【フォルクスワーゲン】リアルに描かれる電気駆動化の構想・戦略とは?

雑誌に載らない話vol43

ゴルフ ブルーeモーションとVWグループ執行役員のルドルフ・クレープス博士の画像
ゴルフ ブルーeモーションとVWグループ執行役員のルドルフ・クレープス博士

2012年5月31日、VWの電気自動車、ゴルフ・ブルーeモーションの日本初公開にあわせ、VWグループ・電気駆動担当執行役員のルドルフ・クレープス博士によるVWグループのEV戦略構想に関しての講演が行われた。

ヨーロッパで2013年に発売されるピュアEVのゴルフ ブルーeモーションの画像
ピュアEVのゴルフ ブルーeモーションはヨーロッパで2013年に発売する

■クルマの電気駆動化は必然
地球温暖化を防ぐため、CO2排出量を低減する課題は自動車産業だけではなく現在はすべての産業に課せられているが、自動車メーカーにとっては近未来の存在をかけた、きわめて重要な課題であることはいうまでもない。これに関してクレープス博士は、「しかしながら2050年での地球の気温上昇をプラス2度以内に抑えるためには、クルマの燃費は0.9L/100km、つまりCO2排出量は現状から90%も削減する必要があることを意味しており、達成はきわめて困難です。こうした大幅なCO2の削減を実現するためには、EV化が必要であり、やり遂げなければならない」と語る。

つまり2050年の目標を達成するためには、EV=電気自動車は最終的な解決手段としているのだ。

VWグループのEV戦略構想の画像VWグループのEV戦略構想の画像

また、現在ではEVを促進するための政策もすでに各国で実施されている。アメリカの自動車メーカはゼロエミッションカー、つまりEVを一定数販売する義務があり、EUではEVに対する税制優遇や個別都市内での渋滞税や通行権の優遇があり、中国でも27大都市でEVなど低CO2車に対する税制での優遇がある。もちろん日本でもエコカー減税以外に加え、EV優遇税制が採用されおり、自動車メーカーはEVを開発し販売をする潮流に向かうことは当然といえる。

■内燃エンジンの改良
しかし現実的には、多くのクルマを生産・販売しているメーカーは、現在の内燃エンジンの革新も同時的に推進しなければならない。
「VWグループ、つまりVWはブルーモーション、アウディはeコンセプト、シュコダはグリーンライン、セアトはECOモーティブなど名称はブランドごとに異なるが、グループ全体では、28モデルがCO2が100g/km、115モデルが120g/km以内、285モデルが130g/km以内という目標を掲げている」と、クレープス博士は語る。

VWグループのEV戦略構想の画像VWグループのEV戦略構想の画像
そのために、ダウンサイジングはもとより、新たな燃費低減技術、例えば気筒休止システムを開発しており、これにより0.4L/100kmの燃費、8g/kmのCO2削減を達成するなど、細かな技術的な積み上げなど次々に手を打っている。

VWグループのように世界有数の大規模な自動車メーカーは、生産台数と車種の多さから、次の世代のクルマへバトンを渡すにも長いプロセスを要するが、その過程でも技術の革新は怠ることがないのだ。

もちろん内燃エンジンから一気に電動自動車に移行するわけではないので、長期的な視野の元で段階的にCO2を削減することも必要である。そのためマイルド・ハイブリッド、ハイブリッド、さらには天然ガスなど代替燃料の採用など、多くの技術開発が求められていることをVWはしっかり認識しているし、実際に同時的な開発を進めている。

こうした点で、日本ではともすればハイブリッド、EVなどひとつの技術に話題が集中しがちであることは自省しなければならないだろう。

■2013年がVWグループのEV元年
さて、いよいよ本題のVWグループはEVについてどのように位置付けているのであろうか。

「VWグループは、1970年代からEVを開発してきました。多くのコンセプトカーやスタディモデルを造り、一部は市販化しました。そしてついに2013年にはup!とゴルフ ブルーeモーションという2機種のEVを発売し、VWグループのEVモビリティ元年となります。そして、VWグループはすべてのクラスでハイブリッドを含むEV化を行う計画です」(クレープス博士)

VWグループのEV戦略構想の画像VWグループのEV戦略構想の画像

VW、アウディ、ポルシェではハイブリッド、プラグイン・ハイブリッドをラインアップしており、2013年からついにピュアEVも送り出す。ハイブリッドカー、プラグイン・ハイブリッドを含めた電気駆動化を進めているのは、ユーザーの使用領域、走行距離に適合させるためである。

VWグループのEV戦略構想の画像VWグループのEV戦略構想の画像

こうしたEV化を推進するために、VWグループは、アメリカ、ベルギー、ドイツ、スペイン、チェコ、オーストリア、中国でVW、アウディ、ポルシェ、セアト、シュコダの各ブランドのEV車両で実証テストを展開している。

ゴルフ ブルーeモーションの実証テストを通じてのユーザーの評価で、高評価ポイントは加速性能、予備暖房、静粛さなど。不満点は公共充電設備の不備、航続距離、航続可能距離表示の正確さなどであったという。

