フォルクスワーゲン・トゥアレグ詳報

フォルクスワーゲン・トゥアレグがフルモデルチェンジを受け、2月上旬から発売される。トゥアレグのポジションは、フォルクスワーゲンのラインアップの中でプレミアム・セグメントに位置するフルサイズSUVである。

そのトゥアレグはポルシェ、アウディとの共同開発により生まれ、両社に共通のプラットフォームは、スロバキアのフォルクスワーゲン・ブラチスラヴァ工場で生産される。アッパーボディの組立はフォルクスワーゲンを加えた3社がそれぞれの工場で行い、ポルシェ・カイエン、アウディQ7、VWトゥアレグとして生まれている。使われるプラットフォームはFRレイアウトで、当初はフォルクスワーゲンの商用車用プラットフォームを利用するとされていたが、より高性能を追求するため専用のプラットフォームの開発が決定されたという経緯がある。

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VW・トゥアレグは日本では3.6LのV6、4.2LのV8型というガソリンエンジンモデルと、限定販売の6L・W12型が販売されたが、その他にディーゼルモデルであるTDIの2.5L、3L、上級仕様としてV10型・5Lエンジンがラインアップされ、日本での人気も高いSUVである。と同時に販売実績は全世界で50万台に達し大成功を納めたモデルでもある。これらの販売実績からしても、ポルシェカイエン、アウディQ7を含めたこのシリーズは予測を上回るヒットモデルになったといえるだろう。

今回のモデルチェンジでVW・トゥアレグは2代目となり、プラットフォームから細部まで大幅に変更されている。もともとVW・トゥアレグの開発コンセプトは「3in1、つまり本格的オフロード性能、スポーツカーの走り、高級車の乗り心地・快適性を1台のクルマにまとめ上げたこと」と、開発責任者のヨーヘン・ボーレ博士は説明する。

新型のVW・トゥアレグもこの基本コンセプトを継承しつつ、先進技術を採用したより高い安全性、優れた走行性能と高い環境性能の両立、高級セダンに匹敵する快適性を実現することが今回の開発テーマになっているという。またエクステリア・デザインも変更され、デザイン担当取締役のワルター・デ・シルバが牽引する現在のフォルクスワーゲングループのデザイン哲学を取り入れ、水平基調のラインを生かしたクリアな簡潔さを前面に打ち出し、その中で精緻さや力強さを盛り込んでいる。

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ワルター・デ・シルバは、「新型のデザインはフォルクスワーゲンブランドの基本的なデザイン要素を盛り込んでおり、優しく、親しみやすいもので、尊大さや攻撃性とは無縁です」と語る。つまり大型SUVにありがちな攻撃的な威圧感のあるデザインを排して、高い技術や実用性をエレガントに洗練したというのだ。

搭載されるエンジンのラインアップも大きく見直されている。日本に導入されるのはV6型の3.6L・FSIとV6型3.0Lスーパーチャージャー付きTSIハイブリッドの2種類で、ハイブリッドは従来のV8型に置き換わる。日本以外では、V6型とV8型のTDIもラインアップされV10型は消えた。つまりシリーズ全体としてダウンサイジングをはかっていることがわかる。

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3.6LV型6気筒モデルとハイブリッドモデル

3.6LのV6型エンジンは従来どおり狭角のVR型だが部品は全て新設計で、可変ウォーターポンプを採用している。これはエンジン始動後110度に達するまでポンプは作動しないようになっている。さらにスタート&ストップ、ブレーキ回生を採用し環境への配慮からくるテクノロジーが盛り込まれている。だから、燃費は従来より38%アップし、ブルーモーションの名称が与えられたというわけだ。出力は280psで0→100km/hは7.8秒、最高速は228km/hというスペックになっている。

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一方、ハイブリッド用の3LのV6型エンジンはアウディS4で使用されているバンク角90度のV6型TSIで、シリンダーバンク中央にスーパーチャージャーを配置している。このエンジンは333psの高出力型である。そして、このエンジンにはクラッチを介した34.3kW(46ps)のモーターを組み合わせたパラレル・ハイブリッドシステムとしている。システム最高出力は380psで、従来のV8型エンジンを上まわるパワーになっている。このため、V8型並みの出力、直4並みの燃費というのをセールスポイントにしている。

ハイブリッドモデルのベースエンジンに大トルクの高出力エンジンを選択しているのは、アメリカやヨーロッパではキャンピングカーを牽引するケースが多いことと、そしてハードなオフロード走行を想定しているからだという。最高牽引重量は3.5トン。このため、ハイブリッドシステムも「パラレス式が最適だ」とボーレ博士は説明する。

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↑ヨーヘン・ボーレ博士

トゥアレグハイブリッドのシステムだが、エンジンとモーターの間にはクラッチがあり、これを切断することで走行中でもエンジンを停止でき、モーターのみのEV走行ができる。さらに、高速走行中のアクセルオフ時にはコースティング(滑走)走行ができるようになっている。そのため、走行中のエンジン始動時にはモーターの回転とエンジンの回転数を同調させる必要があり、制御を行うことで、滑らかにクラッチを接続することができる。モーターとクラッチユニットは、直径400mm、全長145mm、重量は55kgと軽量、コンパクトにまとめられている。もちろん、スタート&ストップ機能、ブレーキエネルギー回生機能も備わっている。

