【フォルクスワーゲン】新型の21世紀ビートルは初代タイプ1から何を学んだのか?

マニアック評価vol112

新型ビートルと初代タイプ1の画像


↑石井昌道解説 聞き手 藤本えみり 動画

The Beetle、21世紀ビートル。2011年4月に上海、ベルリン、ニューヨークの三都市で、同時ワールドプレミアされた新型ビートルは、VWからこの二通りの名称が与えられたが、それはこの新型ビートルのコンセプトを明確に表している。

新型ビートルの画像新型ビートルの画像

初代のVWビートル(タイプ1)は1938年にフェルディナンド・ポルシェにより開発が完了したが、量産に入る前に第2次世界大戦に突入したため、本当の量産が開始されたのは1945年からだった。

1930年代に開発されたタイプ1のコンセプトは、「家族、大人2人と子供3人(または大人2人)が乗車可能なこと」、「アウトバーンで連続巡航速度100km/h以上という動力性能」、「燃費は7L/100km以上(14km/L以上)」、「メンテナンスが容易」、「価格は1000マルク(ライヒスマルク。現在の円換算で約150万円)以下に」という、当時としては不可能と考えられた要求性能を達成することであった。

戦後、実際に生産されたタイプ1は、この性能、コンセプトを実現していたのだ。ちなみにこの性能はベンツ社が戦後の復興段階で生産を開始し、戦後復興を支えることになった戦前設計の1.7LのW136(170V)を凌駕する性能であったのだ。タイプ1はVW社の戦後の驚異的な躍進、戦後の西ドイツの奇跡の復興を支える動力になった。

VWタイプ1の画像

だからタイプ1=ビートルは、VW社にとって最も重要なモデルとされるが、1998年に登場したニュービートルは、初めて「ビートル」という車名が採用された。しかし、それはレトロ・モダンのデザイン優先のクルマでありすぎ、アメリカや日本では好評だったもののヨーロッパでの評価はいまひとつであった。

それも当然で、ニュービートルはカリフォルニア・デザインセンターの作で、当時のチーフデザイナーだったペーター・シュライヤーの影響が色濃く、コンセプト的にはデザイン・オマージュ・モデルといっても過言ではなく、ハードウエアはアメリカ仕様の旧世代のパワープラントであった。

新型ビートルのコクピット画像新型ビートルのシート画像

21世紀ビートルは、ニュービートルとは異なりドイツ本社のワルター・デ・シルバが指揮するブランドデザイン部門が担当し、クラウス・ビショフがリーダーとなってデザインやパッケージングが行われた。

初代の空冷ビートルのDNAをリスペクトし、ニュービートルより、よりダイナミックに、より筋肉質にデザインは変化した。プロポーションは低くワイドに、ボンネットは長くなり、Aピラーを後退させ傾斜角を少なくしている。また同時に、デ・シルバが主導した現代のVWのデザインも表現されている。

水平を強調したフロントバンパーラインとエアインテーク、ボンネットのストレートなエッジ、AピラーとCピラー間の明確なライン、リヤコンビランプのデザインなどに現代のVWのデザインが盛り込まれた。その一方で、タイプ1のアイコン、円形のヘッドライト、広がりのあるフロントフェンダーやラウンドしたボンネット、サイドシル、そして大径のホイールなどの要素がきちんと取り入れられているのだ。

新型ビートルのデザインは、実はタイプ1のパッケージング思想を盛り込んだともいえ、大人4人のきちんとした居住スペースが確保され、視界やラゲッジスペースも高いレベルを実現。こうしたパッケージングに加え、初代と同様に、走り、燃費などの点でも世界トップレベルを狙ったのである

だから、新型ビートルは単に現在のゴルフの技術をベースに、新たなデザインを採用したのではなく、タイプ1の思想を生かして現在風に再構築したクルマといってもよいだろう。

新型ビートルの新旧比較画像歴代ビートルの画像

新型ビートルの三面図画像

新型ビートルの画像
Aピラー越しに見る斜め前方視界は優れ、運転しやすい

新型ビートルは、見た目も骨太でがっしりした印象であり、タイプ1の面影と現在のVWのデザイン要素をきちんと整合させている。シートに座ってみると、前方視界、Aピラー越しに見る斜め前方視界などもきわめて良好で、キャビンフォワードさせていたニュービートルとは大きく異なっている。

新型ビートルは、「ビートル」、「デザイン」、「スポーツ」という3種類のグレードが設定されているが、日本に導入されたのは「デザイン」で、しかも上級仕様のレザーパッケージ・モデルだけだ。2012年秋以降にスタンダードのファブリックシートの「デザイン」が導入される。

