マニアック評価vol563
フォルクスワーゲンのフラッグシップモデル「アルテオン」に試乗してきた。2018東京モーターショーでジャパンプレミアをしたアルテオンのキャッチコピーは「フォルクスワーゲンのいいところ全部」だ。VWのベストなものを凝縮しているフラッグシップというモデルだ。<レポート:高橋明/Akira Takahashi>
最初に目を惹くのは、デザインだろう。低くワイドに構えたデザインで、フロントフェイスを左右に走るラインが厚みを消して精悍な顔立ちにしている。そして、この全体のシルエットもクーペライクなルーフラインを持ち、またリヤフェンダーの膨らみも力強さが伝わってくる。
クーペライクなセダンだと眺めていると、なんと!セダンではなく5ドアハッチなのだ。ある意味ステレオタイプな思考をいい意味で裏切られ刺激される。
試乗車はR-Line 4Motion Advanceで20インチサイズのタイヤを装着する。ホイールはブラックアウトされ、かなりワイルドな印象で、フォルクスワーゲンの優等生的マジメさにプラスして、リーダーシップを感じさせる迫力も備わっている。
■ポジショニング
フォルクスワーゲンは言うまでもなく、国民車構想から誕生したブランドで、プレミアムモデルを量産しているわけではない。VWの上位にはアウディがあるわけで、その棲み分けはしっかりある。だが、このアルテオンの仕上がり具合をみれば、アウディA5、A6と比べてみたくもなるのだ。試乗車はオプションの電動パノラマスライディングルーフを装備し、有償のボディカラーを加算しても599万円(税込み)。そこにはフォルクスワーゲンの全部いいとこ取りをしているということも忘れてはいけない。
最新の運転支援システム、安全装備、快適装備が搭載されての価格だけに、メルセデスベンツCクラスやBMWの3シリーズ、あるいはサイズ的にEクラス、5シリーズ、アウディA5、A6などと比較することになるだろう。
新型アルテオンは、このスポーティなデザインを武器に、走行性能、先進機能、快適性を備えたグランドツーリングカーというポジションで、高速移動も得意とするフォルクスワーゲンのフラッグシップというわけだ。
ボディサイズは全長4865mm、全幅1875mm、全高1435mm、そしてホイールベースは2835mmでDセグメントサイズになる。国内導入はアルテオンのハイエンドモデル「R-Line 4Motion」のみでAdvanceか否かの選択になる。搭載するエンジンはゴルフRをベースにした2.0LガソリンターボのTSIで350Nm/280psという出力。これに湿式の7速DSGが組み合わされている。また、いずれも4WDで第5世代のハルデックスカップリングを搭載している。
■インテリア
クーペライクなエクステリアからはちょっと想像できないインテリアの広さがあり、5人乗車や後席のスペースも十分ある。そしてハッチバックを開けたときの荷室容量もたっぷりだ。リヤシートを通常の状態でも563Lもの容量を確保し、シートを倒せば1557Lという大容量になる。このあたりの拘りはVWならではなのだろう。
室内はドイツ車に共通する硬質な感じで、黒とシルバーとポイントに赤や青、白といった色使いがスタンダード。アルテオンも同様に、レザーやシルバー、ピアノブラックなどを使った意匠になっている。
メーターはフルデジタルで、地図表示もできる。ナビゲーションはジャスチャーコントロールに対応する最新のシステムが装備され、ヘッドアップディスプレイも搭載している。
■試乗インプレッション
20インチという大径サイズのタイヤとは思えない乗り心地の良さがファーストインプレッションだ。そしてシートポジションからもフォルクスワーゲンらしさを感じる。VWを代表するポロやゴルフと比べれば、明らかにヒップポイントは低く、アップライトなポジションが主流なVWとしては、極めて低めのポジションだ。だが、他のDセグメントと比較すれば、標準的かもしれない。
コンフォートモードで走行しているときは、エンジン音はほとんど聞こえず、またロードノイズも小さく静かな車室内だ。ステアリングはフォルクスワーゲンらしく、センターの座りがしっかりとあり、直進性の高さをドライバーに伝え安心感を与える。切りはじめが少し重いのもVWらしさで、切り込んでいくときの滑らかさもある。
スポーツモードにするとエンジン、シフトタイミングの制御が変わり、高回転側までエンジンを回せる。とは言ってもダウンサイジングコンセプトなので、6500pmがレッドゾーンになっている。そしてこの時は、エンジンサウンドも変化し、聞きなれたGTIエンジンのサウンドのようになる。そして減衰が可変式のダンパーを搭載していて、スポーツモードを選択するとかなり引き締まった印象に変わる。
後席はリヤのタイヤハウジングのでっぱりが小さいので、乗り込みしやすい。クーペライクなシルエットに拘り過ぎると、実際の乗り込みがしにくいというモデルはままある。が、このあたりの作りもVWらしさと言えるだろう。ただ、フロント座席と比較すれば、タイヤのロードノイズが入り込んでいる。これはハッチバックというボディ形状が影響しているのかもしれない。
ちなみにJC08モード燃費は13.3km/Lというデータ。コスパと言っては失礼かもしれないが、これだけの装備、品質、ユーティリティ、サイズを備えたモデルで600万円を切っている価格はかなり戦略的だという印象だ。