「このことからも、EVの課題はクルマだけで解決できるわけではなく、新たなEV用コンポーネンツ、充電インフラ設備、発電・エネルギー問題、モバイルサービスなど幅広い範囲の課題を解決する必要があることがわかります」とクレープス博士は語る。

またこれと合わせて、自動車メーカーとしては開発資源を有効に使用するため、マイクロカーから大型SUV、セダンまで多くのカテゴリーのクルマに最適な駆動システムを選択する必要があることも重要と述べている。

VWグループのEV戦略構想の画像VWグループのEV戦略構想の画像

このような多くのカテゴリーのクルマに最適な駆動システムを採用するためのバックボーンになるのが、VWグループが現在推進している「MQB(モジュラー・トランスバース・マトリックス)」、プラットフォームのモジュラー(多種展開化&フレキシブル)化戦略だ。

グループ内の各ブランドの垣根を越え、横置きエンジン用のプラットフォームを統一。MQBコンセプトによるプラットフォームはガソリン・エンジン、ディーゼル・エンジン、ハイブリッド、EV、圧縮天然ガス、液化天然ガス、エタノールなどの代替燃料エンジンなど多様なエンジンを規格化されたマウント位置で搭載できる柔軟なプラットフォームなのだ。

ちなみに、MQBではエンジンのマウント位置、後傾角、後方排気、エアコン・コンプレッサーなどが規格化されているため、各種のエンジンやEV、ハイブリッドシステムを自在に搭載できるだけでなく、燃料タンク、ガスタンク、大容量バッテリーなどの格納場所も想定したデザインとされているのだ。

■現在のEVはバッテリーのコストを始め、いくつかの課題がある
「現在のEVのバッテリーを含むコストは、最新のエコ性能を持つ内燃エンジン車のコストの5倍になっています」とクレープス博士。もちろん、今後はさらに民生用、自動車用のリチウムイオン電池のエネルギー密度が向上し、コストダウンできる見通しはあるが、今すぐに内燃エンジン車に取って代わることは難しいのだ。

VWグループのEV戦略構想の画像VWグループのEV戦略構想の画像

バッテリーという大きなエネルギー貯蔵装置の課題の他に、今後の課題としては電気駆動システムのパッケージの進化も求められている。

現在は、モーター、外付けパワーエレクトロニクス、減速機という構成だが、次のステップは減速ギヤボックス一体型のパワーエレクトロニクス、次世代のユニットとしては駆動軸と同軸のモーター、それに一体化されたパワーエレクトロニクスとしたユニットで、このようなコンパクトな駆動ユニットはFF用としても後輪駆動用としても使用しやすくなるのだ。

もちろんこの他に、家庭以外での充電インフラの拡大やスマートフォンなど、オンライン・モバイルサービスとEVとの連動も必須とされている。

VWグループのEV戦略構想の画像VWグループのEV戦略構想の画像

しかし、それ以上にVWグループは、EVのエネルギー源となる電力に関しても積極的に関与する戦略を立てているのだ。

「なぜなら、EVはWell to Wheel(資源の獲得から車両での消費まで)、主に発電形態で考える必要があります。現在のゴルフ TDIブルーモーションはTank to Wheelでは99g/kmで、Well to Wheelでは109g/kmですが、褐色炭を使用した発電による電力を使用するEVは219g/km、石炭発電では190g/kmと現状のゴルフTDIより劣り、天然ガス発電によりTDIよりわずかにCO2を低減できます」(クレープス博士)

最もCO2が少ない発電形態は原子力、風力などのグリーン発電であるが、ドイツは脱原発の方向を明らかにしているため、その他の発電形態を指向している。例えばVWの工場などからの熱電供給システムにより電力需要をカバーし、午後から夕方にかけてのグリーン電力の余剰分をEVに供給するという構想を立てているという。

VWグループのEV戦略構想の画像VWグループのEV戦略構想の画像

さらに将来的には、燃料電池車の普及ステージでは、グリーン電力を使用して水を電気分解することで水素を抽出し、貯蔵する可能性を提案しており、従来型の化石燃料による発電をCO2ニュートラルな発電へと変化させ、それに合わせた駆動システムを組み合わせることで、持続可能な自動車社会を目指しているのがVWグループの次世代戦略となっている。

これを言い換えれば現状のEVは、通常の化石燃料車のような汎用性能を狙うことは得策ではないということを意味する。

「現状で内燃エンジン車に置き換え可能なEVは、コスト、技術の両面でベストな選択はプラグインハイブリッドだと思います。PHVはバッテリーをEVほど多く搭載する必要がなく、価格も少し安くできる。また一方で、都市での交通を考えると利便性やCO2を排出しないコミューターも大きな存在意義を持つ。用途に応じて適切なクルマを造ることが重要だと思います」とクレープス氏は語っている。

将来のエネルギーのあり方を考えつつ、現在から次世代に向けての最適なクルマ造りという、VWグループの大きな戦略は十分に説得力があると考えられる。

VWグループのEV戦略構想の画像

VW公式サイト

COTY
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