今回試乗した新型ビートルは、デザイン+レザーパッケージ・モデル。いわばフル装備モデルだ。シートは仕立ての良い、がっちりとした本革張りでクオリティの高さが感じられる。ビートルだけに、インテリアが現代的な質感のよさを狙っているわけではなく、ボディ同色の塗装仕上げ風のダッシュボードであったり、リヤシート用のルーフサイドグリップは通常のハンドル式ではなく吊り革式など、タイプ1の雰囲気を盛り込んでいる。レトロだが、ある意味で新鮮でもある。かつて話題に上がった「一輪挿し」は今回はない。導入されない左ハンドル・モデルのみに設定されているのだ。また、リヤシートの居住性、ヘッドクリアランスや足元スペースも十分で、大人が乗ってロングドライブをしたとしてもストレスはないはずだ。

新型ビートルのエンジン画像新型ビートルの画像

↑発進トルクがさらにアップした1.2TSIエンジン     ↑剛性感があり操作しやすいペダル

新型ビートルのプラットフォームは、現在のゴルフ用をベースにしており、エンジンは2.0TSI、1.4TSI、1.2TSI、1.6TDI、トランスミッションは5速MT、6速MT、7速DSGをラインアップしている。日本に導入されるのは1.2TSI、7速DSGという組み合わせのみになる。

105ps/175Nmの1.2TSIエンジンはすでにポロ、ゴルフに搭載されているパワーユニットだが、最初にポロに搭載されて登場し、その後ゴルフに搭載され、その段階でバージョンアップが行われている。今回のビートルに搭載されているのも、その最新バージョンなのだ。その相違点は、アイドリング回転数を50rpm下げられたことと、最大トルクの発生回転数が当初は1550rpmだったものが、1500rpmと50pm下がってることで、たいした違いはないように見えるが、乗ってみるとフィーリングが大幅に向上しているのがわかる。

発進時のトルクが厚くなり、加速がはるかに力強い。つまり、軽くアクセルを踏み込むだけで市街地での加速はこと足りる。2000rpmも回せば十分なのだ。思い切り加速する場合でも4000rpmあたりまでで期待に応えてくれる。高速道路でも2000rpmで余裕を持って巡航できるので、燃費はもちろん、ノイズも低く、快適だ。

DSGの変速がDレンジでもマニュアル操作でもシームレスで、しかもスムーズであり、アクセルを戻しかけ、急加速に移るといった操作でもまったくためらいなく素直に反応してくれる。

新型ビートルの走り画像

ステアリングは軽めだがクイック過ぎず、リニアに応答する。比較すればゴルフやポロより少し穏やかな印象だが、操舵の正確さや路面のインフォメーションはしっかり伝わってくるので、安心感、安定感といった点で申し分ない。また直進時のニュートラル部の落ち着きも素直で、長時間運転してもストレスは少ないはずだ。

なおタイヤは、215/60R16、または215/55R17サイズで、ゴルフよりひと回り以上大径のタイヤ(外径664mmから668mm)を装着しているメリットも感じられる。

新型ビートルのタイヤ画像
試乗車が装着する215/55R17サイズのタイヤ。外径668mmと大径。

乗り心地は思ったより固めで、ゴルフのトレンドラインやコンフォートラインよりも締まった感がする。その一方で、舗装の継ぎ目や段差などで、リヤのゴトンという振動音がこもる感じがした。その原因はハッチバック・ボディであることや、リヤ・サスペンションがトーションビーム式で取り付け剛性を高くしていることが大きいのだろう。

実は新型ビートルの「スポーツ」グレードは、リヤがゴルフと同様のマルチリンク、それ以外のグレードはトーションビーム式という造り分けをしているのだという。いずれにしても乗り心地自体は固めでしっかりし、フラット感が強く、急ブレーキをかけてもノーズダイブが少なく、安定感が高かった。

新型ビートルのスタイリングは街中でひときわ目を引く、強い個性を備えており、同じレトロモダン路線のMINIよりさらにインパクトのある存在感なのだが、ステアリング握ってみると現在のCセグメント中で完成度が高く、扱いやすく、性能的にもトップレベルにある。ニュービートルは、可愛い、愛らしいといった印象が強く、そのために女性ユーザーに偏ってしまったのだが、この新型ビートルは間違いなく基本性能のツボをしっかり抑えた硬派である。

また、フォルクスワーゲンというブランドの存在を、ビートルという唯一無二の歴史的な存在に凝縮させたクルマで、ビートルの持つ独自の世界観を体験することができると思う。

フォルクスワーゲン公式サイト

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