フォルクスワーゲン e-up! 試乗記 走りが楽しめる熟成された電気自動車 レポート:松本晴比古

マニアック評価vol307
フォルクスワーゲン e-up! 試乗

2014年10月にフォルクスワーゲンが電気自動車のe-up!とe-ゴルフの日本への導入を発表したが、最初に導入されるe-up!の試乗会が早くも行なわれた。販売店での受注開始は2015年春頃から、デリバリーは初夏の頃からとされている。

周知のように、フォルクスワーゲンは次世代のモビリティとして、現状のガソリン、ディーゼルからEV、プラグインハイブリッド、天然ガス、燃料電池など多様なエネルギー源による展開が必要になると考えており、同時に将来的には電動駆動システムに徐々にシフトしていくことも予想している。

だからフォルクスワーゲンは電気駆動テクノロジーセンターを作り、長期的な展望の下で電動駆動システムの総合的な研究開発を行なっており、今回のe-up!もその中から生まれたEVなのだ。もうひとつ、フォルクスワーゲンのプラットフォーム戦略にも触れておきたい。横置きエンジンを前提としたモジュラー設計ボディ(MQB)戦略は、単に多車種のクルマのコンポーネンツを共有できるだけでなく、次世代の電動駆動システムや燃料電池搭載までを盛り込んだ設計になっている点が、他のメーカーと大きく違うところだ。

フォルクスワーゲン e-up! 試乗フォルクスワーゲン e-up! 試乗

だからMQB設計の適用第1号車のup!も、EV化は当初から盛り込み済みだったのだ。フォルクスワーゲンはもともとEVは大都市部内での使用を想定していたが、ドイツ政府が2020年までに100万台のEV、PHEVを普及させるという政策としているため、これに応えるためにEV、PHEVの早期ラインアップ化も求められているのが実情だ。

フォルクスワーゲン e-up! 試乗
ボディの補強と静粛化対策も抜かりなし
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e-up!専用のスマホ・アプリも用意される

フォルクスワーゲンのEVのコンセプトは、「e-drive for everyone(電気自動車を特別なものにしない)」で、すでに市販している内燃エンジン車をEV化する方針で、今回のe-up!もまさにそうなっている。

リヤのプラットフォームを一部変更することで、18.7kWhのリチウムイオン・バッテリーを床下に搭載。もっとも、さすがにそれだけではなく、Aピラー、Bピラーとバッテリーの周囲は超高張力鋼板で抜かりなく補強が加えられ、がっちりとしたフィーリングが得られる。さらにモーター駆動となるため、室内の静粛化対策も行なわれている。

フォルクスワーゲン e-up! 試乗
外観上は「e-up!」のバッジと前後バンパー両端のC字型LEDランプが識別点

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エクステリアでは前後のバンパーの両端にC字型のLED照明が付加されているのがエンジン車と区別できる点だ。インテリアも一見するとエンジン車と区別できない仕上がりである。丸型2眼メータ部はアナログ表示だが、よく見るとEV専用のデザインになっている。パッケージングではリヤシート部がわずかにノーマル車より高めだが、実用上はなんらガソリン車と変わりはない。

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インテリアも一見するとガソリン車と区別がつかない。丸型メーターの表示はEV専用

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キーを回して「ready」(準備OK)が表示される。アクセルを踏み込むとかすかなモーター音とともに加速を始める・・・というのは他のEVと同じだ。e-up!は、ドライブモードが、ノーマル、エコ、エコ+の3種類ある。ノーマルはフルパワー状態で、60kW(81.5ps)/210Nmが発揮され、最高速は130km/h。このモードではトルク感たっぷりで、信号からのスタートでもアクセルを深めに踏み込めば、あっという間に他車を置き去りにすることができ、痛快だ。

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ノーマルモード
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ECOモード
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ECO+モード

エコモードを選ぶと、出力は50kW、トルクは167Nmに制限され、最高速も120km/hとなる。日常の使用ではこのエコモードで十分な加速性能だ。エコ+モードは、バッテリー残量が少なくなった時や、航続距離を最大限い追求したい場合のモードで、出力、トルクを抑え、さらにエアコンも停止するので、さすがに特別な時以外には使用しない。いよいよバッテリーの残量が少なくなり、電池の残量がリザーブ・レベルになるとメーターパネルに「亀」のマークの警告灯が点灯する。これは通常のガソリン車で燃料が少なくなったときに点灯する警告灯と同じ意味だ。亀マークが点灯してもゆっくりと走れば20~30kmほど走ることができるという。

e-up!の静かで、しかも思っている以上に強力な加速は痛快だが、それに加えてシフトセレクターによる回生ブレーキのモードシフトができるのだ。シフトセレクターもノーマルのup!と同じデザインだが、P、R、N、D、Bというストレートな5ポジションを持つ。Dではアクセルを放しても回生ブレーキなしで、コースティング状態となる。Dで走行中にレバーを横方向の外側に倒すごとに、D1、D2 、D3と回生モードが切り替わり、回生ブレーキが強力になる。手前側に倒すと回生ブレーキは弱まる。そして、DからBに後方にレバーを引くとB4となり最も強力な回生ブレーキが得られるのだ。D2以上では減速度に応じて自動的にブレーキランプも点灯する。

フォルクスワーゲン e-up! 試乗
回生ブレーキ:ステージ2
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回生ブレーキ:ステージ4(最強)

BMW i3はアクセルを戻すスピード、ゆっくり戻すか、ぱっと戻すかで回生ブレーキの強さをコントロールできるが、e-up!はギヤチェンジのようにレバーを操作することで回生ブレーキの強さをコントロールするため、EVを操っているといった楽しさをたっぷり味わうことができるのだ。

回生ブレーキモード
回生ブレーキモード

だから、この回生ブレーキの切り替えをうまく使うと、交差点やカーブの入り口でフットブレーキを使わず走行でき、赤信号で停止する時も最後に軽くフットブレーキをかけるだけという運転になる。なおイメージ的には回生ブレーキ切り替えがドライバー側に倒してダウン方向という方がマッチすると思うが、左ハンドルを基準に設定しているためやむを得ないところだろう。

走行中は、さすがにEVだけあって室内は静かで、ロードノイズや風切り音もかなり抑えられている。アクセルを大きく踏み込むとかすかにモーター音が聞こえる程度だ。ハンドリングもノーマルのup!より車重が重い分だけどっしり感が感じられ、ダンピングもしっかりしたフィーリングだ。またステアリングを切った時にはリヤが少し重めに感じるものの低重心の安定感のあるフィーリングで安心感がある。またタイヤが欧州ダンロップのSPストリートレスポンスで、極端なエコタイヤでない点も素直なハンドリングに貢献していると思う。

フォルクスワーゲン e-up! 試乗
チャデモ規格の急速充電用のポート
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家庭用200V充電ポート(中央奥)

JC08モードでの航続距離は180kmで、実用上は100kmと想定しても日常の通勤や買い物といった使い方であれば問題のない航続距離だ。充電は、チャデモ急速充電、200V充電に対応している。急速充電をしながらロングドライブも・・・という使い方もできるわけだが、市街地で日常的に使う方が車のコンセプトにはマッチしていると思う。

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e-up!は外見上は普通のup!にしか見えないが、走ってみるとEV特有の強いトルク感があり、回生ブレーキを切り替え操作しながら走ると思いのほかドライビングプレジャーが実感できることがわかった。

e-up! 価格・諸元表

 

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