フォルクスワーゲンのフラッグシップ「アルテオン」は2017年3月のジュネーブショーでベールを脱いだ。フォルクスワーゲンは2016年にハイエンドのエグゼクティブカーの「フェートン」と、アッパーミディアムクラスの「CC」の生産を停止し、「アルテオン」はグローバル市場をターゲットにした新しいフラッグシップとして登場した。
2016年にアルテオンの存在が明らかになった時、「CC」の後継モデルと噂されたが、ベールを脱いだアルテオンは「CC」よりさらに上級市場のプレミアムDセグメントをターゲットにしていることが明らかになった。
アルテオンはヨーロッパでは2017年6月から発売され、日本では東京モーターショーでお披露目され、10月25日から発売を開始した。メインマーケットは、アメリカ、中国であることはいうまでもない。アルテオンという車名はArtとeonを組み合わせた造語で、中国市場でのこれまでの専用トップモデル「Phideon(フィディオン)」に連なる車名だ。縦置きエンジンで全長5mを超えるフルサイズのフィディオンに次ぐポジションで、よりスポーティというキャラクターが与えられている。
■コンセプトとデザイン
アルテオンのコンセプトは、伝統的な流麗なスポーツカー的要素を盛り込んだデザインと、5ドア・ボディのファストバックのエレガントなスタイル、広い空間を融合させたアバンギャルドなグランドツーリングカーとされる。
人々の感性と理性の両方に訴えかける、これまでにないビジネスマンのためのDセグメントカーを意味するのだ。
鍛えられたアスリートのようなボディラインは、美しいフォルムと機能が巧みに融合されている。伝統的なサルーンではなく、グランドツーリングカーにふさわしくロングホイールベース、クーペのようなファストバックデザイン、ライバルにはない大型リヤハッチによって、サルーンを上回る居住スペースを実現。
また新たなデザインが採用されたフロントマスクは、フォルクスワーゲンとしては異例な幅広のラジエーターグリルで、標準装備のLEDヘッドライトとデイタイムランニングライト、ラジエーターグリルとボンネットのクロームメッキのクロスバーの組み合わせにより、高性能スポーツカー的な表情を備えている。
ボンネットは歩行者保護用のアクティブ・ボンネットで、クラムシェル型になっており、左右のホイールアーチの上まで覆う形になり、力強いフェンダーアーチの形状を強調している。
このボンネットとフェンダーの間のラインは、ボディ全周に回り込んでおり、低くスポーティなスタンスとなっている。
インテリアは、クリーンで端正な水平基調のラインで構成されているが、その仕上げはDセグメントにふさわしい質感を実現。ピアノブラックのセンターコンソール、アルミ材の加飾パネルを備え、シートトリムにはカーボンパターンを用いたナパレザーを採用している。
またメーターパネル部はデジタルメータークラスターの「アクティブインフォディスプレイ」、ヘッドアップディスプレイ(R-Line 4MOTION Advanceに標準)などハイテク装備が充実。最新世代のインフォテイメントシステムには、タブレットのようなガラス面を採用し、従来型のアナログ式ボタンを全く使わずに9.2インチのタッチスクリーンで操作することができる。
■ボディとパッケージング
アルテオンは、MQBプラットフォームをベースにし、熱間プレス鋼、超高張力鋼を多用し、高張力鋼板以上の採用比率76%という高剛性ボディと組み合わせている。横置きエンジンをより前方に配置したレイアウトにより、ロングホイールベースのボディ骨格を形成。
ボディサイズは、全長4865mm、全幅1875mm、全高1435mm、ホイールベース2835mmで、メルセデス・ベンツCクラスよりやや全長、全幅ともに上回り、全高やホイールベースはほぼ同等、BMW 3シリーズより全体に一回り大きいサイズだ。
パッケージは、大人5人がゆったり座ることができ、特にリヤシートの足元スペースはひとクラス上と同等レベルの余裕を生み出している。ラゲッジスペースはフル乗車で563L、リヤシートを倒すと1557Lと、圧倒的な容量を備えている。
もちろん、リヤに電動式のハッチバックゲートを備えているのも同クラスの他車にはない特長で、セダンを上回る多用途性を持っている。
■エンジン、トランスミッション
アルテオンに搭載されているエンジンは、ガソリンが1.5L TSI、2.0 TSIの190ps仕様、280ps仕様、ディーゼルが2.0 TDIの150ps仕様、190ps仕様、230ps仕様がラインアップされているが、日本向けは2.0 TSIの280ps仕様のみだ。このエンジンは、ボア×ストロークは82.5×92.8mmのロングストローク・タイプで、ポート噴射/直噴併用のデュアル・インジェクションを装備し、圧縮比は9.3だ。
ガソリン2.0 TSIの190ps仕様はミラーサイクル運転だが、280psのエンジンは高出力版で、最大トルクは350Nm/1700-5600rpmを発生する。
トランスミッションはゴルフRで初採用された高トルク容量の湿式7速DSGを搭載する。また、アルテオンはFFモデルも存在するが、日本向けは4WD(4モーション)仕様のみだ。4モーションは、第5世代のハルデックスカップリングを採用している。
このハルデックス4WDシステムは、アクセル開度だけでなく、車輪速やステアリングアングルなどのパラメーターをセンシングし、理想的な前後駆動トルクを計算し、瞬時にして前後輪へトルク配分する。
例えば、発進加速時には、後輪へのトルク配分を増加させ、低負荷走行時には前輪だけにトルクを配分して燃料消費を抑えるなど、状況に応じて前輪、後輪のトルク配分を連続的に変化させる。前輪・後輪のトルク配分は、100:0から50:50まで可変配分できるようになっている。
■安全装備、運転支援システム
アルテオンは、オール・インセーフティを装備し、歩行者検知対応の自動緊急ブレーキ「Front Assist」、車線の逸脱の警報、ステアリング操作も支援する「Lane Assist」、レベル2のアダプティブクルーズを実現する「Traffic Assist」をフル装備している。
また衝突安全ではアクティブ・ボンネット、より進化したプロアクティブ・オキュパント・プロテクションも標準装備となっている。プロアクティブ・オキュパント・プロテクションはオーバーステアやアンダーステアによって発生しうる事故の可能性を検出すると、即座にシートベルトのテンションを高め、ウインドウを閉じ、万が一事故が起きた際に、各エアバッグが最大限の効力を発揮できるよう備えるシステムだ。また、新たに前後に設置されたセンサーの信号を常時監視し、前方への衝突、後方からの追突の危険性を検知した場合にも反応するように進化している。
アルテオンは、フォルクスワーゲンとして日本初採用となるデイタイムランニングライトを装備している。ライトをオフにしていても自動で点灯し、歩行者や対向車へ存在をアピールする。さらにR-Line 4MOTION Advanceグレードは、オールウェザーライトを装備している。
これは雨天、霧、降雪などの悪天候時に、ロービームと同時にフロント左右のコーナリングライトも点灯させ、近距離の照射範囲を広げ、視界を向上させる。
日本市場のアルテオンは、シリーズの中でも最も高性能でスポーティな仕様の「R-Line 4MOTION」のみが導入され、グレードとしては標準のR-Line 4MOTIONと、フル装備仕様のR-Line 4MOTION advaceの2グレード構成となっている。
アルテオンは、フォルクスワーゲンのフラッグシップであり、同グループ内のアウディA5、A6とサイズ比較ともいえるが、よりコストバリューの高いアルテオンは、興味深い存在である。