ハイブリッドモデルに使用されるサンヨー製のニッケル水素バッテリーは、リヤにあるスペアタイヤのスペースに収納されている。電池性能は240セル、288V、1.7kWh。サンヨーの規格型の電池は実績とコストの観点から選択したようだ。電池は2個のファンとキャビン内気の導入により冷却されている。なお12V補助バッテリーは搭載せず、電池システム重量は79kgだ。

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そして、EVモードでは50km/hで2kmの走行が可能で、システムとしてはエンジン走行モード、エンジン+モーターによるブーストモードと、コースティングモード(滑空走行)の合計4モードとなる。

気になるハイブリッドモデルの燃費だが、同等サイズのSUVに対して都市モードで25%、高速都市混合モードで17%低減でき、CO2排出量は193g/kmに抑えられている。10・15モード燃費は13.8km/L、ヨーロッパ混合モードでは12.2km/Lと、フルサイズSUVではトップとなる環境性能をもっている。にもかかわらず、動力性能は、0→100km/hが6.6秒、最高速は240km/hに達する性能をもっている。

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全モデルともトランスミッションはこれまでの6速ATから8速ATに変更され、このクラスでは初の8速ATである。このユニットはアイシン製で、レクサス用を強化したのだろう。そして最大トルクは850Nmに対応できる許容量をもっている。ギヤ比は6速が1.000で、7〜8速はオーバードライブ・ギヤになっている。設定はクロス&ワイドなギヤ比とし、低負荷では積極的に高いギヤ比を使用する設定だろう。ちなみに最高速は6速でマークされる。

またこのユニットはスタート&ストップ用に電動油圧ポンプを装備しミッションの油圧低下を招かないようになっている。また大トルクに対応してクランクシャフトプーリーには、ねじれを抑えるトーショナルダンパーも装備している。また、燃費対策としてATFのウォーマー&クーラーも装備している。

ハイブリッドの場合は、走行中のエンジンストップからの始動ではトルコンのロックアップクラッチをロックさせ、モーターとの同調を行うようになっている。4WDのトランスファーは2種類が用意され、ハイブリッド用はトルセンセンターデフを使用し、4輪電子制御デフロックと組み合わされる。このトルセン式(前後配分40:60)はライトデューティ向けとされ、最大登坂角は31度である。このトルセン式の名称は4モーションとされる。

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一方、従来型通りのヘビーデューティ向けは、前後輪とも0〜100%トルク配分でき、センターフロックが可能な電子制御多板式クラッチに減速センターデフギヤ(ギヤ比2.69、基本配分は40:60)を持ち、4X(エックス)モーションと呼ばれる。この減速ギヤ比を使用する場合はセンターコンソールのスイッチを押して行う。デフロック可能なリヤデフはオプション設定となっている。そして4Xモーションの最大登坂角は45度と4モーションとの違いがある。

もちろん、いずれの4WDシステムでもスイッチによりESC(横滑り防止)/ABS/ASR(トラクションコントロール)/ヒルデセント(急勾配下り自動速度調整)などの制御はオフロードモードに切り替わるように設定されている。トゥアレグは初代の開発時から、都会的な外観とは裏腹に、軍用車並みの本格的オフロード性能が与えられているが、今回の新型もその性能は、まま継承されているわけだ。

サスペンションは、前後ともダブルウイッシュボーン式で、前後のアッパーリンクとリヤアクスルがアルミ製に変更されている。またハイブリッドモデルはエアサスペンションが採用され、V6型ブルーモーションモデルにはオプションとして選択できるように設定されている。エアサスの場合は、ロードクリアランスを300mm(標準モデルは220mm)にすることができる。

シャシー全体の軽量化は47kgにもおよび、運動性能、ハンドリング、乗り心地も向上しているという。またボーレ博士は「全ての部分でグラム単位での軽量化を行った」と語っているように、シャシーだけではなく、ボディ全体の軽量化も徹底している。

パワートレーンで52kg、シャシーで71kg、その他で18kg、ホワイトボディで67kgの軽量化を果たし398kgになったという。ボディは、テーラードブランク(差圧溶接鋼板)、ホットプレスによる超高張力鋼板をサイドパネルに全面採用などにより大幅な軽量化と強度剛性の向上を両立させている。静的ねじり剛性は24800Nm/度とクラス最高を誇り、従来型より5%アップしている。またボンネット、リヤゲートはアルミ製となっている。

プレミアムSUVセグメントにふさわしく、ロールオーバーセンサー、タイヤ空気圧モニター、4個のカメラを使用した360度の視界を持つアラウンドビューカメラ(エリアビュー)など、標準装備の他に、ハイブリッドモデルは、2個のミリ波レーダーを使用し、前車を完全に追随するアクティブクルーズコントロール/フロントモニタリング(プリクラッシュシステム)フロンカメラを使用したレーンキープアシスト、レーダーを使用したレーンチェンジアシスト(死角からの後方車両の接近警報システム)、超音波を使用したパーキングアシストなどドライバー支援システムをフル装備している。

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トゥアレグの価格は、V6モデルが623万円、ハイブリッドモデルは898万円と、同セグメントの競合モデルに対して約100万円安く、きわめて競争力の高いクルマといえる。

文:編集部 松本晴比古

フォルクスワーゲン グループジャパン 公式Web

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