2012年1月9日から開催された北米デトロイト・オートショーの総覧パート3になる。ここでの注目メーカーはクライスラー、ヒュンダイ、フォルクスワーゲン、ボルボで順に見てみよう。
■VW
VWはデトロイトで2台のワールドプレミアを行ったが、各国のモーターショーのために次々とワールドプレミア用の新型車やコンセプトカーを送り出す底力を改めて見せ付けている。
まず1台は、Eバグスターだ。
Eバグスターは純粋な電気自動車であり、EVでもザ・ビートルのスポーティな特徴は変わらないことを証明するためのモデルだ。きわめてシャープなボディプロポーションを備えた2シーターのスピードスターは、85kWのモーターを備え、ゼロエミッションで0〜100km/hを10.9秒で加速できるという。
パワートレーンはわずか80kgにまとめられ、搭載しているリチウムイオン電池は28.3kWhと大容量。最低でも180kmの航続距離を発揮する。充電は急速充電、アメリカの家庭用電源(120V)での充電が可能だ。
Eバグスターは、ザ・ビートルをベースとしてこれ以上望めないほどダイナミックなスタイルを備えている。実際、Eバグスターはスポーツカーとして企画され、全高は1400mmでハードトップ仕様の通常のザ・ビートルと比べ90mmも低い。さらにザ・ビートルより30mm広く、全幅は1838mm。一方で全長はザ・ビートルと同じだ。このボディの大幅なモディファイによりどの角度から見てもダイナミックなスタイリングに仕上がっている。
つまりEバグスターは、VWが開発しているをブルーeモーションと、スポーツカーデザインのスタディを兼ね備えたコンセプトカーと位置付けることができる。
もう1台、ジェッタ・ハイブリットがベールを脱いだ。メイン駆動源として搭載されているのは150PSを発揮する1.4 TSIガソリンエンジン、7速DSGトランスミッションで、これに電気モーター(20kW)が組み合わされるパラレル式ハイブリッド車だ。
ジェッタ・ハイブリッドの駆動システムは、0→100km/h加速は9秒以下という動力性能を実現しているだけでなく、消費燃料は45MPG(マイル・パー・ガロン、US複合モードで約19.1km/L)という非常に優れた燃費としている。これは、従来型の駆動システムのモデルに対し、約20%の燃料消費量の削減に相当する。特に市街地走行における燃費は30%も向上するという。
またジェッタ・ハイブリッドは純粋なEVでの走行も可能で、車速70km/h以下、距離2kmの範囲内であれば、完全にゼロエミッションで走行できる。一方、モーターがブースとした状態のシステム総合出力は170psである。
TSIエンジンと電気モーターの間にはクラッチを備え、クラッチを装備することで純粋な電気ドライブもしくは「セーリング(コースティング/ブレーキング)」モードが可能。クラッチを切断してTSIエンジンをドライブトレインから切り離すことができるわけだ。セーリングモードの場合はもちろんエンジンは停止し、完全な惰性による無動力走行となる。
電池はリヤシートの後方にリチウムイオン電池を搭載。電池は220Vの電圧と1.1kWhの容量を持っている。もちろん、スタート&ストップ、ブレーキエネルギー回生システムも装備し、また、エンジンを使用しない無動力走行、セーリングモードは、135km/hまで可能になっているのが大きな特徴だ。
このジェッタ・ハイブリッドは、2012年11月に北米市場で発売される予定としている。
■クライスラー(ダッジ)
クライスラーは、デトロイトショーにおいて大きな注目を集めた。フィアットグループとの提携によって生まれた小型セダン、ダッジとしては6年ぶりとなるダッジ・ダートのワールドプレミアを行ったのである。また、ダッジ・チャージャーの2012年モデル、フルサイズミニバンのコンセプトカー「700Cコンセプト」なども出展した。
今回のショーのハイライトのひとつともいえるのが、ダッジ・ダートの登場だ。ダッジ・ダートはフィアットグループと提携したクライスラー社が、初めてフィアットグループの基盤技術を採用し、ダッジのスピリットとしてまとめ上げた革新的なコンパクトセダンといえる。
外観はまぎれもないエモーショナルなダッジ・デザインとしながら、最高レベルの燃費、空力性能、常識を破る高い質感、優れた安全性、俊敏なハンドリングやドライビングプレジャーを実現した、としている。
ベースのプラットフォームは、フィアットグループで最新のフレキシブルな「コンパクト・プラットフォーム」で、アルファロメオ・ジュリエッタに採用されたものを拡大して使用している。このプラットフォームは高剛性と軽量化を両立させた世界でも最新のもので、ダートでは68%の高張力鋼版が使用され、このセグメントでトップの剛性を実現した。
そして搭載するパワーユニットは、新開発のタイガーシャーク・シリーズと名付けられた直4・2.4L(184ps)、2.0L(160ps)の2種類のマルチエア・エンジンと、イタリア生まれの1.4Lターボ(160ps)マルチエア・エンジンを投入し、優れた燃費と動力性能を両立させる。従来の4気筒シリーズと比べ15%以上低回転化させ、燃費は7.5%改善しているという。
トランスミッションはTCTと6速AT、6速MTの3種類があるが、後にはZF社製の9速ATが追加されるといわれている。
