2014年11月19日、フォルクスワーゲンは、ロサンゼルス モーターショーで燃料電池を搭載したFCV研究車、「ゴルフ スポーツワゴン ハイモーション」を世界初公開した。ハイモーションとは、水素(Hydrogen)とMotionの合成語だ。
未来の動力源である燃料電池車(FCV)は、水素と酸素を化学反応させることで発電し、最終的には水を排出するという「燃焼を行なわない」プロセスにより電気モーターを駆動し、ゼロエミッションによる走行ができるという特徴がある。FF駆動方式の「ゴルフ ハイモーション」は動力性能も高く、0-100km/h加速は10秒だという。
燃料となる高圧水素は、カーボンファイバー製のタンクに貯蔵されている。4個に分けられた水素タンクは、スペース効率を考慮して、ボディ下部に配置。3分間で完了する水素充填による走行可能距離は約500km だという。
ゴルフ ハイモーションの主な駆動コンポーネントは、ドイツ本社のグループ研究部門で開発された。出力100kW(トヨタ・ミライは114kW)の燃料電池システムは、フォルクスワーゲン電気駆動テクノロジーセンターで開発されたものだ。また、このコンセプトカーには大容量のリチウムイオンバッテリーを搭載。このバッテリーは、回生ブレーキから得られた運動エネルギーを蓄え、燃料電池の始動を補助し、フル加速時のブースティング用に用いられる。駆動用モーターは「e-ゴルフ」に採用されたシステムと共通だ。大容量のリチウムイオンバッテリーを搭載していることがトヨタ・ミライとの違いで、減速エネルギー回生も重視していることがわかる。
このFCVの基本設計、コンポーネンツ・レイアウトは、フォルクスワーゲンが開発しグループ全体で共有しているモジュラートランスバースマトリックス(MQB)をベースにしている。このMQBを使用することでゴルフ・ハッチバックとゴルフ ヴァリアントは、現在、利用できるすべての駆動方式を採用できるようになっているのだ。言い換えればもともとMQBはFCVシステムの搭載も織り込み済みなのである。現在のゴルフは、ガソリンエンジン(TSI)、とディーゼルエンジン(TDI)、天然ガス(TGI、電気駆動(e-ゴルフ)、そして、プラグインハイブリッド(ゴルフGTE)があり、すでに市販されている。
これほど多くの異なる駆動システムを提供しているのはゴルフのみだ。フォルクスワーゲンは、この「ゴルフ ハイモーション」により、燃料電池車もMQB をベースに実現できることを改めて証明したが、市販するためには研究開発をすべて完了し、一般の消費者が購入可能な価格帯となること、そして何よりも水素インフラの整備が必須と考えている。それは、水素燃料ステーションの広範囲なネットワークの構築だけでなく、水素そのものの生産も課題となっている。水素の生産に用いられるエネルギーが再生可能なものであって初めて、水素が駆動エネルギー源としての意義を持つようになるとフォルクスワーゲンは主張している。
フォルクスワーゲンは量産モデルに代替駆動パワートレインを採用する戦略を推進している。すでに電気自動車のe-ゴルフやプラグインハイブリッドのゴルフGTEで現実のものになっており、今後の燃料電池車も日常生活で実用的に使用でき、魅力的な価格の量産車として生産されるとしている。
実はフォルクスワーゲンは2010年頃からFCVの技術開発を加速しており、これまでにトゥーランFCVも製作している。またアメリカでは米国製のパサート、アウディA7をベースに、ゴルフ ハイモーションと同じ駆動コンポーネントを用いた何台かの研究車両を製作し、現在、カリフォルニアの公道で実証テストを行っているのだ。つまり、フォルクスワーゲン・グループはFCVに関して技術的には準備完了状態にあるが、製造価格と水素の社会的なインフラの整備を重視しており、市販モデルの投入はもう少し先を想定しているのである。