける。フォルクスワーゲンというと、インテリアはそっけない印象だが、今回のパサートでは品質や雰囲気も意識した上質な印象となる。それでもシンプルなデザインの室内であることには変わりはないが。
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8代目のパサート最大の特徴とでも言えるのが安全装備の充実だ。全車にさまざまな安全システムが標準装備されている。例えば渋滞時追従支援システムの「トラフィックアシスト」でアクセル、ブレーキ、ハンドルを自動制御。フォルクスワーゲン初搭載となる歩行者検知対応エマージェンシーブレーキ機能付き「プリクラッシュブレーキシステム」でレーダーとカメラの連携で前車、歩行者を検知する、など、装備一覧を他車と比較してみても圧倒的に充実していることが分かる。
そして地味な変更だがパワートレーンも変更している。先代と同様の1.4LTSI+7速DSGだが、新世代エンジンに変更され、アルミ鍛造クランクケース、シリンダーヘッド一体型吸排気マニホールド、そしてACTアクティブ・シリンダーコントロール、つまり気筒休止機能を持ち、排気量が1389ccから1394ccへアップ。出力は122psから150psへ、トルクは200Nmから250Nmへとそれぞれアップし、車両重量はMQBにより1460kgから1430kgへと軽くなっている。
その結果JC08モードは17.6km/Lから20.4km/Lへ向上し、パワーウエイトレシオも11.7ps/kgから9.73ps/kg、トルクレシオで70.1kgmから57.3kgmとそれぞれ向上している。
■試乗インプレッション
こうした変更を伴ったフルモデルチェンジのパサートで、ハイラインのセダン、R-Lineのヴァリアントに試乗できた。装着するタイヤサイズはそれぞれ215/55-17でコンチネンタルのプレミアムコンタクトとミシュラン・パイロットスーパースポーツの235/40-19サイズだった。ともにランフラットではなく、通常のエアタイヤだ。そしてサスペンションも変更なく同じものを採用している。
ゴルフ7でも驚かされたが、乗り心地の良さとしっとりとした印象の乗り味がパサートにもあり、Dセグメントのドイツプレミアム御三家との違いを明確に説明するのが難しくなってきている。もはや先入観の価値観でしかその区別は難しいかもしれない。それほど、静粛性、乗り心地、質感は高く量販クラスという概念を大きく変えている。
唯一、それほどの高級感があるものの、ドライビングポジションがゴルフと同じようにアップライトに感じる部分がある。ここがプレミアムモデルとの違いと言えるのかもしれない。当たり前だが、ゴルフと同じプラットフォームであるから、同じように感じるのだ。
走行は一般道、高速道路を使った千葉県・富津エリアだったが、フォルクスワーゲンらしいステアリングのセンターの座りが強く、真っ直ぐに走ることが自然とドライバーに伝わる。ロードノイズ、風切り音も静かで、しっとりとした乗り味、アクティブ、パッシブ両セーフティ機能を満載し、デザインもシンプルでスマートな印象になってきた。そして300万円台が中心という価格も魅力的で、これまでパサートは今一つゴルフの陰に隠れていた印象だったが、このクルマを見逃す手はないと思った。