サスペンションはフロントがストラット式、リヤがマルチリンク式。プラットフォーム、エンジン技術、シャシーなどがアルファロメオの血統そのものであることは、このダッジ・ダートのアピールポイントとなっており、エモーショナルで俊敏な走りが強調されている。
空力もトップレベルまで熟成され、アクティブ・グリルシャッターを採用し、高速巡航走行では自動的にシャッターを閉め、空力特性を改善するシステムも備える。インテリアでは、質感、仕上げも従来の常識を破るレベルまで向上され、8.4インチまたは7インチの液晶ディスプレーを装備し、他車にはない独創的な表示なども行うことができる。
グレードはSE、SXT、Rallye、Limited、 R/Tの5機種。価格は1.6万ドルからとしており、若者層にも強くアピールしている。ショーにおいてダッジ・ダートはコンパクト、スポーティ・セグメントのリーダーになると力強く宣言している。なおこのダートは2013年イヤーモデルとされおり、2012年の夏頃に販売を開始予定とされている。
ダッジのフルサイズスポーツモデル、チャレンジャーシリーズの最強モデルとなるレッドラインはチャージャーSRT8をベースにし、クライスラーのチューニング部門、MOPARがスーパーチューニングしたもの。最高級のチューニングモデルはレース用とされ、590psを発生する7.0Lに拡大したハンドビルドのHEMI-V8を搭載する。
クライスラーのミニバン・コンセプトモデル、700Cコンセプトは、今後のミニバンためのデザインスタディとされている。シート配列は3列で、デトロイト北部にあるクライスラー本社工場で製造されることしか明らかになっていないが、現在のやや古くなったクライスラー・ミニバンを革新する次期モデルと考えるのが妥当だ。このショーではユーザー反響を調べるのが700Cコンセプトの主目的とされている。
■現代(ヒュンダイ)/起亜(キア)
現代と起亜の韓国連合は、新興国、欧州だけではなく北米市場においても昇る太陽といえるほど躍進し、トヨタやホンダを脅かしている。
ショーの会場で、現代のエラントラが北米カーオブザイヤーを受賞したのも象徴的であった。なお現代は2009年にもジェネシスが受賞している。今回のデトロイトショーでは、大幅にマイナーチェンジした、ジェネシス・クーペとベロスター・ターボを送り込んでいる。
2013年イヤーモデルとなるジェネシス・クーペは、よりFRのスポーツクーペとしてのキャラクターを強め、アグレッシブなデザイン、さらに向上したパフォーマンスをアピールしている。エンジンは、よりパワーアップされた3.8Lの直噴V6型(348ps)と、2.0Lのツインスクロールターボ(274ps)の2種類で、いずれのエンジンも6速MTか8速ATとの組み合わせとなる。この2.0ターボモデルは、従来のノーマルターボからツインスクロールターボ+大型インタークーラー装備に改良され、パワー、動力性能を向上させ、サイオンFR-S(トヨタ86)を迎撃する役割を狙っている。
またこの新しいジェネシスクーペは、テレマティックスも充実され、スマートフォンで接続できる最新のブルーリンクRを装備している。
ワールドプレミアとして初登場したのがベロスターターボだ。ベロスターターボは現代のターボエンジンを搭載したスポーツクーペシリーズに新たに加わるモデルで、ジェネシスクーペより若いユーザー層向けに開発されたモデルだ。ライバルはゴルフGTI、ホンダ・シビックSi、ミニクーパーSとし、ベロスターターボのパワフルな走り、燃費経済性、先進技術によりコンパクト・スポーツセグメントのリーダーにふさわしいパフォーマンスを備えているという。
エンジンは1.6Lの直噴ターボ(T-GDI)で、6速AT、6速MTと組み合わされる。出力は201ps。6速 MTでのハイウェー燃費は38MPGで、クラストップだ。
このモデルの北米での販売は2012年夏ごろとされている。
■ボルボ
ボルボはXC60をベースにしたプラグイン・ハイブリッド・コンセプトカーのベールを脱いだ。コンセプトはEV走行能力、優れた燃費、パワフルな動力性能を満足させるモデルとしている。そしてユーザーはエコカーにありがちな不満はなく、普通のラグジュアリーカーと同等の走りが楽しめるという。
システム総合出力は350psとされている。搭載されるエンジンは現在開発中の最新鋭2.0Lターボエンジンで、この新エンジンのファミリーは2年後には北米市場でデビューする予定だという。
このプラグイン・ハイブリッドカーは、ドライバーがダッシュボードのボタンを選択することで、EVモード、ハイブリッドモード、パワーモードを切り替えることができるのが特徴。搭載電池によるEVモードでは約35kmの距離を走行できる。
通常モードともいえるハイブリッドの状態では、エンジンとモーターが運転状況を最適に適合させ、ドライビングプレジャーと燃費が両立される。燃費は欧州モードで2.3L/100km 、アメリカモードで100MPG、アメリカのミックス燃費では50MPGとなり、航続距離は960kmだ。
パワーモードでは直噴280ps、380Nmのエンジンと70psのモーターが組み合わされ、0→100km/h加速は6.1秒という実力を発揮する。
6気筒エンジンと同等のパフォーマンスを持つ2.0Lターボエンジンは前輪を駆動し、8速ATと組み合わされ、発電モーター兼スターターはエンジンとトランスミッションの間に装備される。一方、後輪は70psのモーターで駆動される。12kWhの容量を持つリチウムイオン電池は床下に装備。家庭用電源で充電でき、220Vで3.5時間で満充電となる。